少年シネマ
駅名が作品名になっておきながら高田馬場感ほとんどゼロです。「高田馬場 特徴」で出てきたことと今の自分についてしか書いておりません。そうです自叙伝です。初めての完成作品なのでさっくり読んでくださるとうれしいです。
スマホ片手に急いで電車から降りる。
二宮太郎は焦っていた。
初めてのバイト、初めての面接にどきどきしていたのだ。
どたばたと階段を降り、電子カードを改札にかざす。
そのままスマホでバイト先から送られてきたメールを確認しながら歩きだした。
「思ったより早くついてしまった...」
初めてで気負いすぎたのか面接の20分前にバイト先についてしまっていた。
バイト先は古い映画館、名画座と呼ばれる類のものらしい。
周りに人がいない状況に不安を抱きながら、ネットで調べた面接で聞かれることとその答えもまとめたリストを広げる。
リストを確認しながらも俺すでに面接に対して後悔をしていた。
これまで自ら面接先を選び、実行に移した経験がない俺にとってこの面接はとても勇気のいる選択だ。
もしバイト先に受からなければと不安になる気持ちがとても大きかった。
バイトの面接は気負わなくていい、たいてい受かるというブログも見かけるがそれが果たして俺にも適応されるのかずっと不安に感じていた。
そんなことを考えていて気付いたら面接の6分前だった。
5分前に入るのがベストと書いてあったサイトを思い出し、5分前まで待って俺は扉を開けた。
中に入ると映画館のロビーらしいロビーだった。
入ってみても誰もいないロビーに安心と不安を抱きながらロビーを歩く。
staffonlyと書かれた白い扉があった。
おそらくここが面接会場になるのだろう。
すると映画館らしい扉から女性が出てきた。
首から下にパスケースをぶら下げている。
きっとここのスタッフだろう。
「あの!バイトの面接に来ました。二宮です。」
「...あぁ面接の子ね。どうぞそこに座って。」
どうやらこのロビーで面接をするらしい。
想像もしていなかった面接会場に少し緊張が高まる。
「履歴書持ってきた?あぁそれね。じゃあ面接始めるよ。」
それからの面接はサイトに書いてあることしか聞かれなかった。
志望動機とか最寄り駅とか。
正直印象的な質問もない普通の面接だった。
こんなもんかと思いつつ、あそこまで気負っていた自分が少しばからしいとも思った。
失敗したと思う答えもあった気がする。
だがうまくいかなかったと思っていた面接が実は受かっていたという体験談を見たから受かっていないとは思えない面接だった。
逆に受かったと自信満々だったやつのほうが落ちていることもある。
面接らしい面接を受けて映画館を出た。
受かれば通うことになる駅までの帰り道をゆっくり歩いた。
それから一週間、面接の結果は落ちていた。
結果をすぐには信じられなかった。
正直バイトの面接なのだから受かると信じていた。
そこまで人気のない映画館だったし、初心者でも歓迎と書かれた職場だった。
どこにぶつければいいのかわからない思いを抱えながら俺はしばらく結果を引きづった。
物語の主人公であればここからまた新しい分野に挑戦するのだと思う。
これも契機だと考えながら。
きっとそいつには周りにたくさんの友達、仲間がいて。
だが俺はそんな切り替えの良い人間でも仲間がいるわけでもなかったので未練たらたら落ちた映画館の近くで店を構えているレンタルビデオショップのバイト面接をした。
二回目なのもあり前回の反省点を生かしながら面接に臨んだ。
そちらの結果は合格だった。
映画館のバイトが受からなかった当てつけで決めたバイト先だったが、受かった時はものすごくうれしかった。
こんな単純な人間でいいのかとも頭の端っこでは思うがそんなの関係ない。
自分を求めてくれる人がいる。
それだけで人はこんなにもうれしくなるのだと仕事をしてもいないのにやりがいを感じた。
それから初めてのバイト日、一週間、一か月、半年とバイトを重ねていった。
春から始めたバイトで学業との両立も心配であったが適度に仕事があり、適度に暇な時間があるこの仕事は天職ってやつだったのかもしれない。
