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第九話・北へ北へ

―南アフリ連邦国近海―

「喜望峰は見えた。が‥‥‥」

 彼らは南アフリ連邦国を前にして、ただ眺めるしかない時間が過ぎるだけだった。

「アポなしで来ましたから入港許可がおりる様子がありません。何度か電信を打ってみましたが、ただ『しばらくの間待ってくれ』としか‥‥‥」

「ヴァミラルに降伏したの?」

 まさかと思いつつも、フェルリアはルルに確認を取る。

「遠回し聞いてみましたけど、すぐに『我々は敗北していない』と断言されましたよ」

「いきなりロズワントとかいう大国から使いが来たんだから、混乱するのも当然か。今頃外務省は大慌てだろうなあ~」

 どこか他人事のように呟くゼスルータ。

 やっとのことで入港許可が下りる。だが案内された場所は地下の、しかもかなり大規模な軍事施設の一角だった。

「いつの間にこんな軍港を!?」

「もはや地下都市、帝国でも実現するのは骨を折るでしょうね‥‥‥」

 街一つが広がっていると見て間違いなく、その規模に圧倒されるしかない。

「あれは何かしら? ドラゴンか何かの尻尾を模したマークっぽいけど」

((レッドテイルじゃん!!))

 ネイラータが見つけた企業ロゴを見て双子はすぐにピンときた。社名は書かれていないが、深紅の龍の尾をイメージしたデザインを採用した企業はよく知っている。

「あー、納得だな」

「何が?」

「そんな事より‥‥‥」

 召喚魔法でヒルデガルドを呼び寄せ、一枚のメモを渡した。

「ヒルデ、これと書類と印鑑渡すから、書かれた通りに手続きしておいてくれ。何百年ぶりの現世で分からない事だらけだろうからフェルリアに付いて来てもらってくれ。パスポートは姉さんも持ってるけど、更新時に使い魔登録してもらうから、俺のも持って行け」

「かしこまりました」

 艦を第六ドックに停泊させた後、ネイラータを筆頭に、レゼルバとルイゼ、護衛のラゼルと艦の責任者であるゼスルータ、そしてローズウェルの仮の代表としてヴィルド。このメンバーは早速駐南アフリ連邦大使館へ招かれた。

「―えー、遠路はるばる南アフリへようこそ。私は外務大臣のアドリ・カルロです。隣に居るのはムンバ・アシャン、一外交官です。以後よろしくお願いいたします」

「突然の訪問失礼いたします。まず初めに‥‥‥」

「いえ、そんな堅苦しいのは後回しにしましょう。こちらもかなり厳しい現状ですので」

「戦局が良くないとか、そんなところですか?」

「そうでは無く‥‥‥」

 言いづらいのか、口をつぐんだ。戦局以外で頭を悩ませる事ときて、彼はすぐに察した。

「食糧難、といったところですか?」

「ちょっと、ルータ」

 ド直球で鋭いところを突くゼスルータを、ネイラータは小声で咎める。

「勘が鋭いようで、ところであなたは?」

「戦艦ハイゼルク艦長、オルハ・ルナ・ゼスルータであります」

「何? ゼスルータ!? いやはや、神からの使いとはまさにこの事ですなぁ。あなたの話はレッドテイルの関係者達からよく聞いていますよ」

 皇女の前にも関わらず、彼は彼女を差し置いて握手を求める。

「「堅苦しいのは後回し」と仰ったでしょう。時間が惜しいので本題に入っくれますか?」

「分かりました。ご存知の通り、アフリ大陸のほとんどは砂漠が広がっています。まあ我が国では木の過剰伐採が原因ですが‥‥‥。歯止めはかかっているとはいえ、それで穀物を作るのが難しく、輸入に頼っていました。ですがヴァミラルの侵攻により輸入は途絶え、既に国民の一割の餓死者を出している状況です」

「それでよく耐えられているな。それだとすぐ降伏してもおかしくなさそうだが‥‥‥」

 飯に勝るものは存在し得ないと、ゼスルータ自身身をもって知っている。

 故に食糧難でも降伏せず奮戦している事実に驚き、素を出してしまう。

「我々はヴァミラルにとって敵ではない、というだけです。ただ単に孤立させられた。しかし、それだけで国家の危機に直面しました」

 あろうことか、2人は彼に向かって土下座して頼み込んだ。

「いずれにしろ、輸入に頼り続ければこの問題に直面するのは分かり切っていた。ですから、どうか砂漠の緑化をして頂けますでしょうか!?」

「「お願いします!」」

「無理!」

 ゼスルータは彼らの願いを速攻で断った。彼は出来もしないことを請け負うことは絶対にしない。

「ルータ、いくら何でも酷すぎるんじゃないかしら!」

「断る以外に選択肢は無い。俺にそんな知識は無いからな。だが‥‥‥」

「「「だが?」」」

 絶望に染まりかかった彼らの目は、一転して希望が輝く。

「伝手ならある。ちょっと電話機貸してくれ、テレパシーだと唐突すぎるからな」


三尾みつびバイオロジー 南アフリ連邦国支社―

 太陽系の三大コンツェルンのひとつ、三尾コンツェルン傘下の企業で、主に医薬品開発や歯ブラシなどの日用品で名を上げている。そこの社長である、黒縁眼鏡にポマードでガッチリ固めた黒髪の、スタイリッシュな藤田薫に一本の電話が入った。

「社長、ゼスルータ氏から電話です」

「何? ロズワントの戦艦がここに来たらしいが、それに乗ってたの?」

「なんでも、その戦艦の艦長に任ぜられた様です」

 秘書から聞き、思わず「ほー」と感心する。

「文武両道とは彼の為にあるような言葉やな。うちら三尾コンツェルンにも凄い技術を売ってくれたし。ああ雑談している場合やないな」

 秘書から受話器を受け取り、電話に応えた。

『薫殿、お久しぶりです』

「いやこちらこそ。ルータ君の方も元気そうで何よりだよ。どでかい戦艦の艦長になったんやって? 凄いやないか」

『お褒めいただきありがとうございます。早速で申し訳ないのですが、ひとつ仕事を依頼してもよろしいでしょうか?』

「大歓迎だよ。で、どんな内容かな?」

『この国の砂漠を緑化したいのです。引き受けていただけないでしょうか?』

 藤田は少し苦い顔をした。

「してやりたいのは山々やけど、規模が大き過ぎてお金がいくらあっても足りんくてな‥‥‥」

『資金はこちらで用意します。ここの口座に扶桑銭で約2兆銭分の資産がありますので』

「聞いてへんの? 君のこの国の口座は差し押さえられとるで」

 その事実にゼスルータは絶句するが、すぐに持ち直す。

『あー、じゃあ本国にある口座から用意しますが、何で差し押さえされているので?』

「金官重工って知っとるやろ? うちら扶桑のお隣の国の大企業。それのここの支社が自分らの特許を侵害したとかどうとかであんたを半年前に訴えたで。まあ嘘やろうけど」

 全く身に覚えがないと唖然となる。しかもゼスルータが得意とするのは魔力回路や魔導計算機といった情報処理に関するものやそれを応用した機械類であり、鉄以外も含む大規模な金属精錬や造船に長けた金官重工とは競合しないはず。

