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第六話・恨みつらみは消えぬもの

 約4時間もの間、水兵らと駆けつけた消防隊の活躍により、弾薬庫や機関室へ火の手がまわるという最悪の事態だけは免れた。

 しかし、空母エンタープライズは大破し、戦線への復帰は最低でも半年はかかるという結論が出され、ローズウェル軍の航空戦力に多大な影響を与えた。そもそも、爆発・炎上してしまった原因は何なのか。  

 それを調査し、まとめられた資料をゼスルータらも同盟国のよしみで読ませて貰えた。


─戦艦ハイゼルク艦橋─

「こんな理由で‥‥‥?」

 ゼスルータは原因を知り、驚くと同時に呆れ返りもした。原因を一言で言うなら着艦ミス。だが、これは設計ミスでもあった。

 具体的に説明すると、彼らより先に帰還したシーホークが着艦のタイミングを逃した。シーホーク以下ローズウェルの航空機は垂直離着陸ではなく、減速して着艦、そして鋼線で機体を引き止めるやり方だ。そして慌てて機首を上げたところ、上から二段目の飛行甲板に激突、そして大火災が起きたのだという。

 当然、搭乗していた2人は即死、他にも死傷者多数とのこと。

「「「‥‥‥」」」

 目の前で掩護してくれた彼らが戦死したのだ。この場の誰もがショックで何も言い出せない。

「‥‥‥艦政本部にも伝えておくか」

 やっと重い空気の中、ゼスルータが口を開くが、実務的な内容。しかし淡々としてはいない。

「艦政本部って何ですか?」

 ヴォーロルルは宙軍に入ったばかりで組織などに詳しくない。ゼスルータもその辺りを分かっているので、嚙み砕いて説明する。

「海軍なら海軍、宙軍なら宙軍の大臣に隷属し、造艦や造兵、そして造機を管理している。造艦は艦船、造兵は兵器、造機は艦の機関を製造することだ」

「要するに艦政本部が軍艦とそれに関わる兵器の設計や建造を全て管理しているということ。さて、ビスマルク級もこれでまたまた改修ですかね」

「だろうな、姉さん」

 彼は、ため息混じりの深呼吸をし、少しの間黙り込む。その隙をみて、ネイラータはある話を持ち出した。

「ねぇルータ。話は変わるけど、ルルの為に錬金術をする為の部屋とか用意したいのだけど‥‥‥」

「別に空いている部屋は自由に使っていいぞ」

「いいの?」

 予想よりあっさり承諾されて、ネイラータは思わず聞き返す。

「この艦は最初は無人化する予定はなかったのに、いきなり艦政本部がアスナを作ってハイゼルクで自律運用試験をしてくれって言われてしたら部屋は殆ど隔壁みたいになったからな。さて、報告書はまとめたし、“アレ”の実験でもしますか」

 そう言ってゼスルータはゆっくりと立ち上がり、球体型魔導電探受像機の下にあるタイプライターの様なキーボードの前に立つ。

「アレって何なの?」

「エーヴィヒ・リアクターを小型化しただろ」

「ええ、そうね。それでワープ実験をするって言ってたわよね」

 姉弟の話はかみ合っていないが、普段のことなのだろう。会話は訂正もなくそのまま続く。

「ただのワープ実験じゃあない。小型リアクターを搭載したロケットをミサイルに魔改造した」

「てことは、どこからともなく敵の頭上に爆撃する事が出来るの!?」

「ワープ妨害されているエリアには通用しないがな」

「で、どこを爆撃するわけ?」

 ネイラータは嫌な予感を感じ取り、一応問う。

 問われた彼は「フフッ‥‥‥」と不敵に笑い、ミサイルを起動させる。

「ここにいる陸の最低野郎共を半殺しにする約束はハルトマンが土下座してまで謝ってきたから流石にその話は無かった事にしたが、これじゃあ気が済まない」

 彼はニイッ、と明らかに悪巧みをしている笑顔を浮かべながらワープアウト地点の座標を打ち込み始めた。嫌な予感は的中してしまったらしい。

「冷静に考えれば、ハルトマン達は何も悪くなかったしな。暴言を書きまくって送ってきたのはあのクソ狼だしな」

「ねぇ、本当にどこに撃ち込む気なの?」

「それは見てのお楽しみ~。それポチっとな」

 彼がエンターキーを押すと、右舷の大型の格納庫扉が開ききったと同時に全長10m程のロケットが飛び出し、直後に水色の霧状のワームホールに突入、そして何もなかった様に消え去った。

「さて、もう夜だから寝るぞ」


─ロズワント帝国 ウルバルト邸─

 戦地帰りのリルド・ウルバルトは、広い庭付きの自宅でゆっくりコーヒーを飲んでいるところだった。 

 戦況がある程度安定し、束の間の休暇を与えられたのである。

(やっと“西部戦線”が片付いた‥‥‥)

 ヴァミラル側はこの帝国を叩く為、東西から攻めにかかった。だが、西部戦線に陸軍総司令官として派遣された彼は敵をわざと、しかもゼハルドの氷壁の一部を崩してまで自陣地へ引き入れ、突撃してきたところを機甲師団で逆包囲する戦法でヴァミラル軍に大打撃を与えた。

 実はヴィ―ン要塞攻防戦でもその戦法を使おうとしたのだが、ゼスルータに手柄を横取りされて腹が立ち、真っ先に彼のあとを追った結果ボコられ、気晴らしに覗きをしたらまたボコられ、あの手紙を送ったのであった。彼とて、五帝将に任命される位なのだからやる時はやる男なのである。

「さて、“大陸派遣団”にはかの有名な〈鉄槌のフリードリヒ〉と〈重槍のラインハルト〉のおふた方か‥‥‥」

 皇族の方に、いや”格上の実力者”に会うのはやはり緊張するなとため息をつきつつ、コーヒーを口に運んだ。そして、異変が起きたのはその直後。

(ん、何だ!?)

 彼が何かがワープしたのを感じたのと、その何かであるミサイルの炸薬が炸裂したのはほぼ同時であった。

「ギィィィアアアーーー!」

 屋根を貫き、ウルバルト邸は内部から粉々に吹き飛んだ。庭が広いお陰で周りには被害が出ないのもゼスルータの計算通り。

 ただウルバルト邸が大本営のある帝都(首都)エルランゲンに近かったのと、炸薬がヴァミラルの600キロ対艦爆弾の転用であった為、この事件は犯人が判明するまで軍上層部はヴァミラル軍の仕業かと思い、彼らを愕然とさせた。


─翌日―

「エヴァン大将おっはよー!」

『「エヴァン大将おっはよー!」じゃねーよ! お前らマジで何してくれてんだよ!?』

 彼は水晶板型の受像機から怒鳴り付けてきた。それを見て、朝に弱いジルは朝から(元気ねぇ)と思いつつ、コーヒーを一杯嗜む。

「報告書通り、あの変態ゲス野郎を家ごと吹き飛ばしましたが、何か?」

『おまっ‥‥‥! はぁ~。いくら何でもな、嫌がらせのやり返しの度が過ぎるって言ってるの! ウルバルトさんは火傷を負って重傷なんだぞ』

「チッ、死んでねぇのかよ‥‥‥」

 割とマジで殺すつもりだったのか、彼の生存を知り不満げに、それも周囲に聞こえるように舌打ちする。

『おい、聞こえているぞ』

「はいはい。で、また軍法会議ですか?」

『いや、何かお偉いさん達がルータの事を庇ってくれてるからそれは無いんだよなぁ。当然陸の奴らはぶちギレまくってるけど』

「どんだけ対立しているわけ‥‥‥?」

 ネイラータは想像以上の宙軍と陸軍の対立に唖然となる。

「仕方ないですよ。ウルバルトらがセクハラをやめない限り、永遠に対立しますから」

(それでよく戦争続けられてるわね‥‥‥)

 普通ならとっくに帝国軍内で内部分裂を引き起こしているくらいの不仲っぷり。内乱が起きていないのが不思議でしょうがない。

『そういや他のメンバーは?』

 エヴァンは艦橋にゼスルータ、ネイラータ、ジルにラゼルしか居ない事を尋ねる。

「使節団の面々はこの国の外務省、姉さんとルルは俺の代わりにヴィルドっていう騎士団長に事故ったシーホークの事故直前の状況説明する為に今出発したところ。で、ニコラスとローゼンはレッドテイル社の支社に行ってる」

『支社? ローズウェルにもあるのか』

「あの会社は凄い大企業だからな。ここの支社は海外との流通が途絶えても傭兵業と兵器の製造で経営難を乗り切ったらしい」

『ふーん、成る程ね』

 こんな風に会話をしていた時、ゼスルータのポケットの中から吹奏楽〈ヴェスターバルトの森〉が流れた。

「ちょっとごめん、テレパシーだ」

 そう言いつつ、彼は中から円柱のスティック状の金と黒色のマジアムを取り出す。

『テレパシー? マジアムなんか使わなくても出来ただろう?』

「これは通信傍受対策、つまり盗み聞きされないようにする為のものだ。もうそろそろ出るぞ」

 彼はマジアムにあるボタンを押す。通話の相手はヴィルドだった。

「ルータだ。元気にしているか?」

『ど~も、絶賛書類処理中のヴィルドで~す』

 明らかにやつれていると分かる声で返事が返ってくる。

「大丈夫‥‥‥じゃなさそうだな」

『報告書とか色々まとめてるからなぁ』

「何で空母打撃群司令官と騎士団長を兼任したんだよ。ローズウェル騎士団って俺達でいうところの皇室親衛隊だろ。護衛任務は大丈夫か?」

『会議で空母を建造すると決めた時にな、空母に詳しかったのは俺だけだったんだよ。あと海軍出身だったからだとさ。あと、護衛は副団長に任せた』

「海軍? ああそうか。ローズウェルは海と宇宙の軍を海軍にまとめてたな」

 それで? と言いかけたところで、ヴィルドの愚痴が始まり話が逸れる。

『俺はさ、親が軍人で将来立派な大将になれって言われてたけど軍人とかあんまり好きじゃなくてさぁ。航空主兵論唱えてたら周りに変人扱いされて辞められると思っていたらこの有り様だよ』

「そいつは気の毒だな」

 彼は深くため息をついた。それも本当に疲れているのが明らかだと分かるくらいに。

「で、何の用だ? ため息を聞かせる為じゃないだろ」

『ルータの代わりにフェルリア達が状況説明しに来るって言ったよな。まだ来てないんだけど?』

「何? もうついている頃だと思うが‥‥‥」

『移動手段はどうした? テレポートじゃないのか?』

 すぐに来れるから油断して遅刻しているのかと思ったようだが、そうではないようだ。

「陸軍から軍用ジープ借りた。もしもの為のに魔力を温存するのと、昨日の戦闘で疲れているだろうからな。どっちにしろテレポートも飛行もこの国の許可証がないと駄目だろ」

『それもそうか、にしてもあんな事やっておきながらよく借りられたな‥‥‥』

「心配だから様子を見に行く」

『おう、それじゃ‥‥‥』

「ちょっと待ってくれ」

 テレパシーを切ろうとしたヴィルドをゼスルータは呼び止めた。

「ついでに聞きたいんだが、ラグワードの時何でミサイルを打ち込んだんだ? 巻き込まれてたら俺達姉弟は死んでたぞ」

『どういう事だ?』

「俺達はな、敵艦隊の中に突っ込んで内側から撹乱させる戦法を入隊してから何度もしてきた。すぐに気付いたから無事に済んだが‥‥‥」

『そうなのか? しかし、それはガパラ長官が提案したが、君の事は考えてなかったんだろう。ルータが出撃したなんて知らないはずだし』

「そっか、ありがとな」

 通話を切り、ゼスルータは少し考え込む。

(たぶんそいつだろうな‥‥‥)

 何故だが知らないが、ゼスルータはガパラが自分を狙っていると確信した。

 理由は、誰かが昨日の夜遅くにアスナへ直接メッセージが送ったからだ。自分が持つ魔力は、周りの環境やそばにいる者が持つ魔力の影響を受け、形成されていく。従ってたとえ同じ属性の魔力を持つ者同士でも、魔力の質や量、そしてそれから放たれるオーラのようなもので区別がつく。

 それを利用してゼスルータ以外の者がアスナへ指示をしたりなどのアクセスを出来ないようにしたはずなのだが、メッセージを送られたという事はアクセスしたという事。彼にとってアクセスされた事自体不思議な事なのだが、そのメッセージの内容を見て一瞬頭が真っ白になった。

 “ヴィーン防衛戦の作戦に関わる重要書類”、その中には、2人が敵艦隊へ突撃し、撹乱させる事も当然記されていた。だが自分がその情報を盗んだと疑われる事を恐れ、誰にも言えずにいる。

(ヴィルドは嘘を言ってるそうには聞こえなかったが、どうだかな~)

『何でその事を聞いたんだ?』

 黙ったままうつむく彼にエヴァンは疑問を問いかける。

「巻き添えくらいそうになった礼を言ってやりたくてな」

彼は表向きはそう返事した。

『あんまり問題を起こすなよ』

「分かってるよ」

エヴァンは通信を切り、水晶板は透明になった。

「それじゃあ様子を見てくる。何かあったら連絡するから、3人はここで待っておいてくれ」

「気を付けて~」

「行ってらっしゃい」

「行ってら‥‥‥」

 最後にラゼルが元気よく「行ってらっしゃーい!」と言おうとしたその時、今度は黒いアンティークな受話器のベルが鳴り出した。

「ルータ、その受話器って何用なの?」

「傍受対策用。艦の様々な通信設備が本体で、当然こっちの方が通信がより暗号化されてかつ長距離に繋げる。専用のマジアムは姉さんには渡してあるけど‥‥‥やっぱり姉さんからだな」

 説明しつつ彼は受話器を手に取るや否や、いきなりフェルリアが耳に響く甲高い声で訴える。

『助けて! ルルが、ルルが!』

 彼女は声を荒げ、取り乱した様子だった。

『まずは落ち着いて、ゆっくり深呼吸。すって~、はいて~』

 ゼスルータは話を聞く為にまず落ち着くように促す。フェルリアは何度か深呼吸をし、冷静になり状況を説明し始める。

『一体何があった?』

『ジープで移動していたら正面に誰かが出てきて、いきなり銃を撃ってきたのよ! 2人共飛び降りたから何とかなったけど‥‥‥。でもその直後に2人がルルを誘拐したの』

『そいつらの人数と特徴は?』

『見たのは3人だけ。最初に出てきたのも含めて全員が薄灰色の迷彩服姿。黒い布で覆っていたから顔は分からないわ』

『分かった。すぐ行く』

(何で姉さんは無視されたんだ? それにルルを拐う理由なんてあるのか?)

