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第五話・いがみ合い 前編

―前回のあらすじ―

 エンジントラブルにより、当初の予定降下地点から大きくズレた地に降り立つハイゼルク。近くにあったヴァミラルの基地を発見し、ゼスルータの指揮の下これを破壊。

 そして艦はローズウェル王国へとたどり着くが、ゼスルータは明らかに機嫌を悪くする。


―ローズウェル王国―

「わ~い、ローズウェルだー!」

 ラゼルは何か楽しみがあるのか、かなりの上機嫌だった。

「どうしてそんなに喜んでいるんですか?」

「ルルちゃんにはまだ早いかなぁ。ここは水の都ローズウェル。当然、いい水が手に入る。つまり、いい酒が出来るってこと!」

 酒だけの為にはしゃいでいるのかというくらい、ラゼルのテンションは異様に高い。

「あんた酒好きだったの‥‥‥」

「盛り上がってるとこ悪いけど、ちょっといいかい?」

 そこへ、白い軍服に金髪の青年が部下を率いて、敬礼する。

「私はネイラータ・ヴィルヘルムと申します。この度は急な来訪による非礼をお詫びします」

 彼の目の前に立ち、ネイラータは辞儀をした。

「いえいえ、むしろヴァミラルの基地を撃破してくれて助かりました。私はローズウェル海軍大佐及び第一航空戦隊司令兼ローズウェル騎士団長のアトラ・ヴィルドといいます。ところでそちらの艦長はどなたですか?」

 その艦長は後ろでそっぽを向き、不貞腐れている。

「あ~、後ろでふてくされている彼がこの艦の艦長です」

「かなり若いですね」

「‥‥‥」

「あなたも随分若そうですが」

 ニコラスが間に入る。ニコラスとローゼンもついて来たのだ。

「失礼ですが、おいくつで?」

 フェルリアが階級の割に随分と若そうに見えると思った。

「今年で24です。何故かここまで出世しましたが」

「本当に若いですね」

「よく言われます。それはさておき、今から王宮へ案内します。よろしいですね?」

「勿論です」

「えー、他の方々は‥‥‥」

「すいません、自己紹介がまだでしたね。この戦艦の航海長のオルハ・ルナ・フェルリアです。これからよろしくお願いします」

「私は護衛のラゼル・エレッタで~す」

「使節団のレゼルバ・マルクです」

「同じくシュトレイ・フォルスです」

「アイヒル・ジェニーです」

「ルイゼ・ハンナです」

「ルドルフ・ティーゼです。どうも」

 ルドルフは右手を差し出し、それにヴィルドが応え、握手する。

「俺は途中彼らに助けてもらったレッドテイルの傭兵ニコラス・フィプスだ」

「れっ、レッドテイル!?」

 ヴィルドは驚いた。軍人どころか、市民でも名を知らぬ者はいない大海賊の一味が目の前にいることに。

「そうびっくりするなよ。でこの子がシャルカ・ローゼン、レッドテイルの娘だ」

「よろしくお願いします!」

「よろしくな、ローゼンちゃん」

 元気に挨拶するローゼンに対し、ヴィルドはしゃがんで笑顔を見せた。

「で、そちらの艦長は?」

「‥‥‥」

 ゼスルータは尚も黙り込んだままだった。

「ちょっとルータ! いい加減にしなさい」

「‥‥‥俺はオルハ・ルナ・ゼスルータだ」

「じゃあゼスルータって呼んでいいか?」

「馴れ馴れしくするな!」

 彼は突然大声をあげた。

「そっか、いやすまない。人付き合いが苦手なんだな」

「うちの弟がどうもすみません」

「てことは姉弟か。にしてもそっくりだな」

「姉さん、いつも言ってるだろ。“人間と仲良くしない方がいい”」

 その声には恨みがこもっていた。

「えっ? どうして‥‥‥」

「どうしてもクソもあるか! どうせ貴様ら人間は魔族を道具としか見てないだろ」

 その言葉に周囲に沈黙が走った。

「そんな訳ないって」

「そんな訳ない? じゃあ何故毎年何百万人もの魔族が死んでいるのかこの場で説明してみろよ」

「それは‥‥‥」

「簡単なことだろ。貴様らが魔族を“道具として使い捨てた”からだ!」

「‥‥‥」

 ヴィルドは何も言い返せない。ゼスルータの言葉は正しいからだ。

 ユーラクラ国などの人間国家の多くの人々は魔族を奴隷にしてもよいと考えていた。だから歴史の中で人と魔族の間で戦争が起きたことも少なくない。

「だが少なくとも俺は魔族を道具とは見ない。人間と魔族は仲良く出来る!」

 その瞬間、ゼスルータは拳銃を彼に向けた。ゼスルータの目には殺気があった。当然、ローズウェルの兵士達は銃口を彼に向ける。

「ルータ!」

「上っ面だけの言葉を並べるな」

 しばしの間、再び沈黙が走った。

「どうせその言葉も嘘なんだろう? 言っとくけどな、俺はヴァミラルよりも貴様らの方を憎んでいる。周りが居なければとっくに引き金を引いているぐらいにな!」

「‥‥‥妹の事か?」

「何故それを知っている!?」

 ゼスルータは驚いたが、それを怒気で隠す。

「ルータ、いい加減にしなさい」

 ネイラータはなだめる様に言い、ゼスルータはゆっくりと拳銃を下げた。

「お前たちも下げろ」

 ローズウェルの兵士らも銃を下げた。

「俺は艦に戻る」

「ええ、その方がいいわ」

 ゼスルータはハイゼルクの方へ歩いていった。

「我が国の将兵の非礼をお詫びします。大変申し訳ありません」

 ネイラータは頭を下げた。

「いえ、こちらこそ。彼の過去も知らずに失言をした私にも責任があります」

「こういうのに慣れているのですか?」

 唐突にヴォーロルルが聞いた。殺気を向けられても、ヴィルドは平然としていたことを不思議に思う。

「まあ、正直言うとそうだな。怒りをぶつけられたこともあった。ロズワントの将校はだいたいそんな感じだ」

「大変申し訳ありませんでした」

「いえ大丈夫です。でもフェルリアさんは憎んでないんですか?」

「えっ?」

「人間のことです」

「恨みよりも悲しみや後悔の方が大きいです」

「そうですか‥‥‥」

「そんな暗くなる話はおいといて、王宮へ~、レッツゴー!」

 ラゼルが無理に話題をそらそうとした。下手なやり方だと、フェルリアは苦笑する。

「全く相変わらずテンション高いわね」

「元の目的はそれだったな。じゃあ行こうか」

「どうぞこちらへ」

 一人の兵士が用意された車のドアを開ける。

「それじゃあ行きましょう」

 こうして一行はローズウェル城へ向かった。


―ハイゼルク艦橋―

 スライド式の扉が開き、ゼスルータは苛立ちを隠さずに入る。

「あれ、艦長。どうしてここへお戻りに?」

「俺は人間が嫌いなんだよ」

 そう言いながら、彼は具現化魔法で椅子を作り、座り込む。

「自分で言うのもなんだが、ほんと真っ黒だよな。具現化で編み出したものは」

「それよりも、ちょうどいいところに来ましたね」

「何かあったのか?」

「本国から送られた一昨日の新聞と資料です」

 ジルはつい先程転移魔法で送られた、新聞と資料を彼に渡す。

「孤児院が襲撃されたことを報じた新聞。これが一体何だというのだ?」

 ゼスルータはそれが真っ先に目に入った。

「ルルはそこの孤児院育ちです」

 彼は息を飲んだ。帰れと言ったのは悪手だったと後悔する。

「最悪なことを言ってしまったな」

「それと下の画像」

 ジルが新聞にある犯行グループの写真を指差した。

「ああ、あの件か」

 そこに写っていたのは、ロズワント城へカチコミに来たタレックたちの顔写真だった。

「呆れた。あいつらホント馬鹿だ」

「そうとは限らないらしいですよ」

「何故そう言える?」

「こちらの資料を」

 ジルは今度は資料を指差し、ゼスルータはページを1枚めくる。

「これは何だ?」

 資料にあった写真には、何か粒子が入った様な、紫色の液体が入った試験管の画像。

「タレックの血液を遠心分離機にかけたところ、この様な液体が出てきた、とのことです」

「なっ! 嘘だろ!?」

 耳を傾けつつ、彼は下にある文章を読んで驚愕した。

「液状化<狂魔石>だと」

「狂魔石って何ですか?」

「狂魔石は呪いから作られた禍々しい魔石だ。それを埋め込まれた奴は魔力そのものを呪いに変えられ意識を失い、凶暴化する」

「そんな恐ろしい物が‥‥‥」

「安心しろ。狂魔石も呪いの一種。それを跳ね返せる魔力を持っていれば呪われない。それに意思の無いホムンクルスやマギラマシンには効果は無い」

「何に使われていたのですか?」

 「俺も聞いただけの話だが」と前置きしつつ、重々しく話し出す。

「元はキメラに使われていた。だが今では法律で使用どころか所持すら禁止されている。それで知らない奴の方が多い」

「それともう1つ、タレックはギャンブルに負けて来た訳ではないようです」

「何だと?」

 ゼスルータは再び資料に目を向ける。

「タレックたちの脳には魔力痕があり、記憶を改ざんされていたようです」

「別の意味で馬鹿じゃねーか!」

 ゼスルータは呆れ返った。報告によれば、接触した女性から治験バイトと言われ、その高給さに即断即決したという。

「要はタレックたちはその液体化狂魔石の実験体ってとこですかね」

「そうだろうな」

 この治験をやった者は帝国の敵となるだろう。とはいえ、憎かった相手に引導を渡す機会をくれたことには感謝してもいいと思うゼスルータであった。

「それと艦長、本国からの電文です」

「内容は?」

「グラーツという男の安否を確認し、見つけ次第身柄を確保せよ、とのこと。3枚目の資料に写真が載ってあります」

 写真にあったのは、整った茶髪にケモ耳がついた獣人族のハンサムな男性。

「ローズウェルの街中を探せと?」

「そうですね」

 ゼスルータは舌打ちをした。

「さっさと見つけてくる」

「行ってらっしゃい」

 マジアムでジーパンに黒い半袖の私服に瞬時に着替えた。手は黒く、黒獄爪を出す背にも黒い傷痕のようなものがあるが、幻術魔法で肌色に誤魔化す。髪を束ねてポニーテールにし、両目に赤いコンタクトレンズを入れる。

