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夏、俺は魔法使いに恋をした  作者: クスノキ
第2章 春、俺は魔法使いと約束をした。
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第12話 想う③

 部活からの帰り道。まだ熱の残った春の空気を感じながら家へと歩く。人の少ない通りを歩いていると、陽作のスマホがポケットの中で振動した。画面を見ると「祐介」という名前があった。


「どうした?」

『悪い、うちの由乃さんが陽作にいろいろ言っちまったんだろ?』

 電話に出ると、祐介の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。


「あー」

『めんくらったろ? 実のところ、由乃はお前が光瑠をふったあと、俺でもビビるくらいぶちぎれててさ。目を離せば陽作を襲撃しそうな勢いで、俺も止めるのに苦労したんだ。まじですまん』

「いや、確かにめんくらいはしたけど、心配もしてくれてたみたいだった。なんだかんだで、川島はいいやつだと思うよ」

『そっか。まー俺の彼女だからな!』


 祐介は少し元気を取り戻したようであった。

 由乃は陽作に発破をかけたのだ。光瑠と関係を戻すのか、断ち切るのか、はっきり決めろと。だが同時に、陽作の頭の中には、あきらの存在もあった。光瑠とあきら。陽作一人では結論を出せそうになかった。


「なぁ祐介」

『どした?』

「相談したいことがあるんだ。いいかな」

『なんだよ、改まって』

「大事な話なんだ」


 祐介に相談しよう。陽作はそう決めた。

 こんなこと相談できるのは祐介しかいない。それに、祐介なら必ず陽作の期待に応えてくれる。


『……』

 陽作の言葉から何かを感じ取ったのか、祐介は黙りこむ。たっぷり間をおいてから、返事が返ってきた。


『俺、久しぶりに陽作の手料理が食べたいな』

「はい?」

『陽作んち、今から来ていいか?』

「……ありがとな」

『俺と陽作の仲だろ。気にすんなって。お前が気にするのは、美味い晩飯の献立だ』

「とびきり美味いの作ってやるよ。材料買って準備するから、一時間後くらいに来てくれ」

『了解! その間に俺はうちの由乃さんに、一緒に夕飯食べることできなくなったって連絡するわ!』


 ツーツーツー。陽作が返事する間もなく、電話が切れた。陽作は先ほどの由乃の刺すような冷たい笑顔を思い出す。

「俺、後から川島に刺されないだろうな」

 冷たい風が吹きぬけて、ぶるりと、陽作は身震いした。


 *


 近所のスーパーで必要な材料を買い足し、家に帰った陽作は料理の準備を始めた。


 鍋にだしパックを放り込んで、適量水を入れて火にかける。沸騰するのを待つ間に冷蔵庫の野菜室から使いかけの野菜を取り出す。包丁がまな板をたたく音が、静かなキッチンに規則正しく響く。トントントンとリズムよく一口サイズに切っていき、ボウルに入れる。

 鍋の水が沸騰し、出汁を煮出せたので、パックを取り出しボウルに入れた野菜を投入。空いたボウルに買ってきたひき肉と豆腐、みじん切りしてレンチンした玉ねぎを混ぜ合わせ、塩コショウで下味をつける。