 ゼスルータはその疑問が頭の中によぎったが、気にしている場合ではないと、隅に追いやる。

「ルータ、何があったわけ?」

「ルルが拐われた」

「今何てッ!?」

 さっきまでぼーっとしていたジルが裏返った声を出し、反射的にゼスルータは耳を塞ぐ。

「いきなり驚かすなよ」

「艦長、ルルが拐われたのですよ!」

「だからこそだ。ここで冷静さを失えば敵の思うつぼだ」

 彼の顔は、冷徹かつ相手を鋭く見下す様な表情だった。その目は、奴らに絶対に報復すると物語っている。

「まずは情報収集だ。敵の拠点を割り出しルルを救出する。あるいは先に犯人どもを殺す。だが後者は最悪の場合だ。出来るなら捕虜にしてバックに誰がいるのか聞き出す」

「でも情報収集ってどう‥‥‥」

「艦内ニ武装シタ多数ノ侵入者ヲ確認。既ニ艦内ノ1割ヲ制圧サレテイマス」

 ネイラータの質問は警報とアスナの警告によって遮られた。

「ちょっ、どういう事!?」

「どうした、何故隔壁を閉じなかった?」

 壁や床に隠し武器を仕込む時間はなかったが、それでも侵入者を阻む措置は取れるはずであった。

「侵入者全員ガ軍服、顔認証共ニローズウェル王国騎士団デアル事ヲ確認シマシタ」

「何で騎士団が来たわけ?」

「分カリマセン。案内シタノデハナイノデスカ?」

 どうやら明確な敵ではなく、同盟国の兵であった為、アスナはてっきり許可を貰って入ったものと勘違いしたらしい。

「‥‥‥ここに案内しろ」

「艦長!?」

 ゼスルータの判断にジルは驚いた。理由は知らないが、武装している時点で自分達に敵対する意思がある事は明白だから当然だ。

「心配するな。いざとなれば迎え討てばいい」

「ですが艦長‥‥‥」

「第一艦橋ヘ転送シマス」

 艦橋中央の床に施された魔法陣が光り出し、剣と盾を装備した騎士団員5名が召喚し出される。

「なっ、これは一体‥‥‥」

「何の御用ですかな、騎士団の皆様方」

 ゼスルータの丁寧な挨拶に彼らはハッと振り返り、ゼスルータをキリッ、と睨む。

「私の名は副団長のウィリアム・ハリーだ。して、貴様がゼスルータだな?」

「そうですが、一体何の用で訪ねられたのやら‥‥‥。立ち話は落ち着きませんから紅茶でもどうですか?」

「その必要はない」

「なら手短にどうぞ。こっちも急いでるので」

 彼は騎士団の失礼な態度に内心苛立ったものの、表情を崩さずに対応した。

「単刀直入に聞こう。ホーネット王女様はどこだ!」

「は?」

 全く身に覚えのない疑いをかけられ、流石のゼスルータも一瞬虚を突かれる。

「本日深夜未明、王女様は就寝中に何者かに連れ去られた。目撃者によると、犯人の特徴は髪が白かったのを除きほぼ貴様と同一だった。少なくとも何かしらの関係があると思いここへ来た」

「ちょっと、ルータちゃんにはアリバイがあるっての!」

 ウィリアムの発言にラゼルは右手を大きく挙げて反論した。

「ほう、ではそのアリバイとは?」

「実は夜中にちょっと街中へ行ってまして~」

「おいコラ、任務はどうした?」

 ゼスルータは思わずサボタージュを責めるが、無視される。おかげで話がややこしくならずに済んだのはいいが。

「ワインを3本買って来たんですよ。で、帰ってきたら発砲音がして艦橋の上の方から誰かが落ちたの」

「え、マジで? 道理で散弾銃に込めてた弾が無くなってるし窓が割れてた訳だ」

「うんちょっと待って、どういうわけ?」

 何で器物破損が起き、それを覚えていないのかとネイラータは思わず突っ込んでしまう。

「エルフってさ、闇市場だと足だけでも高く売れる、つか売られたが‥‥‥だから夜寝ている時は散弾銃の引き金に手を添えて、近付いた奴には寝ながら弾をブチ込んでる」

「どうやったらそんな事出来るんだよ‥‥‥」

 ゼスルータのある意味神技ともいえる防犯技にウィリアムはドン引きし、「売られた」という言葉にネイラータは眉をひそめる。

「で、落ちた奴は助けたのか?」

「いやぁ、それが‥‥‥試飲し過ぎて酔ってまして、「誰か落ちたぁ、まいっか~」で無視して艦内に入ったんすよ。で、今「やべぇ無視しちゃった(テヘペロ!)」って思ってます。ちゃんとレシートもあるから私も無罪ですよ、ほら」

「それ試飲ってレベルじゃないわよね‥‥‥」

「だからサボタージュしてるのね‥‥‥」

 ネイラータとジルは彼女の酒癖の悪さに、地味に苛立ち、一瞬どうしたら直せるのかと頭を悩ませる。

「別にいいだろ。血痕でも残ってたら犯人くらい特定出来る。遺伝子をそれから採取すれば犯人の姿を映し出せる」

「いや、この艦へ入るまでに血痕など見なかったが」

「そうだろうな~。普通証拠は消すよな」

 それから彼らは、艦外へ出て辺りを見てみたが、証拠らしい証拠は見つからなかった。

「やっぱり、あそこへ行った方が早いかな」

「あそこってどこよ?」

「アステラっていうバー。そこの店主は情報屋だ。けど君達3人は艦に戻ってくれ」

「どうしてよ!」

「相手はルルと王女様を拐った奴だ。ネイにもその魔の手が及ばないとは言いきれない」

 彼は彼女の身を案じた。けれど、彼は“軍人”へと切り替わっていたのだろう。その言葉は冷たくも聞こえた。

「ルルは‥‥‥恋のライバルであるとともに友達でもあるのよ! ルータは私に友人を助けに行くなって言うわけ!?」

「ッ! それは‥‥‥」

「当然人質救出だってやった事ないわ。でも、だからといって指を咥えながらじっとしているなんて嫌よ! それに‥‥‥」

 彼女は両腕を組み、大声できっぱりと言い切った。

「たかが誘拐犯相手に怖じけていたら、それこそヴィルヘルムの名に泥を塗るってものよ!」

 ネイラータの意思の固さに、彼はあっさりと折れるしかない。

「分かった。が、これはあくまでも隠密作戦。そこで俺達は身元がバレない様に変装するぞ」

「おお、変装っすか。どんな風にするんすか!?」

 変装という単語を聞いて、ラゼルの気分はノリノリに上がる。

「そうだな、普段とは全く違った姿なら何でもいいが‥‥‥とりあえず戻るぞ」

「では我々も一度駐屯地へ戻る。またあとでな」

「その時は頼むぞ、副騎士団長様」

 彼らは敬礼でウィリアムらを見送り、再び艦内へ戻り、支度を始める。


─戦艦ハイゼルク艦長室─

 ここの艦長室は、かなりスッキリしていた。ベットは他のと同じく折り畳み式の簡易ベット。家具はたんすと、何かの設計図が書かれた紙が置かれた机に引き出しが3つあるだけだった。

「まだ窓が割れたままなのだけれど‥‥‥」

 前述の通り、窓は内側から破壊された為、床にはガラス片は少ししか無かったのだが、無惨にひび割れたままだ。

「あー、一応ここ事件現場だからな。普段は捜査が終わってから直しているが、今やっても別にいっか」

 彼は指先で空中に魔法陣を描いたあと、マジアムから水晶の結晶を取り出し、呪文を唱える。

「メルトandメイク」

 すると水晶は水の様に溶け出し、ひび割れた箇所へ吸い込まれる様に宙を流れ、みるみるうちに窓の一部へと溶け込む。

「これでよし」

「じゃあ早速変装するのに取り掛かろう。変装道具は‥‥‥ここか!?」

「ちょっ、こら待て」

 ラゼルは待ちきれなかったのか、たんすの扉を勢いよく開ける。中にあったのは、彼の私服が3着と少将を示す肩章が付いた軍服、そしてボロボロに、しかも右腕の無い黒いメルギアが置かれていた。

「何これ、壊れたメルギア?」

「このヘルメットは‥‥‥これは宇宙戦用のメルギアね。でも何でこんなところに?」

「それは“戒め”みたいなものだ。それにはあまり触れないでくれ。どっちにしろ変装道具はたんすには無い」

 彼はそう言って机の引き出しを開け、中から小箱を取り出す。

「今回使うのはゴムと色つきコンタクトだ。けどコンタクトの方は嫌なら使わなくてもいい」

 言いながら、小箱からコンタクトが入ったケースと小瓶を出し、小瓶の装着液を数滴垂らし、着け始める。

「おお、ネイちゃんとお揃いの目だ」

 コンタクトの色は、透き通った紫色。ラゼルのいう通り、ネイラータの目と瓜二つになる。

「私はコンタクトはちょっと‥‥‥。ルータ、この軍服借りてもいいかしら? 私の階級は少将だから着ても問題はないわ」

「サイズは‥‥‥15歳の時から背は伸びてないから大丈夫かな」

「艦長、それ本当ですか!?」

 ゼスルータの座高は約90センチ。これは足があれば身長170センチ程になる。それが15歳の時から変わらないというから、ジルが驚くのも無理はない。

「“レニム・メディチ”の話はしただろ?」

「レニム? 誰の事よ」

「ああ、そうか。名前は言ってなかったな。ほら、失敗した女体化薬を勝手に注射してきたMAD女。そいつがレニム・メディチ。その薬使われてから急に背が伸びたんだよな~」

「そのレニムさんって、どういう方ですか?」

「唯一の親友、かな。そういやレッドテイルの製薬部門のトップになってるな」

「えっ、ルータの同級生よね!?」

「分野は違うが、あいつも天才だからな」

 我らが戦艦ハイゼルクの設計を担当したゼスルータ。その彼が天才と称えるレニムは一体どんな女性なのだろうと気にならずにはいられない。

「そんな事はさておき、ラゼルには特殊な装備を着けてもらう」

「なになに、どんなの!? って、え?」

 彼がマジアムから取り出したのは、金属で出来た首の様な装備。

「何すか、それ」

「頭と胴体を間接的に繋げる装備。これで今抱えている方の手が空くだろ。それにデュラハンとは見られない」

「成る程、ルータちゃんって頭いいっすね! じゃあ早速着けてみます」

 まずは胴体側に乗せ、ラゼルの魔力で固定されたのを確認し、次にその上に頭を乗せる。

「ルータちゃん、これマジで楽だわ!」

「気に入ってくれて良かった。次は‥‥‥ん?」

 振り返ったその時、義足の靴底のセンサーが反応し、その情報が脳へ伝わったので、彼は足を引っ込める。

「これは‥‥‥〈メモリア〉?」

 メモリアとはマジアムの中でも、情報を記録する為に作られた物を指す。魔石でできており基本的に手のひらサイズの四角い角柱型で、帝国軍では一辺1.5センチ、魔石部長さ13センチの規格で統一されている。

 因みにこのサイズで文字にして一兆字分の情報の保存が可能だ。

「規格は帝国のだが、持ち手のデザインが全く違うな」

「一応調べておきましょうか?」

「ああ、そうだな。つかジルはついて来ないのか?」

「この国って日差しが強いからあまり外に出たくないんですよね~。特に昼間とか歩くだけで魔力と体力がゴリゴリ削られていきますから。まあ私の先祖はエルフとの混血ですし、死なないだけましかもしれませんね」

 知っての通り、吸血鬼は太陽光を浴びただけで死に至る。しかし、別の種族との間に生まれた子は耐性がつくのである。

「ネイは大丈夫なのか?」

 彼女も吸血鬼だが、太陽光をものともしなかった。

「私は純血なのだけれど、全然平気なのよね」

「ゼハルド閣下はヴィルヘルム家は“色んな意味でチート級だ”と言っていたが、それで平気なのかもな」

「それもそうね。さて、私が着替えたらルータがさっき言っていた情報屋のバーに行きましょう」

「私もちょっと着替えてくるっす!」

「俺もその間に準備を済ませておく。では艦首の前でな」

 数分後、外へ集合した3人はゼスルータが陸軍から借りてきたジープへ乗り込む。ゼスルータは私服の青い革ジャケットにジーンズ、ラゼルはいつどこで買ったのか、赤いアロハシャツを着ていた。

 そしてネイラータは、彼の軍服と軍帽を被り、髪はゼスルータに三つ編みにしてもらった。周りから見れば、異色のトリオと言わざるを得ない。

「それじゃ、行くぞ」

 まずは、フェルリアのいる事件現場へ向かった。

「もう、来るのが遅いわよ!」

 道中何事もなく、ハイゼルクから近い場所だったので、移動時間そのものは少ししかかからなかったのだが、一時間近く彼女を待たせてしまった。

「悪い、念の為に変装してきたから時間がかかった」

「それはいいとして、ネイまで連れて来てよかったの?」

「これは本人の意思だ。けど何かあったら陛下にぶん殴られるだろうなぁ‥‥‥」

「私のお父様をどう見ているわけ?」

「すっごく怖い帝国ロズワント軍の総大将。一度殴られてからあんまり仲良くしたくないんだよな~」

(あー、成る程ね)

