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もう1つの現実世界

 全世界のゲーマーは、この日を待ちわびていた。

 時は、西暦三〇二五年、一月一日の正午。

 日本最大手のゲーム会社クラフトが開発した新作のVRMMORPG、「マジックキャストオンライン~永遠の道標~」の正式サービスの開始日である。

 だが、正式サービスが開始されるまでの三年間は、基本となるゲームシステム等の情報の開示が一切公開されていなかった。

 唯一公開されていたのは、正式サービスの開始日とゲームの世界観を伝える動画、プレイヤーを強化する要素を一切排除したことだけだった。

 これに対して、世界中のゲーマーたちは運営に不満や疑問を抱き、正式サービスが開始されるまでの間、半信半疑で、本当にリリース出来るのかと思われていた。

 だけど、運営は世界観を伝える動画を定期的に公開し続け、遂に今日、正式サービスを開始した。

 全世界のゲーマーは、正式サービスの開始とともに今まで謎に包まれてきたゲームに興味を示した。

 地元の中学校に通う中学一年生の佐々木(ささき)裕子(ゆうこ)十三歳と、佐々木家の家政婦として雇われながら一緒に暮らしている柚木(ゆずき)詩音(しおん)二十四歳も例外ではない。


 佐々木家では、正式サービスの開始十分前には準備を終わらせた裕子と詩音が、一階の2LDKのリビングに配置されたゲーミンチェアへ座り、頭にはVRゴーグルを装着していた。

「お姉ちゃん、遂にこの日が来たね。でも、どんな世界観なんだろう。公式サイトを見ても情報は未公開だし。ゲームとして成り立つのかな?」

「どうだろうな。ログインしてみないと何とも言えない。プレイヤーのレベルやステータス向上の概念を一切排除したゲームなど、私が知る限り過去に存在しなかったからな」

「だよねぇ。まぁ、私は楽しければ良いんだけど。んじゃ、また後でね、お姉ちゃん」

「わかった」

 二人が目を閉じて身体をリラックスさせると、ゲーミングチェアが脱力を感知し、自動的に背もたれが倒れていき、その人にとって最も楽な姿勢になるように調整していく。

 調整が終わると、脳内に女性の機械音声が流れ込んでくる。

『仮想IDを承認。アバター、佐々木裕子を承認。転送先仮想空間、マジックキャストオンラインを選択。十秒後に仮想空間へフルダイブを開始します。そのまま、目を閉じて下さい。カウントを開始。十、九、八、――――ゼロ。それでは、仮想空間をお楽しみください』


 音声案内が終了し、裕子が次に目を開けた時には真っ白な空間が広がっていて、目線の先には何かしらの起動装置が置かれていて、その起動装置の上には「マジックキャストオンラインへようそこ」と言う案内の文字が浮かび上がっていた。

 裕子は初めて訪れる仮想空間で、アバターと現実世界の自身の身体とのタイムラグとシンクロ率を確かめながら起動装置の所まで歩み寄る。

「うん。ここまでは、殆ど現実と同じように動かせるね。これならゲームの中でも問題はなさそう。んで、このへんてこな機械は何だろう。とりあえず触ってみますか」

 裕子が起動装置に手を触れると、青白いパネルが浮かび上がり、プレイヤー名を入力する欄と、キャラクタークリエイト、初期装備武器を選択する項目が現れた。

 裕子は驚き。

「え、たったの三項目だけ? ホントに職業を選ぶとか、初期ポイントでステータスを割り振ったりすることが出来ないのね。でも、初期武器は選択できるみたい。なんか違和感だらけだなぁ。ワクワク感が今のところ、無しだ。けど、キャラクリだけは念入りにやろうっと」

 裕子は流れ操作の如く、別のゲームで使用していたプレイヤー名を入力し、キャラクタークリエイトに時間をかけて、裕子が納得するまで作成した。残すは、初期武器の選択だけとなるのだが。

「初期武器と言っても、剣と長杖しかないじゃん。うーん、近接は苦手だから長杖にしておこうっと。防具は、選べないのね。まぁ、最初の街で買うことが出来るはずだからいいけど」

 特に迷うことなく武器を選択し、全ての項目を選択し終わると裕子の耳に音声案内が聞こえて来る。

『プレイヤー名、フォルトゥナを承認しました。それでは、魔法の世界をお楽しみください。主要都市、グルーデルに転送を開始します』

「魔法の世界、ね。剣を選んでいたらどうなってたんだろう。まぁいいや。お姉ちゃんが待ってることだし、グルーデルとやらに早く行こう」


 主要都市グルーデルに転送された裕子が最初に見た光景は、空をも見上げるほどの巨大で、美しい噴水だった。耳を澄ませば、水の流れる音が聞こえて来るし、水面を覗き込めば自身のアバターが映り込む。周囲をみれば、次々と他のプレイヤーが現れて目の前に映る巨大な噴水の存在に立ち尽くす様子が見えた。一目見ただけで、プレイヤーたちの心を魅了する噴水に裕子は感動すら覚えた。

