転生者を産んだ母はそっと離れることにした
朝の白む頃。私は大きな鞄を抱えて王都の馬車乗り場にたどり着いた。
目の前には辺境の街へ向かう馬車。これに乗ってしまえば、もうここへ簡単に戻ってくることは出来ない。
私は迷いを振り払うように馬車に乗り込んだ。
私の息子、アルは赤ん坊の頃からあまり泣かない子だった。
おしめを変えるタイミングも教えてくれて、ぐずることもほとんどなくて。話しかけている人の顔をじっと見ている赤ん坊だった。
ハイハイで移動するようになったな、と思ったらあっという間に伝い歩きをするようになって。
まるで訓練でもしてるみたいにずっと動き回っていた。
夫が病に倒れたのは、アルが二歳になった頃。
回復しないまま、夫は神の御下に旅立ってしまった……。
その後は私が働くようになって、その間アルを教会に預けるようになった。
それまで他の子と遊んだこともなかったのに、すぐ仲良くなってまだ二歳なのに喧嘩の仲裁までしていると言われて。
初めての子だから私は最初気付いていなかったけれど、お喋りが上手で出会う大人皆を驚かせていた。
そんな息子は、三歳の頃にはもう神童と呼ばれていた。
頭が良くて、丁寧な言葉遣いまでできて。
あの子が考えた料理のレシピがいくつも商業ギルドに登録されて「もう働かなくていいよ」て言われた時は目が飛び出るかと思った……。
文字もすぐに覚えて、計算も得意で。
どこかの学者先生と難しい話をしていたこともあった。
「どうやって育てたの?」
「誰に似たの?」
何度も周りに聞かれるたび、私は何も答えられなかった。
私はあの子を育ててない。
最初から、きっと赤ん坊の時からあの子はそのままで。
あの子が活躍して何もかも解決していくたびに、誇らしいと思うよりも複雑だった。
可愛い我が子のはずなのに、私より年上のような奇妙さを感じて。
私は母親だけれど、あの子に何かを与えたことがあったんだろうか。
庶民だけど貴族学園に特待生として通うようになってからは、もう住む世界が違っていた。
貴族のご令嬢の悩みを解決して、王子様の親友になったのだとか。
卒業後は王宮に住み込みで働くと手紙が届いて、その時私は王都を離れようと思った。
もうあの子は手が届く存在じゃない。
王都から出ると手紙を出しておいたので、もう届いている頃だろうか。忙しくて読めないかもしれないけれど。
私は馬車に揺られながらぼんやりと考える。
あの子は、息子は、私の子ではなかったのかもしれない。
きっと神様の子がたまたま私の腹に宿っただけで、庶民の中にいたのは間違いだったんだろう。
王宮が神様の子に相応しい場所だとしたら、あるべき場所に戻っただけ。
今こそが正しい状態なんだろう。
ああでも、母親としては不要でも、祈ることだけは神様も許してくれるだろうか。
私は冷えた手を絡めて、あの子の行く末に祈りを捧げた。
どうかアルが、幸せになりますように。
知識チートヒャッハーしてるから息子は幸せだよ。
お母ちゃんもこれから幸せになったらいいと思うよ。