「早く終わらせるか」

 ゼスルータはローズウェルの白い街中へと歩いて行った。


―ローズウェル城謁見の間―

「女王陛下、ロズワント帝国からの使節団が到着しました」

 水色の瞳に青い髪、白を基調とした豪華な服を纏った大人びた女性。彼女こそがローズウェルの女王アンリである。右には幾つかの勲章を付けた軍服姿の初老の男性。左には年老い白髭をたくわえた大臣がいた。

「その者たちをここへ通せ」

「はっ!」

 大きな扉が開き、ネイラータを始めとする使節団メンバーが入室する。他のメンバーは別室で待機している。

「この度は急な来訪にも関わらず歓迎していただきまことにありがとうございます」

「いや、こちらの方こそむしろ攻めあぐねいていたヴァミラルの前線基地を叩き、航路を取り戻してくれたことに感謝いたす。して、その戦艦の艦長はここに来ておるのか?」

 その問いに、ネイラータは口調を変えずに来ていないと伝える。

「それが、その艦長は極度の人間嫌いでして」

「そうであるか。であれば仕方がない」

 アンリは残念そうにうつむく。

「大帝より親書を預かっております」

 ネイラータは親書を取り出し、そして差し出す。

「大臣」

「は!」

 大臣はネイラータから親書を受け取り、アンリへ渡す。そして彼女は親書へ目を通した。親書の最後の文にアンリの目付きは険しくならざるを得ない。

「通商、及び外交の再開などは理解出来る。しかしこの軍事同盟は何だ?」

「この軍事同盟とは?」

「ヴァミラルへ対抗する為のものではないのですか?」

 内容を知らされていないネイラータは困惑し、大臣は何故疑問に思ったのか分からなかった。

「「太陽系連合から独立した軍事同盟網」、ロベルトは何を考えているのやら‥‥‥」

「私には分かりません」

 ネイラータは平静を装いつつも、(どういうわけ?)と頭を悩ませる。

「いずれにせよ、これに関しては理由を聞かねば事を進める訳にはいなぬな。大臣、この者たちに食事の用意を。長旅で疲れているだろう、丁重にもてなすように」

「かしこまりました」

「手厚い歓迎に感謝します」

 ローズウェルの兵士2人が再び扉を開け、ネイラータは謁見の間を出た。大臣も用意の為にこの場を後にする。

「しかし女王陛下」

「何だ、ガパラ」

「一体何故ロズワントの戦艦の艦長にお会いしたかったのですか?」

 ずっと黙っていた、勲章を付けた軍服姿の陸軍卿-ガパラが気になっていたことを聞いた。

「彼は12歳で帝国宇宙大学を卒業した秀才だ」

「まさか、オルハ・ルナ・ゼスルータでありますか!?」

「ヴィルドから聞いた。そして彼が書いた卒業論文に我が海軍が非常に興味を持っている」

「「空母復活論」でしたね」

 その内容は、自力でワープ可能な艦載機は開発可能であり、ワープを用いて敵艦隊へ奇襲すれば蒼炎誘導弾は撃つ暇もなく、またアウロイは帝国の特権と言い切ってもいい。つまり帝国以外の艦艇へは航空機が搭載する爆弾や空間魚雷は十分通用する。

 したがって空母が主力の座へ返り咲くというものだ。建造中の巡洋戦艦の一部は直ちに空母へ改修すべしと書かれ、現代に合わせた空母艦隊の運用方法も独自に研究され、まとめられていた。が、始めは「キチガイだ」と一蹴されていた。

「彼ならエーヴィヒ・リアクターを航空機へ搭載出来る程に小型化出来る。現に既に設計は完了しているという情報部の憶測もあります」

「駆逐艦へ搭載するのが限界のエーヴィヒ・リアクター。その本体を直径15センチまで小型化するとはな」

「まだ実物は完成していませんが、彼なら空母を用いた戦術に詳しいはずです」

「海軍が喉から手が出る程欲しがっているのはその戦術だ。ヴァミラルとの戦いでより練ったものになっているだろうな」

 とはいえ、それは容易ではないとガパラは指摘する。

「しかし、仮に人間嫌いではなかったとしてもそう簡単に教えてくれないでしょう」

「エルフは元々プライドが高い。あの歳で宇宙軍大学を卒業出来る程の努力家なら尚更だろう」

「姉であるフェルリアさんから聞けないでしょうか?」

「では会食の際に聞いてみればよい。最も、知っているかどうか知らんがな」

 アンリとガパラも、彼女らの元へと向かう。


―ローズウェル城 大食堂―

「さあ、遠慮はいらぬ。好きなだけ食べるがよい」

 キラキラ光るシャンデリアが幾つも吊るされた食堂の机には、パエリアやローストチキン、デザートにはロールケーキやガトーショコラなど、豪華な料理がたくさん並べられていた。

「これ全部食べてもいいんですか!?」

 ヴォーロルルはこれ程豪華な料理を始めて目にし、目を輝かせている。

「もちろんだとも」

「それじゃ、いっただっきま~す」

 ラゼルは机に頭を置き、早速食べ始めた。

「全くラゼルったら、少しは口調を行儀よくしなさい」

 ネイラータはそのがっつき具合を慎むよう注意した。

「別に構わぬ。美味しそうに食べて貰えて、料理人たちも喜んでおるだろうしな」

「そういえば王女様が居ないのは何故ですか?」

 ネイラータはアンリの娘が来ていないのに食べ始めていいのかを聞く。

「娘はロチェラ大聖堂での行事に参加しておる」

「そうでしたか」

 ネイラータはうなづきつつ、いつ会うべきか思案する。

「それはそうと我々からの“プレゼント”はいかがでしたかな?」

 ガパラ長官がロズワントの面々に聞いてきた。

「プレゼント?」

「話は聞いたわ。ヴァミラルの大艦隊を蹴散らしたミサイル、あれあなた方のでしたのね」

「航空隊がロズワント帝国に向かっているヴァミラル艦隊を見て、ガパラが提案したのだ」

「お陰で助かりました。それに、威力は低く高空で炸裂したので地上には被害無し。事前通告はありませんでしたが、それ故文句を言わずに済ませそうですわ」

 ネイラータはにっこり笑顔を浮かべた。が、ヴァミラル艦隊はロズワント帝国から見て南方から襲来した。対して、ローズウェル王国は海を渡して西にある。

 南方は敵の制空権下にあるからして、ヴァミラル艦隊を航空隊が発見するのはほぼ不可能。故に何か別の企みがあったと疑い、警戒する。

「にしても、地獄から天国に来たみたいだ。輸送艦で死にそうになったのが嘘みたいだ」

 そう言いながら、ニコラスはローストチキンにナイフを入れ始める。

「そなたらはレッドテイルの者であったな。ヴァミラルに手酷くやられてさぞ辛かっただろう」

「まあ、確かに死にそうになりました。しかし、ゼスルータ様に助けてもらって命拾いしました」

「ゼスルータ様って、どういう‥‥‥?」

 話を知らないヴィルドが、ニコラスの敬語に違和感を覚える。

「リックスカンパニーを一度倒産させて、レッドテイルが買収出来たのは彼のお陰。それで俺達は彼に頭が上がらない」

 ヴィルドとガパラ、それに大臣は耳を疑い、全身が固まってしまう。

「とっ、トンデモない奴だなぁ‥‥‥」

 ガパラは思わず呟いた。

「そうだぞ! ルータ兄ちゃんはトンデモなく強いんだぞ!」

 ローゼンがまるで自分を褒められたかのように胸を張る。

「ほう、それはどの位じゃ?」

「えっとね~。40人の敵をたった1人で倒したんだって」

「その位か?」

 言った割にはそこまで強そうではないなと、アンリとヴィルドとガパラはそう思った。

「あー、その40人は完全武装した特殊部隊よ。しかも、素手で倒したって話よ」

 フェルリアの言葉にローズウェルの軍人2人は愕然となる。

「たっ、大将クラスでもそんなこと簡単には出来んぞ!」

「ヴィルドよ、それはどの位のことであるか?」

「少なくとも手榴弾で戦車に挑む方が楽です。女王陛下」

「そういえばルータったらヴァミラルの戦車の砲弾を生身(?)で弾いてたわね」

「「「はい!?」」」

 アンリはすんでのところで言葉を飲み込むが、フェルリアの言葉に彼らはまたもや度肝を抜かれる。

「厳密には生身とはちょっと違うかも知れませんが‥‥‥」

「空母の戦術以外のことも聞きたくなってきたな、こりゃ」

「いくら同盟国でも彼の戦術や技術は教えられませんわよ」

 ネイラータは、先程の疑いも声色に混ぜて釘を刺す。

「これ、ヴィルド!」

「すっ、すいません」

「小型化したエーヴィヒ・リアクターの技術が欲しいですか?」

 唐突にフェルリアが問い詰め、ネイラータは番狂わせだと身内にも警戒しだす。

(完全に読まれてるな)

「やめた方がいいですよ。15回実験して15回とも失敗していますから」

「完成していないのか!?」

「あっ! 私も聞いたよ~。15回目は実験場を派手に吹き飛ばしたって」

「それってどの位で?」

 ガパラが参考程度に聞き出す。

「半径1kmのクレーターが出来たってさ。実験場が外だったのとテレポートで皆離れたから死者は出なくて済んだけどね」

「彼でも実現出来ないか‥‥‥」

 ヴィルドとガパラは落胆とした。

「でもルータはそんなことであきらめないわよ。散々叱られてもまだ諦めてないわ」

「え? てことはつまり‥‥‥?」

 ラゼルはどこで実験を続けるのだろうと首を傾げ、ネイラータはその場所を察し、背筋を凍らす。

「これから艦内工場で試作品を作るみたい」

「爆発しないでしょうね?」

「さぁ?」

 ニコラスの心配に、フェルリアは軽い口調で言った。

「ちょっと待て! 実験の巻き添えで死にたくないわ!」

「ちゅっ、中止させて! ね!」

「わっ、私だって死にたくありませんよ!」

ラゼルとレゼルバもネイラータに賛同した。3人はフェルリアに詰めよった。

「私に言われても‥‥‥」

「まぁ落ち着かれよ。彼とて失敗したくてやっている訳ではなかろう」

アンリが3人をなだめた。

「それに今はそんな話は全部置いといて、食事を楽しもうではないか」

「そうですね。せっかく美味しい料理を作って下さったのに、話ばかりしていては冷めてしましますわね」

ネイラータは気持ちを切り替えた。

「じゃあ次はこのパエリアかな~」

「フフッ、ラゼルったら相変わらずね」

 こうして、会食はしばらく続いた。


―ローズウェル首都 ニュー・グロウスター―

 強い日差しを跳ね返す為、家の壁は全て白く、美しい街並みが広がっている。ローズウェルは水の都の他に、<白い都>とも呼ばれる由縁である。

(といっても、グラーツってどこに居るんだよ‥‥‥)

ゼスルータは早速任務を始めたが、いかんせん手がかりが写真と名前以外全く無かった。それにローズウェルの人口は約8億5000万人。その中から1人を探せと言われても、個人の力では不可能に近しい。

(‥‥‥どうしろと?)

