第二話・反攻
ラクリモサの翌日、これによって出た被害はシルキアを中心に半径約10キロが消滅し、死者は村の住人とシルキア方面基地要員等合わせて約1500名に及んだことが判明した。
各国のメディアはこんな非道な行いが許されてなるものかと開戦論を主張。地球ではロズワント帝国を初め、ランカイト王国、ローズウェル王国、南アフリ連邦国、大扶桑帝国など75ヵ国が参戦を決定した。
また、宇宙では火星共和国を初め、スペースコロニー国家であるクルセイド聖王国、ロズワントから独立したグナイゼナウ連合など54ヵ国が参戦、合わせて129ヵ国が例の艦隊と開戦。
そしてそれらの国々は<太陽系連合>を結成させる。
(勝手に首を突っ込むな‥‥‥!)
世間では、やれ開戦だの戦争だのと息巻いていたが、当の被害者である2人はその世論に対し憤った。
弟は撃ってきた奴だけを殴ればそれでいいと考え、姉は全く関係のない者まで傷つけるのを嫌がった。
「はあ‥‥‥!?」
それでラジオで国中にその意思を伝えようとした途端、その放送局が爆破されてしまう。以後、表立って反戦を訴えることを避けた。それは、今思えば間違いであった。
その直後、冥王星沖で小規模な戦闘が起き、そして今までの軍事的常識が打ち砕かれる。
魔導電探に全く反応しない航空機を前に撤退を余儀なくされたからだ。
装甲の薄い巡洋艦や駆逐艦はおろか、戦艦にとってもひとたまりもない。実は、連合側には航空機がないどころかその概念すら消えていたのだ。
「馬鹿な、ありえん!」
「遂に対抗策が現れたか‥‥‥」
「光速の迎撃ミサイルが破られるとはな」
しかし、蒼炎誘導弾は彼らの艦載機や艦船に対して、追尾機能が全く機能せず、また蒼炎誘導弾自体は通り過ぎたり、また敵機に向かって行ったとしても目標に近付く前に炸裂してしまう。
「―本作戦には断固反対であります!!」
開戦後初の大規模海戦、後に<第一次土星沖海戦>と呼ばれた海戦を前にした作戦会議にて、メルギア航空隊は敵航空機の撃滅を命じられた。
それに対し、ゼスルータはいとも簡単に音速へと到達する戦闘機相手にかなう訳がないとして猛反対。
だがそれは聞き入れられず、投入された2000機の内、およそ8割が散ってしまった。
「クソッたれがーーー!!」
ゼスルータは戦況の不利を悟り、彼は最後に敵の超大型空母へと特攻。
死んだと思ったが、飛行甲板の破壊に成功した上、部下に回収され生還した。
「ご無事ですか、少将閣下!?」
「‥‥‥部下達は?」
「直掩機隊のフェルリア以下4名だけです」
「そうか‥‥‥」
敵の名が星間国家<ヴァミラル>であることが捕らえた捕虜や艦艇の残骸によって判明したものの、連合側は300隻もの艦艇を失い大敗北。
ヴァミラル軍艦隊が持つ、たった数発で轟沈させる主砲の火力。そして太陽系各所に点在する基地やスペースコロニーも次々にヴァミラル軍の手に落ち、火星共和国との連絡も断たれ、遂には地球まで侵攻され始める。
が、それらは全て織り込み済みだった。
そもそも、土星沖海戦は単なる時間稼ぎに過ぎない。
ロズワント帝国と同盟国である大扶桑帝国は「まず、土星にて艦隊決戦を敢行」し、「その隙に利権を持つ各惑星及びコロニーにある戦力・資源を全て本国へと集結」させ、「持久戦体制を整える」。
欲を言えば、「長期戦ともなれば、ヴァミラルとの接触の機会も必然的に多くなる。それを利用し和平を成す」という壮大な計画を実行していたのだ。
また、ロズワント帝国は世界最大規模の軍事大国であり、国内にある資源もかなりの埋蔵量がある。それら二つを使い、新たな兵器を増産する事も当然可能であった。
それに近距離ならまだしも、遠距離での通信は不安定だが、月面から地上への攻撃や連絡もまた可能であった。
「これでどうにか希望が見え始めたな」
(そう上手くいくか?)
