殺しに来た奴は、殺していい(2)
残虐なシーンがあります。
苦手な方はリターンしてください。
免疫のある方のみ
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【舞台】
モスタ王国
【登場人物】
ザイオン(21):
国王の隠し子で、マクシミリアン第一王子は異母弟。
第一王子の側近を勤めている。
近々弟と共に共和国へ亡命予定。
マクシミリアン第一王子(17):
ザイオンの異母弟で、モスタ王国王太子。幼名はマクシー。貴族学園二年生。発達がやや遅い。
第二王子派にとっては邪魔な存在で、たびたび命を狙われている。
動体視力が規格外で、戦闘能力は高い。
僕は怒っている。
こんなに怒ったのは、初めてだ。
あのでかい男を殺したら、兄上が泣いた。
殺していいって言ったけれど、ずっと泣いてた。
悪いのは僕じゃない。
殺さないと、僕は殺されていたし、僕が死んだら兄上はもっと泣く。
悪いのは僕じゃなくて、……誰なんだろう?
あの男は、誰かに命令されていたに違いない。
みんな、誰かに命令されて僕を殺しに来る。
誰かって、誰だ?
僕を邪魔な人間。
第二王子を王様にしたい貴族達と、それから──
『あっち行ってて』
僕が小さい頃、まるで動物を追い払うように、母様はコップを投げてきた。
母様は僕の事を、凄く恥ずかしいと思っていたみたいだ。
『こんな子、私の子じゃないわ』
『この私が、こんな馬鹿を産むはずがない』
『消えてなくなればいいのに』
僕は、喋れない自分が悪いのだと思っていた。
お城には、隠れる場所がたくさんあった。
恥ずかしい思いをさせたくなくて、僕はいつも隠れて母様を見ていた。
母様は綺麗だ。
さらさらの金髪に、宝石をたくさん付けている。
緑色の瞳も、宝石みたいだ。
キラキラ光るドレスを着て、堂々と歩く母様を見て、みんなが頭を下げた。
赤ちゃんが生まれると、母様は優しく笑いかけていた。『お腹に赤ちゃんがいると、気持ちが不安定で怒りっぽくなるのですよ』と乳母が言っていた。赤ちゃんはお腹からいなくなったから、もう大丈夫なんだって思った。
大丈夫じゃなかった。
僕が近づくと、母様は花瓶を投げてきた。
赤ちゃんに近づかないで、と怒鳴った。
ティーカップも飛んで来たので、僕は逃げた。
母上は、第二王子を王様にしたい貴族達とは、少し違う。
王位継承権には関係なく、僕を産んだ、という事実そのものが許せないんだ。
僕はそこまで嫌われている。
だから母上は、いろんな貴族や、殺し屋に、僕を殺せって言いまくっているんだ、多分。
証拠もなく母上を殺したら、捕まって亡命ができなくなるから手を出すな、と兄上には言われている。こっそり殺せばいいのに、絶対ばれるから駄目だって。
殺しに来た奴は、殺していい。
でも、そいつの後ろで操っているだけの奴は、殺せない。
どうしたら、後ろの奴を引きずり出せるだろう? 殺しに来た奴を全員殺したら良いのかな?
新しい側近が来たばかりのその日は、面倒な書き取りの課題がたくさんあったので、僕はバルコニーにいた。ずっと部屋の中に居るのは耐えられそうになかった。だから、一つの単語が終わったら木の様子を眺めて、次の単語が終わったら街の方を眺めて、みたいな感じで、僕は僕にご褒美をあげる事にしたのだ。
「おやつをお持ちしました」
侍女のふりをした何者かが、僕の部屋に入ってきて言う。
僕は喋るのは苦手だが、この城の使用人の顔はだいたい覚えている。
短い茶髪にグレーの瞳の若い侍女は、いない。昨日今日雇われた新顔の侍女だとしても、単独で第一王子の私室に入って来る事なんてできないはずだ。
僕の両側に立っている二人の護衛兼側近達は、不自然さに気づく様子がない。
「そこに置いておいて」
と言ったのに、女は部屋のローテーブルを素通りして、クッキーの載った小皿をわざわざ僕のいるバルコニーへ運んでくる。
そんな怪しい動きをしておいて、ばれないとでも?
と思っていたら、背後で風を切るような音が聞こえた。
振り返って確かめる前に、地面へと身体を躱す。
椅子に、矢が当たって落ちたのでびっくりした。
侍女が注意を引いている間に、僕を射殺すつもりだったのか、矢の先に毒でも塗ってあるのかな。
バルコニーに立っていた側近二人が叫び、矢の飛んできた方向へ向き直った。
その隙にお菓子を運んできた侍女が、隠し持っていた暗器を僕に向ける。
これ、何段構えって言うのかな。
意外に策を練ってるが。
その時にはもう、僕の剣が彼女に刺さっていた。
低い位置からなので、お腹になった。
お腹で即死は難しいよね。
失敗した。
僕は、苦しんでいる彼女の身体を、足で上向けると、正確に心臓を突き刺してあげた。
側近の一人は、まだこの仕事を始めて間もないので、多分死体を見るのは初めてなんだろう。目を見開いて、恐怖の表情で僕を見ている。
バルコニーの手すりの向こう側では、近衛兵達が走り回っていた。どこから矢が飛んできたか、調べているらしいが、僕の居るバルコニーは三階だ。低い場所からは、そう簡単には射かけられない。地面を走り回って探したって、わかるわけが無い。
僕は血濡れた剣を、バルコニーのテーブルにかかっているクロスで拭く。
やりかけの課題に血が垂れた。
剣を腰に下げている鞘に収めると、僕はバルコニーの手すりに足を掛ける。
新人の側近が、驚愕した顔で言う。
「で……殿下……? いったい何をなさるおつもりで……?」
飛び降り自殺をするようにでも見えたのだろうか。
僕は、壁を伝って下りる。
それから、矢が飛んで来た方へ向かった。
のんびりと歩いていると近衛隊に見つかるから、久しぶりに木に登って、繁っている枝葉に隠れながら移動する。昔からよく利用するルートを使うが、子どもの頃は軽々と枝から枝へ飛び移れたのに、身体が大きくなったからか、時々枝が折れて、落ちそうになった。
これが年を取るって事なのか。
靴も服も邪魔だけれど、脱ぎ捨てたら兄上がとても怒るし、すぐ近くだから、我慢する。
僕は一番近くて一番高い、オークの木に近づく。
枝も葉もたくさんあって、隠れやすい。
僕も時々隠れ家的に利用している。
僕の部屋のバルコニーを狙うなら、腕前?技術力?さえあれば、ここが一番適している。
こちらの動きを察知したのか、男が一人、急いでオークの木から下りた。
「いたぞ!」
近衛隊が近くで警戒中だったらしく、誰かが叫んでいる。
予め逃走ルートを決めていたようで、男は近衛隊の手薄な方へと向かう。
侍従の服を着ていた。
迂回して城に戻り、使用人達の中に紛れるつもりだ。
僕も木から下りて、走って後を追った。
小柄な男で、足が速い。
このままだと逃げられる、もしくは近衛隊の手に落ちる。
僕は立ち止まって剣を抜くと、足を踏み込み、投げた。
真っ直ぐな重い刀身が、綺麗に弧を描いて、男の背に当たる。悲鳴を上げる事もなく男は倒れた。
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