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夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第3章 初夏、俺は魔法使いを失った。
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第33話 平凡な魔法使いと優秀な魔法使い③

「光瑠と仲が悪いのか?」

 光瑠と別れたあと、陽作たちは部屋にとんぼ返りしていた。コンビニで甘いものを買うこともしなかった。


 あきらは部屋に帰るなり、改めて光瑠からの情報を読み込んでいた。陽作はその間、あきらの邪魔をしないように部屋の掃除などを行ったり、飲み物や軽食の準備などをしたりしていた。

 文字通りの「従者」のようだ。

 時間はすでに日をまたいでいた。あきらが「ふぅ」と一呼吸入れたところで、陽作は聞いてみた。


「私と光瑠さんの関係ですよね」

 陽作が入れたコーヒーを飲みながら、あきらはつぶやくように言う。

「魔法使いは世襲がほとんどです。私も、光瑠さんも親が魔法使いですから。幼い頃から魔法使いになるための修行をずっと行ってきました」

「ならずっと一緒に修行してきたのか? 幼馴染、みたいな」

 陽作の言葉に、あきらは首を振る。


「いえ、私はすこし事情がありまして。私がコミュニティの輪の中で生活を始めたのは大体10年前ほどになります」

 あきらはぼんやりと、コーヒーに映った自分の顔を眺める。それから、陽作の顔を寂しげな微笑とともに見つめた。

「それまでは、両親の元で魔法のことだけ、学んでいました。光瑠さんと出会ったのは、私が両親の元から離れてから。10年来の付き合いといえば、幼馴染ということになるのかもしれません。とはいえ、同じ境遇の子どもはたくさんいましたが」

 私は、とあきらは過去を思い出すように言葉を続ける。


「自分で言うのもなんですが、優秀な魔法使いでした。コミュニティにも学校のようなところがあって、私が編入する前は光瑠さんが同年代の子たちの中での一番でした。だけど、私がその一番を奪ってしまったんですよ。それ以来、私は光瑠さんからはずっとああいう態度ですね」

 一番を奪ってしまった。いつか、光瑠が「自分はそこそこどまりだ」と言っていたことを思い出す。

 光瑠のコンプレックスはあきらから来ているのかもしれない。


「いじめられたりしたのか」

 あれだけの敵意だ。そんなことをしていてもおかしくないと思ったが、あきらは「いいえ」と首を振る。


「陰湿なことは光瑠さんからは、なかったですよ。敵意は向けても、悪意は向けない。そういう人でした。そういう意味では、当時の私としても付き合いやすい相手でしたよ」

 あきらの言葉には、引っかかる部分が多くあった。敵意を向ける相手が付き合いやすいと語るあきらは、これまで一体どんな生活を送ってきたのか。


「光瑠さんと密に付き合っていたのは、私たちが12歳のころまでです。コミュニティでは、その齢で二つの選択肢が突き付けられるわけですから」

「選択肢?」

「はい。コミュニティの学校に残って魔法使いとしての生き方のみを学ぶか、普通の学校に編入して、その土地の魔法使いから魔法を学びながら生活するか。私はコミュニティの学校に残ることを選択しました。いいえ、優秀な魔法使いは出る、という選択を与えられないので、選んだという感覚はないですね」

「それで、光瑠はこの土地の魔法使いに学ぶことを選んだってことか」

「そうなります」

 あきらには選択肢が与えられず、光瑠には選択肢が与えられた。選べることが、逆に光瑠を傷つけたのかもしれない。


「そうして光瑠さんが派遣された魔法使いが、私の祖母にあたる人物であったことには驚きましたけどね」

「そっか、さっきもおばあ様って言ってたな」

「はい。重日時季子。コミュニティの中でもとりわけ優れた魔法使いで、特に人形魔法の名手です。魔法の最奥である〈理界〉に到達しかけた魔法使いでもありますから」

 あきらの口調には、祖母に対しての尊敬が込められていた。

「理解? どういうことだ?」

 あぁすみませんと、あきらは答える。


「〈理界〉、「理」の世「界」と書きます。魔法は代償を支払って世界に新しいものを生み出すものです。けれど、〈理界〉はいわば世界を上書きするんです。そのレベルまで魔法を極めた人はごく少数で、コミュニティの歴史に永遠に名前が残るほどの偉業なんです。そこの領域に手がかかるというだけでも、高い名誉と言われるほどです」

「へー」

「ちなみに〈断罪者〉様、あなたの師匠もその〈理界〉を使えるんですよ」

「まじで!?」

「まじです。だから、あの人は〈断罪者〉という二つ名を得ているんです。かつて日本のコミュニティを壊滅寸前まで追い込んだ〈人魔喰らい〉という呪術師がいたんですが、その呪術師を滅ぼしたのが〈断罪者〉様です。本当にすごい人なんですよ。あの人は……っと話がそれてしまいましたね」

 とにかく、とあきらは言う。


「私は光瑠さんに対して、特に何か思うことはないです。好ましく思っているくらいです。コミュニティの同年代の中で、正面から向かってきてくれたのは、彼女くらいのものでしたから」

「そうなんだ」

 陽作の知る光瑠も、似たようなところがあった。彼女は意外と負けず嫌いだ。


「ただ……」

「ただ?」

 あきらの表情がくもる。


「さっき会った光瑠さん、何か違和感があったんですよね。らしくないというか、なんというか」

「らしくない……確かに、あんなとげとげしい態度をとる光瑠は初めて見たな」

「そういえば、向井さんは光瑠さんとお付き合いをしていたそうですね。その話はあとでたっぷり聞かせてください」

「あきら、顔が怖いぞ」

「気のせいでしょう」

 ニッコリ。あきらが微笑む。


「さっきも言いましたが、私は光瑠さんから敵意は感じたことはありましたが、悪意を感じたことはなかったんですよね。けれどさっきは」

「悪意を感じた、と」

 黙ってあきらはうなずく。資料の入ったファイルを持ち上げる。


「だから、光瑠さんからもらったこの資料。まさしく私たちが欲しいと思っていた情報ですが、正直この資料をもとに動くのが少し恐ろしくあります。罠、のように思えてしまって」

「そうだな……」

 もしかすると、と。陽作は思う。


 陽作はあきらを守ると決め、光瑠と決別した。つまり陽作は光瑠ではなく、あきらを選んだわけだ。光瑠が前からあきらを知っていて、強いコンプレックスをもっているのなら。

 光瑠はそのことを根に持っていて、だからあきらに悪意をもって接したということはないだろうか。それに、光瑠があきらを害するために情報に悪意を混ぜるなんてことがあるのか。

 陽作の知る光瑠なら、考えられない行動だ。

 光瑠は単純に、あきらに嫉妬しているだけではないだろうか。


「昔から、光瑠はあきらに敵意は向けても、悪意は向けてこなかったんだよな」

「そうですね。彼女は正しい魔法使いでしたから」

「なら、大丈夫じゃないかな。警戒はしよう。でも調査が手詰まりなのも事実だし、光瑠、というかあきらのおばあちゃんの資料をもとに動いてみてもいいだろ」

「……わかりました。そうしましょうか。それに、もしも光瑠さんの妨害があっても、警戒していれば対処はできますし」

 不安な様子をにじませながら、あきらは資料の入ったファイルをテーブルに置いた。


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