しかし、これでひとまず安心したのも束の間、帝国軍大本営を凍てつかせる報告が入る。
ヴァミラル軍の地球侵攻から3ヶ月後、ガンダーラ帝国とその近くに位置するランカイト王国では本土決戦を展開したが、ヴァミラル軍のある新兵器の前に呆気なく敗北した。
その新兵器は全長14m程の人型のような兵器で、たった1機で戦艦9隻、巡洋艦76隻艦、駆逐艦143隻、その他洋上艦艇96隻、合わせて324隻もの艦艇が沈められた。
この時、新兵器は1機しか確認されなかったが、帝国軍上層部はもしこれが量産されていれば連合側は少なくてもより一層不利な状況になると確信する。そして、公海上の制海・制空権を握られ、通信網はほとんど遮断され、国交は閉ざされる。だがそれでも、ロズワント帝国は諦めなかった。
手始めに五帝将である<シュミル・ゼハルド>が東端から北方沿岸部を沿って西端まで続く氷の長城を築き上げた。高さが20mにもなる巨壁は炎でも破壊できず、それを前にして上陸作戦などは不可能となり、航宙揚陸艦などが飛び越えようとしても下から狙い撃ちにされた。
北方を気にせずによくなると、手持ちのほとんどの戦力を南へ向けるように配置する。
そしてラクリモサから3年後、帝国軍情報部は、帝国軍の最重要要塞である<ヴィ―ン要塞>にヴァミラル軍の地上部隊と500隻に及ぶ大艦隊が進軍するという情報を暗号解読により入手した。
帝国軍は直ちに<K作戦>を発令。ヴィ―ン要塞に持てるだけの戦力を配備させた。
―そして、その中にはゼスルータとフェルリアの姿があった。
だが、2人とも見た目が少し変わっている。ゼスルータは髪を長くし、白いゴムで束ね、髪の色は2人とも金色へ変わっている。
また、瞳の色も透き通った緑からサファイアのような青色となっている。
(いずれヴァルハラで‥‥‥)
もう、後悔したくないから。嘘をつくのはこれで終いだ、と。
─魔導歴1924年8月17日早朝─
ヴィーン要塞には絶大な数の戦力が集結しつつある。
地上には陸軍兵40万、戦車5000台。そして空には巡洋戦艦30隻、巡洋艦56隻、駆逐艦その他221隻と合わせて307隻の艦艇が集まるという、壮大な光景。
この艦艇の多くは練度の高い親衛隊に所属する艦であり、艦隊司令官も親衛隊長官である、シュミル・ゼハルドが率いている。
また、艦隊の乗組員にとって心強いのは、近代化改修によって全ての艦にバリアとなる<魔導防壁>が搭載されていることと、帝国宇宙軍の中でも少数しか配備されなかったロイ・ゼント級巡洋戦艦がこの戦いのために30隻も参加していたことであろう。
この艦はグラビティル・カノーネの基礎理論を提唱した、ゼント博士の名を取って名付けられた。
全長290m、速力40ノット(1ノット=時速1.852キロ・時速約74キロ)。武装は40サンチ二連装主砲11基、ミサイル発射管6基、副砲の蒼炎誘導弾発射砲20基を装備する。
更には、単発でも複数同時に発射すれば惑星すら破壊することのできる切り札<グラビティル・カノーネ>も搭載している。が、こちらは火力が高すぎるため、大気圏内では発射を禁じられている。また、通用するかはともかく、敵航空機に対する対策も施されていた。
しかし、兵士達にはある疑問があった。それは敵であるヴァミラル軍の兵士達が話す言語が違えども、エイリアンなどではなく、自分達と同じ“魔族”であることだ。
だが、今までの戦争の中で、魔族同士での戦争だってあったのだ。たとえ相手が魔族だろうと、敵を殺すことに何の躊躇もない。
「全艦隊マルチ隊形を維持。全艦砲撃用意」
「全艦砲撃用意。火器管制システムロック解除」
