あまりにも尊く、あまりにも愚かな行為
死者が列を成して歩いていた。
大きな災害があったからだ。
数え切れないほどの人が死んだ。
そして、彼らは今、魂となって神様の下へ向かっていた。
天国の門の前には神様が立っていて、そこで生前の行いによって行く先を神様が決定をしていた。
自分の前に立った魂を見つめて神様は言う。
「汝、罪ありき」
宣告を受けた魂は肩を落としてとぼとぼと来た道を帰っていく。
その様を見て列に並んだ魂達は今更、生前の罪を悔い始めるのだ。
生きていた頃はどんな些細な罪さえも気づかない振りをしていたくせに、今、この瞬間には無実の者であるかのように震えながら。
「汝、罪ありき」
神様は多くの魂をそう言って裁いた。
その宣言は絶対だった。
何せ、神様は完璧に正しい存在だったから。
そして、それを誰もが知っていたし、信じていたのだ。
やがて、一つの魂が神様の前に立つ。
その魂は生前、乞食の少女だった。
短い生涯でありながら、彼女は自分でも分かるほどに多くの罪を犯していた。
だからこそ、彼女は震えながら俯き、神様の言葉を待っていた。
「汝、罪はなし」
神様の声はあまりにも清々しく響き渡り、少女は一瞬世界を忘れるほどだった。
立ち尽くす彼女の魂を伴い天使は天国の中へ招き入れた。
天国はあまりにも美しくて、少女は全てを忘れかけた。
しかし、その刹那、彼女は辛うじて疑問を思い出し、それを天使に投げかけた。
「何故、私はここに入れるのですか?」
すると天使は穏やかに微笑み答える。
「あなたに罪はなかったからです」
少女の形となった魂は尚も天使へ問う。
「私は多くの盗みをしました。それなのに私の罪はないのですか?」
「あなたが犯したのは『人間の罪』です。神様が定めた罪ではありません」
足音もなく神様の下へ戻っていく天使へ向かい、少女は最後の問いかけをした。
「私はここでどうすれば良いのでしょうか」
すると、天使は振り返らないままに答えた。
「今までと変わりません。自分の意思で生きてごらんなさい。生前、あなたがそうしていたように」
直後。
少女となった魂は全てを忘れていた。
自分が何者であって、何故ここに居るのかも分からなかった。
しかし、今、この場所がどこよりも神聖なる場所であることだけは知っていた。
「汝、罪ありき」
神聖なるこの場所に繋がる門に立つ、偉大なる存在が魂を裁くのを僅かな間、見つめ、そして。
少女は踵を返して歩き出した。
永遠に続く幸せの国の中で少女は永久に幸福に生きるのだ。
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その日、自分の下へ訪れた魂全てを裁いた神様は少しだけ疲れた様子で椅子に座っていた。
天使は微笑みながら温かいコーヒーを神様に渡しながら呟いた。
「本当に不器用な方」
からかい言葉にして、自分の内にある切なる想いを汲む天使へ神様は言った。
「放っておいてくれ。頼むから」
天使は首を振って神様に言う。
「あなたが安堵するまでは付き合いますよ」
「ならば、永遠に休まることはないな」
「ええ。構いません」
愚かなほどに忠実な天使へと神様は微笑むと温かなコーヒーを口にした。
神様たちの目の前にはトボトボと来た道を戻っていく数え切れないほどの魂があった。
彼らは神様が見極めた罪故に『また』転生する。
あの少女がそうであったように、天国に入れるのは神様の定めた罪を犯さなかった者だけだ。
全く、罪を犯さなかった人生を送るその日まで、永遠に、永久に、永劫に。
天使がぽつりと息を吐くように声を落とした。
「門を閉じてしまえばいいのに」
すると神様は即座に否定した。
「私は誰一人として見捨てるつもりはない」
その言葉を聞いて天使は意図の掴めない笑みを浮かべたまま頷いた。
そう。
この偉大なる方は完璧主義者だ。
全ての命を救い、全ての命を天国へ導くまで決して諦めることはないだろう。
その行為は。
あまりにも尊く。
そして、あまりにも愚かなことだ。




