名探偵
ヨーゼフが酒場から出ると、既に日は沈んでおり、暗い空に半月が浮かんでいた。
「くっ、さすがに飲みすぎたか……脳筋どもめ……」
寒さは強くなり、踏みつける雪は硬さを増していく。それにつれて、足音も大きくなっていく。ヨーゼフのだけでなく、後ろをつけている足音も。
「……」
ヨーゼフは角を曲がる。
そしてそのまま立ち止まる。
すると、少し遅れて角から出て来たせっかちな尾行者に、ヨーゼフの背中がぶつかる。
「うわああああ、いたあああああああーーーーーーーーーーーー」
少女はぶつかって赤くなった鼻を抑えてしゃがみ、悶絶する。
「馬車にでも引かれたんですか?」
ヨーゼフは呆れながら尋ねる。
「ずっと私のこと尾けてましたよね?」
「な、なんでバレたの わたしの完璧なスパイが……」
少女はなおも鼻を手で押さえながら涙目で尋ねる。
「初手からバレてましたよ。足音大きすぎるのと。興奮の鼻息で」
「く、くうううううう」
「あなたは誰ですか?」
「わ、わたしはアーちゃんの友達のペチカ。あなた、何者なんです?! アイレットちゃんの家に出入りして!」
「ああ、なるほど」
ヨーゼフは納得すると、黙ってペチカの手を引いて広場の方に戻り、近くの料亭に入っていく。ヨーゼフは人のほとんどいない二階に上がって二人はそこに座る。