 写真と名前以外に情報がなく、どこをあてにしていいのかすらも検討がつかない。

「よう! お嬢ちゃん、カッワいいね~」

 突然、猫耳の茶髪の獣人男が声をかけ、肩に手を乗せてくる。

「ナンパなら殺すぞ。それと俺は男だ」

 振り返り彼の顔を見て、殺気に満ち満ちた笑顔を見せる。

「男!? マジで! それはゴメン」

 普通なら将校でも逃げ出す笑みをものともせず、彼は軽いノリで平謝りした。

「あと、ナンパじゃねえから。勘違いしてるなら早速本題に入るわ。あんた、グラーツって男を探してるんだろ?」

「何故それを知っている? 返答次第では明日は無いと思え」

 ゼスルータはグラーツが彼に危害を加えられたと思い、彼を睨みつけた。

「おたくらのお偉いさんからの電文を傍受してな~。あとグラーツには俺もしばらく会えていない」

 ナンパ男の軽いノリのまま、ベラベラと喋り続ける。

「知り合いか何かか?」

 ゼスルータは警戒心は解かない。しかし、彼が何者か予想がつく。

「というより同業者ってとこだな。話が聞きたいなら一杯付き合ってくれ」

「俺は未成年だが」

「あんたにはジュースを奢ってやるよ。悪くは無いだろ? どうせ宛も無いんだろ?」

「分かったよ」

 彼らはしばらく街中を歩いた。歩いた先にあったのはどこか懐かしさを漂わせる、<アステラ>と書かれた看板を掲げたバーであった。

「話はこの中でするのか?」

「ああ、そうだ。早速入ろう」

 2人はバーの中へ入り、扉についているベルが鳴り響く。

「いらっしゃいませ」

 店内にはダンディな店主が、グラスを磨いていた。

「よう、マスター。いつもの一杯」

「そちらのお客様は?」

「コーラにしてくれ」

「かしこまりました」

 2人が座ると同時に、店主はグラスを2つ用意し、それぞれ注文されたものを注ぎ始めた。

「つーか久々だな。フランクの旦那」

 ゼスルータの言葉に2人はギョッとした。

「てめぇ何者だ?」

「8年前にここに来ただろ。青い目の子供が」

「それがどうした?」

 右目のコンタクトレンズを外すと、2人は記憶の中から彼の正体へ行き着く。

「なっ! おまえ‥‥‥」

「そういやあんたもその場に居たな。名前は聞いてないけどな」

「この店が何なのか知ってたのかよ」

 このバーはただのバーではない。裏社会にも通じる情報屋やスパイの溜まり場である。

 しかし、裏社会の情報を集めているだけで、犯罪には手を出していないのと、警察にもその情報を売ったりしているので、政府はこの店を取り締まらない。

「妹は助けてられましたか?」

「いや、遅かった」

「あのときのガキか。小さかった癖におっかなかったな」

「当然だろ、家族の命がかかっていたからな。ところでマスター、グラーツって男を知らないか?」

「俺に聞かないのかよ‥‥‥」

「貴様は普通に胡散臭い」

 女呼ばわりされたことをまだ根に持ち、嫌っている故に一蹴する。

「その前に、あなたの階級は中尉以上ですか?」

「宙軍中将だ。階級バッジもある」

 ゼスルータは内ポケットに入れていた階級章を取り出し、警察手帳の様にマスターに見せる。

「確かにお客様の物ですね。彼から伝言を預かっております」

「グラーツはどうした?」

「グラーツさんはお亡くなりになりました」

 死者を探せと? 上はグラーツの安否を知らない、いや知ろうとしたらしい。

「いくらだ?」

「無料で構いません。それとひとつ伝言を。「かの国は首都の如し」と」

「それが伝言?」

「それと、彼の死と今日に関わる情報は6000バーゼで提供しますよ」

 バーゼとはローズウェルで使われる通貨の単位だ。因みにロズワントの通貨の単位はレンテだが、ゼスルータは男と会う前、既に両替を済ませていた。

「分かったよ」

 ゼスルータは右ポケットから財布を取り出し、100バーゼ札を60枚渡した。フランクは10枚あることを確かめ、そして話し出す。

「では話しましょう。グラーツさんが死亡したのは2年前、10月3日の夜中でした。その3時間前に、ここへ中尉以上の者へ伝えろと伝言を書いたメモを私に預けました」

「誰に殺された?」

「個人ではなくとある組織です」

「組織だと?」

「ブレイブ教。世界各地に点在する、勇者伝説の勇者を崇める宗教団体」

「が、その実自分達の主張を暴力で通そうとする人間至上主義者共のテロリスト」

 ゼスルータはその名を聞いただけで敵意をむき出しにする。

「でも何でそいつらが? この国の警察や軍は何をしている」

「軍はヴァミラルとの戦争に駆り出されている。一部警察からも徴兵されている」

「そしてここの治安は悪くなっている、か」

 ゼスルータは“警察が無能なのはどこも変わらないな”と苛立ちを覚える。

 何せロズワント帝国の警察ときたら、魔族売買の多くを見逃し、それで宇宙軍軍令部から恨まれていることを気付かずにいる。

「グラーツは本国のスパイだろ?」

「おっしゃる通りです」

「何が理由で殺された? 彼が獣人族だから?」

「グラーツさんはブレイブ教の悪事を暴こうとしていました」

「で、その悪事とやらは?」

「裏ルートでの狂魔石の購入」

「何だと‥‥‥!」

 ゼスルータは耳を疑った。こうも早くに話が繋がるものかと。

「そんな安いもんじゃ無いだろ」

「信者から資金を集めたのでしょう。そして今日大変な事が起きます」

 フランクはゼスルータに迫った。

「ロチェラ大聖堂の中へ無理矢理狂魔石を着けさせた魔族の少年を大衆の中へ紛れ込ませ、王女が演説する瞬間に狂魔石の効果を発動させるつもりです。その少年の特徴までは把握出来ていませんが‥‥‥」

「魔族に対して悪い印象を与える気だな」

 こうしちゃいられないと、ゼスルータは立ち上った。

「フランクの旦那、ありがとうな」

 そして勢いよく店を出て、大聖堂へと走り出す。


―ローズウェル城 エントランス―

「いや~、どれもこれも美味しかったぁ~」

 ラゼルは表情は満足だと言わんばかりであった。

「食事も終わったし、私達は早速外務省へ向かおうかしら」

「そのことなんだけどさ、護衛用のG-14連れて来てないんだけど」

「ちょっとラゼル、それどういうこと!?」

「そういえばいませんでしたね」

「この国に入る前に起動させようとしたけど起動しなくてさ。実はあれ兵器開発局が作った試作品なんだよね~。色々新技術をつぎ込んだから、不備がありまくりでルータちゃんも修理に手間取るだろうって。だから今使えない」

 また繰り上げ合格か、とラゼル以外のロズワント側の者は皆落胆した。

「ラゼル、その分ちゃんと私達を護衛しなさい」

「分かってますって」

「俺達はここで待っとけばいいのか?」

 ニコラスはどう時間を潰そうかと思案する。

「さあ、どうでしょ?」

「なんなら、ローズウェルの街中を行かれてはどうですかな?」

「私、錬金術用の道具が売っている所に行きたいです!」

 ヴォーロルルは勢い良く手を挙げる。

「それまたどうして?」

「私、実は錬金術師の資格を持っています」

 彼女は左ポケットから錬金術者証明書を取り出し、それを見せる。

「って、準1級錬金術師!? もはや天才よ!」

 ネイラータはそれに書かれた錬金術師クラスに驚く。準1級は材料さえ手に入れられれば体力と魔力を全回復する<エリクシールオメガ>やホムンクルスを製作してよいレベルである。

「でもする機会が殆どなくて‥‥‥。でもハイゼルクに錬金術をするのに手頃な部屋があったので、道具を揃えてやってみたいなぁ、と」

「でもゼスルータ様が許すか?」

「許可させるわ、ニコラス。自分自身が危なっかしい実験をしようとしているのに他の人にさせないなんて許さないわ」

「ネイラータさん」

 ヴォーロルルはネイラータに尊敬の眼差しを向ける。

「ルル、これゼスルータからお小遣いって」

 フェルリアは10万レンテを取り出し、彼女に渡す。

「こんなにですか!?」

「両替しなきゃだけど、これだけあれば道具一式は揃えられるわね」

「はい!」

 ヴォーロルルは宝石の様に目を輝かせた。

「ヴィルド兄ちゃんも一緒に行く?」

「ごめんな、ローゼン。俺はこの後ロチェラ大聖堂へ行かないといけないんだ」

「そんな‥‥‥」

 ローゼンはがっくりと肩を落とす。どうやら構って欲しかった様だ。

「えー、何でなの?」

「これから王女様が大聖堂で演説をするんだ。その時だけは俺も騎士団長として立ち合わなきゃいけない」

「本当に時間を割いてくれて感謝しますわ」

「いえ、こちらこそ。それでは失礼します」

 ヴィルドの足元に黄色い魔方陣が現れたかと思うと、彼は一瞬にして虚空へと消えた。

「お嬢、気を取り直してください。甘いお菓子を買ってあげますから」

「本当に!? やったー!」

 お菓子と聞いて、ローゼンは何度も飛び上がった。

「それじゃあ、お買い物に~、レッツゴー!」

「「「おー!」」」

 ローゼンの掛け声に3人は応えた。


―首都ニュー・グロウスター―

 ローズウェル北大陸(南大陸も国土の一部)の東部中央部にある、標高が約500mと日差しが強く、その為白い建造物が多い大都市。

 フェルリアらは、そこのとある繁華街へ来た。そして<ロゼッタの錬金術店>という錬金術に関わる道具を揃えた店に入店する。

「う~ん、一応道具は揃ってるけど、薬草とかが無いですね」

「確かに、火星に比べて品揃えが薄いな」

 商品棚を見ていたとニコラスは、ほとんど何も置かれていないことに訝しむ。

「2人とも、それは当たり前よ」

「え?」

 フェルリアの言葉にヴォーロルルは振り返った。

「分かっているはずだけど、今ヴァミラルと戦っている国々は孤立無援の状況で戦っているのよ。それで滅んだ国も多いし、いくらなんでもこのまま戦争を続けたら他の国も物資も人材も尽きて敗戦するわ」

