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零号機

 私、これから二人に毎日絡まれるの? そ、そんなの嫌!

「何でよ? 二人ともイケメンじゃない?」

 鞠香は泣きそうな私を慰めるどころか、呆れているようだ。

「嫌なの。私は男の子が苦手なんだから!」

 それは中学二年の夏だった。一般に中学生の制服はセーラー服であるが、私の母校はそれがワンピースになっていた。そう、ボディラインの良く出るタイプだ。

「ロリータ」

「え?」

 そのせいか、体の凹凸の少ない私は中学生どころか幼稚園児に見えるようで、下校中に何度か交番に迷子として連れて行かれたことがある。

「片瀬の渾名だよ」

「ろ、ロリ……?」

 同時恋をしていた男の子に、からかわれた。彼が背の高い人だったから、よけいに自分の背の低さがコンプレックスだった。

 好きだった人に裏切られた気分だった。

「気に、してたのにっ。大ッキライ!」

 あれ以来、私は男の子が嫌いだ。

「気持ちはわかるよ。私もソイツに大女って呼ばれていたし。でも、恋はしなきゃだよ?」

 鞠香には、彼氏がいる。彼は鞠香の事務所の先輩で、鞠香にモデルを進めたのも彼だ。

「鞠香はモデルになれたんだから良いよ」

「コスプレ雑誌のモデルなら……」

「鞠香のぶぁか!」

「ごめん、ごめん」

 宥める鞠香をそのままに、私は弁当の中身を勢い良くかき込んだ。


 ネオ・トーキョーが存在するのは、旧首都東京の真上、上空三千メートル。

 文字通りの航空都市で、空輸業が盛んな街だ。

 ネオ・トーキョーで一番人気のある職業、それがパイロットである。私もまた、パイロット養成コースの学生だ。

 パイロットと一口に言っても、沢山種類がある。学生のほとんどが空輸機のパイロットを目指してやって来るけれど、パイロットになれるのはその中でも優秀な一握りで、更にその中でも優秀な学生が戦闘機のパイロットに選ばれる。

 何でも、二年のはじめに選考会が行われるらしく、それが学生たちの間でも噂になっていた。

「選考会っていつなのかな? 片瀬さんは、自信あるよね。才能あるもの」

 学生の一人が声をかけてきた。私は戦争には反対だ。だから、戦闘機に乗る気はない。でも、己のサイズの小ささを言い訳にしたくなくて、散々努力を重ねてきたのは事実だ。

「自信は、ないよ。でも、全力は尽くす」

 努力を認められたい。その気持ちはあった。

「本日、戦闘機パイロット養成コース編入生の選考会を行う」

 戦闘機パイロットの選考会は、パイロット養成コースの学生全員が対象となる。学生たちは練習用の戦闘機に乗り込み、対戦。実弾ではなく、カプセルに塗料を入れたものを使う。

 開始から最後まで残ったものから、より長い時間飛行し、且つ多くの戦闘機に色をつけた者が編入生候補となる。定員五名。

 私の戦闘機が空へ昇ったのは、一番最後だった。

 スロットル・レバーをゆっくりと押し上げながら、油圧メーターを確認する。異常なし。燃料も、問題ない。試験前に、エンジニア育成コースの学生達がチェックしているはずだけれど、そこは譲れない。

 空に雲はない。時間は三時。太陽の位置はやや後方。視界は良好だ。私は上昇した。

 程良い高度まで来たら、急降下。右反転。体制を立て直し、もう一度反転。前上方に戦闘機が見えてきた。

「アロー、片瀬さん? お相手してくださる?」

 通信音声で話しかけてきた彼女は、パイロット養成コース所属、麻奈美・アーダ・ジョルダーノ。優秀なパイロットだ。

「後に」

 彼女と飛ぶのは楽しい。授業でも幾度か飛んだけれど、私と違って彼女は戦闘機パイロット志望だから、せめて最後に落としたい。

 そう、私はこの選考会で負けるつもりはない。

「逃げるの?」

「違うよ。麻奈美とは、これからも一緒に飛びたいから」

「私に勝つ気満々、と言うわけ? わかったわ。後で」

 高度を上げて集団に飛び込む麻奈美に続いて、私も飛び込む。戦闘開始だ。

 左右を確かめて、軽く一回転。右に一機発見。接近しつつも、適度に反転しながら撃つ。まずは一機。

 上に三機。これはこちらに気付くまで放っておいた方が特だ。好戦的なのは、命取り。後方から二機がこちらに迫って来た。

 一騎打ちの途中で接近してきたらしい。一機、落とされた。もう一機がこのまま、ちょうど私近くを通過しそう。

 目で追う。集中して、狙いを定めた。向こうも私に気づいたみたい。スロットルを絞って、機速コントロール。向こうが撃ったみたい。エア・ブレーキ。

 好戦的だな。ブレーキで距離を詰めて、機首を向けた。撃ってターン。向こうだって撃ってくるかもしれないし。

 鳥になる。それが小さな私の夢。上昇すると、また一機と遭遇した。良かった、まだ飛べる。

 届きにくい足を突っ張って、機体を傾けた。一機、また一機。赤い塗料をつけられて降りて行く。夕方になっても私はまだ空にいた。

 空には、私ともう一機。機体の羽が夕日を受けて、オレンジ色にキラキラ光っている。機体を見る限りでは、麻奈美ではない。

「麻奈美を落としたのは君?」

「わかりません。ナンバーなんて把握してませんから」

 男の子の声だ。見たことがない機体ナンバー。私たちは入学すると、それぞれナンバーを与えられ、それが自分の練習用戦闘機にも刻まれる。私のナンバーは壱拾八じゅうはち。目の前にいる戦闘機は、ぜろ

 どちらにせよ、楽しくない飛行になりそうだ。

 スピードを上げて上昇。好戦的な自分は好きじゃない。このスピードについて来い!

 高度はもう十分。たいがいの戦闘機は、ここで焦れて先に下降を始める。下降のスピードでは自信があるから、ここで一気に勝負をつける。が、彼は違った。

 ついて来る。だめだ、キリがない。私は下降をはじめた。ところが、ついて来ない。下降では私に勝てないと、知っている?

 聴こえるのは自分のエンジン音だけ。私は言い難い不安に包まれた。嫌な予感がする。

 と、すぐ横に零が迫っていた。一体いつから? 私は頭が真っ白になった。これがいけなかった。


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