 ネイラータはロズワント城でのあの出来事を思い出した。壁にめり込み、崩れ、瓦礫に埋もれた彼の姿を頭に思い出し、それは無理もないなと同情する。

「心配ご無用! 私が来たからな!」

 突然、彼らの背あとから自信に満ちた大声が響く。一個小隊の皇室親衛隊を率いた、包帯グルグル巻きのみっともない姿のオドアであった。

「さて、皆ジープに乗って。早くルルを助けに行くぞ」

 4人は彼をガン無視し、ジープに乗り始めた。

「いや待たんかい!」

「うるせえな。お前一体誰? 俺の知り合いにミイラはいないぞ」

「ミイラではない! オドアだ!!」

「‥‥‥マジで誰?」

「ふざけやがって!」

 ゼスルータは、ちゃっかり隣の補助席に座ったネイラータに耳打ちをした。

「少将さん、後ろに武装したヤバい奴らがいるんですけど、どうしますか?」

「ん? ええ、そうね。まとめて吹き飛ばしなさい」

「了解でーす」

 彼はアクセルを踏み、ジープを走らせた。そして内ポケットから手榴弾を取り出し、窓から後ろへ投げつける。

「ちょま、えっ?」

 手榴弾はオドアの足元で炸裂。小隊をオドアもろとも吹き飛ばした。

 早朝で人通りがなかったのと、周りの建物へはゼスルータが魔導防壁を展開していたお陰で他の被害は出なかった。そしてジープは何事もなかったかの様に走り去る。

「─ここから5分くらいでアステラに着きそうだな」

「ほっといていいのかしら‥‥‥」

「いいのよ、あいつはただのストーカーだし」

 心配そうにあとろを見るフェルリアにネイラータは「どうでもいいわよ」と小声で呟く。

「ねえねえ、真ん中についてる水晶板が光ってるよ」

 ラゼルの言う通り、ハンドルの隣にある水晶板がゆっくりと明滅していた。

「少将さん、操作を頼みます」

「その少将さんって言い方言い方止めてくれないかしら?」

「だって他人に正体バレたら色々大変な事になるだろう?」

「だったらそうね、今は私のことは“アンタレス”とでも呼びなさい」

 言い終えるや否や、彼女は水晶板をタップする。

『もしもし?』

「繋がってるわよ。で、何か分かったの?」

『メモリアを調べたところ、中に入っていた情報は簡潔に言うと地図です。そちらに送ります』

 すると水晶板に7層にわかれた上から見た地図と、地下の断面図が表示される。

「入口は2番メインストリート近くのマンホールか」

「これって何の地図なの?」

『それが、メモリアには音声も含まれていたのですが‥‥‥』

 彼女にしては珍しく歯切れ悪い話し方だった。音声の方も送られ、再生してみた。

『初めまして、私の名前はネフィリム。これを受け取っているって事はお姫様とヴォーロルルちゃんは誘拐されてる頃ね。お姫様の方は私がしたわ。Sorry、でも安心して! それは可愛い2人のいるアジトの情報よ。大事に活用しなさい。Have a nice day』

 その声は、甲高い女性の、だが全員に聞き覚えがあるように感じさせる声だった。

「何でそんな情報が!?」

「偽情報、あるいはテロリストに潜入している諜報員からか、はたまた裏切り者からもたらされたのか‥‥‥?」

 信頼性があるのなら、喉から手が出る程欲しい、とはこの事だ。しかし信じていいものか? しばらくの間全員黙り込んだ。

「艦長室にあった物よね。ルータのじゃないわけ?」

『艦長室内カメラガ散弾銃ヲ発砲シタ直あと、軽傷ヲ負ッタ者ガ落チル直前ニ投ゲ込ンダ物デアル事ヲ確認シマシタ』

 向こうからアスナも会話に混じり、どこからもたらされたのかを報告する。

「つまり、テレパシーだと傍受される心配があるからその情報が入ったメモリアを渡しに来た。けれど誰にも姿を見られたくなかったから艦外からメモリアを艦内へ入れられる場所を探した。直接入ったらすぐ艦内魔力波で察知されるものね。そうしていたらルータに撃たれたってところかしら」

「つか軽傷って、俺の狙いが悪かったのか、それとも直撃を避けたのか?」

『艦長ガ発砲シタ0.00023秒あとニ右ヘ避ケ始メ、左肩ニカスリ傷ヲ負イ、姿勢ガ崩レ落チル前ニ、メモリアヲ投ゲ込ミマシタ』

『だそうです。けどこれ反応速度が速すぎますよ。しかも魔法は何も使ってないって言うんです。人間どころかあらゆる魔族でも出来る者なんていません』

「いたとしても五帝将レベルだろうな」

「あ、ちょっと、アステラってあれじゃないの!?」

 ラゼルが指差した方向に、ゼスルータもこの間訪れた、目的地であるバーがあった。彼女が気付いてなければ、このまま素通りしてしまったであろう。

「コピーは義足内のメモリアに保存した。とりあえずこれはマスターに見せてみる。何かあったらまた連絡する」

『了解しました』

 一行はジープから降り、アステラの扉の前に立つ。

「フランクの旦那~。ちょっと見てもらいたいのがあるのだけど‥‥‥」

 先にゼスルータが店内に入った途端、彼は不気味さを覚えた。

(誰も居ない? )

 店内は元々客足が少ないのだが、それにしても物音ひとつ聞こえないのはおかしい。開店時間は過ぎた頃なのに、灯りは1つも付いていなかった。

「どうかしたの?」

「姉さん、誰か警察官でも呼んで来てくれ。2人は外を見張ってろ」

(何もなければいいが)

 彼はそっと拳銃を構え、ゆっくりと店の中へ足を進める。

「おい、誰か居ないのか?」

「ヴォォォ‥‥‥」

 彼は呻き声が聞こえる前に、あの時リアムに会ったのと同じ様に背筋が凍る感覚を感じ、とっさに拳銃をカウンターの方へ構える。

「フランク‥‥‥?」

 彼はゼスルータの知っているフランクとは全く違っていた。のっそりと起き上がった彼の肌は薄灰色で、浮き出た血管と目は薄く気味悪く光り、動きはひどくゆっくりとしていた。

「どうした? 顔色が悪いぞ」

 彼がジョークを言った途端、フランクは噛み付こうと襲い掛かった。それをゼスルータは容赦なく蹴り飛ばす。

「うわぁ、冗談きつい」

「ルータ、呼んで来たよ」

「君、一体何をしてるんだ!?」

 突然背後から声がした。どうやら巡回中の警察官が近くにいたようで、すぐに来てくれたようだ。

「こっちが知りたいくらいだ」

「何言って‥‥‥あぁぁぁ!」

 彼の義足には、膝から下の装甲は電導率が高いアルミニウムが混ぜられている。理由は蹴った瞬間スタンガンの様に電撃をくらわせる為だ。にもかかわらず、フランクは再び起き上がり、ゼスルータに襲い掛かったが、彼は後ろを見ずに背負い投げを決める。

「ルータ、この人一体どうしたのよ!?」

「知らん。狂魔石っぽいが、何か違うな」

 彼は念の為に具現化で太いロープを作り、フランクを拘束した。

(広場であんな事言ったからか? )

 リアムの件は警察御用達の情報屋から聞いたとはっきりと言った。だがそれだけでここを割り出したとは考えづらい。

「なぁ、こいつアンデッドか?」

 だが、現実から目を背ける訳にはいかない。

「どうなのかなぁ?」

「近づくな、噛み付いてくるぞ」

「ルータ、この人がフランクなの?」

「ああ、そうだ。いや、厳密には“そうだった”の方が正しいかもな」

「とりあえず君達は署まで来てもらおうかな」

「俺は帝国軍人だ。そんな暇はない」

「君は外交官ではないだろう!」

 抗議する警察官に対し、ゼスルータは先程保存した音声を聞かせた。

「‥‥‥じゃあ何故こんな所に来ている?」

「一から十まで信じきれるかよ。このフランクって奴は情報屋で、裏取りをしに来たんだよ。でもこれで確信した」

「それはどうしてだ?」

 ゼスルータは黙ったままカウンターの奥の部屋へ入り、不審に思いながらも警察官は彼について行く。

「荒らされてない、か」

 彼はホッとしたのか、フーっと息を漏らした。

「ここに一体何があるんだ?」

 彼は大きな酒樽を1つずらし、その下の床を何度か思い切り踏みつける。

「普通は鍵で開けるのだがな」

「何をして‥‥‥」

「よく見てみろ」

「ん、これは!?」

 警察官はあっと声を漏らす。できた穴の下には、地下へと続く石製の階段が敷き詰められている。

「あんたは増援を呼んで“アレ”を見張っといてくれないか? あと、話は彼女達に聞いてくれ」

「アレって、あいつの事だろ? 何で物みたいに‥‥‥」

「あんなの、もう人でも魔族でもないだろ」

 2人は暫く黙り込み、それからゼスルータが彼の顔を見て頷いたあと、そのまま階段を降りて行く。

「あり? ルータはどうしたの?」

「あいつは奥にある隠し階段を降りて行った」

「何で1人で‥‥‥いやそんな事より、私達も追うわよ!」

「駄目だ。話は君達から聞いてくれと言われたのでな」

「えー、第一発見者はルータちゃんなのに~」

「えっ、あっ、そうだったのか!?」

(いや待って、地下への入口は2番メインストリート近くだったわよね? ここって3番メインストリート沿いのはずなのに一体何故ここから?)

「まぁいいわ。こういうのは“本職”に任せましょう」

「本職ってどういう‥‥‥」

「城でルルを助けたでしょう。ルータって人質救出の知識は豊富なの。流石に実戦はそれほどやってないだろうけどね」

「大丈夫よね?」

「大丈夫よ。だってルータは強くて賢いもの」


─その一方、意図的に別行動で2人の救出に向かったゼスルータは、先程義足にコピーした正体不明の彼女からの地図と、実はその時ついでにコピーしたこの国の国土交通省から出された地下上下水道の地図を頭へ送り込み、目をつむって脳裏に映し出していた。

(ビンゴ、ここからでも繋がってる)

 フランクがもしもの為に備えた地下脱出路(昔使われていた地下水路)から目的地まで到達出来る事に、彼は心の中でガッツポーズをきめた。

(さて、ちょっとカチ込んでサクッと助け出しますか)

 彼は拳銃を構え、無言で出来るだけ音をたてずに走り出す。途中で敵に気付かれれば2人の身に危険が及ぶ。

(まずはこのまま真っ直ぐ)

 前方の曲がり角まで小走りし、右の壁に背を密着させ、曲がった先を確認した。

(次は水路を飛び越え4つ目のトンネルを左と)

 逆探知されないよう、魔力線を使った索敵はしない。

(足音は、俺以外のは無いな‥‥‥)

 彼は研ぎ澄まされた五感を総動員し、敵に見つからないよう、あるいは察知される前に殺る、それを意識しつつ進む。

(次はトンネルを抜けるまで進む)

 直線は真っ直ぐに進み、曲がり角では先を確認する。それを繰り返しながら進んでいると壁に小さな壁龕へきがんを見つけた。

(何だ?)

 警戒しつつ、覗いてみると、中には透明な水晶玉と下には1枚のメモが置いてあった。

『この水晶玉は〈警衛けいえいの義眼〉。あなたがイーター・ハンドに使っているものの色違いといったところね。けどこっちは探知魔法を使われても察知されないわ。ここから先は敵が12人いるから気を付けなさい。あとどうでもいい話、あなたが自身の魔力を実体化する時いつも具現化って言ってるの、具現化って他の属性でも当てはまるわよ。“シュバルツ・ゲネリエン”とかにすれば? ネフィリム』

(最後のはマジで余計なお世話だ! だが‥‥‥)

 イラつきつつも、小声ながらも口に出して黒いナイフを作り出す。

「シュバルツ・ゲネリエン」

(こっちの方が早い、か‥‥‥)

 魔法というものは、上級者ならば無詠唱でも発動出来る。だが、何かしら声に出して、特に発動する魔法の特徴や属性などに合わせた単語を発音するだけでも威力が上がったり発動するまでの時間が短縮されたりする。先程のナイフは今までなら約1秒かかったのが半分以下まで短縮された。

(警衛の義眼は俺のと同じ使い方か)

 テレパシーで義眼を浮かべたイメージを送ると、彼の目の前で止まった。それはガラス窓の様な反射は全くせず、近くで見ても気付けないくらい真っ透明である。

(これはありがたく使わせて貰おう)

 彼は警衛の義眼を目的地の部屋まで飛ばそうとしたが、やはり敵は巡回していた。ライフルを持った覆面姿の2人組。何やら会話しながらゆっくりと歩いてくる。

(素通りは‥‥‥出来ないな)

 2人がこちらの方向へ向かっている。

(悪いが死んで貰おう。シュバルツ・ゲネリエン)

 彼はナイフをもう1本と、コインを作り出し、コインを右手の親指で弾いた。宙を舞ったコインは何回かキンッと高い音を出し、水路へポチャンと落ちた。

「何だ? 今の音は」

「確認するぞ」

 2人は駆け足で音が鳴った方へ進み、曲がり角を警戒せずに出た。

「なっ!? 誰‥‥‥」

 それが命取りとなる。ゼスルータは出て来た2人の首目掛けてナイフを投げ、2本のナイフはそれぞれの頸動脈を切断、急に意識が朦朧もうろうとなり、そのまま倒れた。

(遺体は別にこのままでも‥‥‥)

『こちらアルファ、ブラボー応答せよ』

 彼はおそらく、いや確実にこの2人へ向けたテレパシーを傍受した。傍受されない為に魔力は絞っている様だが、彼には筒抜けだった。

『ブラボーどうした? 応答せよ。繰り返す、応答せよ』

(アルファにブラボー? 何か軍人っぽいな)

 アルファ(A)やブラボー(B)、チャーリー(C)などは主に海軍や宙軍で使われる、聞き間違えないように規定されたコードだ。企業などでも使われる事もあるが、少なくともここには一般人がいるはずがない。

(しかも何で銃が“EM-7”なんだよ‥‥‥)

 EM-7はローズウェル王国陸軍が使っているアサルトライフルだ。当然テロリストが簡単に入手できる代物ではない。

(何か怪しいなぁ)

 彼らはどう考えてもテロリストではなく、正規軍だと思わざるを得ない。

(テレパシーをやめたな。ってことは増援が来るだろうな)

 彼はニヤニヤしながらイーター・ハンドを用いて壁や床に魔法陣を描き始めた。その数24、一瞬で大半の戦力を削るつもりだ。

(かかってくれよ~)

 彼はシュバルツ・ゲネリエンで全長約5mの小さな潜水艇を作り、それで水路内へ潜航した。外の様子は警衛の義眼で手に取る様に把握できる。少しした後、4人が駆け付ける。

『こちらチャーリー、ブラボーの遺体を発見』

『敵の姿は見えるか?』

『駄目だ、全く見えない』

『チャーリーとデルタは二手に別れて付近を捜索しろ。10分後に連絡を』

『了解した』

(させる訳ねぇよ)