「と言っても、少なくとも政治家どもは反対だろうな」

「どうしてですか?」

 ヴォーロルルは首を傾げた。

「政治家や軍のお偉いさん達は大勝をおさめてから和平交渉に入ろうとする。このまま不利な条件を飲み込むのが嫌だからな。それで残った戦力をまとめて賭けに出る。不利な条件を拒否する為にな」

「そんなぁ‥‥‥」

「そういうときはだいたい大負けする。そして勝者の思うままだ」

「講和派はそれを理解しているから話し合いを考える。今日ロチェラ大聖堂で王女様がする演説も和平を訴えるものでしょう」

「戦争、終わればいいですね」

「ええ、お客様の言う通りです」

 ヴォーロルルの言葉に店員も共感した。3年間もだらだらと戦争し続ければ、国民も飽き飽きしてくるのも当然である。

(けれど、ハイゼルクの戦果を知ったら講和派は一気にしぼんでしまうかなぁ‥‥‥)

 フェルリアはそう言ったものの、内心はローズウェルはこのまま継戦するかもと心配していた。

 本音を言ってしまえば、中立の立場に立てるのならロズワントはすぐにでも和平を結ぶであろうし、ヴァミラルに帝国の軍事力をちらつかせればできなくもないかも知れない。だが、そうしないのは、軍や政府の中に継戦派が少なからずおり、また、彼らの言にある程度の発説得力があるからである。

 後戻りは出来ないのと、ヴァミラルが想像以上の軍事力を持ってた場合、中立の立場に立てなくなる可能性もあるので、A号計画で元々帝国と繋がりの強い国々と一緒に講話すれば確実だと考えているからだ。

「そんなことより‥‥‥ねえルル、このセットはどうかな?」

 フェルリアが指差したのは値札に<錬金術セット・S>と書かれた、上の部分に金などの装飾が施された丸底フラスコや試験管4本など、上級者向けのセットが専用のケースに詰められたものだった。

「こちらお値段は14万バーゼになります。現品限りです」

「かっ、かなり高いな」

 想像以上の値段にニコラスは少し唖然とした。

「そんなに高くなくても‥‥‥。別にもう少し安いのでもいいですよ」

 ヴォーロルルは遠慮がちに言う。

「何言ってるの? ここで買った方がお得だわ」

「えっ、でも‥‥‥」

「遠慮しないの。私からも出すから」

 そう言ってフェルリアは、4万バーゼを財布からポンッと出す。

「フェルリア‥‥‥あんたってお金持ちなわけ?」

「だってお給料あまり使わないし、それにいざとなればルータが助けてくれるわ」

 兵舎住まいで食堂を利用すれば、食費も節約できる。

 そんな訳で貯蓄は貯まる一方だからここで使わせてと言い、それを有難く受け入れる。

「それじゃあ店員さん、これをください」

「かしこまりました」

 店員はケースの蓋を閉じてカウンターへ運び、フェルリアが14万バーゼを支払った。

「お買い上げ、誠にありがとうございます」

「なあルル、それ重そうだから俺が運ぼうか?」

「本当ですか? ありがとうございます」

 ニコラスが荷物持ちを名乗り出る。実際、傭兵として鍛えられている体を発揮しない手はない。

 一行は店を出て、ローズウェル城から離れる方向へ歩き始めた。

「にしても、ホント暑いわね」

 フェルリアはあまりの暑さに服をパタパタとばたつかせる。

「そうか? そんなに暑くはないと思うが?」

「ロズワント育ちの私達にとっては暑いんです!」

 ニコラスの言葉にフェルリアは反論した。

「もうロズワントの寒さが恋しいくらいです」

 ローズウェルは気温も高く、2人にとっては暑いったらありゃしない。

「ちょうどそこにアイスクリーム屋があるぞ。アイスクリームでも食べるか?」

 ニコラスが指を指した先には、専門店があり、そこで様々なアイスクリームが売られていた。

「わ~い、アイスクリームだー!」

「本当に暑くてしょうがないから、そうしましょう」

「私も賛成です」

 フェルリアはバニラ、ヴォーロルルはソーダ、ローゼンはイチゴ、ニコラスはパイナップルのアイスクリームを買い、早速食べ始めた。

「う~ん、冷たくておいしです」

「このバニラは濃厚ね」

「ねえ、フェルリア姉ちゃん。そのバニラちょっと食べてもいい?」

「いいよ。その変わりローゼンちゃんのも食べさせてね」

「うん、分かった!」

 2人は自分が持っているアイスクリームをそれぞれ相手の口元まで運び、一口ずつ食べた。

「このバニラ味甘くておいし~」

「イチゴも甘酸っぱくておいしいわ」

(まだ時間はあるか。使節団は今頃条約締結でもやっているところかな?)

 そう思いながらニコラスは自分は今後どうしようかと考えた。レッドテイルのロズワント支社にローゼンを預けようと思ったが、ローゼンはゼスルータに懐いているし、反対すれば手がつけられなくなるであろう。

 それに自分は彼に対する“恩返し”がまだ出来ていない。

「いかがかな? この壮大なロチェラ大聖堂は」

「素晴らしいです。でも何故こちらへ?」

 一方、ネイラータ以下使節団とラゼルは、ロチェラ大聖堂へ到着する。

「貴殿らが来て思い付いたのだ。この条約締結は歴史に残るであろう。ならばそれにふさわしい場で締結すべきとな。既に用意は終わらせておる」

「なるほど、とてもいい考えです」

 レゼルバはアンリの考えに同意した。

(要は再び同盟を結ぶことで帝国との関係性を国内にアピールしたいってとこね。いくら継戦が厳しいとはいえ、孤立したまま和平すれば、ヴァミラルに協力を迫られ他国を敵に回しかねない。だから帝国と協力する。でも、私達をあまり当てにされてもね‥‥‥)

 実は、A号計画もローズウェルを含む旧同盟国3ヶ国と火星との航路を奪還するもので、それらと同盟を結び直す、あるいは新たに火星と同盟を結べれば他は敵に回しても問題ないと考えている者も多い。

 むしろ大本営では何故か“敵に回すべき”という意見もある。

「お待たせしました。机などのセッティングも終えています」

 そこへ白色の胸当てやレギンスにガントレット、他の部分は動きやすいように魔法攻撃耐性のエンチャントの付与された緑色の綿製の服に着替えたヴィルドが案内する。

 皇族を守る騎士団団長としての正装だ。

「ロズワントの皆様、初めまして。私はアンリ・ホーネットと申します。どうかお見知りおきを」

 ヴィルドの隣にいた、母と同じ青い髪に水色の瞳をした少女が挨拶をした。

「私はネイラータ・ヴィルヘルムと申します。後ろの方々は使節団と護衛の者です。これからよろしく致します」

 そしてネイラータとホーネットは互いに握手を交わす。

「うむ、では参ろうか」

 ロチェラ大聖堂前の広場には、多くの人々が広場を埋め尽くす程集まっていた。

「広場にお集まり頂いた皆様方に予定変更のお知らせを致します。王女様による演説の前に、急遽ロズワント帝国との同盟を始めとする各条約の再締結を行います」

 ネイラータ達使節団とアンリ親子らが、用意された席の前に現れた途端、広場は歓声に包まれた。そしてその様子を変装したゼスルータが静かに見ていた。

(にしても分かんねーな、一体誰が狂魔石を着けているんだか‥‥‥)

 辺りを見回しても、ほとんどは大人ばかり。少年らしい身長の者は見当たらなかった。

(まあ、最悪狂魔石が発動した時に殺るしかないかもな。同盟など知ったこっちゃないが万が一ネイが傷つけられるのは嫌‥‥‥)

 彼は途中で思考を遮った。一瞬背筋が凍る感覚に襲われる。

(今の感覚、間違いない!)

 ゼスルータはとっさに左に向く。目線の先には茶色くみすぼらしいフードを被った小さい男がいた。

 禍々しい気配がするのは左手からだ。そしてチラッと手のひらに透明な紫の中にドス黒い霧がうごめいている様な魔石が埋め込まれているのが一瞬見えた。

(左手か、ならあるいは‥‥‥)

 彼からは怯えの感情が伝わってくる。自分にどのような結末が待っているか理解しているらしい。

「通商条約の締結、これでよろしいですね?」

「ああ、こちらもサインした」

 こうしている間にも、使節団とローズウェルとの間で条約へのサインがされている。

(身柄を確保した方がいいか)

「ちょっと君、親はどうした? もしかして迷子かい?」

 優しい笑顔を作りながら、ゼスルータは少年に声を掛ける。

「えっ、あ‥‥‥」

「誰だ、貴様」

 次の瞬間、ゼスルータはローズウェルの軍人に声を掛けられた。

(こいつ謀ってるのか?)

