ガーデンパーティーは波乱の予感?
その年の生徒会執行部により運営され、学園の広大な庭園で行われるガーデンパーティーには、学生たちの婚約者以外、部外者の立ち入りは禁止されている。
故に、その場で起きたことは学園の外に漏れにくい。
「天気が良くてよかったね、シル」
「そうね」
デビュタントの前哨戦としての役割を持つことから、その場での失敗を知られないようにし、生徒たちの矜持を護るためなのだとか。
もっともらしい理由がつけられているが、実際のところ、王族の失態を隠すためなのは明白だ。それというのも、閉鎖的になったのは、現国王が在学中の素行を隠すため前国王がそうするように命じたのが始まりだからだ。
なぜ、私がそれを知っているか。それは当事者でもあったお父様から聞いたから。
シェードの報告を受け、お父様とお兄様を招集した私は、今後のことを話し合った際に、漸く、様々な情報と今後の役割を与えられることになった。
前国王が学園に干渉することになった事象に、大きく関与していたお父様はその時のことを
『あのオズワルドの醜態と、それを見ていた学生たちの顔、思い出すだけで、今でも笑えるくらいだよ。あぁ、君たちにも見せてあげたかったなぁ』
と語っている。
おそらくお父様の計画が実行されたなら、現国王の息子であるルーファス殿下で同じような状況は出来上がりそうである。
私自身が計画に組み込まれることは望んでいたことであったが、受け取った情報の重さと酷さに対して、少なからず衝撃を受けた。
話を聞いた後、どうしても眠れずにいた私は、諦めて翌日のすべてをかけ、自身の心の平穏とその整理に費やすことにした。何とか自分の中で折り合いをつけ、やっと眠りにつこうと思ったところへ、今度は、シェードがオニールについての報告を持ってきた。
そんな状況だ。もう少し後の方が私的にはよかったが、シェードの優秀さを知れたので良かったと思おう。
結論から言えば、オニールはやはり黒だ。だが、そうなるきっかけは、オニールの人の好さからだというのは、少しだけ、救われた気持ちになった。
ルーファス殿下は次々と下級貴族の令嬢たちに手を出し、その後は自分の取り巻き達にあてがっているのだ。自分の欲望を満たし、上位貴族たちの力を削ぎつつ、宮廷爵の下位貴族を中心として自分の手勢を増やす。大方、どちらに対しても権力を振りかざして脅したのだろうと想像がつく。
実にクズの所業である。
そうして、オニールのことで、私は真の意味で当事者となってしまった。
「…………はぁ」
思わず漏れたため息。うつ向きがちな顔に、隣から伸びた掌が頬を滑り、顎にかけられたそれは、ついっと上向かせてきた。
「シル、私の姫様、そういう顔も奇麗だけれど、私が隣にいるのだから、どうか笑って」
きゃぁ~~~と、周囲の女生徒たちから黄色い悲鳴が上がった。
そして私は瞬きを数回、目の前にある顔はよく見慣れたものだ。
「ティティ、ノリが良すぎでなくて?」
むぅっと思わず口をとがらせた私の頬に、ティティが柔らかな唇を落とす。
そしてまた、周囲から悲鳴が上がり、ふらりと足元をふらつかせる生徒も出てきた。
「こんな風に着飾ったシルを独り占めできる機会、そうそうないんだから、存分に満喫するに決まってる。そうだ! もう、これからずっと……パートナーは私でいいんじゃないかな? ね、シル」
今や男装の麗人と化したティティが、パチリとウィンクを私に投げてきた。
「ぅ……」
私の家族とはまた違う方向に美しいティティは、ドレスよりも男装の方がやはり似合う。そんな彼女のウィンクの破壊力といったら……。
だからか、それでもいいかも知れないと、思ってしまった。
オニールの卒業か、私の卒業か、どちらかで結婚と言われている現状で、遅くて2年先にはおそらくこの婚約は破棄される。その年になって改めて婚約者を探したりしなければならないなら、いっそ、商会に身を捧げてみるのもいいかもしれないと思っている。
とはいえ、情報を得るのに社交は外せない。
「な~んて、ダメだよ、シル。私はずっとシルの側にいるけれど、それは私の姫様の未来を奪うためじゃないんだ。シルには、幸せになってもらわないといけないからね」
「べ、別に結婚だけが女の幸せじゃないでしょ」
「それ、当主様たちを見ても言える?」
私はお父様とお母様をモデルにした物語を知っている。いや、何度も何度も読み返すくらい好きで、何度も読んで、憧れていた。
一度は捨てるつもりだった辺境伯の地位を、お母様を守りたい、その一心で継いだお父様。誰にも文句は言わせないと、誰よりも強くなって想いを遂げられた。今だって、いつ見ても仲睦まじい二人の姿しか知らない。
私も、こんな風に乞われたら、どんなに幸せだろうと……
でも、それは叶いそうにない。だって、私の婚約者の隣には、別の人がいる。
幼い頃に『初めて会った時から可愛いと思っていたんだ』とそういったその口で、別の人に想いを告げているのだ。
もう、盲目的に誰かを信じることはないだろうと思う。
「…………」
黙ってしまった私の頭をティティが優しくなでた。
しばらくその感触に甘えようと瞳を閉じていたが、ぴたりとその手が止まった。何かあったかとティティを見上げれば、その瞳が強い怒りを浮かべている。
視線をたどってはいけない、そう思うのは予感があったからだ。
『後悔のないように、とだけ言っておこうかしら』
不意にソフィ姉さまの言葉が聞こえたような気がした。
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