 ゼスルータは描いた魔法陣の内、9つの魔法陣に魔力を注ぎ込む。当然、彼らもすぐ気付いたが、もはや手遅れだった。

「しまっ‥‥‥」

 魔法陣からは黒く長く太い棘が突き出て、彼らの頭や心臓などの急所を的確に貫いた。何人かは呻き声をあげ、そして息絶える。

「6人は殺った。情報が正しければ残りはちょうど半分か」

 このまま水路を真っ直ぐ行けば目的地の部屋の近くまでたどり着けるが、そこまで7キロ程ある。

「さっさと行きますか」

 うつ伏せの姿勢で操縦するこの小さな潜水艇は、暗い水路の水の中を静かに流れる様に進み始めた。


─数十分前・敵アジト内─

「さっさと入りやがれ!」

 縄で縛り付けたヴォーロルルを牢屋の中へ蹴入れる。そいつを彼女は黙ったまま睨み付けた。

「何だ? 随分反抗的だなぁ」

「腹立つがこいつらに構ってる暇は無い。ブラボーが殺られた」

「マジかよ。敵は一体誰だ?」

「さっきチャーリーとデルタが捜索に行った。俺達フォックストロットは入り口を警戒しとけってさ」

「分かったよ。行けばいいんだろ」

 2人は牢の鍵をかけ、その場から去って行った。それを確認した彼女はルルの後ろから声をかけた。

「ルルさんですか?」

「その声、ホーネットさんですか!? でも何で‥‥‥」

「何でルルさんまで連れ去られたのですか?」

「それはこっちが知りたいくらいです。でも一緒にいたフェルリアさんは来てないみたいですね」

「えっ? 何でフェルリアさんは無視されたの? いえ、逆にこれはチャンスです。彼女が助けを呼んでくれれば‥‥‥」

 絶望するにはまだ早い。それを知ると、2人はひとまず安堵する。

「希望はある。信じて待ちましょう!」

「自力では脱出出来ないでしょうし」

 ここには幾つかの牢屋と扉のみしかなく、通気孔の様なものは扉の上にしかなかった。おまけに牢の床には魔法封じの刻印が彫られている。つまり、鍵を開けなければ脱出はまず不可能だ。

「助けが来たらあいつらをボコボコにしてやりましょう!」

「ルルさんは強いのね」


─現在・敵アジト前─

「にしても便利だよな。警衛の義眼は」

 彼は、つい先程金属製の重厚な扉から出て来た2人組を見ながらそう呟く。

(つか、陸軍にしては弱いな。練度も低いし、トラップ系魔法探知も全然しないし、2人1組ってのも、人数少ないんだよな~)

 アルファやブラボーなどは、単に聞き間違えないように使っているだけに思えてきた。テレパシーも出力は抑えているが、暗号化は全くされていないところも、やはり非正規軍かと思われる。

 となると、王国軍の誰かが武器を犯罪者集団へ横流ししたことになる。

(あの扉は殴ったら開きそうだな)

 彼はそう思いながら、マジアムからパンツァーメタルⅠを取り出し、サイレンサーを取り付ける。

(まずは2人を‥‥‥)

 小型潜水艇から静かに降り、ちょうど近くにある曲がり角へ身を潜める。

(じゃあな、テロリストさん)

 角から銃口をまず1人の頭へ向け、スコープの赤い点がど真ん中を捉えた瞬間、引き金を引く。男は脳漿のうしょうをぶち撒け、即死。

「は?」

 続いてもう1人の頭をすぐに捉え、撃ち抜いた。

(あとはアジトにカチ込んで2人を助けて終わりだな)

 サイレンサーが高性能とはいえ、発泡音は完全には消し去る事は出来ない。にも関わらず、扉からは誰も出て来なかった。

(中で待ち伏せしてるのか、はたまた防音壁を使っているのか)

 どちらにしても、扉を破壊して突撃するまで。

「まぁ開けたら分かるか。そらよ!」

 彼は重厚な扉を遠慮なく殴った。開きはしなかったものの、扉は大きくへこむ。

「なっ、何だ!?」

「おい、まさか捜索に出ていた奴は殺られたのか?」

 狼狽えながらも4人は銃を咄嗟に構える。

「お前は2人を連れてこい。最悪人質として使うぞ」

「お、おう」

 動揺しつつ、1人は急いで牢屋へと走る。

「何かあったのでしょうか?」

「助けが来た‥‥‥のかなぁ」

 ゼスルータが扉を殴った衝撃は当然ここにも響いていた。

「‥‥‥諦めた?」

 何度か衝撃が走ったが、少しするとまた静かになった。

(思ったより頑丈だなこれ。だったら‥‥‥)

 彼は小声でシュバルツ・ゲネリエンと唱え、全長約2m程のゴツゴツしたゴーレムを作り出した。当然、この大きさでは部屋の中には入れない。

(これは囮に使うとして、俺は2人を助けるにはどうやって入るべきか‥‥‥)

 ふと思い付いた作戦に、彼は顔を赤らめた。が、それ以外にいい案は思い付かなかった。

「─3、2、1でこっちから仕掛けるぞ。出入り口はここしかないからな。エコー(E)は2人を人質にとっておけ」

「分かった」

「行くぞ、3、2、‥‥‥あっ」

 彼らが出ようとしたその時、鋼鉄の扉はゆっくりとドミノの様に内側へ倒れた。

「「「‥‥‥猫?」」」

 前の2人がまず目に入ったのは、背を向け振り返った青い目が特徴の黒猫。次に見たものは、先程の黒いゴーレムだった。ゴーレムは赤い目をギロギロと光らせ、拳を地面を叩き付け、それにびっくりした黒猫は一目散にアジトの奥へ逃げ込む。

「うっ、撃て!」

 サイズ的に入れないが、腕を入れ、2人の人質を掴もうとするゴーレムに対し、4人は一斉に弾丸をこれでもかと喰らわせ始める。

「なっ、何なの!?」

(でも何でこんな所に猫が? それにさっきいた場所も不自然だったような‥‥‥)

 慌てふためくホーネットに対し、ヴォーロルルは本当に14歳の少女なのかと疑うくらい、冷静に状況を分析する。

「「‥‥‥えっ?」」

 ヴォーロルルがそれに気付いた瞬間、2人の顔のそれぞれ右と左に何か液体が吹っ掛けられた。

((血!? ))

 見てみると、人質をとっていた2人が頸動脈を切られ、血が噴水の如く吹き出ていた。当然、2人はそのまま倒れ、意識は消えていった。

「そんなハリボテばっかり撃っても意味ねぇぞ」

「ッ!?」

「一体どこから‥‥‥」

 2人は銃を撃つのをやめ、銃口をゼスルータの方へ向けた。

「あっ、その行為も意味ないから」

 2人が何かを言い返す間もなく、壁の隙間から無数の黒い針が突き出てきた。針は全て2人を直接刺したりはしなかったが、器用に銃を貫き、2人の行動の自由を奪う。

「ヒィ!」

「なっ、何で‥‥‥」

「何で俺がいるのかって? さぁ、何でだろうな」

 ゼスルータは2人の内手前にいた方の男の拘束を解き、左手で首根っこを掴み、持ち上げる。

「うぐっ!?」

「ま、質問に答えるのは貴様らの方だがな。知ってる事全部話せ!」

「そ、そんな簡単に話すわ‥‥‥」

 彼は男が言い終わらない間に、右手の冥焔を纏わせた手刀で首を切り裂いた。

「そんな‥‥‥。ルータさん」

「俺は今機嫌が物凄~く悪いんだ。何も言わなかったらお前も殺す」

 物言わずして、「よくもやってくれたな!」とたぎらせる鋭く、凍てついた目。それを向けられて、逆らえる奴などいるだろうか。

「わわ分かった、何でも話す」

 もう1人の男は拘束を解かれた瞬間、崩れるかの様にゼスルータに平伏す。

「まずひとつ、貴様らの持っている銃はどこから仕入れた? ふたつ、貴様らの雇い主は誰だ? そして最後、貴様らは軍に所属しているか、あるいはしていたか? ひとつずつ答えろ」

「最初のふたつはどっちもブレイブ教を名乗る男だ。銃も金も通信機材もそいつから貰った」

「なるほどね~」

(てことはブレイブ教はローズウェル陸軍と関係があるのか? でなきゃ説明はつかないが)

「あと、俺達は軍に所属していた」

「志願組か? それとも徴兵組か?」

「徴兵組だ。戦前に退役して落ちぶれていたところに個別に依頼が舞い込んだんだよ」

「落ちぶれていた、か。道理で練度も低かった訳だ」

「なぁ、質問には答えたんだ。頼む! 命だけはどうか‥‥‥」

 男は泣きながら、藁にすがる思いで彼に訴えた。

(見苦し‥‥‥立場が逆転した途端命乞いをする。これだから人間共は救いがたい)

「私からもお願いします」

 振り返ると、先程まで怯えていたホーネットが、力強く立ち上がっていた。

「‥‥‥自分の命を狙った奴だぞ?」

「それでも、です」

「また襲われても次は知らんぞ」

「襲われないよう、彼には反省し、更正してもらいます」

「こういう奴らの辞書に反省も、ましてや更正という文字は断じて無い!」

 彼女はいきなり浴びせられた怒鳴り声自体には臆さなかったが、彼の目を見た瞬間、背筋が凍った。

 広場での、人間が憎くて憎くてしょうがないという、憎悪を宿した、歪んだ目だった。

「いいか、魔族を道具としか思ってない人間共はなぁ、なにやっても罪悪感は感じないんだよ! そんな奴らに反省させるだと? 更正させるだと? 笑わせるな!」

「私も人間ですが?」

「それは‥‥‥!?」

 彼はその事を忘れていたのか、言葉に詰まり、急に冷静になった。

「いや、すまない。こんな事言っても仕方ない事だな」

「あの~、お取込み中のとこ悪いんだけど、これってどういう状況?」

 壊した扉にいたのは、騎士団団長のヴィルドだった。後ろには、副団長ウィリアムや団員達も控えてい

る。

「俺が2人を助けた、以上」

「2人共血だらけなんだけど、無事ってことで‥‥‥いいのか?」

 ヴィルドは2人にベットリ血が付いているのを見て首を傾げた。

「敵の血だから別にいいだろ。あと、お前の足元にいる奴、生き残りだから。煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」

「煮ねぇし焼いたりもしないって。つか生き残りって、あとの11人は殺したのかよ」

「それを知ってるってことは、ネフィリムも知ってるのか?」

 元々信頼性が低かったのだ。時間的にも使える設備的にも最も自由であったジルも、安易に伝達してはいないだろう。

「送られた手紙の主がそういう名前だったな。ルータにも手紙が届いたのか?」

「こっちはメモリアだがな。その時寝ながら散弾銃を撃ったが仕留め損ねたらしい」

「いや寝ながらってどうやってだよ!?」

「知らね。そんな事より、早く帰るぞ。ルル達も早く風呂に入りたいだろ?」

 返り血を浴びせてしまったことへの彼なりの気遣いだが、そこで思わぬカウンターを喰らう。

「風呂から上がったら“猫ちゃん”またやってください」

「猫ちゃんって‥‥‥何の事?」

 彼は速攻でシラを切る。そして本当に何の事? と演技までかます。‥‥‥必死だ。

「とか言っちゃって、あれの正体ルータさんですよね?」

 彼はヴォーロルルの確信に満ちた声から、誤魔化すのを諦めた。

「ヤダ、しばき倒す」

「何でですか? とっても可愛かったのに~」

 ヴォーロルルは頬っぺたを膨らませ、文句を言いたげな目で彼をじっと見つめた。

「えっと、“猫ちゃん”って何?」

 ヴィルドが質問した途端、彼は左手の甲で壁をぶち抜いた。

「次聞いたら誰だろうと問答無用でヴァルハラへ送ってやるよ」

(((つまり死ねって事かよ!?)))

 彼の脅迫に騎士団一同は顔を青ざめて黙り込む他ない。

「よろしい。では帰るとしよう。ルルは俺が守るから、ホーネットは頼む。って、言うまでもないか」

「総員、警戒体制を維持しろ。帰還するぞ」

「「「はっ!」」」

 その後は行きとは反対に何事もなく、無事に地上(アステラの中)へ出た。

「何か証拠は見つかったか?」

「いいえ、まだ何も」

「そういやここは事件現場だったな」

 彼らが戻った時には、既に捜査が始まっていた。この店の店主フランクがアンデッド化? した事件についての捜査だ。

「あぁ皆様、よくぞご無事で。話は聞いています。ここに隠し通路があると知っていたので待っていましたよ」

 1人の刑事が彼らを認めると、捜査の邪魔にならない様に、外へ案内した。

「すぐに事情聴取は受ける。任意で聞かれられるんだろ?」

 すると刑事は、何故かため息をついた。

「ん? 何か変な事を言ったか?」

「話は聞いていると言ったでしょう。その前に彼女に何か言うべきです」

 刑事がそう言ったあと、ネイラータが顔を下に向けながらこちらへ歩いて来た。

「ネイ?」

 彼が声をかけた瞬間、彼女はいきなり手のひらで彼の頬を叩いた。あまりにも突然の事で彼一瞬何が起きたのか理解出来なかった。

「何も話さずに‥‥‥置いて行ったりしないでよ!」

 見ると顔を真っ赤にしており、かなりご立腹の様子。

「確かに足手まといになっていたかも知れない。でも、自分が何も出来ずに恋のライバル兼友達が死なれるのは嫌だって言ったでしょう!」

「それは‥‥‥ごめん」

「で、2人はちゃんと助けたのでしょうね!?」

「敵の血を被ったが、2人共無事だ。敵が思ったより雑魚でよかったよ」

 ネイラータは彼の背後にルルが居るのを見ると、走って彼女に抱き付いた。

「ネイさん!?」

「よかったぁ、無事で。本当によかったぁ」

 ネイラータは彼女に付いた返り血など全く気にせず、ただぎゅっと抱きしめる。

「ただいま」

「お帰り、ルル」

「なぁよ、ルータ」

 皆が微笑ましく見守っている中、ヴィルドはゼスルータに手をそっと肩へ乗せた。

「何だ?」

「お前はどっちを彼女にするんだ?」

「そもそも恋愛って何?」

「えっ、何? 哲学?」

 彼が恋愛トンチンカンだとは思ってもいなかったのだろう。恋愛について真正面から問われ、困惑してしまう。

「全く、少しは恋愛について学びなさい」

「だったら恋愛小説とか買ってあげよっか?」

「確かにラゼルの案もいいわね。よし、あとで買いにいくわよ」

「いや、その前に事情聴取が‥‥‥」

「それはあんたらの軍のお偉いさん方に言ってください」

「どういう事だ?」

 割り込んだ刑事の言葉にゼスルータは首を傾げた。

「ロズワントの駐留軍がフランクさんをかっさらって行ったんです。確かなんちゃら防護隊だとかどうとか」

「第14科学防護隊?」

 科学防護隊とは、主にウイルスなどの生物兵器や放射線汚染に対応する部隊であり、第14科学防護隊は元々ユーラクラ戦以後、帝国側が軍事に限らず様々な分野に対する支援金の提供を条件に駐留させてもらっている。