 ゼスルータはこの軍人がブレイブ教の者か、あるいはただの邪魔者のどちらかだと思った。

「この子が1人でいたので迷子かと思ったんだよ」

 ゼスルータは答えたが、その瞬間に少年は群衆の中へ逃げ出した。

「お前にビビって逃げ出したんじゃないか?」

「貴様、名を何という?」

「は?」

 ゼスルータは髪をほどき、コンタクトを外す。

「俺の顔に見覚えはあるよな?」

「なっ、ロズワントの! 何故ここへ!?」

「今日来た戦艦の艦長は俺だからだよ。それと、貴様がブレイブ教の者なら後できっちり責任は取ってもらうからな」

 殺気混じりの鋭い目線を向けられ、軍人はたじろぐ。

「いや、あの‥‥‥。ブレイブ教?」

「チッ、邪魔しやがって‥‥‥アイツは左手に狂魔石が埋め込まれてるんだよ。何かあったら貴様の首が物理的に飛ぶことになるかもな」

「えっ!? ちょっ、そんな」

「嫌なら上にでも報告し‥‥‥」

 言いかけた途端、広場は大きな歓声を挙げた。ホーネットが立ち上がり、壇上へ上がったからだ。もう条約締結は終わったのだ。

(ヤバい、もう始まる!)

 ゼスルータは焦って広場を見回した。しかし、少年の姿はどこにもない。

「本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。今日この日、ロズワント帝国軍の勇敢な将兵達の活躍により、帝国との航路奪還、そしてたった今、ロズワントとの盟約を結び直すことが出来ました。しかし! これはヴァミラルへの反攻を意味するものではありません」

 最後の言葉に、では何の為の条約かと、広場はどよめいた。

「これはヴァミラルとの決着を1日でも早く終わらせる為の盟約です。その為に世界各国が分断された状況を帝国と共に打破します。そして世界に、“人間と魔族が手を取り合える”ことを必ず証明してみせます。人間と魔族がいがみ合うのはもうウンザリです!」

ホーネットの演説に広場にいる人々は再び歓声を挙げた。が、

「騙されるな!」

 広場の後ろからの大声に遮られる。声の主は白いローブを被った集団のリーダーらしき男だった。

「魔族は我々人間にとって害悪でしかない存在。それ故、人間と魔族は手を取り合ってはならない!」

「ふざけたことを言わないでください! そうやって勝手に決め付けて、最初からいがみ合うことしか考えてないのではないのですか?」

 ホーネットは怒りを込めた反論する。

「我はブレイブ教大司教ヘーゼリ。今言った言葉は“予言”であるぞ」

 その時、広場の中央から叫び声が上がった。先程の少年からだ。周りの人々は驚き、彼から離れた。左の手のひらは禍々しく輝いていた。

「見るがいい、魔族の本性をな!」

「お下がりを!」

「皆下がって!」

 ヴィルドは剣と盾を構え、ラゼルも剣を引き抜いて壇上の前に出た。しかし、彼らの出番はなかった。

「全員離れてろ!」

 バンッ! という音と共に空中に漆黒の爆発が起きる。そこから太刀を構えた軍服姿のゼスルータが現れ、そして着地と同時に居合斬りで少年の左手を切り飛ばした。

「具現化」

 そしてすぐさま包帯とガーゼを編み出し、少年の左肩を塞ぐようにきつく巻き付けた。

「なっ‥‥‥」

 一瞬の出来事に全員が呆気に取られた。

「そこをどいて!」

 銃剣を構えた軍人達が、ゼスルータを取り囲む。

「貴様、武器を置いて両手を上げろ!」

「分かったよ」

 返り血を浴びた彼は太刀をそっと地面に置き、言われた通り両手を上げた。

「ゼッ、ゼスルータさん!?」

「ルータ! 一体何でここにいるわけ!?」

 ネイラータとレゼルバは唖然とした。

「おい、ゼスルータ。一体何のつもりだ」

 ヴィルドは剣を彼の首筋に寄せ、問い詰める。

「俺は浄化魔法が使えないから、こういうやり方しか出来ない」

「何言って‥‥‥」

「うわあああ!」

 切り飛ばされた少年の左手。それを見た軍人が声を上げた。

「なっ、何だこれ!?」

「どうした?」

 その手のひらにあるものに、ヴィルドは開いた口が塞がらなくなる。

(これは狂魔石じゃないか!)

「ゼスルータ、お前‥‥‥」

「勘違いするな、夢見がち野郎」

 ゼスルータはヴィルドを睨んだ。

「魔族と人間が仲良くする為にやった訳じゃない。俺らの使節団一行、特にネイに危害が加わったら大帝陛下に叱られるからな」

「全く、魔族とは野蛮で仕方ないな」

「あぁ?」

 ヘーゼリの言葉にゼスルータが突っかかった。

「大衆の面前で腕を切り飛ばすとは、魔族とはもはや蛮族だな」

「ここの警察御用達の情報屋が言ってたぞ、彼に狂魔石を埋め込ませたのは貴様らだってな」

 ゼスルータは皆に聞こえる様に大声で独り言を呟いた。

「何を根拠に」

「後で貴様らの尻尾を掴んでやるよ。そん時に笑ってるのはどっちだろ~なあ?」

「そうやって我々人間を敵対視して仲良くしようとせず、それこそが害悪である証拠だ!」

 そうヘーゼリは断言した。

「害悪だと? それは俺達魔族のセリフだ!」

 ヘーゼリの言葉に彼は激昂した。

「なぁおい、ゼスルータ」

「仲良くしようとしない? 当然だ! 俺の、俺達の家族を売りさばいた外道どもと仲良くしたくはない!」

 大衆は皆青ざめる。もしや私達は何か償い切れない罪を背負っているのかと。

「俺達の妹を売りさばいておいて何が害悪だ! 人間は金の為なら何してもいいと思ってんだろ? そういう貴様らこそ魔族にとって害悪なんだよ!!」

「ルータ‥‥‥」

 ゼスルータの過去にその場にいる全員、特にネイラータは衝撃を受けた。

「妹がどこで売られたか言ってやろうか? それは紛れもなく、今俺が立っているこの国だ! だから俺はこの国が大っ嫌いだ! 当然貴様ら人間共もな!」

 ゼスルータの目には、一言一言には恨みと憎しみ、そして殺意が込められていた。

「この場から去ってください」

「王女様!?」

 ヴィルドはホーネットらしくないであろう発言に耳を疑った。

「愚かなエルフよ、貴様の言っていることが‥‥‥」

「私は彼に対してではなくあなた方に言っているのです!」

(俺をかばっているつもりか?)

 その発言はてっきり自分に向けられたと思ったゼスルータは、僅かばかり困惑し、顔をしかめる。

「すぐには仲良くなれないのは分かっています。ですが私はある時少女と出会い、そして彼女の“思い”を受け継ぐことを約束しました。「お母さんが抱き締めてくれるみたいに、いつか人間達とも優しく抱き締めあいたい」と。それを実現するまで、私は決して挫けたりはしません!」

 ゼスルータは最後の言葉に、今まで頭の隅に追いやっていた妹の口癖を思い出す。

「お母さんが抱き締めてくれるみたいに、いつか人間達とも優しく抱き締めあいたいね」

「ゼスルータ、どうかしたか?」

「何で妹の‥‥‥、ミアの口癖を‥‥‥?」

 ゼスルータは全身を震わせるが、決して涙を見せず、しかし少しだけ考えが揺さぶられる。

(この愚者どもめ!)

 ヘーゼリは今の会話はとても気に入らなかったようだった。

「いずれその身を持って思い知ることになるでしょう王女様。あなたは間違っていたことに」

 ヘーゼリがそう言った途端、彼の右顔に強烈なストレートが浴びせられた。彼は吹き飛び、後ろにあった入場ゲートを粉々にした。

「ルータ!?」

「大司教様!」

「ギャーギャーワーワーやかましいんだよ。このイカれた馬鹿カルト野郎共が」

「貴様、何故彼女を、人間をかばったのだ?」

 ヘーゼリの問いに、中指を突き立てながら答える。

「さぁな、俺にも分からん。だが貴様らがうるさいのは事実だ。また殴られたくなかったらとっとと尻尾巻いて逃げるんだな」

「おのれ、魔族風情が!」

「どうとでも言ってろ、このクズどもが」

 そう吐き捨て、彼は親指を下に向ける。

「今に見ておれ。必ずや裁きは下るであろう」

 逃げセリフを吐いたヘーゼリとブレイブ教教徒らは、そのまま立ち去って行った。

 それから、ゼスルータは少年の前まで歩き、跪く。

「お兄さん?」

「本当にすまない。何なら許さなくてもいい。俺は君の左腕を切ったのだから当然だ」

 だが、少年は涙を流し、首を横に振った。

「ありがとう、兵隊のお兄さん。3年前にも助けてくれたのに、また助けてくれて」

「3年前‥‥‥? まさかシルキアの、お前生きてたのか!」

 ゼスルータは安堵と共に、彼も売られてここへ来たのかと怒りが湧いてくる。

「全く、捕まらないようにと言ったじゃないか。でも生きていてくれて本当に良かった」

 ゼスルータは怒りを隠しつつ、彼の頭を撫でた。

「でも何で声を掛けた時逃げ出したんだ?」

「あの教団に言われたんだ。「我々はいつでも貴様を見張っているぞ」って。だからさっきの人もブレイブ教の人だと思って‥‥‥」

「そうか、分かった。あとの事は俺に任せろ」

「救急隊到着しました!」

「包帯とガーゼは巻き直しておいてくれ。具現化で編み出した物はほっといたら20分で自然消失する」

 こちらへ来る隊員に、まだ信用していないのか、「殺したらタダじゃおかないからな」と耳元で忠告する。

「‥‥‥了解しました」

「ありがとうございました!」

 少年はお辞儀をしてから、救急車に運ばれた。

「達者でな」

 ゼスルータは敬礼をし、彼を見送った。

「お前って本当はいい奴だな、ゼスルータ」

「さっきから気になってたが、何故呼び捨てにする? 俺の方が年下だからか?」

 いいや、とヴィルドは首を振った。

「俺は君の友達になりたいからな。だから気軽に話し掛けている」

「俺があんたに拳銃を向けたことを忘れてはいないよな?」

「戦場で戦車の大砲を向けられたことに比べりゃ、どうってことはないさ」

「でも俺は貴様が嫌いだ。現実を見ない貴様がな」

「あれは現実を見ていない訳じゃない。何万何百万の魔族を奴隷にしているのは人間じゃない。言い方は悪いが、それをやってるのは人や魔族とは言えないな。俺が一番嫌いなタイプさ。少なくとも俺はそう思ってる」

