死んデレら
「では、文化祭はシンデレラの劇をやるということで決定しました〜」
級長の声が教室に響き渡った。
この学校は文化祭を二週間後に開催するらしい。
知らなかった。
どうでもよかった。
文化祭なんて存在していたとしても、そこに私の居場所はなく、そもそもきっと私はその日は休むから。
「じゃあ、シンデレラ役をやりたい人はいますかー?」
誰も手が上がらなかった。
そりゃあ、そうだろう。
ここで恥ずかしげもなく手を挙げてしまうことができるのは余程の身の程知らずか阿呆だ。
自分からシンデレラに立候補する人間なんてよっぽどのナルシストだ。
「坂原さん…!やってくれるの…!?」
「…え?」
私はいつのまにか手を挙げていた。
でも、私の意思ではない。
となると…
「僕、坂原さんのドレス姿が見たい…!」
私の真横にいつのまにかいた中村くんが私の手を持ち上げていた…。
「ありがとうね。坂原さん…!」と級長。
「うぇっ…い…いや…あの…」という私の声は「じゃあ他に王子様役やりたいって人はいますかー!?」という声にかき消された。
中村くんが「はいはいはい!僕やりたいです!」と大きな声で言っていたが、級長の耳どころか、隣の席のクラスメイトの耳にもその声は届かなかった。
みんなが中村くんのことを無視するもんだから、不貞腐れた中村くんはつまらなさそうに唇を尖らせて、ぷかぷかと私の目の前で浮いて揺れていた。
◇
当日、舞台袖。
後数分で劇が始まる。
緊張しかしない。
どうしよう。
練習はたくさんしてきた。
でも、人前で声を出すことが怖い。
私にシンデレラ劇の主役なんて無理だ。
裏方か、最悪そこらへんの木の役をやりたかった。
「大丈夫だよ。坂原さん。坂原さんならきっとできる」
「いや、中村くんのせいだからね。こんなことになってるの」
「えへへ。ごめんね。でも、ドレスとっても似合ってるよ。綺麗」
「…ありがと」
不服だが、褒められて悪い気はしない。
「王子様役が僕じゃないのは、少し不満だけど、僕は応援してるからね!!」
◇
劇が始まり、しばらく経ち。
舞踏会で王子役に選ばれた男の子とダンスの場面だ。
「お…ぉ…シンえれ…し…シンデレラ…僕と一緒に…おどっ…てください…ませんっかっ…?」
王子役が私以上に緊張している。
声は小さいが、まだ、私は流暢にセリフを喋れている(と思う)。
王子役の男の子の緊張が私にも伝わってくる。
失敗したらどうしよう。
セリフを間違えたらどうしよう。
おかしな動きをしてしまったらどうしよう。
しばらく沈黙が流れた。
なんだ?何が起きた?
「坂原さん。坂原さんのセリフだよ…!」
とどこからか中村くんの声が聞こえた。
まずい。
どうやら私はセリフを言うタイミングを忘れていたらしい。
まずい。
言わなきゃ。
次のセリフを。
あれ、次のセリフってなんだっけ。
観客全員が私を見てる。
まずい。
まずい。
まずい。
王子役の男の子も頭が真っ白になっているのか顔色が悪く、微動だにしない。
どうしよう。私のせいで。
どうしよう。
どうしよう。
ビビビビビビー!!
いきなりスピーカーから文字通り壊れた機械のような音がした。
しばらくして音は止まった。
「僕、ポルターガイスト起こせるんだ」
「なっ…中村くん…」
相変わらずぷかぷかと目の前で浮いている中村くん。
観客の注意は逸れた。
「大丈夫だよ。坂原さん」
そう言って、中村くんは王子役の人の身体の中に入った………と言う以外に説明しようがない。
身体の中に入ったのだ。
不思議。
でも、そりゃそうか。
中村くんは存在が見えている私以外には触れることができない。
だから、それが可能なのだ。
「さぁ、姫、大丈夫‼︎私めと踊りましょう‼︎」
と私の手を取って踊り出した。
憑依、取り憑きとでもいうのだろうか。
今、王子様役を演じているのは他の誰でもない中村くんだ。
さっきまでの男の子じゃない。
「大丈夫だよ」
王子役の『中村くん』が小さな声で私の耳元でそう囁いた。
手を握ると安心する。それで落ち着かせてくれる。
それはこの人。中村くん。
◇
演劇が終わった。
楽屋で王子役だった男の子が
「才能あるかも俺。勝手に体が動いた」
と語っていた。
それを聞いて私と中村くんは顔を見合わせて、一緒に「ふふっ」と微笑んだ。
誰にも見えず、知られずに。
読んでいただきありがとうございます…✨
生きている人間と死んでいる幽霊だからこそ理解し合えることもあると思います…✨