「おまけに消毒剤みたいなのを撒き散らしてから帰りやがって! お陰で指紋のひとつ見つけられやしない」

「ひとつ聞くが、フランクは狂魔石にやられたんだよな?」

「おそらく、でもそれっぽいのは見つけられなかったがな」

「そっか、ありがとう」

(何故科学防護隊が‥‥‥? )

 狂魔石やその他の呪いや、トラップ系魔法には魔導防護隊が対応すればいい。にも関わらず、科学防護隊が出しゃばってきた訳が見当もつかない。

「艦に戻って月面司令部と通信を試みる。駐留軍に聞いても門前払いされるだろうからな」

「分かったわ。それと何故か海軍からルータに苦情が入ってきたのだけれど、どういうわけ?」

「苦情?」

「「何で何も言わずに長期間本国から離れる命令を拝命したんだ!」って。でも宙軍のルータが海軍からそんな文句を言われる筋合いはないはずなのに‥‥‥」

「海軍ってことはまさか‥‥‥」

 これを聞いた彼の全身はサーッと青くなり凍てついてしまう。思い当たる節はひとつしかない。

「ルータ、また何かやらかしたの?」

「いや俺じゃない。むしろ被害者の方だ!」

 その声は何かに怯えているようで、まるで蛇に睨まれた蛙。

 彼はただただ全身を震わせてしまう。

「何か海軍と浅からぬ因縁があるのか?」

「聞くな、ヴィルド。猫ちゃんの話よりも聞いてこないでくれ」

(そんなにトラウマなのかよ!?)

 あれですら脅迫してまで隠し通そうと躍起になっていたのに、今度は懇願だ。狂犬が怯える一件に、首を突っ込まない方がいいとヴィルドの本能が訴える。

「事情は知らないけれど、シャキッとしなさい! それでも帝国軍中将なのかしら?」

「‥‥‥分かった。この話は一端忘れよう」

 ネイラータの一喝に彼は何事も無かった様に笑顔を見せ、皆を心配させない様に振る舞う。

「さて、皆も一端艦に戻った方がいいだろ。ジルに風呂の準備を頼んでおく。俺はちょっと寄り道してから帰る」

「寄り道はいいけど、出来るだけ早く帰って来てよね」

「了解。といってもすぐに終わる用事だけどな」

 彼はネイラータら4人が用意された車で戦艦ハイゼルクへ戻るのを見送り、少しばかり街道を歩いた。そして、細い裏道を見つけた途端、そこに吸い入る様に入っていく。

「その様子だと、2人は無事みたいですな」

「当たり前だ、俺を誰だと思っている?」

 ゼスルータの姿を認めた瞬間に彼に声を掛けたのは、ニコラスであった。

「ローゼンはどうした?」

「部下に頼んで先にハイゼルクの所に送っておきましたよ。流石に奴らも戦艦には入って来ないでしょうし」

「で、ここに呼んだってことは、何か話があるんだろう?」

「ああ、上手くいけばガパラの野郎を失脚させれるかもしれない」

 彼はその好機に一瞬驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した。

「それはどういう事だ?」

「それについてはちょいと鞄を‥‥‥」

 彼は鼻歌を歌いつつ背負っていた大きく四角い鞄を下ろし、中にある大量の資料らしき紙の内、何枚かをゼスルータに渡した。

「‥‥‥こいつは凄い。よく見つけたな」

 渡された資料は、全て今回の事件に関する、犯行グループの計画書などであった。

「これは地下水道の地図、こっちは彼らの雇い主って、ブレイブ教関係者じゃん。ご丁寧に褒賞金まで‥‥‥。でもこんなもの一体どこで見つけた?」

「君達と同じ地下水道でな」

「どうしてあの場所にいたんだ?」

「盗聴器に気付かないとは、ゼスルータ様もまだまだですな。ほら、ジャケットの内ポケットに」

 彼は慌てて両方の内ポケットを探り、右の方から小さく丸い円盤状の盗聴器を掴み出す。

「いつの間にこんな悪手を‥‥‥? まぁいい、それで俺達とは別の所を捜索していたんだな」

 ニコラスは首を振り、本来の目的を達せられなかったことを明かす。

「本当は2人を助けるつもりが、別ルートから行ったせいで道に迷いまして。だがそこで思わぬ宝物を見つけたという訳でして。あと、これが本命です」

 ゼスルータに渡されたのは、武器売買に関する資料。そこには複数のローズウェル陸軍関係者の名前と共に、ガパラの名前も記されていた。

「かなり格安で売られたみたいだな。だがそんな事はどうでもいい。これでガパラを問い詰められれば俺達の勝ちだ」

 2人は顔を見合わせ、ニヤニヤと不吉な笑みを浮かべた。

「で、これらの資料はどうする?」

「近くで一応事件の捜査中なんだろ。彼ら警察に全部預けるつもりだ。流石にガパラでも、警察には圧力をかけれないはずだ」

「だな、ヴィルドにも伝えておく。騎士団は王族の他に街の治安を守る為に存在しているのに、今までガパラに面目を潰されてきたんだ。当然協力するだろう」

「今なんと‥‥‥?」

 ニコラスは「あの人間嫌いの彼が協力的に?」と、彼をまじまじと見つめた。

「何か変な事を言ったか?」

「いや、ここ数日で何というか、かなり変わったようで‥‥‥」

「同感だ。自分でもびっくりしている」

 彼は照れくさそうに答え、微笑を漏らす。

「さて、そろそろ帰るか。皇女殿下から早く帰って来いと言われているからな」

「自分も証拠を預けてからハイゼルクに戻りますので」

「じゃあ、またな」

 2人はそれぞれ別の方向へ歩き出し、解散した。彼は早めに帰ると言われつつ、暫くの間街中をぶらぶら散策しながら歩いて行った。

(おっ、見つけた)

 彼は魔石屋で新型義足と“あるもの”を作る為の魔石と鉱石を数種類購入した。

「ありがとうございました」

(これで面白いものができるぞ)

 夕日を見上げた彼は、そろそろ早く着かないとネイラータに叱られると思い、今度は寄り道せず、駆け足で帰って行った。


―戦艦ハイゼルク 食堂―

「遅いわよルータ。私達はもう夕食を食べ始めているんだからね」

「お先に食べてるっす!」

「同じく」

 彼が帰った頃には、既に全員が夕食を食べているところだった。メニューはパン代わりのK-Brot(戦中に小麦粉の量を減らす為にじゃがいもの粉を混ぜたパンの一種)にソーセージ、フェルリア特製マカロニサラダだ。

「ちゃんと手洗いうがいした?」

「したよ。てか姉さん、もう子供扱いするの止めてくれ。そのくらい言われなくても出来るから」

「それもそうだけど、お姉ちゃんそれ言いたくなっちゃうのよ」

「まぁいっか、それじゃあいただきます」

「召し上がれ」

 ゼスルータは、K-Brotにバターを塗り、そこにソーセージをスライスしてサンドにしてたべた。

「けいぶろっと? ってモチモチしてておいしい!」

 ローゼンはK-Brotの食感が大変気に入った様だ。

「気に入った様だがな、これを美味しいって言えるのは今だからこそだ。昔のは不味くて小鳥すら食べなかったらしいぞ」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ、宇宙船や大規模転移魔法が無かった時代は主に鉄道で物資を運んだが、鉄道事情が悪くて運んでいる最中にじゃがいもとかは腐ってしまったからな」

「氷結魔法サマサマね。お陰で私も張り切って料理が出来るわ」

 近年の魔法学の発展は凄まじく、軍需や産業のみならず、“保存”にも革命をもたらした。それはロズワント帝国で自給率100パーセント以上を誇り、主食として親しまれているじゃがいもも例外ではない。

 軍属の魔導士達はじゃがいもを前線へ運ぶ途中で腐ったりしない様に、<冷凍魔法>を編み出した。これは何かしらの箱の内側を冷蔵庫へと早変わりさせる画期的な魔法で、段ボールにも使用可能という優れた技術だ。

 これは当然じゃがいも以外を運ぶ時にも使用され、兵士達に長年忌み嫌われていたK-Brotが親しまれるきっかけとなった。

「ご馳走様でした」

 レゼルバは先に食べ終え、席を立ち忙しいそうに食器を返した。

「あら、もういいの? まだまだおかわりあるわよ」

「まだ仕事が残っているので。勿論、料理は美味しかったです」

「褒めてもらえて嬉しいわ。明日も楽しみにしてね」

 レゼルバに続き使節団メンバーも食べ終え、フェルリアに褒め言葉を残した後、食堂をあとにする。

「なあ、ニコラス。あれはちゃんと届けたか?」

「その点は何の抜かりもなく。今頃彼らは準備をしている頃でしょう」

「ねえ2人共、一体何の話をしているのかしら?」

「それはあとのお楽しみだ」

「ああ、そうに違いない」

「フフフッ、さてはまた何か悪巧みをしてるんすよね?」

「ルータ、また何か企んでいるの? Vキラーロケットみたいなのはもうやめてよね」

 皆の最後に自分の食事を運んできたフェルリアが、少し怒ったような口調で釘を刺す。

「むしろ逆だよ、悪巧みを暴く方さ。なっ、ニコラス」

「ええ、そうですな」

 そう言っている割には、彼らはむしろ何かを企んでいるという不敵な笑みを浮かべている。

「2人共、何か怖いですよ。少なくとも正義を執行する方が浮かべる表情ではないですよ」

「そんなこと言うなよ‥‥‥。あっ、そうだ。ジルもちょっとついて来てくれるか? ずっと留守番も寂しいだろう?」

「デートですか? だったらとことん付き合いましょうか?」

 その返しはジルにとっては冗談のつもりであった。

 しかし、ネイラータとヴォーロルルは反射的にジルを殺気混じりな目で睨む。

「ねえジルさん、抜け駆けはよくないですよ」

「ええ、そうね。いくら危険な航海を共する仲間でもこればっかりは許さないわよ」

(何この修羅場、マジおっかな!)

 このヤバい空気を察して、ラゼルはナイフとフォークを持つ手を止めてしまう。

「じょっ、冗談ですって。本気じゃないですよ。そういう意味では艦長には興味ないですから」

「えっ、何? ルータにそんな魅力は無いって言うわけ?」

「あと半の部分はすぐに撤回してください」

「どうしろって言うんだ‥‥‥」

 2人の理不尽極まりない反応に、彼女はただそれだけしか言えなかった。

「あ~、2人には言いにくいけど、またあとで喧嘩になるのもアレだし、先に言っとこうかな」

 そこにフェルリアが謎のタイミングで爆弾を投下する。

「言いにくいって何の事よ?」

「2人とは別にルータに告白した人がいるのよ」

「うぐっ、ゴホッ、ゲホッ!」

「「‥‥‥ははぁぁぁあああッ!?!?!?」」

 フェルリアの唐突なカミングアウトにニコラスはむせ返り、2人は艦内に響き渡る程に絶叫する。

「ルータ、一体どういう事よ!?」

「姉さん、その告白は断ったって言っただろ」

「あっ、断ったんですか。ならいいです」

 ラゼルは(いやいいんかい!)と思ったが、ここで参加したら自分も大やけどを負いかねないなとグッとこらえる。

「何かよく分からないけど、ルータ兄ちゃんはすっごくモテモテなんだね。で、誰から告白されたの?」

「五帝将のバイエルン・フォン・エリアス」

「確か海軍を司っているわね。でも何で断ったの?」

 ロズワントでは、陸・海・空(新設の)・宙軍と親衛隊のそれぞれのトップに五帝将が就く。彼女、バイエルン・フォン・エリアスは海軍のトップであり、<漸魔のエリアス>の異名を持つ“太刀使い”だ。

「本当に何で断ったのよ。綺麗で料理も上手で毎日手紙を書いてくれる方よ。断る理由が無いじゃない」

「誰が好き好んでストーカーと付き合うかよ‥‥‥」

「そんな酷いこと言わないの! ほら、今日の分の手紙よ」

 彼はフェルリアから渡された手紙をしぶしぶ受け取った。

「ったく、これの中身を見てないから姉さんもそんなこと言えるんだよ」

「あら、何か変なことでも書いてあるの?」

「変だし異変に気付けば怖い事しか書いてない」

 そう言いながら封を開け、この際だから皆に見せようと手紙を読んだ彼はガタガタと震えだした。

「愛してる愛している愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる‥‥‥」

(いつもと違うッ!?)