冷静に指示を下すゼハルド。
彼はアークデーモンの1人で、いつ何時も、冷静さを失わない指揮官として有名であり、くるりと曲がった黒茶色の角とみ空色の短髪が特徴的だ。
若い見た目でも片眼鏡がよく似合う。陸軍はまだしも、艦の数では相手より少ない状況でも彼は勝算を見出している。
「しかし、ルータ君にフェルリア君。君達は本当にメルギア航空隊員として戦うのかね?」
「閣下には艦の戦術長としての教育を受けさせてもらっていますが、あいにく自分にはこの戦い方以外は性に合わないので」
彼は漆黒のメルギアを装備していた。
「私も航海長としての訓練を、合間を縫ってしていますが同じ理由です」
色違いの白いメルギアを着たフェルリアもこれに同調する。
「まあいい。しかしルータ君、その背中から生えている腕みたいなものは何だ? それにノヴァカノンは使えないままなのかね?」
「これは自分でもよく分からないので、適当に<黒獄爪>と呼んでいます。あと、光属性の魔法は全てがだめです」
「そうか。仕方がない」
<ノヴァカノン>。それは前にも言った通り、小惑星すら破壊する魔法だが、それは光属性の中で最強クラスの禁術である。
ゼスルータはそれを使ってユーラクラ軍の宇宙戦艦を6隻も沈めたのだが、ラクリモサの日を境に彼は光属性魔法を使えなくなり、闇属性魔法しか使えなくなった。
しかし、彼がそれで得たものもまた多い。
「ご安心を、既に代用策を準備しました」
「ならいい。2人とも、活躍を期待しているぞ」
「はっ!」
2人は声を揃えて返事し敬礼した後、艦橋を後にする。
「敵艦隊、要塞から見て東側に展開中。陸上部隊は南東の方角です」
「敵の陸上部隊は陸軍に任せておけとのことだ。我々は敵艦隊を叩く」
「了解しました」
「これより、K号作戦を開始する。第一から第三フリゲート艦隊は前方に展開。第四と第五は艦隊中央に。残りは艦隊側面に」
「了解。全艦に通達、第一から第三フリゲート艦隊は前面に展開。第四と第五は艦隊中央へ。他の艦隊は艦隊側面に展開せよ!」
「全艦、作戦行動を開始せよ」
参謀長の考えた作戦はこうだ。
まずはウェーザ級巡洋艦を中核とした水雷戦隊を前面に展開し、先制雷撃を喰らわす。
砲の火力は我が方が下だが、ミサイルの威力は高い。それに砲の射程と命中率、そして手数は上である。
それを利用し、雷撃で混乱したところを我が方が敵の射程内に入る前に叩きのめす。そして敵の航空機は艦隊中央を狙うはず。そこを防空巡洋艦艦隊が対空砲で撃ち落とす。
残りの残存艦隊は側面の巡航力に優れた巡洋艦がとどめを刺す。数的に不利だが、仮にとどめを刺せなくても十分な損害を与えられる。参謀らはそう確信していた。
「敵艦隊、射程に入りました」
「ブラックホーク発射準備よし。いつでもいけます」
「全艦、攻撃始め!」
「フォイヤ!」
先手必勝、と言わんばかりに帝国艦隊は砲撃を始めた。白い噴進弾が炸裂。ブラックホールで吸い込み艦列を乱す。続けて赤い矢の様な光線が次々とヴァミラル艦隊に襲いかかり、為す術なく轟沈した。
「―3、4番艦も轟沈! 敵艦隊の砲撃です!」
「何だと! 射程が長すぎる」
双方の距離は600キロ以上離れている。
それなのに高い命中率を誇る帝国艦隊の砲撃にヴァミラル艦隊の乗組員は驚く。しかし、ヴァミラル艦隊にも打つ手はある。
「このまま勝てると思うなよ! 帝国軍め」
艦隊指揮官は笑みを浮かべた。一方で、要塞の南西では激しい撃ち合いが続いていた。
「―怯むな! 撃て、撃て! 撃ち続けろ!」
地上では塹壕戦を繰り広げ、その後方では帝国の戦車部隊が怒号を響かせていた。
