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夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第2章 春、俺は魔法使いと約束をした。
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第9話 ひかるのはなし①

「なんで?」


 電灯の明かりも届かない、暗闇の中。

 夜に紛れる真っ黒なローブを着て、光瑠は空き家のベランダに座っていた。視線の先は不良の溜まり場となっている公民館だ。


 直線距離で数百メートルは離れたその場所を、光瑠は望遠鏡なしで見ていた。

 不良がたむろしているところに、襲い掛かる異形たち。不良も武器を持って反撃するが、人ならざる力をもった存在に勝てるはずがない。公民館の中に逃げ込んだところをあっけなくやられていた。


 その直後に異形を追いかけるあきらの姿を見たときは、心底驚いたものだ。だがそれはいい。全くよくはないが、別にいい。

 問題はそのあとだ。陽作があきらを追って公民館の中へ入っていった。人間を超えた力を使って体を動かしていた。そして、


「なんで?」


 同じ言葉をもう一度つぶやく。陽作はあきらを前にして、驚き、照れ、悲しんでいた。光瑠が一度たりとも見たことのない表情をたくさんしていた。光瑠がどれだけ心を砕き、知恵を絞り、言葉を尽くしても見られなかった表情を、あんなにも。


「なんで?」

 三度、同じ言葉をつぶやく。


 それになんだ、あきらのあの顔は。幻惑の魔法を使ったのだろう。陽作から見れば姿が消えたように見えたのだろう。だがそれは思い込まされているだけ、あきらはまだ、そこに立っていた。まるで離れることを惜しむように。

 悲しむような、安心したようなそんな顔をしながら。


「やめろ……」

 声は怒りに震えていた。


「お前は、あたしから陽作くんまで奪うのか……」

 どす黒い嫉妬の炎が渦を巻く。あきらは名残惜しそうに陽作から遠ざかる。


 そのあきらが、光瑠のいる方角を見た。


「〈隠せ〉」


 ぞっとして、光瑠はローブに顔を伏せた。たまたまだろうか。違う。

 あきらが光瑠の方向を向いたとき、あきらは何者も寄せ付けない、冷たい魔法使いの目をしていた。


 あきらは光瑠などとは「もの」が違うのだ。この距離で潜伏していたとしても、彼女なら気づきかねない。それほどの魔法使いだ。

 ローブの隙間から少しだけ顔をのぞかせる。あきらは光瑠の方を向いておらず、すたすたと夜道を歩いていた。


 その態度が余裕の表れに見えて、なお腹立たしい。


「許すものか。陽作くんはあたしのものだ」

 血の一滴から髪の毛の先まで。形のない心の全ても。


 春の夜にそんな、へばりつくような声が響いた。




 第2章 俺は魔法使いと約束をした。


本日よりまた投稿開始します。2章完結まで連日投稿します。

ブクマなどしていただけると嬉しいです。

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