 普段なら、例えば、勤務時間4時前になると、「あと4時間仕事頑張ってね」などと共にメッセージが書かれた手紙が届く。海軍出身の彼女が宙軍出身である自分の勤務時間を知っているのを前々から不審に思っていた。

 だが、そこに書かれていたのは両面いっぱいの「愛してる」。手紙入れで隠れていたので他の者には読まれなかったのには安堵するしかない。

「ねえねえ、何て書いてあるの? ‥‥‥って!?」

「‥‥‥ッ、はぁ~。寝るわ」

 冥焔で手紙を燃やしながら一言だけ呟く。

「ちょっと、まだ残ってるわよ」

「すぐに食べ切るよ、ミニマム」

 彼は魔法で残っていた料理を豆粒サイズにまで小さくし、口の中に放り込んで胃に流し込でしまう。

「もう、せめてちゃんと味わってよ」

「悪い、今は早く寝て現実逃避したいんだ」

「そんなに嫌いな人なんですか?」

 ヴォーロルルの問いに彼は予想に反して首を横に振った。

「別に彼女自身は嫌いじゃないけど、ここ3ヶ月くらい何かこう‥‥‥ストーカーみたいにつけてくるのがちょっと、というかかなりな」

「そう? ルータと一緒にいてもそんな気配は感じなかったけれど‥‥‥」

「とにかく、それさえ無ければ家庭的ないい方なんだけどなぁ~。まぁとにかく寝るわ。あと、言われなくてもちゃんと歯磨きはするから」

「私も一緒に寝るのだ」

「分かった、じゃあローゼンの面倒は俺が見るから、おやすみ」

「おやすみなさい」


―戦艦ハイゼルク 糧食庫―

「あの、これどうしますか?」

「流石にこれは迂闊には扱えないわよ」

「ああ、こんなに沢山目の前にあるのに素材として使えないなんて‥‥‥!」

 朝に本国からの輸送艦から消費した砲弾や追加の食糧、対カムロス用新兵器開発用の資材など、必要な物資が届き、G-14を使い艦内に運び込んだ。

 ‥‥‥はいいものの、内一体からリストにないものがあるとの報告を聞いて中を確認したのだが、中身は“引っこ抜くと危険なもの”だった。

「何でマンドラゴラが土に埋まったまま届くんですかねぇ‥‥‥」

 ローズウェル大使館へ行こうとしていたレゼルバが荷を運び込んでいるところを偶然見て、興味本位で来たことを、ヴィルドは後悔した。

「ルータちゃん、手紙も届いているっすよ」

「手紙か‥‥‥まぁ差出人は誰か大体想像できるがな」

 その手紙には、こう記されていた。

「よおクソルータ、元気にしてるか? 俺はてめぇのせいで聞いた通りのザマだ。そのお礼にマンドラゴラ100株送っといてやったぜ。これでとっとと死にやがれ!  ウルバルトより殺意を込めて!!」

 マンドラゴラとは、魔術や錬金術で使われる人の形をした薬草で、地面から引っこ抜くと耳をつんざく様な大声で叫ぶ。これを聞いた者は発狂し、最悪の場合死に至る。

「ハッ、こんなので死ぬかよバ~カ!」

「耳栓してたら死にはしないけど、まぁ発狂はしますね、うん」

「けど耳栓なんてないわよ」

 フェルリアの言う通り、手元には耳栓はない。いずれにしろ、引っこ抜く気はないが。

「朝食は姉さんに昨日用意して貰ってたよな。ならレゼルバ達はそれ持って先に大使館へ行ってもいいぞ。これは俺達で何とかするから」

「ではお言葉に甘えて」

 そう言うと彼は走ってすぐにその場を離れた。誰だってマンドラゴラの叫び声なんか聞きたくないから当然の逃避である。

「対マンドラゴラ用耳栓ってどこで売っているのやら‥‥‥」

「何言ってんだニコラス、別に耳栓なんかいらねぇだろ」

「はい?」

 彼は一瞬何言ってるんですか? と耳を疑った。

「見てろ」

「ってちょっ、艦長!?」

 ゼスルータは試しにマンドラゴラを一株引っこ抜き、間髪入れずに顔面を殴る。

「‥‥‥何が起きたんっすか?」

「こいつが叫ぶ前に顔面を殴った。そしたら気絶(?)して叫ばない。けど本体の根の部分が潰れてあまり使い物にならないけどな」

「ダメダメじゃないですか!?」

「ねぇ、朝食はまだなのかしら? というより、そこで何をしているわけ?」

「そーだそーだ、フェルリア姉ちゃん早く朝ご飯作ってよ~」

 そこへ、起きてからずっと朝食を待っていたネイラータとローゼンが様子を見に来る。

「遅くなってごめんね、すぐに作り始めるから」

「早く早く~」

 彼女はローゼンを連れてキッチンへ行く。

「あの変態クソ狼男がマンドラゴラを100株も送り付けてきやがったんだよ」

「一株無駄にされましたけど‥‥‥」

 貴重な素材だっただげに、ヴォーロルルは残念そうにペシャンコになった残骸を見つめる。

「あら、マンドラゴラぐらい扱うのなんて簡単じゃない」

「どうやって?」

「アトリビュート、アイス」

 ネイラータの髪は艶やかな水色へと染まる。これが彼女が氷属性魔法を使う時のフォームのようだ。

「フリーレン」

 彼女がマンドラゴラが入った大きな木箱に触りながら唱えた瞬間、木箱全体に霜が付く。

「抜いてごらんなさい」

「‥‥‥おお、これは凄い!」

 恐る恐る土から抜いたマンドラゴラは叫び声ひとつ上げなかった。よく触ってみると、どうやらマンドラゴラは芯まで冷凍されている。

「流石です! ネイさん」

「これくらい当然よ」

「にしても都合がいいです。これがあればリアム用のスライム義手をよりスムーズに動かせるように出来ます」

「そうかそうか、じゃあ後で写真を撮ってアイツに送るか」

 ゼスルータは物凄くニッコリした笑顔でカメラを取り出す。

(もしかしてどっちかが音を上げるまで嫌がらせを続けるわけ‥‥‥?)

 ネイラータは彼に聞いてみようかとも思ったが、知らない方がいいと考え、心の中にしまっておいた。

『皆、もう朝食の準備が出来たわよ』

 彼女は伝声管で皆を呼んだ。

「分かった、すぐに行く」

 食堂では既にローゼンが朝食を食べているところだった。

 メニューはK-Brotにクランベリージャム、マカロニサラダ(昨日の残り)、それにハムとお好みでミルクティーかコーヒーだ。

「おっはよー!」

「ラゼル、元気なのはいいがレゼルバ達はもう行ったぞ」

「あり? ちょっと早くないっすか?」

 予定の時間を間違えたかと、慌てて腕時計を確認する。

「一周回ってウルバルトのせいです」

「ってことは嫌がらせのやり返しのやり返しっすね。まっ、とにかく急がないと。頂きます」

 ラゼルの勘の鋭さに感嘆したジルをよそに、ラゼルはK-Brotにジャムを塗ってがっつき始めた。

「では私達も、頂きます」

 皆それぞれに食前の挨拶を言い、朝食に手を付け始める。

「ねぇルータ、私達使節団組はもうすぐでこの国での用事が済むのだけれど、次はどの国にいくのかしら?」

「すまんが俺にはやるべき事がある。だからここにはもう少し滞在することになるかもしれない」

「艦長、それは月面司令部からの指示ですか?」

「いや、俺の独断だがほっとくと色々まずい事になるだろうからな。ルルとホーネットが攫われた件も、あとで本国政府に知られたらローズウェルの仲が悪くなるかもだし」

「どういうわけ?」

「いずれ分かる、としか言えない。だが独断と言っても軍法会議にかけられる事はしないし、出来るだけ使節団組が所用が済む前に終わらすつもりだ」

「ならいいわ。ルータも含めて、私達の努力が無駄になるのはごめんだから」

「よく分からないけど、頑張ってください」

「ニコラスも協力してくれるし、今回は沢山の味方がつくから大丈夫だ」

「ええ、その通り」

 その後は、一言二言会話を交わし、食事を終えた者から順に席を立つ。そしてゼスルータは艦長室へ戻り、“その時”を昨晩警視庁がコピーし渡された一部の資料を読みながら待った。

(成程、これをわざわざよこした訳だ!!!)

『ローズウェル警視庁本部ヨリ電話デス』

「繋げ」

 アスナからの報告に、ゼスルータは淡々と指示を出す。

『作戦決行時刻と場所を伝える。時刻は10時半、場所はローズウェル城会議の間』

「了解した、こちらもすぐに向かう」

『では、また後程』

(ああ、やっとだ。やっとこの時が来た‥‥‥)

『聞こえるか? ニコラス』

『ええ、聞こえてますよ』

『時刻は1030(ヒトフタサンマル)、目標地点は城の会議の間だ』

『了~解、車はこっちで用意しますぜ』

『頼んだぞ』


―ローズウェル城 会議の間―

 ここは、文字通りローズウェルの政策・軍事政策など、国家における重要な事案に対して会議を行う場である。基本、王の立ち合いの下で行われる。

「定刻になりましたので、会議を始めます。まずはアンリ・ホーネット王女様が誘拐され、アトラ・ヴィルドに騎士団団長の責務が務まるかどうかについて」

 議長が言い終わると同時に、ある男が開口一番、ヴィルドを糾弾する。

「早速ですが、この度の事件によって、彼の騎士団団長として相応しくない事は証明された。従って陸軍としては彼の現職の座を退いていただきたい!!」

 声の主は陸軍卿ガパラであった。彼は好機とばかりに彼、すなわちヴィルドの失態を会議が始まった途端から責め始める。

「ガパラ殿の発言はその通りかもしれん。しかし代わりが務まる騎士などどこにいるというのだ?」

「それなら我々が陸軍出身の者から推薦致しましょう」

「いえいえ、そこは我々海軍が推薦しましょう」

「おや、その発言は今回失態を犯したヴィルド君が海軍出身である事を知っての発言か?」

「ちゃんと宇宙ではなく洋上の方から選びますよ」

 ローズウェル騎士団団長の座は各軍から推薦された人物を議長が選び、国王かあるいは女王が任命することによって誕生する。自分のところから任命されれば、軍の内外からの評価は当然上がるので、海軍も必死に舌戦を繰り広げたが、陸軍卿ガパラにはそれ以外にも思惑があった。

(儂の息のかかった者が任命されれば今度はしくじらん。ヴィルドやゼスルータとかいう小僧に証拠が気付かれている様子はないし、処分も命じたから問題は無い)

「まぁとりあえず推薦人について書かれた資料を提示して貰えますかな?」

「確かに、こうも舌戦を繰り広げても時間の無駄だろうしな」

 舌戦が長くなることを悟った議長とアンリ女王が2人を制した。そして、重厚な扉がゆっくりと開いたのはその時だった。

「こんな会議は必要は無いですよ、議場の皆様方」

「ルータ!? 何でここに‥‥‥」

 先程まで苦い顔をして押し黙っていたヴィルドも、これには流石に意表を突かれる。

「ルータというのか、同盟国の軍人とはいえ勝手にここへ入るのはいかんぞ」

「今回は一軍人としてではなく、王女様と部下を救出した者として、また“オルハ・ルナ・ゼスルータ”という一個人として証言と文句を言いに来ました」

「何を言うかとおもえば‥‥‥。衛兵、速やかにこいつをつまみ出せ!」

 ガパラは一件普通に怒っている様であるが、ポーカーフェイスが上手いらしい。

「よいではないか」

「し、しかし‥‥‥」

「それにガパラよ、我が娘の命の恩人に対して“こいつ”とは、聞き捨てならんな‥‥‥!」

 冷たく、それでいて火山の噴火が如き怒りを込め咎める。

「申し訳ございません」

「それは私に対して言うべき言葉でしょう。まあ、あなた方にとって私が邪魔な存在である事は承知ですが」

「それはどういう事かな?」

「犯人達が使っていた武器が陸軍のEM-7だったのはどういう事ですかぁ?」

 ゼスルータは煽るわ煽る。かなりの喧嘩腰で高らかに挑発する。

 勝利を確信しているからこその演技だ。

「そんな馬鹿な!?」

「実物ならここにありますが?」

 彼が担いでいたEM-7を見せびらかす様に振り上げると、ほとんどの人がざわめき出す。

「一体何故その銃が‥‥‥?」

「まさか陸軍関係者者と犯行グループはグルだったのか!?」

「ガパラ殿、渡された資料にはそんな事は載っていないのだが?」

「そっ、それはこやつの戯言で‥‥‥」

「おいおい、どういう事だよ!?」

 議場にあふれる混乱。それを先程とは打って変わって、上から目線の彼の一言が波を沈める。

「端的に言うとヴィルドは嵌められたのだよ、そこのガパラとかいう裏切り者にな」

「何を言う、陸軍に裏切り者がいるからといって何故その者が私になる?」

「言葉で言うよりも現実を見せた方が早いでしょう」

 ゼスルータが指を鳴らした瞬間、ニコラスと武装したグループが会議の間へ突入し、ガパラを取り囲んだ。

「貴様、いつの間に軍を!?」

「女王陛下、私は合図をしただけで、彼らの指揮権は持っていませんよ」

「何? ああ、彼らは警察の機動隊か」

「ガパラ・クルーガ。貴様を銃器取締法違反、奴隷売買禁止法違反、並びに賄賂の受け取りなど、45の容疑が掛けられている。大人しく署まで来てもらおうか」

「ちょい待ち、奴隷売買までやってたの!?」

 驚いているが、(あーあ、こいつやってんなー)と呆れが混じっているのがヴィルドの表情から見て取れる。

「あの資料の中にあったのではないのか?」

「いや、無かったはずですよ!?」

 ニコラスは首を傾げつつも、手に持っている拳銃はしっかりとガパラの眉間へ向けていた。

(ならあれは警察が以前から入手していた証拠か?)

 こちらが入手したのは2人の誘拐に関するものだけであり、奴隷売買についてはまだ証拠を固める段階であった。

「まぁいい。それと、妹が世話になったな‥‥‥!」

「何の事だ?」

 ガパラの意味が分からないという顔と答え方に、彼の目から感情が消え去る。

「あっそ、覚えてないんだ」

「だから何の事だか‥‥‥」

「私には妹がいたのですよ、8歳の頃にこの国に殺された可愛い妹が。で、妹を連れ去った誘拐犯の雇い主があなたなのでしょう?」

「さっ、さぁ? 君の勘違いなんじゃないかなぁ」

 咄嗟にゼスルータは彼の胸倉を両手で掴み、地面から足を離れさせる。

「そう言うなら目をそらすなよ、なぁガパラ陸軍卿」

(まずい、ルータは本気だ!)

