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34.24:殺すほどの関心も無い(前編)

ニコラス・ヴラディス視点での『34.10-11:木製テーブル』過去回想話が出てきます。

【一部BL的要素・強制わいせつ要素、および後編に残虐シーンがあります】

苦手な方はリターンしてください。


免疫のある方のみ

▼▼▼▼










【舞台】

モスタ王国



【登場人物】

ニコラス・ヴィラディス:

ヴィラディス侯爵家子息で、近衛隊に勤めていたが、性犯罪がばれて逃亡中。

ザイオンのストーカーだった男。


ザイオン(25):

国王の隠し子で、マクシミリアン第一王子は異母弟。

第一王子の側近を勤めていた。

共和国へ亡命済み。


マクシミリアン第一王子(21):

ザイオンの異母弟で、元モスタ王国王太子。

共和国へ亡命済み。

動体視力が規格外で、戦闘能力は高い。

 暗い森の中を、灯りなしに移動するのは難しかった。

 ニコラスは見えない足下を注意深く探りながら進んだ。

 いつになれば森を抜け出せるのかと、暗澹たる気持ちになる。

 小さな虫が耳元を飛ぶ気配が耐え難く、彼はしきりに腕を振り回した。


 小動物が葉を揺らす音を耳にするたび、彼は警戒しつつ足を止めた。辺りを窺い、向かってくる気配がない事を確かめると、再び前へと進む。とは言っても、初めに見定めた方向へ確かに進んでいるのかどうか、自信がない。

 とにかく南へ、港の方向へ抜けたかった。


 王都で華やかな生活を送っていた自分が、なぜこのような境遇に堕ちねばならないのか。

 侯爵家令息として、近衛隊の一員として、ニコラスの前途は保証されていた。多少浮かれて、羽目を外した事はあったかも知れない。

 だが、侯爵家令息という彼の身分なら許容範囲の、たかが火遊びだ。


 ニコラスは面食いで、男でも女でも見境無く、美しいと思った者を持ち帰って行為に及ぶ悪癖があった。

 なかなかその気にならない者には、酒に媚薬を盛った。それほどきついものではないし、薬の効果でよりお互い楽しい時間を過ごす事ができた。目が覚めた後でどれほど罵ろうとも、貴族達は自分の恥になる出来事を訴え出ようとはしない。


 なのに、ある美しい女に手を出した途端、強姦の罪に問われた。彼女は高位貴族の子息と婚約しており、婚約破棄された腹いせにその原因となったニコラスを訴え出たのだ。

 その後、貴族子女数人からも過去に同じ目に遭ったと言い出す者が相次いだため、裁判に掛けられてそうになったニコラス・ヴラディスは遁走した。


 金をやるからどこへでも行けと命じたのは、父のヴラディス侯爵だ。

 恥知らずだの面汚しだのと罵られ、ニコラスは怒りを覚える。

 ルグウィン公爵家の傘下に入る事を条件に侯爵は、公爵家の息子を時折借り出しては、無理矢理行為に及んでいた。

(あの黒ウサギのような、終始怯えている少年を何年も弄んできた父上に、俺を非難する資格があるのか? 息子の不祥事も揉み消せない無能め)

 父上の真似をしただけです、その言葉を飲み込んで、金を受け取ったニコラスは、南に向かった。


 王国の南部に位置するロス領は、海岸沿いに港をいくつか抱えていた。そこで船を雇って、しばらくの間別の大陸に行く事を考えていたニコラスだったが、関所で、身分を証明する書類の偽造がばれた。

 南下する間に渡り歩いたどの領でも、関所で止められた事などなかったので、ニコラスは驚いた。所領と所領の間を移動中に悪癖が出て、何人かの女性に手を出した事も突き止められ、領主館の地下牢に拘置されてしまった。


 火事のせいで、一時的に地下牢から解き放たれたのは幸運だった、とニコラスは思う。

 必ず戻るように、でないと罪状が重くなると言われたが、門限をいつと告げられたかも覚えていない。戻る気など全くなかった。

 街道は封鎖されていたから、森の中を移動し続けた。


 やがて二月齢分ほど痩せた月が昇り、周囲の状況がうっすらと見えるようになったので、彼は適当な場所を見繕って休憩する。森に生息する動物に襲われないようにするため、火を熾したいところだったが、囚われている間に所持品は全て没収されていたので火を付ける方法がない。夜が明けたら早急に待避場所を探さねばと考える。