更には要塞からの集中砲撃によってヴァミラル軍は一歩も進めなかった。それどころか、自分達に降り注ぐ砲弾や弾丸を前に、被害が拡大する一方。
「クソッ、前に出れねぇ!」
「第十七師団、壊滅を確認!」
「艦隊が勝ってくれりゃあ、後は楽勝なのに‥‥‥」
彼らが頼みの綱とするヴァミラル艦隊に更なる動揺が与えられる。
「―敵艦隊、まもなく我が方を射程に収めます」
「全艦、魔導防壁展開」
「全艦、魔導防壁展開!」
帝国艦隊全ての艦に球体の青いガラスのようなバリアが包み込む。
「―全艦、砲撃開始!」
「砲撃始め!」
遂にヴァミラル艦隊は反撃を開始する。無数の紫色の光線が帝国艦隊に襲いかかる。命中した艦はすぐに沈む。はずだった。
「―我が方被弾多数!」
「損傷は?」
「ありません」
ヴァミラル艦隊の砲撃は魔導防壁に当たった途端、魔導防壁を突き抜けずに塵と化す。
これに帝国艦隊の乗組員達の士気はおおいに上がった。
「―敵艦に損傷なし!」
「バカな! 我が軍の砲が効かんだと!?」
「落ち着け、艦長。このまま撃ち続けろ」
「し、しかし‥‥‥」
この時点でヴァミラル艦隊は84隻も失っていた。これ程なら、すぐに撤退してもおかしくはない。
しかし、艦隊の提督は撤退の命令を下さなかった。
「敵の防御とて、限界があるはずだ。それまで撃ち続けろ。それに、もうすぐ増援もくる。それまで踏ん張れ!」
「はっ!」
帝国艦隊は損害軽微。これなら勝てる! と乗組員達は皆そう確信していた。
が、30分も経つと魔力障壁にも限界が近付いてくる。
「―第一フリゲート艦隊3番艦、魔導防壁消滅!」
「何? やはり限界か‥‥‥」
「4、6番艦撃沈!」
「魔導防壁がもう持たなくなっています」
この魔導防壁は、ゼスルータが開発した試作品。彼自身、これを艦艇に搭載する際に、「この魔導防壁は試作段階であります。ですので、あまり過信しないでください」と忠告していた。
「怯むな! このまま撃ち続けろ」
「はっ!」
しかし、1隻、また1隻と帝国艦隊は沈んでいく。
このままでは被害は拡大するのみ。
そこへ、彼らにとって恐怖の対象となるものが襲いかかる。
「艦隊上空より敵機来襲! 電探には感なし」
「数はどのくらいだ?」
敵機が来ることは最初から予想していた。
しかし、敵機の数は彼の想像を上回るものだった。
「目視で確認。敵機およそ300以上」
「何!」
ゼハルドは珍しく目を見開く。
一方のヴァミラル艦隊の提督はご機嫌だった。
「―ガハハ、奴等もまさかあれ程の敵機が来るとは思わんだろうな」
「さてさて、上手くいけよ」
提督は自信満々かつ上機嫌だ。
「―第一陣、来ます!」
だがゼハルドは慌てず、すぐに適切な指示を出す。
「第四、五フリゲート艦隊は直ちに対空戦闘始め」
「対空戦闘撃ち方‥‥‥いや待ってください!」
「冥焔」
「付与、ライト・ショットボム!」
その時、無数の紫色の火球と一本の閃光の矢が敵航空隊の側面から襲いかかる。
あるものは紫色の火球に包まれ、閃光の矢は花火の様に炸裂し、無数の弾丸に似た矢が四方八方に飛び、一瞬にして、全ての機体が鉄屑の破片となった。
『こちらゼスルータ、貴官らは無事か?』
テレパシーで艦隊の様子を問う。
この機をうかがい、敵航空隊の第一陣を殲滅し、艦橋の窓に現れたのは2人であった。
『ルータ君、それにフェルリア君。お陰で無事だ。感謝する』
『敵機多数捕捉、警戒を緩めずに』
「ああ、分かった。ところで‥‥‥」
そのまま敵航空隊に向かおうとする2人を呼び止める。
「このまま敵艦隊の上空に向かえるか? できるのなら上空から敵艦隊を撹乱しろ」
