告白しても振られ続ける俺だけど、このお嬢様だけは無理<春のチャレンジ2025>
「ごめんなさい」
「ぐっはぁぁ……!」
「「「「「30連敗おめでとぉーーー! たかみちぃー!」」」」」
文字通り草葉の陰から見守って、いや覗いていた野郎どもが前もって用意してたのであろうプラカードを掲げながら近寄って来た。
「おめでとぉじゃねぇんだよ! 人の不幸を喜んでんじゃねぇよ!?」
「だっはっはっ! 悪い悪い! でも30連敗だぜ!?」
「普通そんな告白できねぇって!」
「そうそう! そんだけ当たれば誰かはOKしそうなもんだけどなっ!」
くっ……こいつら、面白がりやがって!
こちとら本気なんだ! 本気で一目惚れしたから、告白してんだっ!
「うーん、それなんだけどね坂田君」
「うん……?」
先程30回目の告白をして、ごめんなさいをしてきた女の子、石井 明さんが困ったように言ってきた。
「ほら、坂田君、中学生から今の高校一年生の間に、29回も告白してるじゃない? 私で30回目なわけだし」
「う、うん」
我ながら多いとは思う。
「それがね、チャラいというか……大事にしてくれなそうっていうか……ナンパ男の下位互換っていうか……」
「なっ!?」
「「「「「ブフッ……!!!!!」」」」」
「女の子に見境ないっていうか……誰にでも言ってそうってなるっていうか……」
「そ、そんなっ! 俺は誓って、そんなつもりじゃ……!」
「そう、なんだろうね? 今ので凄く傷ついてるみたいだし、そうなんだろうなって思う。だけど、それが原因で断ってる子多いよ? 坂田君が以前に告白した子の中に、私の友達もいるし……女の子ってそういうネットワーク強いから、皆坂田君の事避けてるし……」
「ぐふぅっ……!」
「「「「「ぶはははははっ……!!!!!」」」」」
そ、そんな、まさかそんな事態になっているとはっ……この隆道の目をもってしても……!
あと野郎どもの笑い声がくそうるせぇ。
「そ、それじゃ、私はこれで。ごめんね、付き合えないけど、良いお友達でいてくれると嬉しいな」
「あ、ああ。こちらこそ理由を教えてくれてありがとう石井さん」
「ふふ、どういたしまして」
凄く可愛い笑顔を残して、石井 明さんは去って行った。
その後ろ姿を見ても可愛くて、失恋で心が痛い。
「ははっ……はははっ……いやぁ、隆道、おつかれ! お前の勇気だけは認めるよ!」
「ホントホント! もう30回目だぜ? 俺なら女性不信になってる自信あるわ」
「うるせぇよ……お前らや女の子にとってどうかは知らねぇけど、俺にとっては本気だったんだよ……!」
「知ってる、俺達は知ってるよ。だから元気だせよ隆道。今日はこのままゲーセンにでも行こうぜ」
「阿呆。午後の授業すっぽかすつもりかよ」
何を隠そう今は学校の昼休み。
時計を見るとまだ13時なので、あと20分は休み時間だ。
「なぁ隆道、なんで西連寺のお嬢様にしないんだ?」
野次馬根性の強い俺の友達の一人、竹島 博史が肩に腕を回しながら言ってくる。
西連寺 歌恋お嬢様。
西連寺グループのれっきとしたお嬢様で時期社長とも言われている生粋のお嬢様。
なんでこんな一般の公立高校に入学してきたのかというと、俺がこの学校に入学したからだと公言しているほど。
「お嬢は……ダメなんだよ。何て言ったら良いんだろうな……こう、全てが絶妙にかみ合わないというか」
「どゆこと?」
「人が美を感じる所があるだろ? それが俺にとって、お嬢は凄くびっみょうにずれてるんだよ。クレオパトラだって、鼻がもう少し低かったら、世界の歴史が変わっていたかも知れないって言うじゃん?」
「そんなスケールのデカい話なんかこれ」
「後はだな……。俺は胸のデカい女の子は無理なんだ」
「「「「「……」」」」」
「なんでそこで黙る?」
「いやお前……そういやお前が告白してきた子って皆胸が小さ、いや、スレンダーな子が多かったような」
「流石彼女持ちの博史、言葉を選びやがった」
「話は聞かせてもらいましたわっ!」
「「「「「ひぃっ!?」」」」」
俺達が輪になって話していると、突然後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「隆道様、そして隆道様のご友人方、ごきげんよう」
「「「「「ご、ごきげんよう……」」」」」
俺達男子高校生はいきなりの不意打ちには弱いので、咄嗟に同じように返してしまい、赤面する事になった。
「隆道様」
「は、はい」
「私は隆道様の全てが好きです」
「ごめんなさい」
