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おにいちゃんの死
夢の中のアイレットは知らない街にいた。
あたりを見回すと空気は火の粒子で赤く染まり、倒壊した家々から黒い煙が上がっていた。むせるような炎と、焦げた肉の匂いがする。
震える足取りで、アイレットは街の中を歩く。通りには死体が溢れ、その傍らには泣き叫ぶ人々。遠くない場所から銃声が折り重なるように鳴り響き、冷たい金属音のような悲鳴が、怒声が、耳をつんざいた。
アイレットは道端に倒れている一人の青年を見つける。駆け寄る。青年はうずくまって今にも切れそうな息をしている。その青年の軍服は腹の部分が朱に染まって、そこを抑える手は震えている。
アイレットが青年の傍にしゃがみ込むと、青年は顔を上げる。
その青年の目には十字の傷がある。
青年は苦しそうに息を漏らしながら、目の前に迫りくる死を感じながら、アイレットの目を見る。
そして青年は手をアイレットに伸ばして、かすれるような声で言う。
代わってくれないか?
アイレットは何か言おうと思った。何も言えない。
俺の帰りを待ってるんだ、母さんが、父さんが、そして、街のみんなが。