『了解です』
『分かりました』
そして2人はより高く駆け上がっていく。
「さて」
ゼハルドは前を向き、睨む。
「ここからが正念場だ。総員、気を引き締めろ」
「了解であります!」
この戦いの最終局面に誰もが気を引き締める。
「敵航空隊、第二波来ます!」
「対空戦闘始め」
「対空戦闘、撃ち方始め!」
敵航空隊の方は先にやられた友軍機の弔い合戦だ! という気概で帝国艦隊を殺しにかかる。
「―全機、このまま敵艦隊中央に突撃! さっき味方をやった奴はいない。仕返しだ! 派手にやれ!」
『『『了解!』』』
彼らは2人がいなくなったのを確認し、ひとまず安心する。
彼らさえいなければ、敵の航空機に対する対抗手段は全て貧弱。そう思っていた彼らに無慈悲な対空砲のシャワーが真下から降り注いだ。
1機、また1機、という程度では済まない。ほとんど同時に、おびただしい数の航空機が爆散する羽目になる。
「友軍機が撃墜された!」
「回避だ! 回避ーーー!」
「イカれてんだろあの弾幕!」
魔弾の追尾が通用しないのであれば膨大な数の対空砲で撃ち落とすのみ。
それが帝国軍が出した結論だった。
例えるなら逆さゲリラ豪雨。いくら音速を越えようが、避け切るのはほぼ不可能。
「第四航空中隊全滅!」
「タスク、シュルカ、応答しろ! ダメだ、殺られた」
ものの3分で全航空隊の約半数にあたる160機程が空に散った。
これを見ていたヴァミラル艦隊の指揮官達は驚愕する他ない。
「バカな! 我が航空隊が半分も‥‥‥」
そして、提督はこれを認めたくないばかりに、思考が止まる。
「あり得ん。このようなこと、あるはずが‥‥‥」
「航空隊、すぐに下がれ!」
航空攻撃は失敗した。ヴァミラル提督はそう判断し、艦隊決戦を選択する。
「―まだ勝算はある! 砲撃は続行しろ!」
相手の意図を察したゼハルドは、砲撃を続けつつ、包囲するよう指示を出す。
「はっ!」
(敵航空隊は何とかなった。のだが‥‥‥)
突然、旗艦プリンツ・オイゲンの船体が大きく揺れた。
「左舷被弾! 魔導防壁消失!!」
「破られたか‥‥‥」
この時点で帝国艦隊の損害は、ロイ・ゼント級8隻を含め、多数の艦艇を失っていた。
(2人とも、間に合ってくれ!)
彼らなら、と期待し、ゼハルドは賭けに出る。
「ねえ、ルータって、飛ぶの速くなったわね」
「お陰であっという間に雲まで行ける」
ゼスルータとフェルリアは敵艦隊上空、しかも雲の上目指して飛行中。
魔導防壁を展開し、義足にある小型の反重力魔水晶だけでなく、黒獄爪の手のひら(?)から魔力をジェット噴射のように噴射すれば音速での飛行も余裕だ。
フェルリアはそれに習って靴底に描かれた魔法陣から魔力を噴射している。
「もうすぐ雲の上だ」
雲を突き抜け、2人はその場に留まる。
「さてと、後はゼハルド閣下に指示を仰いで‥‥‥」
呟いた時、フェルリアがあるものを見つけた。
「ねえ、ゼスルータ。あれは何?」
「あれは‥‥‥、弾道ミサイル!?」
2人が目にしたのは図太いフットボール状の弾道弾。ゼスルータはそれが敵艦隊の方へ向かっているのを確認した。
「姉さん、ここは逃げるぞ」
「そうね、その方がいいわ」
2人はまっすぐ味方艦隊の方へ降下し、急報を知らせる。
「本艦へミサイル接近!」
「ミサイル発射管1番から6番、放て!」
6発のミサイルが、敵が放ったミサイルを黒い重力源が飲み込む。
が、4発撃ち漏らし、旗艦プリンツ・オイゲンの右舷へ着弾した。
「右舷、被弾を確認!」
「ダメージコントロール、急げ!」
(このままでは持たん。2人はまだなのか?)