「その虚ろで深淵を覗きそうな目も、鼻の高さも、輪郭も、全てが私の好みのドンピシャですわ」
「聞いて? ……よし博史、近くにジムあるか? ちょっとそこ通ってくる」
「本気で言ってんの?」
「俺はいつも本気だ」
「そこも素敵ですわ」
スマホのグーグルマップでピンを指してもらえた。
自宅からそんな離れてねぇな。
「よし、そんじゃ行ってくるわ」
「待てまだ午後の授業があるぞ」
おっと、そうだった。
学生足るもの、本業を疎かにする事は許されない。
家計に迷惑をかけないように国公立の授業料が安い高校を選んだのだから。
「どのジムですの?」
「えっと、これっスね」
あの馬鹿野郎。俺が通う事になるジムを目の前で教えるんじゃないよ。
それから一カ月が経った。
ジムは週六で入れた事もあり、体つきが随分と変わったように思う。
まーるいシワ一つなかったぽっちゃり腹は引き締まり、なんと腹が六つに割れた。
まだそこまでハッキリとした形ではないが、凄い進歩である。
「我ながら、筋肉がついてきたんじゃなかろうか」
「そうですわね、素敵ですわ」
「!?」
ジムからの帰り道、俺の独り言に応えるように声を掛けてくる存在が居た。
西連寺 歌恋さんだ。
「さ、西連寺さん」
「歌恋と呼んでくださいまし」
「それは……えっと、恋人とかじゃないとダメなんじゃ」
「何を仰いますの? 友人だって下の名前で呼ぶくらい普通ですわ」
そう、なのかな? 今まで女の子の友達なんて居た事なかったから、分からない。
いや、小さい頃……一人だけ、居たけれど。
その子は少しして親の都合で引っ越して行ったからなぁ。
名前も知らなかったあの子。
まだ男女の垣根の無い、純粋な友達でいられた時期だった。
「というか、俺は西連寺さんの好みじゃなくなっただろ? 体だって引き締まったし!」
「あら、その虚ろで深淵を覗きそうな目も、鼻の高さも、輪郭も、全てが私の好みのドンピシャですわ」
「……目の形や鼻の高さ、輪郭は努力でどうにもなんないじゃん?」
「ふふ、相変わらず真面目ですのね隆道様」
「相変わらずって……」
「だってそうですわ。学校は小中高と無遅刻無欠席の皆勤賞。授業態度は真面目で試験も平均90点オーバーの超優等生ですわ」
「褒めすぎだよ。その割には俺全くモテねぇし。というかなんでそこまで知ってるの?」
「好きな殿方の事くらい、調べますでしょう?」
「そういうもんか」
俺の野次馬をしてくる奴らにも彼女はいるというのに、俺は告白もしてるのに未だ一人なのだ。
俺は純粋に、女友達が欲しいだけなのに。
別にエッチがしたいわけじゃないんだ。いやエロイことに興味が無いとまでは言わんけど、女の子達とゲームしたり、わいわいして遊びたい。
男友達にはない、キャッキャウフフ空間が味わいたいんだっ!
「ふふ」
西園寺さんは、背筋がゾクッとするような笑みを見せた。
それは一瞬で通常の、綺麗な笑顔に変わったけれど。
気のせいだったか?
西園寺 歌恋 side
今日も私の初恋の彼、坂田 隆道様は体を鍛えている。
たった一言、やると決めた事をやり通す隆道様は、今も昔もただまっすぐな青年だ。
小さな頃、私がまだ西園寺の性を名乗る前。
御爺様が私を引き取るまでは、小さなアパートで母親と二人で住んでいた。
父親はすでに亡くなっており、母は仕事でずっと家におらず、私は一人だった。
ある日。橋の下、川の横で体育座りをしていた私は、隆道様と出会った。
あれは出会ったと言うよりは……巻き込まれたというべきですわね。
川に流されていた小さな段ボール。
その中には子犬が居た。
それを助けようと、隆道様は川へと飛び込んだのだ。
しかし、意外と深かった川に、隆道様は溺れてしまった。
見かねた私も川へと飛び込み、子犬と隆道様を助けたのだ。
「ふへぇ……びしょびしょだ。それより、ごめんな。俺も助けようとしたんだけど、このざまで……」
「本当です! 死んだらどうするつもりだったんですか!?」
この頃の私は、まだお嬢様言葉ではなかった。
普通の女の子として育っていたから。
「いやー、体が勝手に動いたんだよね。子犬が流されてる、助けなきゃってさ。それが助けられてたら世話ないよな、ほんとごめん、いやありがとう!」
「っ!! ど、どう致しまして」
心がドクンと跳ねた。
純粋な笑顔と感謝の気持ち。
今まで同年代の子と話した事もあまりなかった私には、衝撃が強かった。
それから、午後は隆道様と一緒に過ごす事が多くなった。
出会った橋の下に集まって、色々な遊びをした。
楽しかった毎日は、唐突に終わりを迎える。
