僕の呪いを
文化祭が無事に終了して、今は下校中。
今日も私は一人で帰る。
でも、孤独じゃない。
中村くんと二人きり。
「好きです。付き合ってください」
帰り道の途中で中村くんは懲りずに私に告白してきた。
「ダメです」
「僕が消えちゃうから?」
「うん」
今は自信をもってそうと言える。
「でも、僕は幽霊だし、そもそも元から存在なんかして…」
「そうかもね」
「だったら…」
「ダメだよ」
「ダメなことなんかなにも…」
「ダメだよ」
「…」
「…ユニコーンって知ってる?」
「…わからない…」
「私はユニコーンが好きだった。毛色がカラフルで、小学生時代みんなユニコーンのキーホルダーをペンケースやランドセルにつけていた。私もその一人」
「…」
中村くんは困ったような表情でただ黙って私の話を聞いていた。私に何か気遣いの言葉をかけようとしては、何も思い浮かばず歯痒そうな、そんな様子だった。
そりゃそうだろう。だって…
「私が消したの。幼い私はユニコーンが存在していると認識してしまっていたから。十才の時だった。もう誰もユニコーンのことなんて覚えていない。私が存在していると認識してしまったものは全て存在していることになってしまう。その存在を、概念を、丸ごと全て消してしまう」
私は…。
「もう私はあなたのことを一人の人間としてしか見れないでいる…」
あぁ…。
「幽霊だなんて関係ない…‼︎」
ダメだこれ。
「私は………………頭じゃわかっているのに…もう…どうしようもない…‼︎」
涙が溢れて止まらない。
ええん。とみっともなく泣いてしまった。
そんな時でさえ中村くんは私を抱きしめてくれる。
私が泣き終わるまで何も言わずに抱きしめてくれる。
しばらく沈黙が続いた。
中村くんはずっと下を向いて、視線を右から左へ、左から右へと行ったり来たりさせている。
その往来が五往復続いた後に、坂原くんは斬釘截鐵の意思で覚悟を決めたように
「…僕ね、もう直ぐ消えちゃうんだ」
と言い放った。
「え?」
「一周忌って知ってる?」
「…」
返事ができなかった。
「あと20日でそれなんだ」
「…」
動機が治らなかった。
「死んでから一年後には、成仏しなくちゃいけない」
気づけば、呼吸もしていなかった。
私は苦しくなって、思い切り息を吸い込んでは、今度は吸い込みすぎて咳き込んだ。
聞き捨てならない言葉だった。
衝撃的だった。
故に信じがたかった。
でも、嘘じゃない。
だって、中村くんが私をまっすぐ見ている。
「…な…んで…神様とか誰かに頼んでさ…もう少し…だけでも現世にいることはできないの…!?」
「できない」
キッパリと言われてしまった。
今までに見たことのないような真剣な顔で。
本当に幽霊らしい悍ましい顔で。
「幽霊は一周忌以上現世で彷徨っていると、悪霊になってしまう」
「…悪霊になると…どうなるの?」
「僕が僕じゃなくなる。理性を失って暴れ回るだけの化け物になってしまう。坂原さんに危害を加えるかもしれない。それだけは絶対に嫌だ」
「私はいい」
「嫌だ」
「いいって言ってるじゃん!なんで今まで言ってくれなかったの!?なんでずっと黙ってたの!?何を考えて私と一緒にいたの!?私のことを『好きになり続けていく』って言ったよね!?あれはなんだったの!?嘘だったの!?」
「…言えなかった…僕、臆病だから…ごめん…」
幽霊なのに、臆病って、なんだよそれ。
もう何も言葉が出てこない。
呆れているのか。
悲しんでいるのか。
自分でも分からない。
中村くんが口を開いた。
「僕、坂原さんに『好き』って言われたい」
お読みいただきありがとうございます…✨
本当に本当に読んでいただけるという事実が最上の喜びでございます…✨
ありがとうございます…✨




