ヒロイン
ヤスケが猪を誘き寄せる為に一役買った芋虫を見下ろしている中、その背へとハシが声をかけた。
「猪の雄叫びが聞こえたけど大丈夫だったみたいだね」
ハシは私が猪にどう対応したかは見ていなかった様だった。
私としてはハシに本心では心配して欲しがったが情報共有が重要と考えた。
「いや、ギリギリだった、一歩間違えれば俺の方が死んでた」
私の言葉に対してハシは心配では無く疑問を投げかけた。
「俺の方がって…え?本当に猪を仕留めたの?」
私は猪の居場所を答える。
「ああ猪は崖の下だ」
「本当だ落ちてる!たった1人で猪を狩ったのはたぶん里でヤスケが初めてだよ!」
ハシは崖の下を覗き込むと驚きと期待の入り混じる顔でヤスケの顔を見上げた。
続けて何処からかやって来た痩せこけた少女…サラがハシの横に並び崖の下を覗き口を開いた。
「やっぱりすごい!…本当にあんな大きな猪を退治しちゃうなんて…」
そこまで口にしてサラは目を輝かせヤスケ…私と接触しそうな程顔を近づけた。
「さすが、しゅ…すごいです!」
ヤスケは突然のサラの接近に対して怪訝な表情になった。
何だ?この女の距離感…それに今もしかして
「しゅごい」って言おうとしたのか?
男の中にはこういうのが好きな者も居るのかもしれないが私は生理的に無理だ。
…というか私は女だから尚の事無理だ。
いや…この世界はあくまでも乙女ゲーの世界観…つまりは恋愛に向いていく様になっている。
彼女が何かをきっかけに寄って来るのは必須。
先に一線引いておいた方が良さそうだ。
「サラ…近いぞ…それから一応言っておくが、わた…俺は基本的に女に興味は無い…」
ヤスケは冷徹な表情で口を開いた。
意外にも目を丸くした彼女は…
「あ、すいません…女性に興味がない事は存じてます、あなたは僕の憧れの存在ですから!」
サラはすぐにヤスケと距離を取ると明るく笑い返答した。
この屈託の無い笑顔と瞳に嘘は感じられない。
何だろう…この感覚何処かで感じた事がある様な…
まぁいいか…それより今はあの巨大な猪を処理しなければ。