その時、吉報がもたらされた。
『こちらゼスルータ。先程敵艦隊へ飛来する弾道弾を確認! 速やかに後退されたし!』
「何? ミサイルだと」
帝国側がそのような兵器を使う予定はなかった。
だから、ゼハルドは仮に弾道ミサイルが来ていたとしても、敵艦隊へ落ちるのか疑問であった。そこへ船務長が報告する。
「こちらでも確認しました。確かに敵艦隊へ飛来しています」
「それは本当か?」
「はい。えっとこれは‥‥‥<スカイ=フレア>!」
「確かそれってローズウェル王国の戦略級兵器じゃ‥‥‥」
参謀長は冷や汗をかく。
自分達も巻き添えにされる程の威力を持っているのだから当然だ。
「何だと? 全艦直ちに後退せよ」
「全艦直ちに後退! 急速回頭!」
帝国艦隊はすぐさまヴィーン要塞へ後退する。
死んでたまるかと言わんばかりに逃げ始める。
「―ガッハッハ! 遂に負けを認めたか!」
これを見て、ヴァミラル艦隊の提督は勝った気でいた。
「戦力もまだまだある。このまま進軍せよ」
「はっ! 了解しました」
そして艦隊は前進し始める。のだが‥‥‥。
「提督! 我が方へ接近する飛翔体を確認! 大型のミサイルです!」
「何~?」
「たっ、対空戦闘だ!」
しかし、間に合わなかった。
ヴァミラル艦隊を巨大な白紫の火球が飲み込み、残存艦隊は一瞬にして全滅。
「―敵艦隊、全滅を確認」
しかし、ゼハルドは一切油断などしない。
「陸軍はどうだ? 勝っているか?」
「陸軍より援護要請が来ました!」
「劣勢なのですか?」
ゼスルータは、その通信を艦橋の外からテレパシーで確認する。
「その様です」
『閣下、後は私にお任せください』
「できるのか?」
『できます!』
『ルータが行くのなら、私も行きます!』
「分かった。思う存分戦ってこい」
そして2人は南西の方へ駆けつける。
「畜生! アイアンゴーレムとか卑怯だろ!」
帝国陸軍は突如として現れたアイアンゴーレムの群れに塹壕を突破され、後退を余儀なくされていた。
魔法に対しても耐性のある巨人には手持ちの火器は全く効かず、中戦車の砲では、怯ませることすらできない。
「たっ、助け‥‥‥」
ある兵士は顔面を卵を潰すかのように叩き潰された。兵士達はアイアンゴーレムの群れを前に為す術がない。
「―いいぞ、ヤッちまえ!」
「まとめて踏み潰せ!」
などとヴァミラル兵達が声をあげていた。
その時だ。
「―図に乗るな」
壮絶な笑みを浮かべたゼスルータが地獄の業火を繰り出す。
紫色の炎に包まれ、アイアンゴーレムやヴァミラル兵の装備は溶けてドロドロになり、体は灰と化した。
「貴様ら、それで勝ったつもりか?」
着地したゼスルータは残ったアイアンゴーレムの頭に片足を乗せ、敵を見下す。
「―あっ、アイツは‥‥‥“惨殺のゼスルータ”!」
「また変なあだ名を付けられたものだな」
次の瞬間、目に留まらぬ速さで敵兵に急接近し、太刀をなぎはらい、30人ものヴァミラル兵が腹部や頭を切られ、そして倒れた。
「どうした、この程度か?」
「うっ、撃てー!!」
ヴァミラル軍の戦車の砲口がゼスルータの方へ向く。それを見たゼスルータは黒獄爪の左手を盾とし構える。
砲弾が彼に直撃し、灰煙が舞う。
「やっ、殺ったか?」
安堵したのも束の間、煙の中から現れた彼は無傷だ。
「効かないな」
「うっ、嘘だろ‥‥‥」
「キュア!」
ゼスルータは優しい緑色の光に包まれる。