バイト先の人間関係もあまり広いものでもなく、シフトがかぶる人も少し年上の男ばっかだったのもあり話は合うが職場内ロマンスなど起こるはずもなく、ただ日々が過ぎていった。
そんな安定に安心と不安が沸き上がっていた。
人間は安定すると適度に刺激を求める。
遊園地でジェットコースターやお化け屋敷が人気な理由がそれだ。
正直遊園地に関しては命の危機を感じるそんなものに自ら飛び込んでいくやつの気が知れないと思っていたが、どうやら俺自身も刺激を求めるタイプの人類だったらしい。
初めてのものが恋しいと感じるようになってしまった。
思うとバイトに受からなかった失敗に悩んでいたあの頃は人生のエピソードとして本にかけるくらいだったのに今はなんだ。
ただただ日々が過ぎていくだけで何にもない。
なんなら三年ごとに職場が変わる派遣のほうが日々の人生で本が書けるだろう。
刺激を求めるのであれば今のバイトをやめて新しいバイト先を探すか?だが日々収入が入ってくる生活に慣れた今では収入がないことに不安がある。
とりあえずどんなバイトがあるのかと求人サイトを見て回ることにした。
久しぶりにバイトアプリを開くとやはり春のバイトに対して不安を抱いていたあの頃を思い出す。
あの頃はこの先の未来が見えない日々に不安を抱いていた。
だが今思えばたった一社受からなかっただけであんなにも不安になっていたことがばからしく感じる。
こんなの就職の年になった時どうするんだよ。
きっと一社なんてずっと少なく感じるくらいいっぱい落ちるぞ。
画面をスクロールしているとアプリが春先の検索結果を覚えていたのか落ちた映画館の求人が出てきた。
なんだよまだ求人出してるんだったら俺を雇用しろなんて思いながら読み込んだ仕事詳細を開く。
変わってない求人の文言にあの時一回しかしなかった口コミを検索した。
するとそこは経営悪化かなんかで客足が減ってるらしい。
バイト経験の口コミは6年前が最新で止まっている。
そうか、バイトを受けても受からないようなバイト先だったんだなと自分を慰める理由が半年たってからようやく見つかった気がした。
正直もう遅いと思ったが、だからこそそれでよかったのかもしれないとも思った。
レンタルビデオショップのバイトが終わってから半年ぶりにあの映画館の前に来た。
映画のポスターが貼ってある場所の前で面接を待ったあの数十分を思い出しながら少し浸る。
あれから少し調べてこの小さな映画館がレンタルビデオショップの普及で客足が減ったことを知った。
そんなレンタルビデオショップも映画配信サービスの普及で客足が減っている状況だ。
諸行無常だと思いながら開館時間ギリギリに空いていた映画館の扉をくぐった。
外はあの時抱いた感想そのままに人がほとんど周りにいなかったが、中に入るとまばらであるが人がいた。
お年寄りばっかでここの客層が分かる。
きっと小さいころに地元の映画館に来た思い出込みで来ている人達なのだろう。
だが数人で固まっている人々は映画を観た感想を語り合いながら帰る準備をしていた。
入ってきた映画館の入り口を出口にしてお年寄りたちが帰っていく。
聞こえた感想は楽しそうだった。
またロビーのほうに目を向けると面接をしたスタッフらしき人がいた。
その人はこちらには気づいていなかった。
そのことを少し安堵しつつ、目線を追った。
そこには笑顔があった。
映画館はその場で映画を見る。
レンタルビデオは客のその場の感想を見ることができない。
この圧倒的な差に映画館が廃れないだろうなとはっきり分かった。
レンタルビデオは今流行っている動画配信サービスに似すぎている。
駅に帰り電車にスマホ片手に乗る。
求人サイトでバイトを探しながら志望動機を考えた。
一発目でこれを書くのかとも思いますが、こんなにもするすると書けた作品は初めてなので少しびっくりしております。この話の主人公みたいに焦りの気持ちがなくなればもっと楽しい作品が書けるかな~
昔はもっとギャグよりな話を書いていたんですけどね。まあ期待せずに次も読んでくださるとうれしいです。