『一体何を特許侵害したと言うので?』

「ルータ君が作った〈CH型超高度魔導計算機〉」

 その回答に「終わったな‥‥‥」と呟く。終わるのは自分ではなく、金官重工の方だが。

『分かりました、その件はこちらで対処します、ハイ‥‥‥では失礼します』

 受話器を置いたゼスルータは、わざとらしくガックリとうなだれる。

「どうしたのかしら?」

「特許侵害だという嘘がまかり通って資産差し押さえ。つまり緑化の為の資金も無し!」

 本当は本国から別の資金持ってくればいい訳だが、まだ完全に制海、制空権も奪われたままで、自分が戻れそうになく、また高額で本人確認が必要だがそれも簡単には出来そうにない。

「えっ、どうすんの?」

「戦争に勝ってロズワントと自由に行き来出来るようにするか、金官重工の愚か者をどうにかするかの二択だな。どっちにしろ初動までの時間はかかるが‥‥‥おいラゼルは?」

 気付けば部屋から彼女の姿が消えている。サボりにしては酒の話題が出てないのでそうとも考えられない。

「ルータちゃん、うちらの諜報員が別室で呼んでる」

 戻って来て、サラッと重要情報を言っちゃうラゼルに面食らうしかない。

「お前な、スパイはバレたら最悪死刑だって分かってるか?」

「いやあれは隠して無いっスよ! あの獣人皆の前で堂々と「俺ロズワントからのスパイで~す! オルハ弟に会いに来たから呼んで」って言っちゃてましたっス!!」

 ゼスルータは口が軽すぎるのはあいつの方かと、そしてどうやって先回りしたのかと頭を二重の意味で抱え込む。

「ネイラータはレゼルバとルイゼとここで待機してくれ。ヴィルドは護衛を頼んだ。ラゼルはその別室前で見張りだ。ただし盗み聞きはするな、いいな!」

 扉を開けると、部屋の中心に対になるよう置かれたソファ。その奥側に堂々と座り込んでいる、ローズウェル王国で彼を助けた猫耳の茶髪の獣人男が余裕ぶっていた。

「よお、元気してた? お嬢さん(・・・・)」

 ゼスルータは右義足の膝上の外側に設けられた格納式ホルスターからリボルバー銃を瞬時に取り出し、無言で頬をかすめるように撃った。

 かつてヴィルドに向けたのと同じもので、シリンダー部が六角形であり、50口径でしかも弾薬は自身で特注した13×55ミリ。防弾ベストや軽装甲車を余裕で貫通可能な銃を問答無用でブッ放したのだ。

「‥‥‥へ?」

「案ずるな、防音結界で誰も気付いていない」

(いつの間に魔法を?)

 とは思ったものの、驚きのあまり取り乱し、本能の方が表に出る。

「こっ、殺す気か!?」

「俺を女扱いしたらな、一度目は釘を刺す程度で済ますが、二度目は警告、三度目は極刑だ。変態クソ狼はそれ以外にも散々迷惑をかけてきてたから例外だがな!!」

「酒に酔って口を滑らせた件? うちら国家情報統括総局も迷惑被ったやつか」

 ロズワント帝国にはロズワントの名を冠する国家対内情報局、国家対外情報局、軍事情報局の三つのと、それを束ねる国家情報統括総局の計四つの諜報機関が存在する。

「そこって情報をまとめて精査しているとこだよな。で、そんなエリートが持って来た本題とその対価は?」

 ヘラヘラといつもの調子を取り戻したその諜報員は、タバコをふかしつつ話を切り出す。

「まず結論から言うと、南アフリとここの金官重工はグルだ。んで、何でありもしない特許侵害を訴えたのか‥‥‥そりゃ簡単、君の金をぶんどりたいから」

「あいつら金に困っているのか?」

 ゼスルータの嫌悪に、彼は少しばかり訂正する。

「それは南アフリ軍の方だ。レッドテイルが色々と投資して色んな産業は発展したが、ヴァミラル軍に分断されたせいで売り先が無くなった。マジで金が無くなって、目を付けたのがここに置いてけぼりのお前の資産ってこと。ちなみに金官重工の方はあわよくばCH型超高度魔導計算機の技術を盗みたいと!」

「死んだな、その馬鹿共‥‥‥」

 CH型超高度魔導計算機は〈アスナ〉の稼働の為にも使用されており、当然ロズワント帝国にとっても重要な技術の結晶。もしもそれに魔の手が迫っていると知れば、帝国政府や軍はあらゆる手段を行使してでも阻止することは目に見えている。

「君より先に本国に言っといたけどさ、特に宙軍はマジギレ! だから〈ヴァイス・ヴォルフ〉送るってよ」

「‥‥‥実在してるのか? それ」

 ヴァイス・ヴォルフ、それはメルギア兵で構成された特殊作戦部隊。全部隊員数は300名ほどであり、水陸空宙場所を問わず展開でき、対戦車・対艦、対歩兵から対テロ、ゲリラコマンドに対象の護衛または暗殺など、あらゆる任務をこなし、しかも成功確率はどれも90パーセント越え。おまけに世界各国で任務を果たすので全員が最低でも四ヵ国以上の言語を話すことができ、部隊の種族構成も多様だとか。

 ‥‥‥という、非現実的な上、ロズワント帝国各軍の将官や軍部大臣等偉い政治家に実在するか聞いても、「それは噂話だろう」と本気で笑って返されるのが常な、ある種の与太話。

「マジでお、知らねーの?」

「知らん」

 この話をしていると、ゼスルータはどうも頭痛がして嫌になる。

 彼―目の前にいる諜報員が何か言い直したのも気になるが、もうどうでもいいと話を切る。

「そういやお前の名前は? どう呼べばいい?」

「あー、本名は普通に駄目だし、何でもいいけどな~。‥‥‥道化師道化師(クラオン)で」

「お前らしいな」

「確かに。んじゃこれで」

 用件が済み、部屋を後にするゼスルータが皆と合流したところへ、クラオンはわざと大声で「そういやさ!」と呼び止める。

「何だ?」

「君達はさ、〈ヨルムンガンド〉って知ってるか!?」

「ただの神話ではなくて?」

 ネイラータはそうではないと気付きつつ、確かめるように聞き返す。

「‥‥‥それは古いおとぎ話だよ」

 ゼスルータは苦々しく突っぱねる。その態度に、クラオンは「あ~、そうかー」と頭をかきむしる。

「知らないならいいよ、後はこっちでどうにかするしさ」

「戦力が欲しくなったら俺を頼れ。相手が誰だろうと切り伏せてやるから」

「ハハッ、頼もしいよ。‥‥‥ミアの手紙に書かれた通りだ!」

 クラオンは最後に爆弾発言を投下した直後、転移魔法で去ってしまった。

「なっ!? ‥‥‥いや待てよ?」

 そもそも、ハイゼルクが南アフリへ差し向ける決定はつい先日。レオポルグの豚野郎を監視していたところで先回り出来る訳が無い。

(あれ? あいつの本名って‥‥‥)

