表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第3章 初夏、俺は魔法使いを失った。
32/43

第32話 平凡な魔法使いと優秀な魔法使い②

「久しぶりね。あきら」

 吐き捨てるように言う光瑠。あきらは眉をひそめて、口を開きかける。ちらりと陽作の方を見て、ようやく口を開く。


「えぇ。お久しぶりですね。光瑠さん。こんなところで会うとは思っていませんでしたよ」

 あきらの言葉には戸惑いが混じっていた。


「そうね。この町に来たとき、時季子様のところへ挨拶に来たんでしょう?」

「はい。光瑠さんは留守のようでしたが」

「学校に行っていたのだから当然でしょ。あたしはあんたみたいな優秀な魔法使いじゃないの。平日に堂々と家になんていないわよ」

「それは失礼しました」

「そういうすました態度、本当に気に入らない」


 バチバチと、あきらと光瑠の間には火花が散っているようだった。というより、陽作の目には光瑠が一方的にあきらを敵視しているように見える。

 どういうことだ? 陽作は目の前の光景に混乱していた。あきらと光瑠がまるで知り合いのように会話をしている。それに光瑠は「魔法使い」という言葉を出した。

 つまり……


「そうだ。紹介しますね。今私の隣にいるのが」

「必要ない」

 あきらが陽作を紹介しようとするのを、光瑠は制した。ここで初めて、光瑠は陽作に視線を向けた。


 ニッコニコ。という表現が素晴らしく似合う笑顔で光瑠は言った。

「ね、陽作くん。あたしたち、恋人だものね」

 ビキッ。陽作の隣で血管の浮き上がる音がした。


「……向井、くん? それは本当ですか?」

 なぜだろう。隣にいるあきらの顔が怖くて見れない。

 冷えきった空気の中、陽作は震えを抑えて口を開く。


「も、元だ、元。上沼も、誤解をまねく言い方はやめてくれ」

「陽作くんの返事一つで、いつでも関係は変わるけど?」

「へぇー」

 ビキビキッ。気のせいだろうか。視界の端に、メラメラと舞い上がる黒髪が見える。


「なるほど、なるほど。だからあのとき、遠くから覗き見していたわけですか。あんな、道具頼りで、へたくそな、監視を」

 ビキッ。今度は光瑠の額に青筋が浮かぶ。


「やっぱり気づいてたんだ。悪かったね、道具頼りな監視で」

「はい。ばればれでしたよ。ずいぶんへたくそな監視でしたから。へたくそすぎて放っておきましたけど」

「あ、そう」

「あ、そうだ。紹介が遅れましたね」

 陽作は心臓が飛び出るかと思った。


 あきらが陽作の隣に立ち、指をからめるように手を握った。ひんやりとした小さな手の冷たさと、強く握りしめる手の感触。

 握りしめる手の感触は、ぎりぎりと締め付けるようだった。


「向井陽作さん。私の、従者です。私の」

 私の、という言葉にはやけに力がこもっていた。


「陽作はこの間も、私を助けてくれたんですよ。さすがは私の、従者ですよね」

「へー、そう」

「私を守ってくれると言ったんですよ」

「そう、なんだ」

「そばにずっといてくれるって」

「……それが?」


 ビキビキッ。光瑠の平坦な口調が恐ろしくて仕方がなかった。視線が実体をもつのなら、きっと光瑠の視線はビームになっている。

 そしてそろそろ、握りつぶされそうな陽作の手から感覚がなくなってきていた。


 あきらが陽作のことを「向井さん」ではなく「陽作」と呼んだことに気付けないほどだった。


「な、なぁ」

「何? 陽作くん」

「何でしょう。陽作」

「場所、変えないか。その、周囲の目が」

 三人がいる場所は人通りの多い場所だ。行き交う人は多い。


 そんな中で、二人の女が一人の男を取り合うような会話を繰り広げているのだ。手も痛いが、視線も痛い。

 いろんな意味で。


「あ」

「あ」

「だから、頼む」

 何に対してわからないが、陽作は深々と頭を下げた。


 *


「これ」

 陽作たちは最初行く予定だったコンビニの駐車場に場所を移した。

 ガラス張りの向こうから見える明るい光から遠い、暗い場所だ。


 光瑠はトートバッグから分厚いファイルを取り出すと、無造作にあきらに手渡した。

 あきらは眉をひそめながらファイルと受け取ると、ぱらぱらとめくる。


「これ、町の無人の家の情報ですか」

「えぇ。あんた、時季子様に情報提供を求めていたでしょ。ちょっと遅くなってしまったけど、まとめてみたから渡すと、時季子様はおっしゃっていたわ」

「そうですか」

 あきらはファイルから目を外さないまま答える。あきらの目はせわしなく動いている。

 呪術師につながる情報を前に、集中しているようだ。


「上沼」

「何?」

 意を決して、陽作は口を開く。


「お前、魔法使いだったのか」

 あきらの言っていた二人の魔法使い。そのもう一人が光瑠だったのだろう。

「そうだね」

 あきらと接する時とは違う、険しさのない口調で光瑠は答える。


「あたしは魔法使いだよ。陽作くんと出会う前も、付き合っているときもずっとね」

「……知らなかった」

「言ってなかったからね。魔法使いの存在は一般人には知られちゃいけないんだよ。だからこそ――」

「光瑠さん。余計なことを言わないでもらえますか」

 パタンと、音を立ててあきらはファイルを閉じる。


「情報は確かに。ありがとうございました。おばあ様にもお礼を伝えておいてください」

「伝えておく。じゃ、あたしはこれで。陽作くんも、またね」

「はい。さようなら」

「あぁ」

 用事は済んだと、光瑠は陽作たちに背を向け、さっさと歩き出す。


「上沼」

 その背中に、陽作は声をかけた。

「何かな」

 足を止めないまま、光瑠は言う。


 声をかけたものの、陽作は何を言うべきか悩んでいた。

「その、ありがとう」

「なにそれ」

 発した言葉に、光瑠は小さく笑い、薄暗い闇の中に消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