 今度は遠くから噴水全体を見える場所まで移動すると、改めてその巨大さと美しさに魅了され、しばらく我を忘れて噴水を眺めていた。

 その時、右肩を誰かからポンポンと叩かれた裕子はふと我に返った。急いで後ろを振り向くと、そこには見慣れない女性プレイヤーがいて。

「大きい噴水だし、きれいだよね。私も、最初見た時はビックリした」

 と、突然後ろから声をかけられると咄嗟に二歩、三歩そのプレイヤーから距離を取り、裕子は。

「あ、あなたは誰ですか?」

 すると。

「私だ、私。しお――。ゆう――フォルゥナの家政――。もう、プレイヤー名を見て!」

 女性プレイヤーは、途中言葉を言いかけながら話した。

 それに、「あなたは誰ですか?」と言われたことを取り消してほしそうに、やけにプレイヤー名を強調してきた。しばらく考えた裕子は、そのプレイヤーの声にどこか聞き覚えがあり、彼女の言葉通りにプレイヤーの上に表示されている文字に視線を向けると、「ミストレル」と読み上げた。

「ミストレル。あぁ! もしかしてお姉ちゃん?」

 詩音はコクコクと何度も頷く。

 安心した裕子は。

「びっくりしたぁ。振り返ってみると知らないアバターだったから。つい別のプレイヤーかと思って……ごめん。でも、よく私だって分かったね? 私も別ゲームと違うアバターなのに」

 詩音は自信満々に。

「ん? 何を今更。一緒にゲームし始めた頃、お互いがすぐにわかるように名前だけは変えないようにしようって言ってきたのはフォルトゥナだけど?」

 裕子はしばらく黙り込み、思い出したかのように大きな声で。

「はっ! そうだった! ごめん、お姉ちゃん!」

「大丈夫よ。けど、ホントに職業とかステータスの概念がないんだな、このゲーム。キャラクリ以外は、一瞬で終わったわ」

 裕子は激しく同意して。

「でしょ! 武器も二種類しか選べなくてさ、防具は固定だし。ガッカリしたんだよね。私は長杖にしたけど、お姉ちゃんはどっちにしたの?」

「ん、私は剣にしたよ。でもさ、剣で魔法の世界って言われてもあんまりピンとこなかったんだよ。だから、気分は魔法剣士さね」

「あ、剣を選んでも魔法の世界、なんだ。魔法がコンセプトなんかね?」

 詩音は裕子から聞かれると、右手の人差し指でフリックして青白いパネルを表示させると確認しながら。

「そうかもな。魔法リストって変な欄があるからな。それに、ざっとインターフェイスを操作してキャラ情報を開いてみても、装備、インベントリ、魔法リスト、空欄ばかりのマップぐらいしかない。おまけに、ログインしてから十分ほど経過しているけど、チュートリアルが発生しないから驚きだ」

「えっ。それガチ?」

「ガチ。他のプレイヤーも騒いでたわ。正直、今は街を探索するか、フィールドに行くことぐらいしかないかもね」

 裕子は不満を募らせて。

「けど、外でエネミーと戦うにしても、戦闘システムを把握してないと戦えないし、そのチュートリアルすらないとは」

 裕子は詩音に声をかける。が、詩音は先ほど表示させた青白く光るインターフェイスを操作している最中で、慣れた手つきで何かを調べているように見えた。

 その様子を見ていた裕子は、思い出したかのように、「あ」と声をもらして。

「そういえば私、まだインターフェイス開いてなかった」

 と、ボソっと呟き、片手でフリックをして青白いパネルのインターフェイスを開いて確認し始めた。

 確かに、そこにはステータスやレベル、スキルやプレイヤーを成長させる関連の数値がない上に、所持している武器と防具にも、強化させると強くなる要素が全くない。あるのは装備、魔法リスト、インベントリと空欄ばかりのマップだけだった。唯一数値としてあったのは、魔法リストの項目にある魔力値、五。という数字だけだった。

 裕子は別窓で公式サイトを開いて、何か新しい情報が更新されているかもと期待を寄せて閲覧すると、そこには新しい情報が公表されていた。

 その内容は。


 プレイヤーが欲しい情報は、全ての主要都市にあります。なので、プレイヤー自身で探索し発見し、情報を得て答えにたどり着き、攻略して報酬を得てください。しかし、その過程で行く手を阻まれたり、誰かと戦うことになった場合は、プレイヤーが創り上げたオリジナルの魔法で活路を見出し応戦してください。