 オルハ姉弟の妹、ミアが今際の際に残した手紙。衰弱しろくに手の動かせない彼女の言葉を家から引っ張り出した骨董品タイプライターで代筆したのはヴィルドだが、郵便局へ届けたのは王女ホーネット。

 とはいえ彼女の手紙はどれも「○○へ」など、相手の名前から始まっており、つまりは彼の、一諜報員の名前も手紙の中にあったかも知れないことに気付く。

(いやまさか‥‥‥あるかも?)

 といっても、手紙の数自体そこそこ多く、コードネームではなく本名で書かれていたので、どの手紙が彼宛だったのか今となっては分からない。


―南アフリ連邦国軍 地下第四ドック―

「にしても、派手にやられたなこれ」

 無残な姿となってしまったハイゼルクを見て、ゼスルータは言葉とは違って(やってやろうじゃねえか!)と奮い立つ。

「資材は十分だったので、一応艦内工場で部品を生産したので修理はすぐにでも取り掛かれますが」

「それでは駄目だ。電磁波を使った電探を装備しなければな。それに‥‥‥」

「おっ、ゼスルータ様。こちらに居ましたか」

 話は遮られたが、「もう来たか」と振り返る。

 ニコラスと共に、レッドテイル社の企業ロゴが描かれたヘルメットと作業服を着たドワーフの少女がこちらに向かって来る。

「どうも、技術責任者のラテノ・ベラトで~す。話は聞いていますよ~」

 茶髪に淡いグレーの虹彩。小柄だが少し筋肉のたくましい彼女は、ゆったりとした口調で話し出す。

「ああ、早速だがハイゼルクに電探を装備したい。協力してくれるか?」

「もちろんですとも~。ですが電磁波では魔法攻撃を誘導することは出来ないんだけど~?」

「それについては考えがある」

「そう? なら始めちゃいますか~」

 手始めに破壊された砲塔や機銃などを取り外し、艦内工場で生産した新しいものに取り替える。

「オーライ、オーライ!」

「もうちょい上、そこだ。取り付けるぞ」

「幸い弾薬庫はほぼ無事でよかったですな」

「実弾を使いまくって正解だった。そうじゃなかったら、今頃誘爆して海の藻屑になっていたかもな」

 ただでさえハイゼルクはロイ・ゼント級と同じく、そこかしこに主砲を装備している。正直なところ、ロイ・ゼント級をベースとせずに自由に設計しろと命じられたならば、ゼスルータなら主砲配置も数を減らし、上下合わせて一直線上にスッキリとまとめていただろう。

 ともかく、武装の取り換えだけで残りの半日の時間を使い果たし、気付けば夕食の時間になっていた。

「それじゃあ~、あとは私らに任せて‥‥‥」

「いや、リアクターだけ手を加えたい」

 そこは無傷のはずだけど~? と首をかしげるベラト。

 しかしゼスルータは「ついて来い」と言って、機関室へと2人だけで入る。

「‥‥‥凄く大きなエーヴィヒ・リアクターですね~」

「だが球体なのが気に食わん」

「その方が安定するのに~」

 エーヴィヒ・リアクターとは、光と闇属性の魔力を融合させ、融合に用いた以上の魔力を生み出す半永久機関。それらの魔力が融合するところを〈魔力融合点〉と呼ばれるが、これの制御に失敗すると大爆発を引き起こす。

 彼が小型化に失敗し続けた理由がそれなのだが、球体ならどこからでも魔法・魔力注入によって魔力融合点に干渉しやすく、故にその位置も調整しやすいのだ。

「これをラグビーボール状に変える」

「本気なの~?」

 おっとりしている様に聞こえるが、声色からビクビクと恐れているのがわずかに伝わってくる。

 なにせエーヴィヒ・リアクターは球体以外だと魔力融合点の位置がずれやすく、下手をするとリアクター外に飛び出す危険性もある。

「本気だ。球体状だと安定するが、生成される魔力量がどうしてもサイズとリアクターに使った魔石の純度次第になる。それだとこの先の戦場では戦えんだろうな」

 いくら超弩級戦艦といえども、ハイゼルクはあくまでも戦時急造艦。ロイ・ゼント級をそのまま大きくしただけといった戦艦であり、革新的な要素が何一つ無い。

 その欠点を、今回の大改修で克服するつもりなのだ。

「エーヴィヒ・リアクターに魔力を注入・抽出する部分を前後に分ける。そうすれば、注入できる魔力量が格段に跳ね上がる。そして抽出できる魔力量は今までの数十倍になるだろう」

「でも~、魔石はどうするの~?」

「ここにあるだろ」

「‥‥‥え?」

 てっきりエーヴィヒ・リアクターを丸ごと取り換えるのかと思っていたベラトは、目を丸くして驚愕し、固まってしまう。

「錬成魔法を使えばあっという間だろ」

 いつの間にかグラビティルで宙に浮いたゼスルータが、コンコンとエーヴィヒ・リアクターをノックする。すると弾けた水風船の様にその魔石塊が液状化し、危険だと思ったベラトはうずくまった。

