アイスクリームシンドローム
ふと浮んだので夏のイベント的に書いて見ました。関西弁を使いたかったのかもしれません。
「なんでやろ。」
ふてくされた顔で俺の幼馴染兼親友の千晶が言った。
「なんでって…。」
こいつはいつも振られると俺を連れてここに来る。
「なんか、男の子って頭ん中そういうことばっかりなん?」
「しらん。」
「知らんて…。宗輔はちゃうん?ま、想像できへんけど。」
「でも、好きやったら、したいんちゃうか?」
「はあ。でも、なんか、キスて気持ち悪いねん。」
毎回これだ。自分から告っておきながら、相手がキスでもしようとするものならアッパーカットや。
「あのなぁ。高校生になって付き合うって言ったらそういうこともついてまわるやろ。自分から行っといて「それは駄目」ってお前はお預け魔人か。顔ばっかり見て彼氏作るからそんなことになるねん。」
「…宗輔って小姑みたいやな。」
「ここまで付き合ってやってんねん。ありがたいと思え。それにこっちはお前の失恋の慰めに無理やり連れてこられてるんや、なんか奢ってくれてもバチ当たらんやろ?なんやねん。この炎天下に南港つれてくんなや。電車賃も妙に高いやんけ。」
「そやかて失恋したら海で叫ぶって決めてるんや。」
それやったら砂浜に行け!って今は浜には海水浴の人がいっぱいか。だったら鳥取砂丘や!やけくそじゃ!こんなデートスポットそこらじゅうでカップルがチュウチュウやってるやろ!
ほんま、あほやろ俺ら。
あ~熱っ。いろんな意味で…。海遊館でも行きたいけど入場料高いしな。
「アイス」
パタパタとうちわで扇ぐ俺に千晶が言った。
「なんやねん。」
「アイス奢ったるわ。」
「おう。」
それぐらいはと思ってんけど、生憎イタリアンジェラートなるちょっと高い店しか近場になかった。コンビ二ないんか…。こういう時はガリガリ君やろ…。うろうろとした分疲れたけど俺も千晶もビンボーやから目の前の店は完全アウトオブ眼中や。
「もう、ええで。なんか高いし。駅のほうに帰ろ。」
「…買う。」
「はあ?ええって。無理しなや。」
「一人分やったら買えるやろ?宗輔はシャーベットでええやろ?桃か?桃がええのんか?」
「いやらしい言い方すんなや。お前、やけくそやろ。」
「まっときや。」
言うや否や千晶は店の方に行ってしまった。負けず嫌いなんかなんかよう分からんわ。
そんな千晶の後姿を見て俺は思う。
…いつまで親友面して傍に居れるんやろ。と。
今回こそはあかんやろって思ってた。千晶の相手は学年人気のサッカー部キャプテンやったし、男の俺が見てもええ男や。悲しいかな生まれたときからお隣同士の千晶と俺は一緒にいても恋人同士に見られたことがない。俺がモサイ、クライ、オタクだからや。お陰でアイドルみたいな美少女千晶の隣にいて嫉妬されたこともないからすごい。俺の誇れるのは180センチの身長だけや。まあ、それもひょろっとしててキモイって言われてるけど。
「ほら。」
差し出される高級ジェラート…ピーチ…にしては黄色いやんけ。
「黄桃か?」
「…マンゴーしかなかってん。ええやろ。」
「うそつけ、マンゴーは千晶の好物やないか。」
「ええやん。一緒に食べたら。」
……。またこれや。
なんか変に潔癖症なくせして俺の食いさしだけは平気で食べるんや。昔から。親のんでも嫌がるくせに。
「要らんのやったらええねんで。」
「食べさせていただきます。悪代官様。」
「誰が悪代官やねん。失礼なやっちゃな。」
そういうと海に向かう階段に二人で座る。最初の一口目は俺に譲ってくれるらしい。
一口食べた俺のスプーンを奪って美味しそうにジェラートを食べる千晶。
あのなぁ。
そんなんするから期待してまうんやろ…この悪魔。
それも立派な間接キスやろが。
結局一口目しか食べさせてもらえんかったけど、ちょっとだけ優越感に浸ってしまった。
ああ。
この不毛な想いが昇華される日はくるんやろうか。
コブシを突き出しながら歩く千晶の背中を追いながら俺は一人ため息をついた。
最後まで読んでいただけた方に感謝です。