第9話 ひかるのはなし①
「なんで?」
電灯の明かりも届かない、暗闇の中。
夜に紛れる真っ黒なローブを着て、光瑠は空き家のベランダに座っていた。視線の先は不良の溜まり場となっている公民館だ。
直線距離で数百メートルは離れたその場所を、光瑠は望遠鏡なしで見ていた。
不良がたむろしているところに、襲い掛かる異形たち。不良も武器を持って反撃するが、人ならざる力をもった存在に勝てるはずがない。公民館の中に逃げ込んだところをあっけなくやられていた。
その直後に異形を追いかけるあきらの姿を見たときは、心底驚いたものだ。だがそれはいい。全くよくはないが、別にいい。
問題はそのあとだ。陽作があきらを追って公民館の中へ入っていった。人間を超えた力を使って体を動かしていた。そして、
「なんで?」
同じ言葉をもう一度つぶやく。陽作はあきらを前にして、驚き、照れ、悲しんでいた。光瑠が一度たりとも見たことのない表情をたくさんしていた。光瑠がどれだけ心を砕き、知恵を絞り、言葉を尽くしても見られなかった表情を、あんなにも。
「なんで?」
三度、同じ言葉をつぶやく。
それになんだ、あきらのあの顔は。幻惑の魔法を使ったのだろう。陽作から見れば姿が消えたように見えたのだろう。だがそれは思い込まされているだけ、あきらはまだ、そこに立っていた。まるで離れることを惜しむように。
悲しむような、安心したようなそんな顔をしながら。
「やめろ……」
声は怒りに震えていた。
「お前は、あたしから陽作くんまで奪うのか……」
どす黒い嫉妬の炎が渦を巻く。あきらは名残惜しそうに陽作から遠ざかる。
そのあきらが、光瑠のいる方角を見た。
「〈隠せ〉」
ぞっとして、光瑠はローブに顔を伏せた。たまたまだろうか。違う。
あきらが光瑠の方向を向いたとき、あきらは何者も寄せ付けない、冷たい魔法使いの目をしていた。
あきらは光瑠などとは「もの」が違うのだ。この距離で潜伏していたとしても、彼女なら気づきかねない。それほどの魔法使いだ。
ローブの隙間から少しだけ顔をのぞかせる。あきらは光瑠の方を向いておらず、すたすたと夜道を歩いていた。
その態度が余裕の表れに見えて、なお腹立たしい。
「許すものか。陽作くんはあたしのものだ」
血の一滴から髪の毛の先まで。形のない心の全ても。
春の夜にそんな、へばりつくような声が響いた。
第2章 俺は魔法使いと約束をした。
本日よりまた投稿開始します。2章完結まで連日投稿します。
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