 ヴィルドは友の感情の無い目の中に、殺気が渦巻いていることをすぐに覚る。

「ガパラ殿、謝るなら今のうちです! そしたらせめて‥‥‥」

「フンッ、誰が化物風情に頭を下げるか」

「ガパラ陸軍卿‥‥‥?」

「大体、君がこんなものを友人と言う意味が分からん。エルフなど、娼館で飼われておけばよい存在相手に友情だと? 君は人を笑わせるのが得意な様だ」

「貴様!」

 彼は怒りのあまり、気が付けば腰に携えていた剣を抜いていた。

「ヴィルド、俺を友と呼んでくれた君がその様に怒りを覚えてくれたのは正直に言って嬉しいよ。それと俺がこの場で殺戮をする心配はしなくていい」

「随分と冷静だな、だがそれでいいのかね? 復讐すべき相手が目の前にいるのだぞ」

「何でそんな挑発ばかり‥‥‥」

 彼はふと思ったことを口にしていた。この状況でゼスルータに挑発するのは、彼が周りを気にしないのであれば、寿命を縮める行為の他ならない。

「知っているか? ロズワント帝国での最高刑が何なのか」

「絞首刑か、吸血鬼に対しては銀の刃での斬首だろう?」

「ええ、“一般の重度の犯罪では”そうですね」

「‥‥‥? それが何か?」

「貴様の様な屑野郎にはそれ以上の極刑が用意されているのだよ‥‥‥!」

「どういう事だ!?」

 アンリ女王は耳を疑った。残虐な刑はどの国でも禁止されているはずだと。

「陛下も知っているでしょう? 昔ロズワントの民が奴隷売買目的で連れ去られ、怒りに燃えた大帝陛下は外道共にある極刑を下した」

「‥‥‥アイアンメイデンの中に入れ、ピアノ鋼線で首を絞めながら直接炎で焼く当時の最高刑だな」

「「当時は」ではありませんよ」

「何を申す、その刑は‥‥‥!」

 廃止された、と言おうとした彼女はある事をハッと思い出す。

「お気付きになられましたか? そう、その刑は明確に廃止されていませんよ」

「それにルータの妹を殺すのを手伝ったんだ。身柄の受け渡しの要求、おまけに彼をロズワントの法で裁けられる、か」

「そういう事だ。そこの屑野郎ガパラ、法の名のもとにおいてその身を以て絶望と苦痛を味わうがいい‥‥‥!」

 鬼気迫る、とはこういう場面のことを言うのだろう。先程までと異なり、殺気を纏い、同じくそれを宿した目を向けられ、ガパラはおろかニコラスや機動隊員までもが臆しないはずがなかった。

「誰が貴様ら‥‥‥」

 言い終えない内に、ゼスルータは掴んでいた手を放した。故意にではない。何か細いものが勢いよくぶつけられた感覚に思わず反射的に手を放してしまう。

 直後何者かにガパラは担がれたかと思うと、気が付いた時には腹部と首筋が深く切られていた。

「えっ‥‥‥?」

 あまりの速さにゼスルータが、友人が倒れていく様をヴィルドは呆然と見ることしか出来なかった。

「ん? おおっ、助けてくれたのか!?」

 振り返ると、腕にガパラを抱えた漆黒のローブを纏った鉄仮面の誰かが居る。

「あなたから情報が漏れると厄介ですからな。にしても、刃が通らないって何なんだ、あの腕?」

「おまけに生意気なクソエルフまで片付けてくれて感謝するぞ」

「‥‥‥お前は誰だ?」

「誰が名乗るか。にしても、お前まさかそいつが殺されて怒っているのか? だとしたら‥‥‥」

「だとしたらお前ら2人を殺すまでだ」

 ゼスルータに負けず劣らずの殺気に2人一瞬ビクッとひるんだ。

「落ち着け、ヴィルドよ!」

「落ち着いていられますか女王陛下!」

「‥‥‥戦えぬ者はすぐに避難せよ。そして、この2人は何としてでも捕らえよ。殺してはならんぞ」

「そんな暇与える訳ないだろ」

 漆黒の者は2本の指で挟める程の小さな玉を取り出し、床に投げつける。

「何だコレ!?」

 途端に煙が会議の間に充満し、視界は遮られてしまった。

「換気だ、すぐに窓を全て開けろ!」

 周りの者が近くの窓の鍵を手探りで探し出して開け、何とか煙を外に追い出すことが出来た。が、2人は当然その場にいるはずがない。

「逃げられたか」

「‥‥‥?」

 ヴィルドは蒼白な顔で辺りを不自然にキョロキョロと見回していた。

「彼は、ルータはどこですか?」

「何言って、ってあれ?」

 ゼスルータが倒れたはずの場所には、血溜まりはあっても彼の姿が見当たらない。

「まさか連れ去られた?」

「んな訳ねぇよ」

 声の聞こえた方に振り向くと、ゼスルータが立っていた。

「傷が無い。キュアポーションで治したのか?」

「そんな馬鹿な!? 致命傷だぞ」

「簡単な話だ。俺は不死身なんだよ」

「不死身ってお前、エルフだろ?」

「腕見りゃ分かるだろ。少なくともただのエルフじゃない」

 そう言って自分の黒い腕を見せ、宝石に似た紫色のかぎ爪を生やして見せる。

「あー、でもそれって結局何なんだ?」

「自分でも分からん。だが何かの呪いみたいなものであるのは間違いないな」

「ところで、ただ死んだふりをしていた訳じゃあないだろう?」

 そう、あの致命傷を受けたのはわざと。暗殺者が紛れていたことに最初から気付いていた上で、利用したのだ。

「ご名答、あいつらが走って逃げる前にガパラに盗聴器を投げ付けた。ニコラスが俺に仕掛けたのをな」

「盗聴器? 何でそんなもんルータに仕掛けたんだ?」

「うちの社長キャプテンから「ルータは何されるか分からねぇから盗聴器の1つや2つ、仕掛けておけ! そしたらルータが事件に巻き込まれてもたぶん無罪を証明出来る」と前に言われたので」

「ああ、アレがあったもんな」

 「アレ」とは、レニムから女体化薬の失敗品を気絶させられた状態で勝手に注射された事件の事である。

「アレって何の事だ?」

「あんまり言いたかねぇよ、アレは」

「それはよいとして、まんまとやられてしまったな。あやつらを捕えれば例のブラック・マーケットの在処を聞き出せたかもしれなかった」

「安心しろ、全部軍令部がとっくの昔に突き止めている」

「はあ? 帝国宙軍の軍令部が?」

 ヴィルドが訝しむように、どう考えても軍令部がやる事ではない。それこそ警察や、力不足なら諜報機関の領分のはず。

「して、場所はどこであるか?」

「ちょうど戦艦ハイゼルクが停泊している所の真反対、そこの海岸近くですね」

「首都から離れていて警察などの目が届きにくいし、かつ海外から攫って奴隷にした者をすぐに売り出せるって事ですか」

「そういう事だろうな。だがこれは都合がいい。ハイゼルクで海から、陸から戦車で挟撃が可能だ」

「国家対非国家の大戦争ですか。腕が鳴りますな」

「待ってくれたまえ、先程から聞いていれば何やら物騒な話をして、同盟国とはいえ派手にそんな事をされれば‥‥‥」

「あ゛っ? 文句があるなら自分らでもっと早くブラック・マーケットを潰しておけば良かっただろ。それとも、貴様もあの2人と仲がいいのか? だったら先にヴァルハラへ送ってやろうかッ!?」

 ある議員が慌てて釘を刺そうとするが、逆にその釘を奪われ奥深く食い込まされる。

「ヒィッ!」

「よせ、今はいがみ合っている場合ではなかろう」

「しっ、しかしながら陛下。彼は超弩級戦艦を沈める程の火力を誇る魔法が使えるのですぞ。そんなものを放たれればどうなることやら‥‥‥」

「俺だって手加減という言葉の意味は理解してるわ! ったく、これだから臆病な政治家は‥‥‥」

 確かに手加減は知っているし理解もしているが、元の火力が高過ぎるゆえ、それでも周囲から見ればやり過ぎな事この上ない。

「それは敵の戦力によって変わってくるだろう。んで、敵の戦力ってどれくらい?」

「ブラック・マーケットを運営しているグループは複数いるうえ、おまけにガパラはあくまで権力を使って軍を抑える役割を担ってただけだ。警備に関しては‥‥‥情報が古い。更に強化されるだろうな」

「まいったな」

 戦闘の他に救助にも部隊は必要となる。それにロズワント帝国側が事態を把握しているとなると失敗すれば国際問題、下手に数を絞る訳にはいかない。

「だが施設の内部の構造は把握済みだ。それと、敵もそんなに数は多く出来ない広さだ。流石に2個小隊あれば充分だろう。もし何かあっても切り札がある」

「それで、いつ叩きにいくのかしら?」

 皆が一斉に振り返る。

 声の主は、会議の間の開いた扉で堂々と仁王立ちで構えていた。

「ネイラータ!? 何でここに」

「昨日の晩から何か企んでいるのを匂わせていたから、追ってきたのよ。それで、ブラック・マーケットには奴隷商やら犯罪者が集まっているのでしょう? だったら、その反社会的勢力の掃討部隊の指揮官は私が務めてもいいかしら?」

「ちょっと待った!」

 またもや扉の向こうから声がした。その声の主は、彼女が聞くだけで不快になり僅かながらも怒りを覚え、同時に細胞レベルで拒絶反応を起こしてもおかしくない阿呆のものだった。

「何であんたがここに来るのよ!? 病院にいるはずじゃなかったわけ?」

「このオドア、皇女殿下の為なら重傷を負おうとも、たとえ火の中水の中でも駆けつけます!」

「部下からかなり慕われてるようだな」

「‥‥‥オドアなんて大っ嫌い!!!」

 嫌われるのは自分が変態なせいであるのに、逆上した上ゼスルータに八つ当たりする。

「おのれゼスルータ! さては我らが麗しき皇女殿下をたぶらかしているのだな」

「ああ、マジでこいつの首を切り飛ばしてやりたいッ‥‥‥!!」

(ネイからそんな言葉が出るとは思いもしなかった)

 彼女が本気で腰に携えていたレイピアに手をかけたその手を、ゼスルータは誰にも気付かれない様にそっと手をつなぎ、彼女が変態オドアを切り殺すのを未然に防ぐ。

「落ち着け。後であいつを殴ってやるから」

(えっ、恋人つなぎ!?)

 本人もそうとは知らずに恋人つなぎをしたせいで、ネイラータは彼に寄り添った。

「ルータったらぁ!」

「えっと、何か恥ずかしいな」

 それは異性に寄られたからというよりも、大勢の前で誰かに抱き寄られたことがないから恥ずかしく感じており、恋とは全く関係がない理由によるものであった。

 ‥‥‥本人がそれを知れば、激怒し引っ叩たくのはまず間違いない。

「平民風情が皇族と結婚するなど、少なくとも私は認めぬぞ!」

「オドア、血統に縋るなんてみっともないわよ!」

「なら貴族と皇族となら結婚してもOKなんだな? だったら結婚式では盛大に祝えよ」

「ほほう、平民の癖に貴族であるかの様に言いふらすのか?」

「勲章のついでに「フォン」も貰ったよ。それが何か?」

「「「‥‥‥え?」」」

 「フォン」とは、新規叙爵組(準貴族)が自分の姓に付け足して名乗ることがあり、階級を示すものでもある。彼がその準貴族であることを初めて聞いた彼女達は暫くの間思考が停止した。

「ちょっと、そんなこと聞いてないわよ!」

「知らなかったのか? 王国海軍でも一時期有名になった話だぞ。確か「黄金ユグドラシル葉・竜剣ダイヤモンド付騎士鉄十字章」だったっけ。確か‥‥‥」

 ヴィルドいわく、その勲章は彼があまりの大戦果を挙げた為に授与できる勲章が無くなってしまい、ならばと彼だけの為に作られたものだとか。

 その理由とは「戦車1000両、主力艦計155隻、召喚されたワイバーン34頭、及びドラゴン3頭(それぞれ五帝将より一段下レベルの戦力)、航空機計3000機」という、未確認を含めていないにも関わらず、訳の分からない戦果を記念して授与されたという。

「ローズウェルでは俺のことをずっとリークしてたのか。まぁいい。だが、「オルハ・ルナ・フォン・ゼスルータ」なんて名乗る気はないぞ、貴族とか興味ないしな」

 興味がない上、名誉とも思っておらず、おまけに目立つのが嫌すぎてメディアの取材を全て拒否している。それで彼については大本営の戦果発表でしか触れられず、名前は知れ渡っているにも関わらず、本国では戦果の割には顔はあまり知られていない。

「しかしすまないな、結果的に隠した形となってしまってな」

「先程の無礼は謝ろう、申し訳ない。だが、話を戻すが掃討部隊の指揮官の任に皇女殿下が着任するのには反対だ。せめて護衛が必要だ。そうでなくては皇女殿下の身に何かあった時、少なくとも責任が重くなるぞ」

「こいつ、変態の癖に正論を言ってくるわね。どうせ自分が護衛役をしたいからなのでしょうけど、あんたなんかに頼んだりしないわよ!」

「なっ!? それでは皇室親衛隊の存在意義が無くなるではないですか!」

「そんなこと知らないわ!」

 日頃から彼の行為にうんざりしているのか、彼女はあからさまに苛立ちを見せ、そっぽを向む。

「あー、ならひとついい案があるが」

「なになに、どういう案!?」

「それを見せる為には‥‥‥。女王陛下、貴国の軍事演習場をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「そうだな、見学してもよいなら構わぬ」

「ありがとうございます。それとニコラス、ルルとラゼルを呼んでくれ、あとローゼンも。近くにいる方が安心できる」

「ちょい待ち、ルルは義手を作っている頃だし、ラゼルは大使館へ行ってる頃じゃね?」

 仕事の邪魔をするべきでないのと、嫌な予感を感じ取ったヴィルドは、呼ばない方がいいのではと指摘する。

「義手は作っているどころか完成しているだろう。ラゼルはむしろサボる口実が出来たと喜ぶかもな。そうだリアムも呼ぼう。男なら見て喜ぶかもな」

「なぁルータ、何を見せるの?」

「ヴィルドよ、それは見てのお楽しみだ」


―ローズウェル王国ネーズビー軍事演習場―

「あの、一体何をするんですか?」

「とその前に、ルル」

「はい、準備は出来てます。では早速‥‥‥」

 彼女が両手に抱えているのは、大きなスライム状の塊。それをリアムの左肩の切断面に浸けた途端、一瞬にして青く透き通った硝子色の腕を形作る。

「はあ‥‥‥凄く綺麗」

「気に入りましたか?」

「もちろんです! 一生大切にします。それと、色々とありがとうございます」

 リアムは深々と、子供とは思えないくらい律儀に頭を下げた。

「別にいいよ。さて、アレを出しますか」

 そう言って、ポケットから小さな水晶玉を取り出した。ダイアルなどは一切付いていない、安物の使い捨ての様々なものを収容できる収納型マジアムだ。

 それにひびが入り放たれた光球から現れたのは、他に類を見ない、台形の砲塔を持つどっしりとした大型の重戦車だった。

「いやスッゲェ! どういう戦車だ?」

「全長15m、車体長13.7m、全幅4.4m、全高4.4m。重量200トンで最高時速70キロ。主砲は20.3サンチKr戦車砲、副武装は8サンチKr戦車砲並びに8mm機関銃が左右正面に2丁。装甲厚は最低でも70mm、最高で254mmと帝国陸軍では過去最高クラス。動力源は小型化エーヴィヒ・リアクターを搭載し、戦車としては初めて軍艦と同じ爆裂魔弾が発射可能。近々軍に納車予定」