 豆腐ハンバーグの付け合わせはアスパラでいいか。ついでに小松菜でお浸しでも作ろう。ハンバーグの種を休ませる時間が短いのは悔しいがしょうがない。

 料理は無駄なく、手際よくだ。

 味噌汁とお浸しが完成し、あとはハンバーグを焼くだけとなったタイミングで、玄関から来客を告げるチャイムが鳴った。


「鍵は開けてる!」

 キッチンから声をかけると、カチャリと扉が開く。入ってきた祐介の姿を見て、陽作は固まった。


「お邪魔するぜぃ」

「……なんかコメントした方がいい?」

「いや、何にも言わないで」

「そうか……なんかごめん」

「俺と陽作の仲だろ」


 にっこりと笑う祐介の頬は、真っ赤なビンタのあとがあった。


「それより、飯だ飯。俺は腹ペコだぞ。それとこれ、つまらないものですが」

 そう言って祐介がうやうやしく差し出してきたのは、レジ袋に入ったコーラやポテチといったジャンクな品々だ。


「別に気にしなくていいのに」

「俺が食べたいだけだからいいの。それに多分、長い話になるんだろ?」

「かもな」


 時計は8時を過ぎたくらいを示していた。祐介はきょろきょろと部屋の中を見回し、小声で陽作に聞いた。

「ところで、おふくろさんは?」

「あの人なら、いないよ。2週間くらい姿を見てない」

「おっけ。了解。なら完成までのんびりさせてもらうよ。あ、コップ使わせてもらうから」

「自由にしててくれ」


 祐介はキッチンラックにあるマグカップを取って、ソファにドカッと座りこむと、持ってきたコーラを入れて飲み始めた。我が家かというほどのくつろぎぶり。


「祐介がうちに来るのって、いつぶりだっけ」

 熱したフライパンにハンバーグを入れながら陽作が聞く。


「んー、俺らが2年に上がる直前くらいじゃねえかな」

 スマホをせわしなく操作しながら祐介が答える。


「陽作と上沼が別れたときだろ。いや、別れる直前だったか?」

「って考えると、意外と最近だな」

「そうか? 中学んときはもっとよく来てたと思うけど」

「あはは、確かに。あの頃はほぼ毎日来てたな」

「そうそう」


 祐介はスマホをもっていない手で、マグカップを持ち上げる。めがねのイラストの入った、祐介専用のマグカップだ。

「おかげで俺、陽作んち専用のカップ買ったもんな」

「図々しい奴め」

「由乃にいわせりゃ、あざといやつらしいぞ」

「そういや、スマホで何してんの?」

「情報屋として、いろんなやつと連絡してんの。正直ちょっとめんどい」


 そんなとりとめのないことを言っていると、メインディッシュが出来上がった。皿に盛りつけ、テーブルに置いていく。白米に野菜たっぷりの味噌汁と豆腐ハンバーグ。付け合わせに焼いたアスパラと、彩りで小松菜のお浸しも添える。

 祐介はテーブルに並べられた料理に目を輝かせた。


「お、うまそう! 特にハンバーグってのがいいね」

「豆腐入りで健康的だ」

「へぇー。レシピとかどうしてんの?」

「ネットで調べるんだよ」

「熱いうちに食おうぜ」


 祐介の腹がぐるると鳴る。料理は出来立てが一番おいしい。二人で手を合わせ、「いただきます」と言ってから勢いよく食べ始めた。

 ハンバーグを噛むと、アツアツの肉汁が口に広がった。

 うまい。


 *


「――なるほどね」

 食事を終え、陽作は公民館で見た異形の化け物やあきらの不思議な力についてはぼかしたうえで、祐介にあきらのことについて相談した。


 話を聞き終えた祐介はうんうんとうなずき、一言。

「ぶっちゃけ、陽作、お前気持ち悪いよ」

 と切り捨てた。


「正直、俺もそう思ってる」

 なにせあの日陽作のとった行動と言えば、公園で出会った女を追いかけて夜の街をさまよったあげく深夜再会するも、名前だけ教えてもらって別れたというものだ。異形関連が話せないにせよ、やってることはストーカーそのものだ。


 がっくりと肩を落とす陽作に、祐介は笑いかける。

「でも陽作がそんな気持ち悪い行動をとったことが、俺はうれしいよ」

「祐介……」

「だってこれまでの陽作なら絶対取らない行動だろ。陽作は自分のことを客観視できるやつだから、自分が変態チックで超気色悪いことをしてるってわかってたはずなんだ」

「言い過ぎじゃないか?」

「その上で、俺に相談してくれたんだろ。へんた……いや陽作」

「お前な」

 思わず苦笑いを浮かべてしまう。


「で、陽作はさ、そのあきらって女の子ともう一度会いたいわけだ」

「あぁ。会って、この気持ちの正体を確かめたい」

「なるほどね」


 祐介の言葉には含みがあった。理由はわかっている。光瑠のことだろう。

 祐介は光瑠との復縁を希望していた。今思えば、それは由乃の意向も含まれていたのだろう。

 半年付き合った光瑠より、ひとめぼれした相手をとるのかと祐介は思っているのだろう。


 でも、

「よし、なら俺にできることは情報収集だな。そのあきらって女の子がどこにいるのかを探せばいいんだろ」

「……助かるよ」


 祐介は必ず陽作の味方をしてくれる。そんな絶対が陽作の中にはあった。

「俺とお前の仲だろ。気にすんな。で、俺は今からその女の子を探してるって情報をあちこちにばらまくわけだが……ちょっと盛っていい?」

「盛る?」


 祐介は残り少なくなったポテチの袋から一枚を取り出す。

「そう。単に『こんな特徴の女の子を探してます! 知ってたら情報ちょうだい!』なんて言ってもマジメに取り合ってくんないのよ。だって面白くないもの。つまんない。だけどさ」


 レジ袋から新しいものを取り出し、ざらざらと残り少ないポテチの上にざらざらと盛り付ける。山盛りだ。


「例えば、『とある純情な男子がいい感じのシチュエーションでかわいい女の子に一目ぼれしちゃった! その恋を成就させてあげたいから、助けてあげて!』って言えば、みんな面白がって情報を拡散してくれんの。拡散すれば、人の目も増えて情報も集まりやすい。ま、今回の場合は盛るっていうか、ほとんど事実なんだけどさ。とにかくそんな感じでやっちゃっていい?」

「お前……」

「お、なんだ陽作、俺のすごさに感動しちゃった?」

「将来、詐欺師とか向いてるんじゃないか?」

「いやなんでだよ!」


 そんな軽口を言いながら、内心では祐介に頭が上がらなかった。揺らいでいた胸の奥が、温かなもので満たされていくのを感じる。

 陽作が全てを話していないことは、祐介も察しているだろうに、そのことをおくびにもださずに協力してくれる祐介の無条件の信頼が、陽作はただただ心強かった。


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