スキキライ死んデレら
その日私は夢をみた。
その夢は現実世界と同じような夢だった。
自分で夢だとわかる。
明晰夢だ。
ただ、明らかに違う点が一つだけあった。
「中村くんがいない」
いつものようにぷかぷかと中村くんが浮いていない。
いつまで経ってもいつものように中村くんが現れない。
中村くんどころか、悪霊になって暴れ回っている中村くんも見当たらない。
中村くんが存在しない。
この夢の中ではきっと中村くんは悪霊にならず、消えることができたのだろう。
私はきちんと中村くんに『好き』と言えたのだろう。
…それがどうした。
だからなんだっていうんだ。
別にいいじゃないか。
よかったじゃないか。
私は誰にも受け入れられない。
依存して壊してしまうから。
これで何も壊さずに済む。
誰も傷つけずに済む。
これでよかった。
はずなのに。
なんで勝手に身体は走り出してしまっているんだ。
私は誰も何も消えてほしくない。
全てが平和に終わってほしい。
いろんな場所を探し回った。
中村くんが初めて告白してきてくれた校舎裏、いつも中村くんが浮いていた教室の中、シンデレラの劇で王子様役をやってくれた体育館の中、中村くんとの思い出が詰まった場所は全部探した。
でも見つからない。
どこにいるのか分からない。
一緒にいてほしい。
そばにいてほしい。
私と生きて欲しかった。
私と同じ時を過ごして欲しかった。
どうでもいいことで笑って…泣いて…それで…それから…
…夢なら、これが夢なら。
「私はっ…!中村くんが好きだよ!中村くんが好きー!」
私は叫んだ。
◇
「おはよ」
目が覚めた。
目覚めて一番に目に飛び込んできたのは中村くんの顔だった。
中村くんがいた。
中村君が存在していた。
私は声に出していなかった。
『好き』って。
心の中で、夢の中でそう思っていただけ。
私は自室のベッドで眠っていた。
壁にかかってる時計の時間を見ると午前2時。
中村くんは何故かずっと私の額に手を当てている。
と、その疑問に答えるかのように、中村くんは口火を切った。
「坂原さんの夢…見てたよ、僕も。坂原さんの額から。幽霊は何かとできることが多くて便利なんだ」
そんな中村くんの言葉が私の耳にどれくらいちゃんと意味をなした言葉として入ってきたか分からない。
ほとんどただの音にしか聞こえていなかったと思う。
「…ねぇ…私と生きてよぉ…なんで…どうして…死んじゃったんだよぉ…」
唐突にこんな意味のわからないことを言い出すくらいには。
「ごめん」
「あんな夢見せておいて…寝言でうっかり言っちゃったら、どうするつもりだったんだよぉ…」
「ごめんね」
私は中村くんをぎゅっと強く抱きしめた。
中村くんも強く抱きしめ返してくれた。
嬉しい。嬉しいのに。
「好き。好きだよ。ずっと好き…大好き…本当に…中村くん。私は中村くんのことが大好きです。ずっと好きです」
少しでもそばにいてほしい。
けれど、それは過ぎた願い。
ここでお別れ。
私の想いは全て虚空に消えてしまう。
「ありがとう。僕も坂原さんが好きだ」
中村くんはそう言った。
次の瞬間には私は空気を抱きしめていた。
◇
中村くんが消えた。
私が消した。
それでよかった。
これがよかった。
これでやっと…。
「ありがとう…中村くん…中村くんのおかげで…」
やっと…自分のことを好きになれた。
中村くんのことが好きな自分のことが好き。
あぁ…好きだなぁ…私…やっと自分のこと…。
「良い人生だったなぁ…」
私はもう自分のことなんか嫌わない。
中村くんが愛してくれた私のことなんて嫌えるわけがない。
私は私のことが大好き。
私は消える決心がついた。
ベッドから立ちあがり、『私は私のことが好』まで言ったその時、掛け布団から
はらり。
と紙切れが落ちた。
私は紙なんかをベッドに持ち込んだりしない。
眠っている間にくしゃくしゃにしてしまう自信がある。
手に取って、よく見てみると、それは手紙だった。
開いてみると、そこには
「大嫌い。
生まれ変わって会いにいく。
中村隆信より」
そう書かれていた」
「中村くん…なか…むら…くん…」
やめてよ。ひどいよ。こんなこと。
こんなことされたらさ…もう無理だよ…。
大好きだから…お願いだから…私の隣にずっといて欲しかった…。
中村くん…大好き。
中村くんとの楽しかった日々の思い出を束ねて噛み締めて、膨大な思考の果てに、中村くんは手紙をポルターガイストで鉛筆を動かして書いたのだろうかとかどうでもいいことを考えて、私はもう寝てしまった。
◇
90年後。
ある墓に墓参りする男の子がいた。
「良かった。あった。探すの大変だったんだよ。ご親族からは子供の一人も遺さず、結婚もせず死んだって聞いたからさ。僕は君に幸せに生きて欲しかったのに。なんて、言うのはちょっと残酷か。ごめんね。そんな気を使わなくてよかったのに。ありがとう。消えないでくれて。もし、消えていたら、探せなかった。僕自身が坂原さんの存在を忘れてしまうから。坂原さんがこの世界から忘れられていただろうから」
男の子がお参りしているお墓に近づいてくる一人の女の子がいた。
「久しぶり」
「久しぶりだね」
「自分のお墓参りなんて変な感じだなぁ…」
「確かにね」
「ふふっ…そこに私はいないよ」
「そうだね。はじめまして…好きだよ」
「大好きっ!」
『好き』という言葉を女の子は言えた。
お読みいただきありがとうございます…✨
作品のあらすじを思いついて、アイデアをプロットに書き殴ったのが高三の夏休みでした✨
スキキライの基準ってなんだ?って思って、キライって言葉でもスキって表現することが可能なのではないか?と考えました✨
大嫌いという言葉で激重大告白を中村くんにさせてみました✨
シンデレラ=坂原さん
王子様=中村くん
魔法=呪い
ガラスの靴=坂原さんの墓
ですかね…イメージとしては…✨




