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夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第3章 初夏、俺は魔法使いを失った。
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第36話 急襲③

「――そんで、俺様のところに来たと」

「はい」

「はー。俺様言ったよな。俺様は俺様のためにしか魔法は使わねぇ。そのうえで、なんでうちにきた」


 光瑠の元を逃げ出した陽作は、師匠の道場へ来ていた。

 道場で一人酒を飲んでいたらしい師匠は、陽作と抱きかかえられて意識を失ったあきらを見て、大きく顔をしかめた。


「俺の家は母が帰ってくる可能性があるから、無理です。騒がれたくありませんでした。あきらの部屋に運ぼうかとも思ったんですが、あきら自身が警戒の魔法を部屋に使っていて」

 あきらは自分が意識を失っているときに魔法は起動すると言っていた。なら今あきらの部屋に行くと、陽作がダメージを受けることになる。


「頼れる大人が、師匠しかいませんでした」

「そうかよ」

 陽作の話を聞いて、師匠は大きく舌打ちをした。


「寝かせてやるだけだ。俺様は治癒の魔法なんて使えないからな。客間の一つを貸してやる。布団を出すからとっとと運べ」

「ありがとうございます」

 師匠に頭を下げ、陽作は師匠のあとを追った。


 *


 布団にあきらを寝かせ、ようやく陽作は一息つくことができた。死んだように、あきらは眠っていた。顔色は真っ青で、息は浅い。死んでいるようにすら、見えた。

 だが生きている。陽作の目には、あきらとのつながりを示すような『糸』が見えていた。初めてあきらと出会ったときに見え、それから一度も見えなかった糸が、再び陽作の目に映っていた。


 この糸が何なのかはわからないが、見えている限り、あきらは生きている。そんな確信があった。

「飲め」

 眠るあきらのそばにじっと座っていると、師匠がお茶を持ってきてくれた。薄い黄色をしていて、刺激的な匂いがした。


 一口ふくむと、強烈なえぐみと苦みが陽作を襲った。

「うぐっ」

「吐くなよ。吐いたら、俺様が強引に飲ませてやる」

 師匠の言葉に陽作は口をぐっと閉じる。ごくんと飲み込むと、胃の中が焼けたように熱くなった。


「こ、これ」

「薬湯だ。魔法使い謹製のな。おそろしくまずいが、びっくりするほど効くぞ。お前の破裂した内臓も、これを飲めばすぐ治る」

「……俺の内臓、そんなにひどかったんですか?」

「あぁ。従者の強化魔法のおかげで動けてたんだろうな。病院に行ったら数か月は絶対安静だっただろうよ」

 師匠は隻眼でギョロリと陽作を眺める。


「ずいぶんな強化魔法がかかってやがる。孫ちゃんは何を代償にした」

「確か、髪の毛を代償にしていたと思います」

「なるほど」

 眠るあきらの髪は、一束分短くなっていた。きれいに整えられているからこそ、不自然な長さになった髪がいびつに見える。

 あきらの大事な一部が、消えてしまったみたいだ。


「この髪の量で、この強化か。孫ちゃんにとって、髪の毛ってのはよほど大切なものと見える。それを使って強化ってことは、相当大事にされてんな。お前」

「……はい」

「そうしょぼくれんなよ。聞く限り、陽作がいなけりゃ孫ちゃんはそのまま殺されてたんだ。お前は、ちゃんとその子を守ってるよ」

「そうでしょうか」

「そうだよ。だから自信をもて。それと薬湯は全部飲んで、今日は泊まっていけ」

「ありがとうございます」

 師匠の言葉に、陽作は素直にうなずいた。


 *


 あきらは師匠の家に寝かせることになった。

「俺様の家に襲撃を仕掛ける馬鹿はいねぇよ」

 というのが師匠の言葉。実際、何もしないと言っているが師匠が見てくれていると思うだけで安心できた。

 一晩たって、薬湯の効果もあって陽作の傷は癒えたが、あきらは目を覚まさなかった。魔法使いに使う毒だと光瑠は言っていた。意識を奪い、苦しめて殺す毒だと。


「抵抗してるんだよ。孫ちゃんは。……何かあったら連絡はしてやる」

「すみません」

 あきらを置いて、師匠の家を出る。できることならずっとあきらのそばにいたかったが、それであきらの役に立てるわけではない。

 光瑠ともう一度会わなければいけない。

「気張れよ」

 師匠は陽作の背を力強く押してくれた。


 けれど、

「上沼? いや今日は学校来てねぇみたいだけど」

 光瑠は学校に来ていなかった。次の日も、その次の日も。

 光瑠は陽作の前から姿を消してしまった。


「ひかちゃんのこと、何か知らない?」

 光瑠と親しい由乃ですら、光瑠の居所を知らなかった。

 あきらはいまだ目を覚まさない。


「光瑠……」

 自室のベッドで横になり、光瑠のことを考える。

 光瑠と付き合いだしたのは、確か夏。1学期の終業式の日だったはずだ。かかわり始めたのは、4月の調べ学習で同じ班になってから。


 正直な話、驚いた。陽作にとって光瑠は比較的よく話す友人であり、それ以上でもそれ以下でもなかったから。告白をオッケーしたのは、光瑠に悪い印象を抱いていなかったから。実のところ、それだけでしかなかった。

 付き合い始めてから、陽作は光瑠のいろんな側面を知った。誰に対しても公平な優等生。それ自体は間違いなかった。


 陽作は光瑠が意外と感動屋なことを知った。ふとしたことですぐ、彼女は泣いた。

 陽作は光瑠が意外と負けず嫌いなことを知った。対戦ゲームみたいなものでも負けたままは許せず、勝つまで何時間でもやり続けた。

 楽しかった。


 別れた今ですら、あきらを傷つけてなお、陽作は光瑠を嫌いになれなかった。

 光瑠が呪術師で、あんな凄惨な光景を生み出していたのだと、信じられなかったし、信じたくなかった。

 その時だ。スマホが通知音を鳴らした。寝ころんだまま何気なしに画面を見て、陽作はがばりと起き上がった。

『陽作くんへ』

 いくら連絡しても返事のなかった光瑠からメッセージが来ていた。


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