これを見て焦り、驚いた姉が駆け付けたのだ。
「大丈夫!? 怪我はなかったの?」
「平気だよ。こんなもので傷ひとつ付いたりしないって」
「だといいけど‥‥‥」
「そんなことより」
ゼスルータは呆けていたヴァミラル兵達に目を向けた。
「とどめといこうか。‥‥‥クルーエル・レイン」
そして呪文を唱えた。空に現れたのは無数の黒く長い槍。
「さようなら」
ゼスルータは親指を下にした。
すると同時に無数の槍は一斉に降りかかり、ヴァミラル兵達を串刺しにしていく。
ヴァミラル兵達は悲鳴を、嗚咽をあげ、静かになる。
「‥‥‥マジかよ」
これを見ていた帝国陸軍兵達の心には、半分は自分達が助かったという安堵感、もう半分はゼスルータに対する恐怖心が渦巻く。
しかし、自分達が勝ったことに変わりはない。
『総員、直ちにヴィ―ン要塞へ帰投せよ』
司令官の命令で要塞へと戻る宙軍艦隊と陸軍の兵士達。しかし、ゼスルータの頭の中にある引っ掛かりが残る。
(まさかローズウェルが大胆な行動を執るとはな‥‥‥)
しかし、彼はその驚きを頭の隅に追いやった。
「で、どうします?」
「そのまま言えばいいだろ」
ある兵士の質問にメルギアを着たままのゼスルータはキッパリと言い切った。
かの王国が健在なのは月面基地から見ているのでとっくに知っている。だが先程の攻撃は確かに敵艦隊を殲滅してくれたが、周辺の地に甚大な被害を与えたのもまた事実。
直接の同盟国ではないが、将来手を組む為、その辺りをボカして大本営に報告するのかしないのかが問題だった。
正直、被害は大きいが、だからといって敵に回したくはない。
「大体、半径20キロぐらいが吹き飛んだんだぞ。誤魔化せる訳がない」
スカイ=フレアに搭載されていた弾頭には、光属性と闇属性の魔力が衝突すると反発し、膨大な魔力を編み出すという性質を利用した、魔力の質と量によっては今回以上の破壊力をもつ<魔双反発爆弾>である。
「ルータ君、ちょっといいかな?」
彼に声をかけたのはゼハルドであった。
そして彼と兵士はもちろん、敬礼する。
「はっ! 要件は何でありますか?」
「そのままでいいから一緒に来てくれ」
「了解しました。すぐに向かいます!」
士官を残して、2人はすぐさま用意された一室へ入る。
ローズウェルにまだ充分な戦力が残っているのなら、帝国にとって頼もしい味方となる。
ヴィーン要塞から本国へはすぐにこれを報告し、この要塞で上級将校らが集まり、現時点での知り得る情報をまとめる。
「あれがローズウェルのものだとして、ローズウェル王国は何を考えている?」
「そもそも、何故K号作戦が一応の味方とはいえ知られているのだ? ローズウェルには伝えておらぬはずなのに、だ」
「宣戦布告代わりなのでは?」
実際、帝国宙軍の中でかの国を敵視している者は少なくなく、艦船による領空侵犯など挑発を繰り返してきた。だからある程度は恨まれていても仕方ないのだ。
「そんな馬鹿者がいてたまるか!!」
「そうだ。三つ巴の戦争なぞ、誰がやりたがる!?」
それに腹を立てていてもおかしくはないが、だからといって愚を犯すはずもない。
「‥‥‥我が領土が傷つけられただろうが!!」
「ゼスルータ君!」
「‥‥‥失礼しました」
会議の席では、他にもヴィーン要塞や艦隊の指揮官達から次々に疑問の声が上がった。
お陰で、どの様に報告するかという結論は全くまとめられたものではない。