 但し、魔法を使うには詠唱が必要で、その詠唱もプレイヤー自身で考えてください。

 ですが、魔法は万能ではないので制限が課せられます。加えて、魔力がなくなると魔法を詠唱することが出来ないので、魔力管理には十分注意してください。

 あなたの創造した魔法が攻略の鍵です。

 

 とだけ記載されていた。

「魔力値が五って、魔法が使える回数なのかな? けど、魔法を使うには詠唱が必要ってあるし、おまけに自分で考えろってあるしそんなの無理だよ。チュートリアルがなければヘルプもない。これじゃ、何も分からないよ。これじゃお姉ちゃんの言う通り、この街を探索して情報を集めるしかないか」

 落胆した裕子はふと詩音の方をみる。けれど、未だにインターフェイスと睨めっこをしている詩音の姿があった。

 

 その様子をみながら、裕子は思った。

 詩音が初めて佐々木家の家政婦として来てからこんな感じだった、と。

 詩音が佐々木家の家政婦として来たのは今から約二年前で、裕子がまだ十一歳の頃だった。

 裕子は突然、両親からこう告げられた。

 「裕子、急な話ですまない。父さんたちは一年後、海外赴任することになったんだ。けど、その代わりに家政婦を雇うことにした。だから、父さんたちが戻って来るまでのあいだ、その人を頼って今まで通りの生活をしてほしい」と言う内容だった。

 十一歳とはいえ、まだ幼い裕子にとっては無茶苦茶な提案なのだが、仕事の都合ならば仕方がないと感じて、その提案を受け入れるしかなかった。

 その数週間後に、柚木詩音が家政婦として佐々木家に加わった。

 最初の頃は事情が事情なだけに詩音の事を嫌っていたが、両親の助けもあってか裕子の方から詩音に歩み寄り時間をかけて徐々に打ち解けていった。雑談をしたり、公園で一緒に遊んだり、料理を教わったり、VRゲームで一緒に遊んだりもした。

 次第に裕子の両親の目には、二人は歳が離れた姉妹のような関係に映って、「詩音さんに任せておけば安心だ」と、思うようになる。

 一年後。

 両親は当初の予定通りに海外赴任のため空港まで赴き飛行機に搭乗。空に舞い上がった両親を乗せた飛行機を詩音と裕子は手を繋ぎながら見送った。

 その日から、二人だけの佐々木家の生活が始まった。

 更に一年後。

 この頃になると、佐々木裕子にとって柚木詩音は、家政婦でもあり実の姉のように慕うようになっていて、家族も同然でとても頼りになる存在で両親がいなくても寂しくはなかった。呼び方も、「詩音さん」から「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。

 優しくて気が利くし、料理はお店を開けるぐらい上手だし、勉強を教えてくれるしVRゲームも上手だし、時折、裕子の考えを見透かされているように感じ取れる時もあり裕子にとっては理想のお姉ちゃんなのだ。

 

 その姉が、かわいい妹のために必要な情報を調べてくれている、と裕子は思っていた。

 そんな矢先、詩音は突然大きな声で。

「ダメだ! 私も分らん! いくら調べても有力な情報がない! 公式サイトもダメ!」

 裕子は突然の大声にビックリするも、冷静に。

「お姉ちゃんでも分からなかったか。まぁ、リリース直後だし仕方ないかも。だったら、公式にある通りゲームの中で情報を集めるしかないよね」

 詩音は少し考えて。

「そうするしかないか。情報収集は私に任せて。フォルトゥナは、何か疑問に思ったことや感じたことを教えてね」

「わかった! じゃあ、早速行動に移そう。まずは、このすっかすかのマップから埋めていこっか?」

「そうしよう。それに、全ての情報は主要都市にあるって、運営が公開している。でも逆に、謎だらけなのが面白く感じてきたわ」

「あ。それ、私も思った。最初はゲームとして成り立つのか心配だったけど、もしかしたら謎解きがメインのゲームなのかも。これならプレイヤーを強化する要素が無くても納得するし、戦闘する必要がないのかも」

 詩音は間髪入れずに。

「なに。戦闘が発生したら、私が創造した魔法とやらで、フォルトゥナを守るよ」

「さっすがお姉ちゃん。頼りになる。でもさ、魔法って詠唱が必要なんでしょ? しかも自分で考えなきゃだし。どうするの?」

 詩音は腕組みをしながらウンウンと頷いて。

「むかーし、VRゲームをやり込んでいた時期があるから、それを参考にしようかと。ゆう――フォルトゥナは国語が得意なんだし、その歳で意外と語彙力あるし、それっぽい言葉を並べれば何とかなるんじゃない? 試してみないと分からないけどね。それに、魔法に関するサイトを調べれば多少なりともヒントは得られるでしょ」

 裕子は詩音の言葉に同意すると、「なるほど! その手があったか!」と抱えていた問題を解決してくれた姉に感謝する。

 その後、裕子と詩音は、人差し指でフリックをして青白いマップを表示させた。

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