「案ずるな、上を見ろ」

 恐る恐る見上げると、魔石塊は一瞬にして端を切ったラグビーボール状へ、またそれを支えていた柱や数々のパイプまでも蛇の様にうねり、形状を変えていく。

「‥‥‥うっそ~ん」

 詠唱すら使用せず、直径20メートルもあったエーヴィヒ・リアクターを魔改造したのを目の当たりにし、ベラトは夢ではないのかと自身の頬をつねる。

「そうだな、〈オルゼ型エーヴィヒ・リアクター〉とでも名付けよう」

 自身の名である「オ」ルハ・「ル」ナ・「ゼ」スルータのそれぞれの頭文字から取り、そう命名した。

「夢じゃないのね~」

「ラテノ・ベラト殿、貴殿をハイゼルクの機関長に任命したい。シャルカ姉座乗艦の機関長を務めたあなたにしか頼めない事だ」

 かつてロズワント帝国の九九艦隊を壊滅せしめたレッドテイル海賊団だが、そのレッドテイル艦隊旗艦の機関長を務めたのがラテノ・ベラトである。

 ドワーフ族である彼女は見た目以上に、というかゼスルータの倍以上の歳を重ねた大ベテランであるから、彼も最大限の礼儀を以て頭を下げる。

「う~ん、軍属は嫌だしな~」

「そこをなんとか! お願い致します!!」

 ゼスルータは頭を下げたまま、必死で懇願する。

「じゃあ、あなたが直接雇うって形ならいいよ~ん。うちら技術者も傭兵みたいに雇われるのも慣れてるし」

「ならばそれで、報酬はきっちりお支払い致します」

 普段はぶっきらぼうな口調だが、大切な取引の際にはきちんと敬語を使う。

 そのギャップを面白がりつつ、ベラトはハイゼルク機関長任命に応じたのであった。

「えー、という訳で彼女をハイゼルクの機関長に任命した。仲良くするように」

 艦から出て、ゼスルータは待っていた仲間に対しベラトを紹介する。

「‥‥‥いいの? ここの責任者っぽいけど」

 大ベテランだから、地下ドックの管理責任者として送り出されていた訳だが、そんな簡単に辞めていいのかとフェルリアは待ったをかける。

「大丈~夫、後で引き継ぎするから~。それにオルハ姉弟には出来る限り協力しろって、キャプテンから言われてるし」

「という事だ。さっきエーヴィヒ・リアクターを魔改造したからな、ベラト無しで航海は不可能になっちまったから大助かりだ」

「「「何をしてんだお前は!?」」」

 半日足らずに何やってんのと、皆から総ツッコみを入れられる。

「そ、それよりもルル、その軍服似合ってるな!」

 責任追及から無理矢理逃れようと、ゼスルータはヴォーロルルの軍服姿を褒める。

「あ、ありがとうございます」

 この間の輸送用ロケットの小包に入っていたのは、彼女用の帝国軍服だった。早速それを着て褒められ、照れ気味に礼を言った。

「艦長、食事はどこで取りましょうか? 改修中は艦内に入れないと聞いたので」

「次の工程で制御系と武装を繋ぐ魔力回路に手を加えるからな。ここの食堂にでも行くか?」

「それが、地上部を含めて戦闘に必要な施設から建設している途中の様で、食堂とかはまだ工事中でした‥‥‥」

「マジか~」

「マジです」

 ジルからの報告に、ゼスルータは頭を抱える。

「仮設のなら地上にありましたが、見た感じ量的にまともなものは期待できなさそうです」

 ヴォーロルルは後半からげんなりしたオーラを放ちつつ、ため息混じりに伝えた。

「クッソせめてコーラでも持ってくれば良かったな~」

 ヴィルドの口からコーラと聞いて、全員が「ゴクリッ!」と喉を鳴らした。

「確かにご無沙汰だが、飲み物じゃなくて食い物だ。じゃがいもとベーコンと塩さえあればいい。無理言って取りに行くか」

「艦長、ベーコンだけは切れてました」

「はあ!?」

 彼自身、艦内備蓄の管理に関わっていただけに、どういう事だと驚愕の声を上げた。

「誰かがつまみ食いしていたのはご承知の通り。寄港時に確認したところ、最後の少量も食われていました」

(絶対ローゼンだな‥‥‥あの子肉に目がないし)

 冷や汗を流し、目を合わせない姿が何よりの証拠だ。だが、その様子が可愛くてそっとしておいた。

「もういいっすよ、酒で誤魔化しましょう!」

「大人はそれでいいかもしれないが、俺らは無理だぞ」

「流石に、何か腹に溜まるもんは食いたい」

「ラゼル、言っておくが我々宇宙軍の艦艇に酒類は持ち込み禁止。当然、ハイゼルクにも無い」

「別に関係ないもんね。こっそり持って来たのがあるから」

「全部没収! 艦内のも焼却処分だ!」

「そんなぁ~!?」

 酒を取り上げられる。ただそれだけで涙目になった。

「う~ん‥‥‥あっ!」

 先程から話の輪に入らず、ずっと何か考え事をしていたフェルリアが唐突に手のひらをポンッ、と叩いた。

「姉さん、どうかした?」

「ラゼルちゃん、そのお酒って度数高い?」

「えっ、そりゃまあ高いっすけど」

「危ないからルータを連れてそのお酒と塩持ってきて。ヴィルドとルルとジルで何かこの国の調味料か香辛料買ってきて、ああベラトさんは休んでいて、仕事をしてくれたばかりだし。‥‥‥そうそう、ローゼンにはお肉も買ってもらいましょう」

「何で私に?」

 震え声で聞き返す姿で“何故か”と気付いているのは明白だった。

「子供がする事なんてすぐ分かるからよ」

「‥‥‥ごめんなしゃいー!」

 遂に白状し、許しを乞うた。だがゼスルータはある事に違和感を覚えた。

「いや待てよ。流石に全部を食べ切れる量じゃないし、それにベーコンといえど乾燥ベーコンだったから、あんまり好きじゃないし全部食べ切る訳ないはずでは‥‥‥?」

「それ以外無かったから、我慢して半分は食べた」

「我慢するならつまみ食いしてほしくなかったなぁ~。‥‥‥じゃあ残り半分は?」

 そろりそろりとこの場を去ろうとするラゼルを、ジルは先端に刃を付けたミスリル製チェーンでグルグル巻きにしてひっ捕らえる。

「何故逃げるのです?」

「いっ、いやぁ~、なんとなくぅ」

「酒の肴にとくすねたのですよね?」

「ギクッ!」

 どうやら図星のようだ。

「おい、ヒルデ」

「お呼びでしょうかね?」

 魔法陣から颯爽と飛び上がって現れたヒルデガルドに、酒馬鹿ラゼルにとって無慈悲な命令を下す。

「こいつを磔にして半殺し程度に炙れ。俺は食材を取ってくる」

「よろしいので?」

「主の命令だ。出来ればこいつの酒癖も直してやれ」

「はい! ではラゼルさん。覚悟は出来てますよね?」

「待って待って! ってゆーかいつの間に磔にされたの!? つか何それ!? めっちゃでかい火球じゃん! やめてって、アアアァァァーーーーーー!?!?!?」

 実を言うと実際には火傷を負うことはない。幻影魔法と神経干渉魔法を組み合わせた、主に演習等で扱う模擬魔弾。それで火炙りにされる彼女を尻目にそれぞれ食材を求めて行動を開始した。しばらくして、超重要な事を思い出した。