 夜明け前のほんの短い間、うとうとと寝入ってしまって、昔の夢を見た。


 近衛隊に入ったばかりの頃ニコラスは、一人の男に目を付けた。

 第一王子の側近であり、男でありながら王族を惑わすほどの美貌と噂された、ザイオン・カラドカス。十八歳と公称されていたが、見かけはもっと幼く見えた。それなのに性格は苛烈で、暗殺者の城内侵入を許した近衛隊に対し、無能だとしばしば罵倒する事もあって、敵は多かった。カラドカス公爵家の一員でなければ、とっくに吊し上げに遭っていただろう。


 初めは、目で追っていただけだった。

 ザイオンは、ニコラスの名前も顔も知らない。

 後をつけても、ニコラスに気づく様子はなかった。

 やがて、美貌を利用して第一王子を色仕掛けで誑かし、権勢を振るっている男妾、という評判が悪意ある揶揄である事をニコラスは知る。ザイオンは明らかに異性愛者で、しかも好みの女性像が偏っていた。ザイオンがふくよかな女性と付き合っている様子を眺めながら、彼は母性を求めているのだろうとニコラスは思う。

 それなら永遠に振り向いてなどもらえないなと、寂寥感を覚えて初めてニコラスは、ザイオンに焦がれている自分を知った。


 振り向いてもらえなくても、せめて存在を知って欲しい、関心を持って欲しいと、ニコラスは望んだ。

 無理矢理に快楽を与えて、忘れられない夜を過ごせば、意識してもらえるかも知れない。


 ニコラスは媚薬を取り寄せて、ザイオンを付け回しながら機会を窺った。

 女に振られてヤケ酒を煽っているザイオンを見つけたのは、偶然ではない。根気良く後を追っていたからこそ得た好機だ。ニコラスはザイオンに近づいて、酒に媚薬を混ぜた。


 誤算だったのは、媚薬と酒の相乗効果なのか、ザイオンがその夜の行為について一欠片も覚えていなかった事だ。あれだけ繰り返し言い聞かせたはずのニコラスの名前さえ、覚えてはいなかった。


 二度目は媚薬の量と飲ませる酒を控え、できるだけ記憶に残るように図った。


 女に対して愚痴をこぼすザイオンに、ニコラスは囁き続ける。

『君は女に幻想を持ち過ぎだ』

 必死で、女に対する幻滅を植え付けようとした。

『結婚した後、女は家を守り、男は外で金を稼いでくる。そういう安定した生活を与えてくれる男かどうかって事しか、女は考えていないんだよ』


『いろんな女がいて、いろんな男がいる。お前の言う事は、極論過ぎる』

 無抵抗に服を剥がされながらも、ザイオンは反論した。


『だが女は、子どもを産んで育てるだろう? 男は、その栄養分に過ぎないのさ。要するに、金を持っているかどうかが一番重要なんだ。顔で選ぶ女もいるが、金を目の前にぶら下げると、結局はそちらへ流れる。顔がいいだけじゃ、食っていけない。今回の事でよくわかっただろう? ……泣くなよ。そんなにあの女が好きだったのか』


 ザイオンが女への恨み言を呟いている間に、ニコラスは易々と彼を手に入れた。

『君は女に幻想を持ち過ぎだ』

 ニコラスは繰り返す。この俺で妥協しろと、説得しているつもりだった。


『煩い』

 媚薬のせいか酒の影響か、ザイオンは夢うつつだ。

『俺は結婚して、自分の子どもを育てる。家族を増やして……毎朝一緒に、みんなで朝食を食べる……働いて帰ってきて、また夕食の時間に集まる……そんな、物語の中には当たり前にある幸せが、なんで俺には無いんだ……』


 母性を求めていたのではなく、家庭を求めていたのか。

 ニコラスは、優しく高めてやる。

『泣くなって。俺が、いつでも抱き締めてやるから』


『違う……お前じゃ無い』

 事後、ザイオンは何度もそう繰り返しながら眠りについて、朝目覚めた時には、前夜に見せた弱々しさは微塵も無かった。


『お前なんかと、これ以上同じ空間に居るつもりはない』

 殺気のこもった視線を向けられる快感に、ニコラスはゾクゾクした。

 ザイオンが強烈な感情を持ってニコラスを意識した、唯一の瞬間。

 そのまま本当に殺されてもいいぐらいに、ニコラスは幸せだった。


 それ以降、ザイオンは隙を見せなくなった。第一王子側近と近衛兵という立場で、城内ですれ違う事はあっても、一顧だにしない。好きの反対は嫌いではなく、無関心だという事を、ニコラスは身をもって知った。











⋈ ・・・・・・ ⋈ ・・・・・・ ⋈

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