「なるほど、そういうことか‥‥‥」

 ゼスルータは少しうつむき、考え込む。

「ちょっとルータ! 無事なのよね?」

 そこへネイラータが駆けつけ、怪我はないか彼の全身を見回す。

「何ともない。むしろあの外道をぶん殴れて少しスッキリしたくらいだ」

「ハハッ、そりゃそうだな」

「どっちにしろルータがやったことは軍法会議ものよ。まぁ正当な理由があるから勧告処分だろうけど」

「それを言うならさっきのローズウェルの軍人も軍法会議にかければ? あいつ俺に声掛けて邪魔しやがったんだ。少年いわく教団からいつでも見張られていたらしい」

「何だって!? ってことは軍の中にブレイブ教の奴がいるかもってことじゃねーか!」

 軍内にも裏切者がいるのかと、ヴィルドは。

「けどあいつは多分偶然声をかけただけかも知れんがな」

「ルータさんですね」

「オルハ・ルナ・ゼスルータだ。で、何か御用で?」

 ホーネットは真剣な眼差しで話しかけるが、彼の方はぶっきらぼうに答えるものだから、周囲は失礼過ぎないかと内心非難する。

「改めまして、私はローズウェル王国第一王女、アンリ・ホーネットと申します。先程はこの広場で多くの犠牲者が出ることを未然に防いでいただき、感謝します」

 ゼスルータは首を振った。

「いいや、俺は彼の腕を切った」

「それは残念なことです」

「自分自身後悔しています。それはそうと‥‥‥」

「一体何故、妹のあの口癖を知っている?」

 睨み、というより殺気混じりに問うているにも関わらず、彼女は恐れる素振りを見せない。

「もしかして‥‥‥ミアの兄さんですか!?」

「それで?」

 ホーネットは口をつぐみ、拳を握りしめた。

「何故お前だけ生きて返って来たと言われても私は‥‥‥」

「自分を責めるな。テロリストに捕まった時に妹に会ったんだな」

「ゼスルータ、何故それを知っている!?」

 それは機密情報であるから、知っている方がおかしいとヴィルドは驚愕する。

「妹を追いかけていたら、王女様が捕まったらしいと自然と耳に入ったからな。けど、妹と会っていたというのは驚いたが」

「私を、恨んではないのですか?」

「人間だから、ならまだしも、あんたに個人的な恨みはない」

「私は、ミアを救えなかった!」

 ホーネットは拳をより強く握りしめ、涙を流す。

「それは俺もだが‥‥‥まあ、ミアにもいたんだな、友人が」

「ごめんなさい。ミア、ミアァーーー!」

 彼女は顔を手のひらの中にうずめ、崩れ落ちる。

「後でミアの話でもするか?」

「話します。後悔していた事も、彼女との思い出も全部」

「なら、俺も話すよ。アルバムもある。一緒に見よう」

 ホーネットは母親に抱き抱えられながら立ち上がる。

「ねえミア、今日あなたのお兄さんに会ったよ。とってもカッコいい兄さんだね」

 ゼスルータは照れくさくなり、咄嗟に顔を背ける。

「全く、お主は女を泣かせるのが上手いようだな」

「冗談はよしてください」

「ホント、色んな意味で泣かせてくれるわね」

「へー、そうなんだなぁ」

「ホントそうだよね~」

 ヴィルドとラゼルは弱みを握ったようにニヤニヤした。

「いやっ、それは‥‥‥」

「ちょっと、この騒ぎは一体何なの!?」

 ちょうどそこへ、フェルリアら買い物組がこの騒動に気付き、慌ててこちらへ走って来る。

「何していたんですか?」

「条約締結をしていたらテロリストに狂魔石を埋め込まれた少年が広場に無理矢理行かされて、あわや暴走寸前のところをルータが未然に防いでくれたの。全く、たまったものじゃないわ」

「ってことはルータ、まさかその子を殺したんじゃ‥‥‥」

 フェルリアは嘘だよね? と顔で訴える。それにゼスルータは慌てて首を振った。

「いや、殺してはない。‥‥‥左腕は切り飛ばしたが」

「何やってるのよ!?」

「悪かったって。だからその子に“エーヴィヒ・リアクター付き”の義手を作るから」

「「「えっ?」」」

 その場はしばしの間、彼らの思考と同じように沈黙が走った。

「いや待て待て待てーーー! そこまで小型化出来てんの!?」

 先に口を開いたのはヴィルドだった。

「実験して大爆発したのでは!?」

「ああ、あれは2年前の話だ。その失敗を糧に、新たな試作品を俺の義足に搭載してみた」

 そう言って、足の大腿にあたる部位を開けると、前に見せた緑色の淡く輝く水晶玉が現れた。

 彼が手をスッとかざすと、その水晶玉中は、それぞれ白と黒に輝く螺旋状の魔力の渦が渦巻き、その中央は青く輝きだす。

「なっ! これは‥‥‥」

「ご覧の通り実験は大成功だ」

「うわー、すっごいキラキラしてる!」

 ローゼン以外の一同は目を疑った。大型戦闘機サイズの航空機に搭載出来る程小型化するのでさえ5、60年かかると言われているエーヴィヒ・リアクターを、直径約12センチまで小型化出来るなどもはやただ事ではない。

 これが世界に知れ渡ればこれを巡って戦争が起きてもおかしくはない程の偉業だ。

「ねぇルータ、今はヴァミラルと戦争しているからまだしも、世界大戦を引き起こすくらいよ、それ」

「知らねーよ。作れと言ったのは上の奴らだからな。それにこれは共同開発したものだ。とっくに技術は本国も持ってるよ」

「あれ? じゃあ艦内工場で作ったものは何なの?」

「姉さん、それワープ実験用って言ってよな?」

「あっれぇ~、そうだったっけ?」

「なぁゼスルータ、それのライセンス権を俺達ローズウェル軍にも売ってくれないか?」

「よさぬか、ヴィルド」

 それは共同開発先の「バイエルン重工」にも話を通してくれと思ったが、おちょくった方が面白そうだと口にしない。

「国家予算3年分を払ってくれるなら良いが?」

「流石に払えねーよ!」

「じゃあ国家予算10年分つぎ込んで小型化してみ? まぁおたくらの技術者どころか他の奴には出来ねーだろうが」

 彼はそう言って相手を見下す様に笑った。

「あの、我々レッドテイルには売ってくれませんか?」

「えー、どうしよっかな~?」

「ルータ、からかうのはその辺にしたら?」

 調子に乗っているゼスルータをフェルリアがなだめた。

「そうだよ~、いくら自分が天才だからって他人をからかうのはよくないよ」

「俺が天才? 官僚が馬鹿なだけだろ」

「ちょっとルータ!」

「だって本当のことじゃねーか。俺が空母復活論を唱えたときはそいつら航空機戦力はただのガラクタとか言ってたし、そんで今その航空機にボコボコにされてるんだよ。そもそもな話、先を見る目が無さすぎるんだよ。おまけに頭が固すぎる」

「ゔっ! たっ、確かに‥‥‥」

 彼の言った事は正論だった。軍の内部でも、未だに大艦巨砲主義を主張する者がいるくらい、先どころか現実を見ない者が少なからずいる。

 それ以上に、ロズワントの財務官僚といったら、航空母艦の建造予算を「本当に必要か?」と言い訳を並べて渋る態度を見せている。その割には戦艦の建造予算はすぐに出すものだから、宙軍将校から「無能官僚」、「国賊官僚」などとボロクソに悪口を言われまくる始末だ。

「いずれにしろ、エーヴィヒ・リアクター付き義手は止めときなさい。軍部が文句言うだろうし、何よりルータ以外に整備出来る技術者なんているわけないわよ」

 ネイラータの言う通り、これはそんじょそこらの技師が扱える代物ではなかった。

「そうだな。それに義手って動かすのに結構魔力消費するしな。彼の持つ魔力でどれだけ動かせるか‥‥‥」

「とりあえずその子と相談しながら決めれば良いんじゃないか?」

 ヴィルドの話が最もだと、この話は一旦保留となる。

『艦長、本国から陸軍が来ました』

 テレパシーでジルが急報を伝えてくる。

『陸軍だと? 規模は?』

『約6万程です。それとは別にめんどくさいそうなのがそちらに向かっています』

『めんどくさそうな?』

『皇室親衛隊です』

『承知した』

 と返答したものの、皇室親衛隊のどこがめんどくさそうなのか首を傾げた。

「なぁヴィルド、本国から陸軍6万が来たらしいが何か知ってるか?」

「あっ、バレた?」

「いやバレるわ!」

「いやぁ~、俺達陸が弱いからさ、乗っ取られたローズウェル領の諸島取り返すのに手伝ってもらおうかなぁと」

「成る程な、あとこれは俺らの問題だろうけど、皇室親衛隊がここに来ているってよ」

 それを聞き、ネイラータとラゼルは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「それってネイさんを守る為ですよね?」

「当の本人は嫌そうな顔なのだけれど‥‥‥」

「ルータ! 命令よ! 私は物陰に隠れるから、隊長には私は居ないと言いなさい! いいわね!!」

 ネイラータの耳には2人の言葉は入っておらず、ゼスルータにこれは絶対だと言わんばかりに迫った。

「分かったよ、ネイ」

 彼もネイラータの気持ちを察してか、素直に聞き入れる。

「そいつが変な事を言ったら、ぶん殴ってもいいから! いやむしろ殴りなさい!!」

「いやちょっとー! 殴っちゃ駄目だと思いますけどー!? ここでまた面倒事は勘弁してくだぁさい」

 ヴィルドは涙をうっすらと浮かべ、懇願する。

(どんだけネイに嫌われてんだよ、隊長さんよ‥‥‥)

「じゃ、私は隠れるから、後は頼んだわよ!」

 と言い残して、ネイラータは設置されていたゴミ箱の陰に隠れる。と同時に、大人数が駆けつけてくる足音が聞こえてきた。

「総員、整列!」

 1人の隊長らしき男を中心に、皇室親衛隊が横一列に素早く並んだ。

「捧げつつ!」

 隊長の号令と同時に、隊員達は持っていた銃剣を抱えて敬礼する。

「貴官は帝国宇宙軍中将、オルハ・ルナ・ゼスルータであられるか?」

 隊長は、あろうことかフェルリアの方を向いて訪ねた。

「いえ、私は姉のフェルリアですが」

「フム、おかしいな。ウルバルド閣下は巨乳の美人だと仰られていたのだが?」

「ゼスルータは俺なんだけど‥‥‥」

 彼は左手を少し挙げる。が、右手は血管が浮き出る程力強く握りしめていた。

(あのクソ変態野郎、あとでぶちのめす!)