「あっ!」

「どうかしましたかね?」

「キッチンとフライパンが無いと料理出来ない!」

「それ先に言ってくださいね」

「言うと思った」

 フェルリアはじゃがいもと塩と酒とフライパンなどの料理道具を携え、ひょっこりと現れた。

「主よ、ですがキッチンがありません!」

「火ならそこにあるじゃないか」

まだ火炙りの刑続行中の彼女を指差して言った。

「まだやってたの? もう許してあげれば?」

「そうですね。そろそろ終わりでもいいでしょうね」

「あっついんだよ! いい加減にしやがれーーー!!」

「あれは火が強すぎるな。これくらいにしてやれ」

「承知いたしました」

「ヤッホー! お肉“狩って”来たよー!」

「いやデカいな! つか狩ったってどういう事だよ!?」

 これでも小さい方とはいえ、全長6m程の茶色い鱗の飛竜を掲げて帰って来た。

「デザートドラゴン、砂中にも潜れる飛竜ですね。かなり強い飛竜だと聞いていますが」

「おい、ニコラス。どこまで連れて行った?」

「ちょ~っと街外れまで」

「それがそんな近くに居てたまるか! 絶対国境付近かそれより遠い所行ったろ」

「ジープで追っかけてましたから、どこまで行ってたかなんて知りません。あっ、猟師免許はあるので密猟にはなってないです」

「というか、ローゼンちゃんって竜人族リザードマンよね。ドラゴン食べても別にいいの?」

「母ちゃんは「ドラゴン同士でも弱肉強食だ」って言ってたから食べる!」

(シャルカ姉なら言いそうだな)

 ゼスルータはドヤ顔ローゼンを見て、母親の豪快なところは似ているなと思った。

「それでいいとして、ほぼ同時に帰って来たヴィルド達は何買って来たんだ‥‥‥?」

 手に持っている中身が赤い瓶を恐れながら指差した。

「〈ハリッサ〉と言って、唐辛子ベースのペースト状の調味料だそうです」

「それ以外は‥‥‥?」

「艦長、それ以外はサラダ油しか買って来てませんが、どうかしましたか?」

「忘れてたわ! ジルったら気が利くー!」

「あ゛ぁ゛~‥‥‥」

 まるでこの世の終わりでも来た様な蒼白な顔でかすれた呻き声を上げた。

 その声の主はゼスルータだ。

「大丈夫か? 一体どうしたっつうんだ」

「あー、ルータは辛いのが苦手なのよ」

「甘党だったのですか!?」

「そういやそうでしたね。艦長が辛そうなのを見てビクッ、てなってましたから」

「ルータ兄ちゃんって辛いの嫌いなのか? 好き嫌いはいけないぞ」

「そーゆー問題じゃねえ」

 好き嫌いは栄養バランスを崩さない為に避けるのであって、辛い甘いの味の問題ではないとゼスルータは確たる意思を以て指摘する。

「とりあえず料理を始めるわ。誰か火を付けて」

「真っ黒だが仮設キッチンは作った。ヒルデ、ここをちょっと燃やせ」

「承知いたしました」

 まずはフライパンを温め油をひき、その間にデザートドラゴンの解体を四苦八苦しながら進めた。

「何で激辛料理を作るんだよ‥‥‥!」

「激辛って決まった訳じゃないだろうに」

「そんなに嫌いなのですか?」

 ヴィルドどニコラスは、どうしてそんなに辛い料理が嫌いなのかと首を傾げる。

「愚問だ! 嫌いに決まってんだろ!!」

「いいから仕事してください」

「「「‥‥‥はい」」」

 フェルリアに叱られた男3人衆は、これ以後せっせと解体に励んだ。

「ほら、丁度いいサイズに切ったぞ」

「ありがとう、そしたらこれを焼いてっと」

 塩で下味を付けた肉を熱したフライパンにのせた。ジュワーっといういい音が聞こえ、両面に程よく焼き目が付いたところで、カットしたじゃがいもとハリッサ、続いてラゼルのウイスキーを投入し、フランベで仕上げた。

「デザートドラゴンのステーキ、ハリッサあえの出来上がり!」

「「「おお~!」」」

 こんがり焼けて身の引き締まった竜肉に、ピリッと香る辛味が食欲を誘う。

「慌てないで、ゆっくり食べて」

「姉さん、最後に作るやつにはせめてハリッサは入れないでくれ」

「騙されたと思って一度食べてみろよ」

「辛いのを食うぐらいなら敵陣に突撃する方がマシだ」

「そんなに嫌いなんっすか?」

「ア゛ッ?」

 ラゼルが小馬鹿に笑ったのを、殺意を以てギロリと睨み返した。

 ちょっと煽ってみたらバズーカが返ってきたので、ラゼルは窒息しそうな程怯えてしまう。

「何食べてるのかしら?」

 丁度そこへ、匂いを嗅ぎ付けた使節団組が顔を出した。

「今までどこほっつき歩いてたんすか?」

「仕事よ! ルータが企業潰して大混乱。軍はその企業に兵器開発依頼を出していた様で、お陰で抗議文を突き付けられたわよ」

 ネイラータはため息をつき、「何でこうなるのよ」と愚痴を吐く。

「良いんじゃね? 金官国人が作る兵器って大体故障するし。前線に配備している自走砲の6割が故障で戦闘不能状態に陥るぐらいだからな」

 一度宗人民共和国と紛争が勃発した時の無様さといったらありゃしなかった。

 極東の国同士なのに、大扶桑帝国とは比べるまでもない弱小国というのがゼスルータの感想だ。

「それでも南アフリ軍に兵器が必要な状況は変わらないのだが?」

「それは俺が作ってやるよ。ノイ・マウスのプロトタイプも持ってるし、技術協定も結んでいるしな」

「待って、ノイ・マウスのプロトタイプって何? どういうわけ?」

 ネイラータは少し裏返った声で、自分の耳を疑った。

「陸軍の兵器開発局に超重戦車案を2つ出した。実物付きでな。で、甲案、つまりいい方の案が訳あって廃案。乙案が採用された。乙案はローズウェルで乗ったろ。ところで、何か辛くない調味料はないか?」

「ケチャップなら買って来ましたが」

 何となく欲しくなって買ってみましたがと、アイヒルは彼の顔色をうかがう。

「アイヒル‥‥‥」

「あれ? 駄目でした?」

「よくやってくれた! お礼に何か欲しい物を買ってやる!!」

「はっ、はあ」

 フェルリアでさえ見たこともない程、狂喜した姿に彼はちょっとだけ引いた。

「アイヒル万歳!」

「どんだけ嫌いなんだ‥‥‥」

「誰にだってどうしても嫌いなものはあるでしょう。ネイラータ様、私達もご馳走になりましょう」

 ヒルデガルドが彼女の分の皿と食器を用意し、そこに料理をのせる。

「そうね、いただくとしましょう」

「言っておきますが、酒類はありません。ラゼルの件もありますし、艦内のは後で全部回収します」

(((えっ‥‥‥?)))