「はいはい、静かにしろ! 問題はひとつずつ言え!」
痺れを切らしたある高級参謀が怒鳴る。そしてすぐに全員が静まり返った。
「ひとつよろしいでしょうか?」
「何かね? フェルリア君」
「いずれにしても、更に敵対国を増やすのはよろしくないかと。ですので、政府にはどうか穏便に済ませるよう意見するのがよろしいのでは?」
「もっともな話だ。これに関してはそのようにして、次の質問はあるか?」
「はい」
1人の男性の陸軍士官が手を上げる。
「しかしながら、やはり何も無しでは納得出来ません。我が国土が破壊されたのです。せめて後で何かしらの賠償ぐらいは請求していただきたい」
「同感だ。なんなら、きっちりと落とし前をつけさせればいいだろ」
ゼスルータは好戦的な野次を飛ばす。
「あまり不穏な発言はよしたまえ」
「‥‥‥了解であります」
ゼスルータにとって、ローズウェルの存在そのものが“不愉快”だった。それ故に、姉とは真逆の立場をとる。
「それで、結局どうしますので?」
「あとは政治家の役目だ。我々軍人が口をはさむべきでない」
そこへドアをノックする音が響く。
「失礼します」
「何だ? 今は会議中だ」
ゼハルドはそう言い、後にするよう示唆する。だが急用なのか無視され、そして報告を聞いて疑問を抱く。
「閣下とゼスルータさんとフェルリアさんのお二方に本国への召還命令が先程きました」
「何だと?」
不意にゼハルドが聞き返した。
「本国への召還命令です。しかも大帝直々の」
ゼハルドはまだしも、大帝とは全く面識のない2人は顔を見合わせ、戸惑う他ない。
「理由は?」
ゼハルドは淡々と質問を続ける。
「知ってはいますが、あまり言うなと言われておりますので」
どうやら口止めされているらしい。
なので彼は、召喚場所を聞き出すのみにとどめる。
「それで、本国のどこへ帰還しろと?」
「すぐにロズワント城の中庭へ来てほしいとのことです」
「分かった。ルータ君、フェルリア君、すぐに向かうぞ。会議は中止だ」
「解散!」
さっき怒鳴った高級参謀が号令をかけた。
他の人達はすぐに部屋を出て、自身の持ち場に戻る。
「では、向かうか」
「拒否権はありますか?」
ゼスルータは嫌な予感を察知し、出来るなら逃げようともがく。
「ある訳ない。それに、まあだいたい予想通りだろうが、むしろ名誉な事が起きるかもしれんぞ」
「‥‥‥はあ」
床に現れた魔法陣に、3人は集まる。
「2人とも、あまり粗相のないようにな」
「分かってます」
「了解です」
3人は一瞬にして、ロズワント城の中庭へ召喚された。
まさかその場で、運命の出会いをするなどと知らずに。
第二話・終
どうもルティカです。二話目が遅れまして許してクレメンス。
色々とごたついたりしたんだもん。どうしようもなかったんだよ~。それに先に言っておくと、たぶん次話もそんなに早くは投稿できなさそうです。やる事の予定が多いから!
どうにもならない話はさておき、遂に星間戦争に突入した太陽系。ヴァミラル相手にあっという間に地上侵攻されるという危機的状況のさ中、渦中のオルハ姉弟はこの戦争には乗り気ではなく、むしろ反対派。
特に主人公のゼスルータは猛反発。この立場に立っている事そのものが、後々魔導歴の歴史に爪痕を残すのですが、それは次回以降のお楽しみ。
次回も気長に待っていただけますと幸いです。それでは、またの機会にお会いしましょう!