私が西園寺グループの血筋であり、後を継ぐ者が他界した為、急遽私を跡取りとして育てるという事が決定した。
御爺様は決して悪い人ではなく、親子でひっそりと暮らすのも構わないとは言ってくれた。
ただ、遅くまで毎日働き、私が居る事が生き甲斐だと言ってくれている母を思うと、私は断れなかった。
今思えば、断っても支援をしてもらえただろうけれど。
あの頃の私にそんな判断は出来なかったのだ。
そして、後継者としての知識、振る舞いを身につけるまで、今まで住んでいた場所を離れる事になった。
それから数年が経ち、私は戻って来た。
隆道様に会いたい、ただその一心で。
中学校に入学した時、隆道様を見つけるのは簡単だった。
あの頃より成長して、男らしくなってはいたが、あの顔を忘れるはずがない。
同じクラスに入るのは簡単だが、それでは劇的な再会は果たせない。
女の子だもの、物語のような再会に憧れるというもの。
そこで私は、中学校の女子を統一する事にした。
金と権力、全てを行使し、私を一番とする事に成功。
それからコミュニティを形成し、情報を共有する場を作った。
これには全女子の参加を義務付けた。
別に参加しなくても構わないけど、参加しなかったら……という暗黙のニュアンスを漂わせれば、全員入った。
それから、コミュニティで一番のやりだまに挙げたのが、
『坂田 隆道 は西園寺 歌恋の婿であり、今は自由を許されているだけの為、仮に告白されても体の良い理由をつけて断るべし』
と私が書いた。
これにより、隆道様にまとわりつく前に泥棒猫を排除する事に成功したのだ。
隆道様が予想以上に惚れっぽいので、本気の告白を何度もするのには困ったけれど、若気の至りは男のサガと言いますし、ね。
そして今、
「褒めすぎだよ。その割には俺全くモテねぇし。というかなんでそこまで知ってるの?」
思惑通り、隆道様は自分がモテていないと勘違いしている。
そんな事はないのだ。
真面目で優しく性格も良い、その上勤勉で頭も良い隆道様が、女性にもてないわけが無い。
ただ、私のコミュニティで『禁止』されている為、全員仕方なく振っているにすぎない。
「ふふ」
いけない、それを思うとつい邪悪な笑みが零れてしまった。
隆道様は渡さない、誰にも。
私の初恋の人だから。
西園寺 歌恋 side 終
「はぁ、分かったよ歌恋。これで良い? 俺、女の子の友達とか居た事なくてさ、そういうの分からないんだよね」
「あら、そうですの? 隆道様なら女の子の友達なんて、より取り見取りでしょう?」
「歌恋は俺への評価が何故か天元突破してんね。実際、俺が30回振られてるのも知ってんでしょ? そういう事だよ」
「それは、他の女性が見る目がないだけですわ」
「あー。ま、そう言ってくれるのは歌恋だけだよ」
「ですわよね? 今なら家の権力もついてきてお得ですわよ? 私に致しませんか?」
「クッ……富と名声で近づいてくるなんて卑怯な!?」
「うふふ、よいではないかー、よいではないかー」
「あーくっそう! 楽しいな! 俺はこういう関係が好きだったんだよ! だから、歌恋だけは無理なんだっ!」
「え?」
「歌恋と恋人になったら、こういう関係じゃなくなるだろ!? それが俺は嫌なんだっ! 歌恋とは、こういう気兼ねない友達でいたいんだよ!」
「!!」
勢いに任せて本音をぶちまけてしまった。
流石にこんな事を言われたら、歌恋も離れて行くだろう。
だって、恋人にはなれないって叩き付けたに等しい。
そんな奴、百年の恋も冷めるだろう。
だというのに、だ。
「そうですの? なら、このままで行きましょう!」
「は?」
「人の心はうつろうもの。ずっと変わらない心なんてありませんわ。私はその時が来るまで、隆道様の傍で、時を待ちますわ!」
「くっ……ならあれだ、俺の告白が成功したら、歌恋も他に作れよな!? じゃないと俺が俺を許せなくなるだろ!」
「分かりましたわ!」
「その自信はどこからくんだ!? 良いか、俺は告白を止めねぇからな!」
「ええ、思う存分なさってくださいまし!」
「言ったな!? 見てろよっ……!」
「ごめんなさい」
そして、31回目の告白が振られて、野次馬に歌恋が加わったのだった。
「「「「「31連敗おめでとぉーーー! たかみちぃー!」」」」」
「おめでとうですわー!」
「くっそがぁぁぁぁーーーーー!!!」
お読み頂きありがとうございました。
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