 絶望で無気力状態になるラゼルと、さすがに嗜好品が一切ないのは冗談だよねと大人はフェルリアに視線を向けるが、彼女の決定は覆らない。

 諦めつつも腹一杯になるまでステーキに食らいつき、残った生肉は冷凍保存。そして適当な宿を見つけ、ゼスルータ以外は寝るまでのんびりと過ごした。

「えーと、これでこうすれば‥‥‥よっしゃきたぁーーー!」

「ここに居たんですね」

 カウンター近くの椅子に座り、義足に内蔵した解析機で赤いメモリアのRSA暗号の解読に取り組んでいた彼にココアとチョコレートの差し入れを届けに来た。

「いいタイミングだ。ちょうど今解読出来たところだ。さて、中身は‥‥‥?」

 内部へアクセスしようと操作して‥‥‥したところで固まった。理由はまたRSA暗号が表示されたからだ。

「Scheißeクソが!?」

 最下部までスクロールして思わず叫んだ。

「また同じ暗号が!?」

「ふざけやがって! ついさっき2万桁の暗号を解いたばかりだぞ! しかも今度は4万桁!? 気が狂いそうだ」

「ん? 主よ、これ4層になってませんかね?」

「何?」

 ヒルデガルドに指摘され、鑑定魔法で調べてみると、確かにこのメモリアは4層に別れているのが判明した。

「うっそだろ!? 外側の3層はRSA暗号で、最後の中心部をロックしているのか‥‥‥」

「気が遠くなりそうですね」

「何か知らねえの?」

「技術関連の情報が入っているとは伺っておりますが、それ以外は何も教えてられてませんね」

「もういい、風呂入って歯磨きして寝る」

「かしこまりました」

「おやすみ、ヒルデ」

 今回のところは諦め、夜はぐっすり眠った。だが早朝から呼び起こされた。

「ルータ、起きて」

「うん‥‥‥今何時?」

「5時だけどハイゼルクの改修がほぼ終わって後はルータが対空システムの制御系統を組み立てるだけだって連絡が入ったわ」

「それは後でもいいだろ」

「そのはずなんだけど、ここの政治家達が急かしてくるの」

 どうせ金官重工と繋がりのあった奴らが文句を言いたいだけだろと、二度寝を決め込む。

「今日中にやるからって言っといてくれ。あと30分は寝る」

「分かったわ」

 それから再び寝付き、言った通り30分後にベットから離れた。

「さて、先に済ませとくか」

 身支度を済ませ、第四ドックへ向かってすぐに対空兵装の誘導機能と電探を連動する制御系統の構築に取り掛かる。

「さて、これでよし」

「オ疲レ様デシタ」

 アスナとの共同作業だったこともあり、1時間足らずで完了した。

「主よ、皆様がお戻りになられました」

「あー、そしたら艦橋要員とヴィルドを司令塔に呼んでくれ。ちょっとした作戦会議だ」

 彼らを集め、今後の方針についての考えを説明した。

「レオポルグのにっが~い顔を拝みたいので、“3日で”北部の友軍と合流したいんだけど、どう?」

「「「はあ?」」」

「いや‥‥‥出来る訳あるか!」

 皆が聞き間違えたのかと疑っている中、ヴィルドからキレッキレのツッコミが入れられる。

「どんだけの数の敵が待ち構えていると思ってるので!? まず勝算すらありませんけど!!?」

 副長であるジルが、叫び声で反対の意を表明する。

「あるから提案するんだろ」

「具体的には?」

「まず、本艦は2日間に及ぶ大改修によって、敵機を簡単に撃墜する目途が立った。次に、甲案のノイ・マウスを中核とした戦車部隊の用意が4日で終わる、というか終わらせる。最後に、ロンメラ大将率いる大陸派遣団の内、第一○三戦闘団、通称〈トール戦闘団〉が北東部に橋頭堡を築いたってさ」

「本当なの!?」

 フェルリアが驚きヴォーロルルと顔を合わせるが、彼女はコクッと頷いた。

「ああ、北西部に気を取られている隙に〈シチリア共和国〉が強襲揚陸を開始、それに合わせる形で掩護したらしい。流石は鉄槌のフリードリヒ様だ」

「それは理解した。けどな、戦車部隊の用意っつっても、そんな数揃えられる訳なくね?」

「15両くらい用意出来るが?」

「何で出来るわけ?」

 どっから持って来たんだと、ネイラータが呆れつつも理由を問う。

「ローズウェルで防空戦やっただろ。それで最初に撃沈したやつはどうやら空母じゃなくて強襲揚陸艦だったらしくてな、結構な数の戦車を鹵獲した」

「厳密には引き上げですけどね‥‥‥」

 その作業を思い出しただけでげんなりしたのか、ジルは上を向いた。

「まあほとんど傷物だけど、車体は確保したからあとは適当に砲塔つけりゃあ何とかなるだろ」

「そういえば、気になるのだけど、ノイ・マウスの甲案ってどんな感じなの?」

「ついでだ。見学会も兼ねて実物を見せよう」

 交渉により、演習場を借りることができた。約束の技術提供の為にも、南アフリ連邦国の政治家や軍の技術者達を招き入れた。

「かの有名なゼスルータ氏が作って超重戦車ですか。どんなものなのかドキドキしますな」

「ええ。かなり遠い所に的を設置しましたが、どれ程大口径の主砲なのやら」

「遠くて小さく見えるな」

「10キロ前後といったところですかな」

 ある陸軍将校は双眼鏡で的までの距離を測っていた。

「余程の自信があるとお見受けする」

 ざわざわと見学者達が話し合っていたところに、重厚なキャタピラ音と共に甲案ノイ・マウスが堂々と姿を現した。彼はハッチを開け、挨拶を始めた。

「この度は急なお願いにもかかわらず、参加していただきありがとうございます。後でこいつの設計図も渡すので、最後まで見ていってください」

「なんか前のよりデカくね? 砲塔もかなり違うな」

「これ全長16mあるしな。それに、主砲口径は20センチ砲へと強化。砲塔はティーガーⅥを参考に傾斜装甲を取り入れたりした。けど各部分の装甲厚は変えてないから大きくした分太ったんだよな~」

「なんという巨体! これ程大きな戦車を作るなど、流石はゼスルータさんだ」

 威風堂々とした姿を見た途端、口々に褒め称えたり、拍手喝采が巻き上がる。

「言っとくけど、これコンペでボロ負けした戦車だからな」

「「「はあっ!?」」」

 そこに冷や水を浴びせるのが、ゼスルータのいつもの癖。

「いや何で?」

「ぶっちゃけ乙案もギリギリ採用されたくらいヤバい戦車だったしな」

「その原因は何なのかしら?」

「十中八九、魔力をコイルを介さずに直接磁力に変換する魔導モーター、それの俺オリジナルのデルタ型モーターを発展させた〈デルタ改型モーター〉を搭載したからだろうな。こんな巨体じゃ変速機トランスミッションはすぐぶっ壊れるから、モーター駆動にした」