「嘘をつくな。貴様は貧乳ではないか」

「ゼスルータは男だ! 貴様のその首を切り落としてやろうか!!」

 本当に切り落としてやろうかと、右手を刀の鞘に伸ばす。

「えっ、男!? 話が違う!」

「まあまあルータちゃん、悪いのはセクハラ大王の変態ウルバルドだし、ここは落ち着こう」

 ラゼルがゼスルータの頭を撫でながらなだめた。

「でもちゃん付けしているじゃん」

「私は男相手でもちゃん付けするの!」

「あー、そうだった。先程は失礼した。私は皇室親衛隊隊長、オドアだ。して、ネイラータ様はどこに?」

「皇女殿下はここには居ない」

「嘘だな。私には分かるぞ」

 見透かされたか、と内心呟き、諦める。

「この場に広がる香水とシャンプーの匂い。これは間違いなく皇女殿下のものだ!」

「真顔で何気持ち悪いこと言ってんのコイツ」

「‥‥‥何で分かるのよ」

 隠れていることがバレてしまい、ネイラータはしぶしぶ姿を表す他ない。

「そりゃ分かります。今日の香水はライラック、(モクセイ科の花)のパルファム、指輪はサファイアと見せかけてラピスラズリ、そしてシャンプーにはハチミツが使われているもの、ドレスの生地は‥‥‥」

「マスタード・ブロー!」

「グハァッ!」

 淡々と話続けるオドアにしびれを切らし、ネイラータは毒々しい霧を纏ったブローを彼の顔面に食らわせる。彼が吹き飛んだと思えば、今度はもがき始めた。

「いい加減にしなさい! このストーカー!」

「あぁ、目がぁぁぁーーー! 目が染みるーーー!」

「アッハッハッ! こいつぁ傑作、ハハハ!」

「ニコラス! 笑い事じゃないわよ!」

「いやだって、ねぇ? ゼスルータ様」

 振られたゼスルータは、左手で口を抑え、右を向いて必死に笑いをこらえていた。そしてフェルリアら女子達とヴィルドはドン引きだった。(もちろんオドアに対して)

「とりあえず、キュア!」

 緑の優しく輝く光がオドアを照らしたかと思うと、彼の顔は元通りになった。慈悲深いフェルリアが回復魔法をかけたのだ。

「ありがとう、フェルリアさん」

「こんな奴ほっといても良かったのに‥‥‥」

「それよりも、皇女殿下、本国に戻りましょう。大帝陛下が心配されていますよ」

 オドアがネイラータの手を握ろうとしたその時、ゼスルータが立ち塞がり、彼に拳銃を突き付ける。

「何のつもりだ。私は皇室親衛隊隊長だぞ」

「いやお前、言動からしてただのストーカーにしか見えないのだが?」

「何を言う。私はストーカーではない」

「それでよく言えるな」

 話している内に、(こいつ相当ヤバい奴だな)と気付き、ゼスルータは内心引き金を引いてもいいよなと思い始めている。

「いや、ストーカーじゃね?」

「それに言っておこう」

 オドアはヴィルドの言葉を無視した。

「皇女殿下はまさしく皇室の花だ。貴様ごときには釣り合わないぞ」

「そんなつもりはないが‥‥‥」

「オドア、それを決めるのは私よ」

 そう言い放ったネイラータはゼスルータを抱き締めたかと思うと、唐突に唇を重ねてきた。

「ローゼンちゃん見ちゃダメ!」

 間一髪、フェルリアが手のひらでの目隠しが間に合った。

「ん? 何で?」

「なっ、なっ、何で私より先にするんですか!?」

「ツッコむとこそこ!? っていうかルルもルータのこと好きなのかよ!」

「あっ、いや、ヴィルドさんそうじゃなくて、でもそういうことで‥‥‥」

 ヴォーロルルは恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にし、両手で顔を隠す。

「ルルちゃん先手打たれちゃったね~」

「2人共、そっとしてやれよ」

 だが、一番衝撃を受けたのは、他でもないオドアであった。

「ここここ皇女殿下! 何故そんな奴と! キッ、キスを!?」

 その顔の色は、真っ青を通り越した青さだった。

「一目惚れよ、だってカッコいいんだもん」

「‥‥‥今のルータはなんか可愛いけど」

 ヴィルドの言う通り、ゼスルータは地べたに女の子座りをしながら、両手先で自分の唇を押さえていた。

「なっ! なっ!! なっ!!! 何!?」

(ホントだ、ちょ~可愛い!)

 その表情を見てネイラータはいたずらっぽく囁いた。

「キスよ。キスは大切な人とするものだから当然でしょ」

「そっ、そんな、馬鹿な‥‥‥。おい貴様! 決闘だ! この俺と勝負しろ!」

「えっ、けっ、決闘‥‥‥。はぁ? 決闘!?」

 ゼスルータは彼の発言で我に返り、ゆっくりと立ち上がった。

「正直に言おう。ヤダ」

「何だ? もしかしてビビっているのか?」

「いや、そうではないがなぁ~」

 彼は面倒くせぇ、とため息をついた。

「そうかそうか。君は不戦敗を望むか」

「そう思うんならかかって来いや、雑魚さんよ~」

 ゼスルータは舌を出し、馬鹿にするように変顔で挑発する。

「雑魚ではない! その言葉を言ったことを後悔するんだな!」

 オドアが剣を振りかざした瞬間、彼は高度1キロの空中に飛ばされた。

「‥‥‥は?」

「はいグラビィテルandリフレクター」

 ゼスルータが棒読みで呪文を唱えた途端、オドアは100Gの重力で突き落とされる。

「あああーーー!」

 そして筒状に展開された青いリフレクターの中に落ち、落ちた瞬間に生じた衝撃波がリフレクターによって何倍にも増幅された挙げ句、それを全身に浴びる羽目となった。

(((えっっっぐ!)))

 その光景を見て、全員がめちゃくちゃドン引きした。


―10分後―

「ひぐっ、ぐっ、ゔぐっ‥‥‥」

 オドアは全身に重度の打撲及び骨折を負い、あまりに無惨な姿となって、転がっていた。

「はいザマァ~。ホントクソ雑魚ですねー」

「いやひどすぎるくね?」

「知ーらね~、喧嘩吹っ掛けてきたのはコイツです~」

 そんな中で、むしろネイラータは上機嫌だった。

「本当に弱かったわ。こんな雑魚が隊長の皇室親衛隊なんて解散でいいわね!」

「「「やめてください皇女殿下!」」」

 ニッコニコのネイラータに対し、当然皇室親衛隊の隊員達は猛反対し、抗議する。

「私は副隊長でありますが、隊長と違って超絶キモいストーカーではありませんし、変態なのは隊長だけであります! 部下の方は真面目に職務を務めてます故、どうかご一考を」

 そう副隊長は頭を下げ、皇室親衛隊員全員も後に続いた。

「ねぇルータ、このストーカーの代わりになれそうな人材居る? それとも副隊長を隊長に任命した方がいいかしら?」

「それ決める権限ネイにはないだろ?」

「お父様に頼むに決まっているでしょ。それにこの変態にはもうウンザリなのよ」

「と言われてもな~‥‥‥誰か知っていたりする?」

 ゼスルータは使節団の面々に話を振った。

「知る訳ないです」

「「「同じく」」」

 全員そのような伝手はなく、首を横に振るしかない。

「名将なら何人か知ってるけど、護衛に長けたのはなぁ~」

「ゼハルド閣下に頼んだら? 閣下は五帝将だから誰か知ってるかも。それに親衛隊長官だから皇室親衛隊にも近しいし」

「姉さん、多分無理だよ。今頃人員整理中だ」

「どうして?」

ゼスルータは姉の鈍感さに頭を抱えた。

「何よ、ルータ」

「姉さん、この間K号作戦あっただろ」

「ぐらい覚えているわよ」

「で、親衛隊の精鋭が来てくれたじゃん」

「そうだけど?」

「一番活躍した分戦死者も多かったはずだから今人材不足なんだよ、親衛隊は。それに今頃閣下達は再編成で忙しいはずだ」

「あ~、そうかー、そうよね‥‥‥」

「因みに何人死んじゃったの?」

「えー」

 ゼスルータは答えていいのか分からず、ネイラータに視線を向けた。

「別に答えてもいいわ、どうせ後で分かることだし」

「作戦終了時に分かったのだけで約1万人程」

「‥‥‥マジかよ」

 しばらくの間、沈黙が走った。

(こちら帝国陸軍第103師団、ゼスルータ中将はそちらに居るか?)

 副隊長宛にテレパシーが送り込まれる。

(はい、目の前におりますが)

(すぐにこちらへ来るように伝えてくれ)

(内容は?)

