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究極の湯

「転生魔法は莫大なマナを要する。しかも段取りを誤れば術式は失敗する」魔王が低く告げた。

「お前は“魂の形”を知る玉座を持っていない。俺のようにな。極めて繊細な処置だ」


「カズキを助けるには、どうしたら……?」とシャルロッテ。


「祈って信じろ。今は本人の手の中にある」

魔王は両手を掲げる。「お前たちが“元の姿”を思い出すための基準点を作る。【能力:アンデッド・ヒューマン・モールディング Lv100000】!」


魔王の手から、命の彫刻家みたいに“粘土”が生まれた。ぐにゃり、うねり、形を成し――安らかな眠りの顔で横たわる“人間の男”になっていく。

「導け、コア・カズキ」


「意外だな! 1発目にして俺の特徴、結構当ててるじゃん。……でも、もっとイケメンだな」


「よかろう」


「もっとイケメン! もっと! もっと! もっと! もっとだァ!! ガハハハハ!!」


「うそっ!? マスターって、そんな致死級の顔面なんですか!?」リンが叫んだ。


「YES!! 鏡見てるみたいだ! いくぞおおお!!」


「――【究極魔法:レザレクション(復活)】!」


「…………」


「兄弟!? それ、兄弟なのか!?」ボルカスが、森を走り回る“俺の復活ライド”を心待ちにしていたみたいな声で言う。


「……ん゛ん゛ん゛ん゛……」俺は震えながら起き上がった。

身体だ。いつもの人間の身体。

視界の奥で、ダイヤ形のダンジョンコアがきらりと瞬いていた。

冷たい大理石の感触。裸の 温かい 体。生きてる。嬉しすぎて頭が沸騰する。


「ほ、ほんとに……戻った……!?」リンが息を呑む。


「服! 服を! 服が必要!!」シャルロッテがわめく。「聖なる光がすごい! 色々すごい!!」


俺はタオルを掴んで、皇帝みたいに腰に巻き付けた。そして湯が震えるほど大笑いした。

「ガハハハ! 人間だ! 人間に戻った!! 見ろ、この伝説級の腹筋を!! ああああ、乳首が恋しかった!!」


「部位を宣言しないでください」リンは叱った。が、いつもの物言いより声が柔らかい。ほんの少し、息が混じる。

頬を赤くして、俺の胸に視線が落ち慌てて帳簿を扇みたいに掲げて顔を隠した。

「……まったく……マスター、そんなに見せつけると、私が……集中できません。そ、そのタオル……ぜんぶ……隠れて……」


俺も見た。


「うわああああ!!」俺は自分の能力で噴水をブチ上げ、その水幕の裏に飛び込んだ。「誰が“カズキ・フルパッケージDLC”を要求したんだよ!!」


「し、しまって!!」シャルロッテが翼で目を覆って悲鳴を上げる。


魔王がむせた。

「……それは……自然なのか?」


「当然だろ!! 俺のすべては伝説なんだよ!!」


「伝説的な危険物、の間違いです!」リンがエプロンを握りしめて言い切る。

「まったく……そんな格好でうろついたら、どれだけ面倒が増えると思ってるんですか。……私が、非常に厳重に監督しないと」


「生きてる。息してる。温かい……」俺は自分を抱きしめた。信じられなさで震える。

「人間だ……! それに――失ってない。コアがまだ俺にある。能力も……残ってる!!」


「成功したか……」魔王が俺を覗き込むように観察する。

「肉体とコア、両方を固定した。あり得ん。俺ですら疑っていた」


「ガハハ! ガチャ確率また壊したな! 人間の身体、ダンジョンコア、ダイヤの瞳! まさに神ランクの運命!!」


向こうの湯船で、グレミー王が不機嫌なセイウチみたいに唸った。

「こ、こんなものは不自然だ。英雄ですら――」

だが声はかき消された。


冒険者たちが歓声を爆発させ、湯を跳ね上げ、俺の名を叫び始めたからだ。

オークの太鼓が樽を叩き、ハーピーが合唱みたいに叫び、ミノタウロスが浅瀬に勝利の腹打ちダイブを決めた。


「カズキ! カズキ! カズキ!!」


俺は拳を突き上げた。生まれ直した身体に水が流れ落ち、喝采を浴びる。

「YES! 俺は生きてる! 息してる! これからいってぇ!!」


リンが俺の耳を引っ張り、目の高さまで引きずり下ろした。

「マスター……世界征服を宣言する前に、ちゃんとズボンを履きなさい」


「あぁっ! 人間に戻って最初の痛み!! 懐かしい!!」


シャルロッテは自分の巣に飛び込み、輪っかを斜めにしてぼそっと言った。

「おかえり、バカ。これで世界も、たぶん生き残る」


魔王は間違いなく感心した顔で笑った。

「三つの労役。賭けは守られた。……あり得ぬほどの結果だ。カズキ・スズ。身体を楽しめ。よくやった」


湯気が角の周りに絡み、あの賢くて見目の良い目が俺に刺さる。

「だが忘れるな。命が戻れば、リスクも戻る。契約により、お前は種族間の和平を守り続けねばならん。敵はすぐ試しに来る」


「来るなら来い!」俺は力んだ。タオルが危険なほどずり落ちる。

「筋肉! 魔法! マーケティングで迎え撃ってやる! うちのスパは絶対に落ちねぇ! ヤッホーー!! 俺は帰ってきたぞ、ベイビーー!! ウォオオ!!」


魔王が片眉を上げる。

「報酬の回収だけは早いな」


「当たり前だ!!」俺は叫ぶ。「最高だ! 俺の身体、俺の栄光の身体! 愛してるぞぉぉ!!」


「最初に何をする?」と魔王。


「おお、リン。俺が最初に何をするか、分かってるだろ」

「で、二回目。三回目」


「欲張り……」リンが息を漏らした。でもそこに非難はない。

「この全部の策も、結局それのため? いい。私は“賞品”としてのあなた、好きですよ」


「でもその前に、うちのスパだ!」俺は言い直す。

「俺がいま一番やりたいこと、分かってる! みんなで長くて、よく頑張った、完璧な風呂に入ろう!!」


再び群衆が吠え、聖なるスパが新時代の音で揺れた。

あの馬鹿げて、欲深くて、笑える夢こそ俺たちが湯で築いた平和そのものだった。


そして俺、種族間和平の宣伝屋は人に戻った。

より強く、より眩しく、そして相変わらず欲深いままに。

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