「あの、それだけですか? 不採用になる理由がなさそうなのですが」

「ルルよ。こいつはな、バッカみたいな量の魔石と魔伝線、魔力を通すケーブル用にミスリルを混ぜたアルミ合金を使ってるんだ。ロズワントではミスリルは多く産出するがな、アルミはそんなに採れない。で、高コストということで甲案は不採用。乙案は諦めて銅を使ったからギリ採用された。それともうひとつ」

「その理由は何ですか?」

「単純にデカいし重過ぎる」

「うん、知ってた」

 ヴォーロルルの質問に対する回答に、ヴィルドは「まあ、ですよね」という顔で呟く。

「おいヴィルド、何だ「そうですよね」みたいな顔は? このノイ・マウスⅡはデカいからこそ最強なんだ。今に見てろよ‥‥‥! ジル、一発かましてやれ」

「了解」

(私宙軍なんだけど‥‥‥)

 砲手をやらされている彼女は、戦艦と戦車の砲手は勝手が違うのにと渋々主砲を90度直角に旋回させ、仰角を上げて標準を合わせた。

「いつでも撃てます!」

「フォイア!」

 ドゴンッ、と耳をつんざく大音量の砲声がしてから少しして、11キロ先の的のど真ん中に砲弾を命中させる。

「おお、これは凄い!」

「次弾装填!」

 砲弾を弾薬庫で筒に入れ斜め上に上げ、その中のピストンで上へ持ち上げそして装填する装填機構のおかげで、10秒足らずで次弾の装填を完了させた。

「装填完了!」

「いかがでしょうか。この火力で短い装填時間」

「素晴らしいが、運用費が賄えるかどうか‥‥‥」

「我が国では整備も難しいかと」

「それに専用の砲弾を量産しなければならんな」

 全体的な評価としては、圧倒的な性能を誇るが自国では手に余るといったところだった。

「じゃあ次は鹵獲品から作った安物駆逐戦車を紹介します。ああ、あとこれの設計図を渡しておきます」

 設計図が記録されたメモリアを渡し、収容型マジアムから車体に高角砲を取り付けただけの駆逐戦車を召喚した。

「確かに安物だな‥‥‥」

「ヴァミラルの戦車の車体に10センチ高角砲を乗っけただけだからな。まあこれなら小国でも大量生産できるだろ」

「さりげなくこの国を馬鹿にしてないかしら‥‥‥」

 ネイラータが謝罪した方がよろしくて? とゼスルータに促すが、別にそのような意図は無いと首を振る。

「いや、これはよくあるやり方だって。その代わり、こんなのに乗った奴は見つかったらだいたい死ぬがな。ロズワントでもそんな感じだから」

「陸軍は大丈夫なのでしょうか‥‥‥?」

「ティーガーが盾にならないと無理そうっすね」

 心配するヴォーロルルに、ラゼルはこんなん乗りたくねっすとあっけらかんと吐き捨てる。

「だが、高角砲なだけに対空戦でも使える。ちょうど来た偵察機を撃ち落としてやるよ」

「はあ? 偵察機ってどこのだよ」

 敵機の領空侵犯を許すか? まして戦時下だぞと首をかしげるヴィルドだったが、そのまさかだった。

「ヴァミラル以外ないだろ」

 砲口を向けた先には、確かに“小さな点”が見えた。それも米粒以下の大きさだ。

「国境警備隊より緊急通報。ヴァミラル機と思われる機体が領空侵犯しました!」

「えっ、マジ!?」

「ここ!」

 蒼炎の魔弾をこのタイミングだと撃ちあげたが、慣れていないのと誘導しないので外れた。これで気付いたのか、その偵察機はこちらに向かって来襲する。

「機銃掃射で嫌がらせでもする気か?」

「ヤバいヤバい!? 逃げるっすよ!」

「いや撃つなら当ててくれ!」

「ジル、よろしく」

「はいはい、やればいいんでしょ」

 冷静に敵の意図を分析するゼスルータと、慌ててネイラータの腕をつかんで逃げ出そうとするラゼル。だが撃墜した方が確実だと伏せつつ叫ぶヴィルド。

 混乱の最中、敵機はみるみる高度を下げて来て、あと少しで標準器に収めるところだ。

(はいここ)

 撃った魔弾は見事に右翼を燃やし、錐揉み回転しながら演習場の後方に墜落した。

「お見事です!」

「ジルナイス~」

「砲雷科上がりですから、砲に関しては自身がありますので。でもあまり無茶な命令はしないでください」

「馬鹿言え、軍なら無茶な命令のひとつやふたつぐらいあるだろ」

「小官は外した後に任せないでくださいと言ってるのです」

 慣れない上に失敗した後で内心焦りまくっていたと、弱音を吐く。

「それはすまん」

「無駄話してないで、様子を見に行くわよ。もしかしたらパイロットは生きてるかもしれないわよ」

 墜落した偵察機のコクピット内では、一瞬意識を失っていた女が、頭を押さえながら辺りを確認していた。

「クソッ! こんな所で死んでたまるか!」

「死にたくなかったら情報吐いてくれよな」

「へ‥‥‥?」

 上を見上げれば、拳銃を構えたゼスルータが見下す様に悪魔の笑みを浮かべていた。

「とりあえず適当な場所までご同行願いましょう」

「あっ、あっ、あっ、あっ!?」

(なんで紫銀のゼスルータがこんな所にいるんだよ!?)

 女パイロットは、我が身の不幸を嘆き、硬直する。

「どうした? もしかしてビビってんのか?」

(こいつはヤバい敵だとわざわざ全軍に写真付きで通達された撃墜王! 平気で戦艦ぶった切るわ一度に戦闘機100機撃墜してくるわのヤバい奴じゃん!! これ逆らったら死ぬやつじゃん!!!)

「わっ、分かりましたぁ‥‥‥」

 両手を上げつつ、今にも消え入りそうな声でうなずく。

「やけに素直だな」

「知ってる事全部話すので、どうか、どうか命だけはッ!」

 受け入れられなければ死ぬと、彼女は必死でゼスルータの足元にすがりつく。


―南アフリ連邦国軍捕虜収容所―

「‥‥‥でありまして、9月末ぐらいには攻勢を始める予定でして」

 話によると、彼女はスーザ・レナス。階級は中尉で、自分は9月末から10月始めに行う予定である南アフリ連邦国侵攻作戦において、事前の偵察の任を任されていた、との事らしい。