(場所はローズウェル王国在ロズワント軍駐留基地、ウルバルト閣下に対し暴行を加えた件に対する軍法会議だ)

(何ですって!? りっ、了解です)

 彼は一瞬驚いたが、すぐに気を取り直した。

「ゼスルータ殿、この国のロズワント軍駐留基地で軍法会議を開くからすぐに来いと」

「何で? さっきの件にしては早過ぎるな」

「ウルバルト閣下に暴行を加えたとかどうとかで‥‥‥」

(ああ、あれか)

 そういや殴ったな、けどあいつが悪いと思いつつ、仕方なく命令に従う。

「とりあえず出廷してくる。みんなは自由行動でもいいから」

 ゼスルータは転移魔法陣を展開し始めた。

「ちょっと、ルータ」

「安心しろ、ちょっと仕返ししてくるだけだ」

言い終えた途端、ゼスルータは紫の光と共に、虚空へとかき消えた。

「行っちゃったぁ‥‥‥」

「えー、どうします?」

「当然行くに決まってるわ」

「なぁヴィルド、あんたはどうするんだ?」

「場所は駐留基地なんだろ。だから帝国の陸軍に挨拶と、どっちにしろ君達の力を借りたい。特に彼の力は」

「何の為だ?」

「後で話す」

「後で話す、ってなぁ‥‥‥」

「はいはい、話は後でするって行ってるんだし、後でしよう。今は駐留基地へ行こうよ」

「ラゼルの言う通りね。みんな、早く行くわよ!」

 フェルリア達も、ロズワント軍駐留基地へ転移し始める。


―ローズウェル王国ロズワント軍駐留基地―

「オルハ・ルナ・ゼスルータ中将、ただいま到着しました」

 基地に現れたゼスルータは、目の前にいるふくよかな、いかにも中年おじさんともいうべき大尉の男に敬礼をした。

「君がゼスルータ君だね。私はハルトマン大尉だ。話は聞いたよ」

「承知しておりま~す」

 いかにもやる気のない返事に、ハルトマンは苦笑する。

「ハハッ、まあそうなるよね」

 ハルトマンがドアを開け、ゼスルータを案内した。少しばかり広い1室の真ん中には壇上があり、そこは誰も居なかった。周りには判士の複数人の軍人が座っているぐらいで、通常の軍法会議とは程遠いものだった。

「私が議長を務めるよ。といっても代理の様なものだけどね。‥‥‥どうせ無罪でいいし」

 最後にそう呟き、ハルトマンは壇上へ上がった。そして1人の軍人が開廷の宣言をした。

「これより、オルハ・ルナ・ゼスルータ中将がリルド・ウルバルト五帝将閣下に対し、暴行を加えた件に関する軍法会議を行う」

「あいつが悪いだろ。何なら覗きを企んだ件で告発してもいいが」

 その一言で、ハルトマンは「無罪、以上!」と一瞬で軍法会議を締めくくる。これ以上追及されると、陸軍の悪評が世間にまで広まってしまうからだ。

「呆気ないな」

「しょうがないね! 君の言う通りあいつが悪いし。それにこっちは頼み事をしに来た側だから、こんな事したくなかったんだ!!」

「頼み事とは?」

 ハルトマンはおもむろに、壇上の中から数枚重なった資料を取り出した。

「受け取りなさい」

「はっ!」

 ゼスルータは両手でその資料を受け取った。資料の表紙には「極秘」と書かれていた。

「めくってみたまえ」

「これは‥‥‥! 一体どこで!?」

 中身はヴァミラル軍兵器の解析図だった。しかし、それはどこにでもあるような兵器の解析図ではなかった。

「人型兵器<カムロス>、ガンダーラ帝国艦隊を壊滅させたものではないですか!」

 ゼスルータはその解析図を食い入るように隅から隅まで目を通す。

「1ヶ月前の事だ。海軍の水雷戦隊部隊がヴァミラルの輸送船団を奇襲してな、その中の大型輸送船を島に座礁させたんだ。その時、ヴィ―ン要塞攻略の為に輸送中だったカムロスが見つかったという訳だ」

 ゼスルータは海軍に心の底から感謝する。海軍が活躍してくれなければ、間違いなくヴィ―ン要塞は陥落し、自分達もただでは済まなかったであろう。

「そして未知の兵器であるカムロスを解析する事が出来た。そこでゼスルータ君」

 呼ばれた彼は姿勢を正し、真面目に話を聞き始める。

「君にはこのカムロスを上回る兵器を開発して貰いたい。ここに来た陸軍は私を含め、その為の資材を君に渡す為でもある。これは全帝国軍の要望でもあり、希望でもある」

「無理であります。大尉殿」

 ゼスルータは即答した。その回答にハルトマンはムッとした表情になった。

「何故かな?」

「試作機は完成出来るでしょう。が、問題はその後。パッと見、このカムロスは量産出来るよう工夫されています。従って、我が軍がその新兵器を量産する間に、ヴァミラルはカムロスを1000機送って来てもおかしくはありません。現にヴァミラルはその位の技術と物量を持っています」

 彼の回答にハルトマンは唸った。現に帝国軍はほとんどの戦線で防戦一杯。しかも、物量の多さでは世界有数の帝国でも、物量戦では星間国家たるヴァミラルに全く歯が立たない。

「ここで言っても無駄かもしれないですけど、もう講話すべきですよ」

「君はヴァミラルのことを恨んでいないのかね?」

「フハハハハ」

 ハルトマンの疑問にゼスルータは高笑いした。

「何がおかしい!?」

「あの爆弾を落っことしたのはヴァミラルではありません」

 その発言ににその場に居た者は彼以外狼狽えた。

「あんな都合のいいタイミングで“アレ”を着弾させられるはずがありません。あれは他の国からのものです」

「それは本当なのかね? 言っちゃなんだが、現実逃避しているのではないのか?」

「現実逃避しているのはそちらの方だ! あの時テレパシーやテレポートは出来なかった。しかし、妨害したのは間違いなくヴァミラルではない!! ヴァミラルの工作員がしたのであれば、魔力障壁を作って完全に遮断する。が、その時は抜け穴があった。つまり魔力線に魔力波を当てて妨害された。このやり方はヴァミラルは決してしない。何故なら魔力線を完全に遮断することが出来ないからな」

「じゃあ、何故それを言ってくれなかったのだ!?」

「これに気付いたとき、俺も言おうとはした。‥‥‥ラジオ放送でその事を暴露しようとした途端、そのラジオ局は爆破されたがな」

「なっ‥‥‥!」

 ハルトマンらは何も言えず、何かの陰謀を疑ってしまう。

 誰かが、この戦争を望んだのかと。

「直後に私のところへ脅迫状も届きました。この件についてこれ以上話せば貴様はおろか周りの者も殺すぞ、と。他に何人もの刺客も来て、最初は軍上層部を疑いました。しかし、上層部は開戦に反対し、太陽系連合にあまりにも消極的な態度を示し、私はやったのは彼らではないとやっと気付きました。でも、もう遅かった‥‥‥。いや、遅すぎた」

 長い沈黙が走る。

「ヴァミラルへの復讐、それは虚しい考えです」

 再び口を開けたのはゼスルータであった。

「だから講話すべき、か。確かに平和になって欲しいものだよ」

「講話したからといって、平和が来るとは限りません」

「はあ?」

「ヴァミラルと講話する暁には世界中に真実が伝わるでしょう。そしてどうなるかは神ですら知り得ない」

「君は何を望んでいる?」

「望むのは、家族を殺した者に対する復讐だけ。そしてそれを邪魔する者は何百万人でも殺します」

 彼の顔は、怒り、殺意、憎悪などが混ざり、1つになったような表情だった。

「新型人型兵器は開発します。が、完成するかや対ヴァミラル相手に使われるかは知りませんが」

「もういい分かった。後は君らに任せるから」

 ゼスルータに恐怖心を抱いたハルトマンは、恐れから彼に退室を促した。

「それでは、失礼します」

「あっ! ちょっと待ってくれ」

 ハルトマンは何かをハッと思い出し、彼を引き留めた。

「何ですか?」

「そういや君に手紙が来ていたんだ。ウルバルト閣下からね」

 ハルトマンは手紙を取り出し、ゼスルータに渡した。彼は怪訝そうな表情を浮かべながらも、

「後で読んでおきます」

 と言い残し、部屋を出た。

(さて、届いた資材とやらを見てみますか)

「あっ! ルータ! もう終わったわけ?」

 丁度そこへネイラータが現れ、さも当然の様に右腕に抱き着く。

 ヴォーロルルの目が死んだのかと思うくらい冷たくなる。

(後で頼みを聞こう‥‥‥)

 それに気付かない程鈍感ではないゼスルータは、動じないふりをしつつ、そう硬く決意するのであった。

「無罪放免なのはいいが、頼み事をされたよ。カムロスに対抗する新兵器を作れとな」

「新兵器?」

「敵さんは量産する暇はくれないだろうけどな」

「それはそうかもね。それは置いといて、皆待っているわよ。使節団一向はルータが散々やらかしたから外務省にね。それとヴィルドはルータに用があるって」

 ネイラータからの伝言に、先の少年のことかと推察する。

「用? 内容は?」

「本人に聞いて頂戴」

「分かったよ。だがその用より先にやるべき事がある」

 そう、切った腕を償う為に、彼はやるべき事を成せねばならない。

 だから、急がねばと、焦燥を隠さずに歩き出した。


                                      第五話・前編 終

 お久しぶりで~す、皆様生きてますか~?

 ‥‥‥いや暑すぎる! なにこの洒落にならない気温はよ!?

 水分・塩分補給も大事だけど、ハンディファンも買った方がいいのかな?

 (エッ、持ってないの?)と思ったそこのあなた。そうです、持ってません!(自信満々に言う事じゃねえ‥‥‥)

 つか流行というものに地味に乗り遅れるんだよな~、ルティカって。

 あっ、でもヤ○トの映画は見に行ったよ! 伏線だらけであんまり喋れないけど!!

 いや地球侵略しに来た黒い奴ら、ホント何? 波○砲効かないし訳分らん事言うわで続きが気になる。 

 あと、ヤ○トに限らず、地球を侵略しに来るエイリアンはだいたい多脚戦車で地上を侵攻するけど、あれ何なんだろうね。

 多脚戦車といえば、今訳して「抵抗」というゲームのプレイ動画見てるけど、主人公がまさかの真○さん(2からの声がね)。

 ここでヤ○ト繋がりがあるとは思ってもみなかった。そんで多脚戦車、面白そうとも思った。

 黒ラクでやってみようかな、「宇宙戦艦vs多脚戦車vsゼスルータが作った最強人型決戦兵器」を。

 う~~~ん、カオス!

 つか上記のプレイ動画見てたら、メルギアも面白いアイデアが最近思い付いたところなのに、どうしたものか。‥‥‥それを絵にしたくても、絵描くの下手だし、独特だからAIに任せて出来るとも思えないし。

 う~~~ん、詰んだ!

 まあ小説家らしく言語化はたぶん出来るし、どこで新メルギアも出すかも頭の中でだいたい決まってるからヨシ!

 多脚戦車? 少なくとも物語終結までに出しま‥‥‥せん!(だってヴァミラルってエイリアンというより‥‥‥ね)

 じゃあ続編で? さあどうだろうね。まず完結しないと話になりませんから。

 てな訳で、まずは黒ラク完結目指して、コツコツと頑張ります。でもやるべき事を優先せにゃならん事にはご了承くださいませ。

 それでは、また次回お会いしましょう!

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