ぷろろーぐそのいち 別に生徒とやましい関係にはありません。~The High school teacher~
はじめましてさようなら。色々改定いたしました。物語を書くのって難しい。
――夢を見ていた。
「こう君、ちょっと10年後に行ってくるね」
待ってよお姉ちゃん。行っちゃ駄目だよ――僕を置いて行かないでよ。
「それじゃ、こう君、行ってきます」
行かないで、美桜お姉ちゃん……
――――
「――」
僕を呼ぶ声が聞こえる。この声はどこかで聞いたことがある。どこでだったけな。聞いていると何故か安心してしまうような暖かく心地よい声だ。逆に眠気を誘ってしまうんじゃないか? という事で僕は三大欲求に忠実になる。VIVA、惰眠。せっかく起こそうとしているところ悪いが、後5分ぐらいは寝させてくれよ。資料やらの作成で徹夜続きだったんだよ。
「せん――さーい」
残念ながら僕は1000歳じゃないぞ。れっきとした23歳だ。むしろ童顔とか言われるぞ? って何ですか、私は鶴ですか? 1000年生きるとかいううたい文句でご長寿代表のポジションにいるけど、実際の寿命は野生なら30年、動物園でも50~80年程度の寿命の鶴ですか?
「へー、それでも鶴は長寿なんですね。また一つ勉強になりました。ってそうじゃなくて、起きないとあれしちゃいますよ?」
あれってなんだよ?
「それはもちろん、ちょうどいい所にあったハンドミラーを、これまたちょうどいい所に会った彫刻刀で引っかくんですよ」
「起きてまーす!!」
意識を(半ば強引に)覚醒させる。目を開けるとそこには、
「やだなぁ、先生。ハンドミラーはともかく、彫刻刀なんてピンポイントでしか使わない物騒なアイテムを僕が普段から持ち歩いているわけがないじゃないですか」
天文部部長麻生伊織が僕の顔を見つめていた。目線を下げると、彼女の左手にはハンドミラー、右手にはカッターナイフを持っていた。そうですね。カッターナイフは普通に持っててもおかしくないよね。そして起きてよかった。どうみても殺る気でした。本当にありがとうございました。
「それにしてもよく寝ていましたね。まったく、先生だめですよ? 一人称が「僕」だからあまり気にしないかもしれないですけど、年頃の女の子を夜の学校に誘っておいて、誘った本人はグースカ寝ているなんて。それは男性としてマナー違反だと思いますよ?これが仮にデートならどうするんですか?」
「そのときはあれだよ。ほら、あれだ、『航君って寝顔可愛いんだねー。私また航君の思いでダイアリーに追加しちゃったよ。えへへへ……』ってなるから問題ないさ」
「問題ありまくりです。そのような女の子は少数じゃないですか? 後僕が言いたかったのは、デートを寝坊したらって話ですよ」
「大丈夫だ。僕は前日から待ち合わせ場所に陣取るからさ。起きたらすぐに待ち合わせ場所さ」
「新作ゲームでも買うおつもりですか?」
伊織は呆れたようにため息をつくと僕のほうを見つめなおす。彼女の瞳には寝起きの男が映っているのだろう。涎までついて、まことに情けない。僕だけど。
彼女はというと、何をするでもなく僕をじっと見ている。ただ無言で、彼女の息遣いだけを感じる。これはもしかして……
「あのー、伊織さん? じろじろ見られると照れるんだけど……。先生勘違いしちゃうぞ?」
冗談交じりで言ってみるが、当の伊織はクスッと笑い、
「勘違い……しなくてもいいですよ?」
冗談じゃなくなりました。
「じゃあ、しちゃいますね?」
ニコニコと顔を近づけてくる伊織。マジっすか? 伊織さん、期待しちゃってよかですかね? てか期待しちゃうよ? そうだよな?
「せーんせい」
「いーおりん」
二人の距離がなくなる……そして僕は伊織の気持ちを受け止め……って駄目だろ! 教師が生徒に手を出しちゃ! 流石にロリコン教師の汚名は嫌だよ!
「あのな、伊織、気持ちはうれしいけど」「あー動かないでください」
伊織さんガチですか……。もうどうにでもなーれ。って伊織を見ると先ほど破滅の音を響かし剣を持っていた右手に何か持っている。ハンカチ?
「涎ついてますよ」
ですよねー。可愛らしいハンカチで口元を拭かれる。なんだろこのキャラクター。牛? ほっとしたと同時にもったいなさがこみ上げてきた。
「終わりましたよ。ってえらく残念そうですね?」
あんたが僕の純情を弄んだからだ。
「やだなぁ。冗談に決まってるじゃないですか。真に受けちゃ駄目ですよ、先生」
子供をあやすように彼女は話す。どうもこいつには勝てない気がする。
「茶番はそこまでにしましょう。それより、もうすぐですよ。」
伊織に言われて時計を見てみる。予定の時刻まで1時間をきっていた。そして気付く。
「ええっと、伊織? もしかして10時からずっとここにいた?」
「そうですよ。まったく、可愛い教え子を1時間も待たすなんて教師以前に人間失格ですよ。」
そこまで貶さなくてもいいだろ。とは思ったが、1時間近く待ってもらったという事実を負い目に感じ、反論しないことにした。
「悪いな、伊織。手間かけさせちゃって」
「お気になさらないでください。その代わりとは言っては何ですが、今度アントワネットの王様エクレアをお願いしますね」
教師に物をたかるか!? しかもアントワネットの王様エクレアだと……あれは早々買える代物じゃねえぞ?
「あれ? 買えませんか? なら今日のことを母上にご報告いたしましょう。先生に脅され学校まで連れて来られて酷い目に合わされたって。母上は教育委員会にも顔が利きますからね。後、娘に甘いんですよ。どうも妊娠しにくい体質だったかで、僕が生まれたときはそれはもう喜んでくれたみたいですよ? 僕がクビにしてっていったらリス『買わせてください!!!』」
さらばっ……2千円札っ!2千円でクビがつながるなら安いよね。うん。
「ありがとうございます。流石先生。見直しちゃいました」
そして2千円で教師としての信頼を買う。駄目教師道まっしぐらです。
「というか1時間も起こしてもらってたのか、僕は……そんなにぐっすりと寝てましたか」
「ええ。それはもうぐっすりと。何回も呼んだんだけどなかなか起きませんし、さぞかし良い夢を見ていたのでしょうね」
「はは、どちらかというと悪夢なんだけどな……」
そういうと彼女はクスリと笑い、
「例のお姉さんの夢ですか?」
「……ファイナルアンサー?」
似てもいないみ○さんの物まねをしておどけてみる。さぁ、回答者はどうでる?
「質問を質問で返しちゃ駄目ですよ?」
ノリ悪いな……。まあ、こいつ相手にノリの良さを求めた僕も人選ミスなんだろうけど。自分はどぎつい冗談を言うくせに他人の言うことにはあまりノリ切れない。なんともまぁ自分勝手なやつだ。というよりファイナルアンサーって質問じゃなくて確認だよな。
「まあご指摘の通り姉貴のいなくなった時の夢だよ。」
姉貴がいなくなった。いや、正確にはこう言うべきだろう。
姉貴は未来に行っちゃいました。その未来は……
「10年後に帰ってくるってのがホントならもうすぐ帰ってくるんですよね?」
2011年3月31日23時04分、姉帰還予定まであと56分。