「それ勝手に使っていいのかしら‥‥‥?」

 どう考えても使用許可は下りていないだろう。無断使用が知られれば怒られること間違いない。

「俺が作ったものだし、納車前の試験運用と言って誤魔化したら問題ない」

「それ大丈夫か~? 怒られても知らないぞ~」

 ラゼルは茶化すが、本当に誤魔化せられるのか、全く相手にしない。

「素晴らしい技術力だな。して、一体何の為に使うのだ?」

「今回目標であるブラック・マーケットは半ば地下に埋もれており、出入口は普段は隠され、かつ重工な金属製の扉で防御されております。他にも非常口はありますが、やはり大部隊を突入させるにはそこ以外は厳しいでしょう。そこで、この重戦車<ノイ・マウス>の主砲で入口をこじ開けるという訳であります」

「あれ、ノイ・マウスって確か開発中で名前以外は極秘じゃ‥‥‥?」

 フェルリアは兵器開発とは無縁であるが、行動を共にしていることが多い為嫌でも名称ぐらいは耳に入る。

 それに「㊙」と印が押された、「ノイ・マウス」と書かれた封筒が艦長室の彼の机の上に置かれていたのをそっと引き出しにしまったのを覚えている。

「昨日の帰りに不足していた素材を買って完成された。あと、さっき言った性能はカタログデータで実際はちょっと変わってくるかもだから別にいい。けど設計だけは極秘だからな」

「ねぇルータ兄ちゃん、これって誰が乗るの?」

「そうだなぁ、俺は突撃班に同行するから‥‥‥。ラゼルは砲手、通信士はルル、操縦士はニコラス、戦車長兼指揮官はネイラータ。それでいいか?」

「おお、派手に大砲が撃てるんっすね。任っせ~なさい!」

 砲手としての経験が全く無いが、テンションだけで乗り切るつもりのようだ。

「軍人だった頃は戦車を操縦してたが、ここまで大きなのは初めてだな」

 早速操縦席へ乗り込むニコラスは、操縦桿などをまじまじと見つめ、感激していた。

「乗りこなせそうか?」

「左のレバー前後後に、右の円板に付いた四角い取っ手で方向転換ですよね?」

「そうだ。分かっているなら大丈夫そうだな。問題は‥‥‥」

 と言っている間に、砲塔が何か目標を求めるかの様に動き出し、砲口が天を仰ぐ。

「ちょっとラゼルさん!?」

「ひとつのレバーだけで照準を合わせたり撃ったりが出来るんすね? これ凄く簡単じゃないっすか!?」

「まだ撃つな!」

 先走って誤射しないよう、ゼスルータは上官らしい怒声で釘を刺す。

「分かってるっすよ~。ルータちゃんもせっかちなんすから~」

「こんなものがなくとも、我が皇室親衛隊は皇女殿下を絶対に守り通せる!」

「その事なんだけれどさぁ‥‥‥」

「ねっ、姉さん?」

 フェルリアのその声は普段の表情からは想像できない程、笑顔なのに恐怖を感じてしまう、どこか冷徹さがこもった声だった。

「な、なんでしょうか?」

「ラゼルが酒に酔って「オドアなんて大っ嫌いだ!」とか言ってたのを聞いてルータに2人に何かあったのかしらって聞いたの。そういやオドアが来た時ネイと同じ様に苦虫を嚙み潰した様な顔をしていたなって。で、気になって調べてみたの、ラゼルの過去を‥‥‥」

 そう言いながら一枚の紙を取り出すその表情は、悪魔すら震え上がると思えるくらい、冷たく怖い能面。

「ラゼルは元皇室親衛隊隊員で次期副隊長候補だった。にも関わらず突然免職、後に大使館の警備員へ左遷。理由を調べてみたところ、「隊長オドアにネイに対するストーカー行為を批判したから」。これってどういう事かしら?」

「ストーカー行為? いいや違うね。私がやってきたのは愛の証明さ」

 ドヤ顔を決めるオドアに対し、ネイラータの方は怒りを通り越し、呆れてものも言えない。

『そうっすよ! あの時の事は一生忘れないっすから!』


―4年前―

「ああ、今日もいい匂いだ。今日の香水はきっとスズランの花の香水だな」

「‥‥‥隊長、ちょっといいですか?」

 相変わらずネイラータに関する気持ち悪い発言をしているオドアに対し、我慢の限界に達していたラゼルは、踏ん切りがつき彼を呼び止める。

「何かなラゼル? もしかして君も今日も麗しい皇女殿下に興味が湧いてきたか?」

「そうじゃなくて、具申したい事があるのですが‥‥‥」

 一度深呼吸して、満を持した彼女は周りに聞こえる様に大声で言い放つ。

「隊長のそういうところストーカーみたいで本っ当に気持ち悪いっす!! 今からでも改めないと皇女殿下から嫌われますよッ!!!」

 周りいた他の隊員達は正論だとオドアに対し少し冷たい目線を浴びせた。だが、それに気付かずに彼女に告げたのは余りにも理不尽極まりないものだった。

「ふざけた事を言いやがって! 君は懲戒免職だ!」

「はぁ!? ふざけているのは隊長でしょう!」

「うるさい!」

 彼は全く聞く耳を持たず、一方的に処分を決めてしまう。


 オドアのクズっぷりが誰にでも理解できる、クソエピソードだった。

「―貴族だったこいつには誰も逆らえなかったが、友人の伝手で大使館の警備の仕事に就いたものの、これがきっかけで酒を飲むようになった、というのが真実よ」

「‥‥‥お前相当な屑だな」

「何だと!?」

「因みに私が集めた“証拠”は全部ゼハルト閣下に送っといたから、あなた確実にクビよ」

「何故そうなる? 理解に苦しむな」

「はぁ~、言っても理解しないのね。ねぇルータ、ノイ・マウス用の砲弾ってあるかしら?」

「今回用意した徹甲弾は3発とも全て演習弾だが、炸薬が少ないだけで当たったら普通に貫通するが‥‥‥」

「あら、ルータだってこいつに手榴弾投げたりしたじゃない?」

(どこで知ったんだよそれ、つか他人を「こいつ」と言うのって本気で怒ってるなこれ‥‥‥)

 フェルリアは、理不尽な理由で他者を陥れる者を極度に嫌う。

 そしてそういうクズには絶対に敬意を払わないことを、弟であるゼスルータはよく理解している。

「まさか私が標的になれとでも言うつもりではないだろうな?」

「あら、変態の癖に頭の回転は速いのね。ウィリアムさん、この屑野郎を縛って磔にしてくれるかしら?」

「騎士たる者がそんな馬鹿げた事をする訳が‥‥‥」

「何て言ったかしら?」

 いつの間にか両手で持っていた、八連装のかなり大きなミニガンで脅す。まともに喰らったら間違いなく即死だろう。

「おまっ、そんなもん一体どこで!?」

「陸軍から拝借したのよ。この屑野郎にとどめを刺す為にね。あ、別に他の方々を脅すつもりはないから」

(現在進行形で脅してるんだよな~。でも言ったら火に油を注ぐ様なものだから黙っとくか)

 本気で激怒している姉の機嫌を、更に害せば数日は弟ですら口を聞いてくれなくなることを恐れ、ゼスルータは沈黙を貫く。

「わわ分かった、やればいいんだろ」

「えっ、ちょっと待っておい!?」

 ウィリアムは有無を言わせずに、彼を磔に縛ってノイ・マウスの射線上に突き刺した。

「いや、マジでやるの? 死ぬよ、冗談抜きで!」

「仕方ないわね。じゃあ百歩譲って足元に撃つわ。ラゼル、それでいい?」

『了か~い。そんじゃ、長年の恨みを思い知りあがれー!』

 直径20.3サンチの大口径を誇る砲身から、音よりも早く進む徹甲弾。それが放たれる前にゼスルータは大変なことを思い出した。

(あっ、そういや演習弾といっても安全の為に一定時間後に自爆するんだった‥‥‥)

 演習用の徹甲弾は、内部機構やパラシュートなどで弾速を低下させ、安全性を高める措置が施されている。そのうちのひとつに自爆という方法があったのを思い出し、制止しようとしたが既に遅い。

「お、おい! やっぱやめ‥‥‥」

『フォイヤー!』

 戦車乗りでも聞いた事が無い砲声が轟く。とほぼ同時に演習弾は地面にめり込んだ。

「助かった‥‥‥?」

 安堵したのも束の間、安全性の為とはいえ砲弾の自爆機能が炸裂。それはかなり強力‥‥‥などというものではない。

「ゴフェー!」

「何か‥‥‥ごめん」

「これどういうわけ?」

「安全の為の自爆機能。たぶん空中で爆発したら破片が飛んできても戦車の中なら安全だから付いてるのだろうけど、これあったの忘れてた‥‥‥」

 どこへ吹っ飛んだのか分からない勢いで爆発に呑まれ、無事では‥‥‥というかもうあの世まで飛んで行っているのかも知れない。

『まいっか、ざまあ見やがれこのクソド変態が!』

「ラゼルお前なぁ‥‥‥。しかし見苦しいところをお見せしまいました。本当にすみません」

「それはいいとして、とりあえず彼を担架で医務室まで運んで差し上げろ」

 数十分後に発見されたオドアは運ばれ、演習は当然中止となり解散となった。だが、作戦決行は明日だ。ハイゼルクの艦長室でゼスルータ、ネイラータ、ヴィルド、ウィリアム、そして陸軍からハルトマンの5人が集まり、打ち合わせをする。

「これから作戦会議を行う。まず、これが内部構造をまとめたものだ」

 机上に巻いていた地図を広げた。内部は彼らが思っていたよりも複雑で、簡単には攻略できなさそうだ。

「思ってた以上だな。地下3階まであるのか‥‥‥」

「地下2階の半円のホールが会場、つまり(奴隷の)落札の場ですかな?」

「だとしたらその下の階は‥‥‥一番嫌な所でしょうね」

「その通り。で、1階に責任者がいて、身元確認もそこでやっている。地下1階だと盗品を扱っているんだとよ」

「そいつらは真っ先に捕らえるとして、最終的な攻略目標は?」

「ここだ」

 ゼスルータは地下3階全体を指で円をなぞって示す。

「ネイが思っている通り、ここには誘拐された被害者が捕らえられている」

「では彼らの救出の為にも絶対に、ですね」

 ゼスルータは何も言わず、ただ頷く。

「まず、正面の扉はノイ・マウスの主砲で破壊する。そして俺とフェルリア、ローズウェル騎士団が突入する。反対側は海に面していて、海外から誘拐した者を連れて来たり、万が一の脱出路にもなっている。ジルが指揮を執ったハイゼルクで塞ぐつもりだが、念の為直接海上を封鎖したい」

「何なら我々陸軍が揚陸艇でそこから攻めようか?」

「ならそうしよう。それともう一つ、明日にはガパラとブレイブ教の幹部クラスの奴が来るらしい」

 その情報の「出処は?」と質そうとしたヴィルドを、ゼスルータは目だけで睨んで黙らす。

「だから明日に決行するって言ったのか」

 代わりに納得した感を出すが、他には気付かれなかった。

「なら、そいつらも捕らえていけ好かないブレイブ教徒共に一泡吹かせてやりましょう」

「ああ、そうだな。作戦開始時刻は0420(マルヨンフタマル)、他に質問は‥‥‥? 無いなら解散だ」

 ゼスルータ以外の4人は席を立ち艦長室から退出する。一人部屋に残った彼は、心の奥底から復讐の炎を滾らせる。

(待っていろ外道共! 貴様らは必ず俺の手で殺してやるッ‥‥‥!!)

 それからは、明日に備えて睡眠薬を飲み、早めにベットに横たわる。

(あいつらがいなければ、こんなものに頼らなくても済んだのにな)


                                         第六話・終

 お久しぶりです。ルティカです。ごたごたが積み重なり、完成はしていたのに後書きに全く手が付けられず、今まで投稿できず申し訳ございません。

 さて、急ではありますが、4月あたりからペンネームを「リキュ・プラム」に変更しようかと思っています。新しいことが始まる月だし、「ルティカ」というペンネーム、実は本作品の登場人物の名前にしようと思っていたもの。でもキャラクター自体は全く思い浮かばず、ペンネームとして流用したけど、由来が無いからそれを問われても何も返答できないので、変更を決定しました。

 じゃあ「リキュ・プラム」には由来があるのかって? あるよ、プラムリキュール=梅酒! 大好きな酒の名前をもじりました。ゲームのプレイヤー名として思い付き、こっちの方が良くね? となりそのまま採用という訳です。

 話は変わり、ゼスルータの過去がだんだんと見えてきた第六話。相当悲惨な過去がある様子‥‥‥これが極めて珍しい例だといいのですが、果たして?

 それは次回のお楽しみ? にして、筆者(私)的には主人公サイドの面々は誰もが書いてて面白いのですが、やっぱりラゼルちゃんの酒カス具合が笑える系では一番面白い。なのに将来どうしようか、特に終盤でどう活躍させようかまだ未定‥‥‥どないしよ?

 まあでも今後もその酒カスキャラで皆様を笑わせてくれることでしょう。

 ‥‥‥筆者たる私は酒カスなのかって? 酔ったら「ああ酔ったわコレ」と自覚するから自然とガバ飲みは避けるのよね。

 皆様も、お酒は節度に楽しみましょう。ラゼルちゃんを見習ったら死にますよ、マジで!!

 それでは次回で、またお会いしましょう!

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