「なるほどな。今までこの国を無視し続けていたのは雑魚だからではなく、弱らせてから仕留める腹積もりって訳か」

 腹が減っては戦は出来ぬ、と備蓄が減るのを待っていたという。

「にしても、なんかスゲー早さで喋ってんだけど」

「艦長の姿を見てから怯え始めました様ですが、何か心当たりは?」

 何かやらかしているんだろうな~、といつもの口調ながらジルは何となく疑っている。

「たぶん彼女個人というよりヴァミラル全軍から恐れられてるからだろうな」

「やっぱり大戦果を挙げているからですか?」

 実はゼスルータの活躍はエヴァン大将から聞かされていたと、ヴォーロルルは目を輝かせる。

「いや、戦艦とか沈めた後によく高笑いしていたからな」

「それ普通に怖いわよ‥‥‥」

 聞けば全員がドン引きの理由だった。

「敵を叩きのめしてから高笑いしてれば、大抵の雑魚はビビって逃げるだろう。そう思って演技していたら逆に目を付けられたんだよな」

「そりゃそうだ」

 逃げた敵は人間族以外は深追いしてこなかったのにと愚痴を言うゼスルータに、戦場で高笑いするヤベー奴が無視される訳があるかと呆れるヴィルド。

「けど、そのおかげであいつベラベラと口割ってくれてるんすっからいいじゃないですか」

「でもまいったな、9月末って今ぐらいだろ。今日は9月24日だぞ」

「話が本当だとしたらこっちも急がないといけないな」

「最悪どこか敵の前線に穴を開けられればいいのだけど‥‥‥」

「そうする時は東海岸へ向けてやってくれ」

「どうしてよ?」

 疑問に思うネイラータに対し、ゼスルータは自分なりの戦略を説明した。

「まず、フリードリヒ殿下率いるトール戦闘団が北東部から南下するはずだというのと、大陸東の〈中東方面〉との連絡を断ち切る。この2つが理由だ」

「なるほど、でもその前にヴァミラルがここをどこから攻めてくるのかにもよるわね」

「いっそここの軍無視して先に攻めるのはどうだ? そしたら奴らの目が南アフリから俺達に向くかもしれんしな。ハイゼルクはいつでも出撃できるが」

「確かに、ハイゼルクは敵にとって潰すべき戦力だと認識されてるはず」

 南アフリ連邦かハイゼルクか。そのどちらを叩くべきかで悩んでくれれば儲けもの。ゼスルータとネイラータの問答はそう結論を出す。

「でも、こっちが進むといっても、敵の配置が分からないと危険なのではないですか?」

 ヴォーロルルの言う通り、適当に突っ込んでまさしく「飛んで火にいる夏の虫」なんて状況になっては元も子もない。

「この間の超大型空母はあまり損害は無かったですし、待ち構えていてもおかしくはないかと」

「‥‥‥電探使ってみるか」


―戦艦ハイゼルク 第一艦橋―

 レッドテイル傘下のリックスカンパニー社製F型電波探信儀の試運転も兼ねて索敵を行う。

 艦橋上に設置された横長の長方形型の鉄網の様なものがそれだ。理論上は半径100キロ圏内の艦船や航空機を察知する事が可能である。

「輸送艦、でしょうか。索敵可能範囲ギリギリの所で比較的小型の艦艇が1,2隻程度探知できるぐらいです」

「物資は前線へは陸路で運んでいるのか。まあそれが普通だよな」

「どうすればいいのやら」

「陸上の様子は?」

「駄目です。砂丘が邪魔でその先は見れません」

 球体型受像機では、陸上はその砂丘から先は写っていない。

「もうちょい高度を上げるか?」

「こっちの位置がばれるけど、いい?」

「仕方ない、やってくれ」

 フェルリアが舵を取り、少しずつ船体を上げ、だんだんと砂丘のその先の様子が判明する。

「通信を傍受! 何かの命令みたいです」

「艦長‥‥‥3時の方向、北部に機甲部隊を確認しました」

 ヴォーロルルが何の通信かを読み解き、ジルが双眼鏡で敵機甲師団を発見する。

 後方の部分しか確認できていないが、それだけでも中戦車を50両発見した。

「砂丘ごと吹き飛ばす。1、2番砲塔旋回、砲撃用意!」

「主砲旋回、魔力注入完了!」

「フォイア!」

 戦艦の砲相手に戦車如きの装甲が防げるはずも無く、一瞬にして蒸発もしくは爆散。奇襲を仕掛けるつもりだった彼らにとって、運が悪かったとしか言いようがなかった。

「―何事だ‥‥‥!」

「前方に敵戦艦を確認! ハイゼルクです!!」

「師団長、今ので我が方が7割程やられました」

「撤退だ、撤退する!」

 戦艦を相手にするのは不可能だと悟り、無事な者達は負傷兵を出来得る限り担いで尻尾を巻いて逃げ始めた。

「―艦長、奴ら逃げていきますが、追撃しますか? って、えっ‥‥‥?」

「このまま遊ばせておけ」

「‥‥‥」

 いつの間にか、薄茶色の迷彩服にボルトアクション式のパンツァーメタルⅠや重機関銃の完全装備でがっちり整えているゼスルータ。”偵察”する気満々だ。

「とりあえず、今の事南アフリに連絡しておきます」

「ハイゼルクは低空で待機でよろしいでしょうか?」

「ああ、それで頼む」

 出撃した場所へと逃げ帰るヴァミラル軍をこっそり後をつけ、時間はそれなりに掛かったものの、あっさりと基地を発見した。

(ついでに嫌がらせでもしますか‥‥‥!)

「―せっ、戦艦ハイゼルクだと!?」

 一方、基地内では報告を受けた司令官が耳を疑うと言わんばかりに聞き返していた。

「間違いありません。小官はこの眼で確認しました」

「馬鹿な! しかしこれ程の被害を受けた理由としてはなっ‥‥‥」

 最後まで言い終えずに脳みそをぶちまけることとなった。

「司令官!?」

(―命中したな)

 窓ガラスを粉々にし、司令官を即死させた弾丸を放ったのは紛れもなくゼスルータ自身。この瞬間指揮系統を失ったヴァミラル軍に対し、更なる“嫌がらせ”を始めた。

『ヴァミラル軍の諸君、私はロズワント帝国軍宙軍中将、オルハ・ルナ・ゼスルータである。つい先程この基地の司令官は葬った。死にたくなければ大人しく降伏するんだな』

 基地のど真ん中の真上を浮遊した彼は、降伏勧告を告げる。

「何故敵がここに!?」

「見張りはどうしてた!?」

「ふざけんな、誰が降伏するか!」

 彼の言葉に耳を貸さなかった1人の兵士は持っていた半自動小銃の引き金を引いた。当然、それに気付かない程馬鹿ではないし、実際に全弾全てをグラビティルで地面にねじ込ませた。

 そして見せしめに冥焔でその兵を焼き殺しす。

「アアァァァーーー!」

『言ってなかったか? 大人しくしろと。抵抗するなら容赦しない』

「司令の指示は!?」

「それが、本当に死んだようで‥‥‥」

「そんな‥‥‥」

「ちくしょう、どうすりゃいいんだ‥‥‥!」

『ついでに言っておくが、貴様らの敵は私だけではない』

 指揮官を失い、見せしめの火刑を見せつけられ意気消沈していたところへ、堂々と登場したハイゼルクを前に彼らは全員戦意喪失した。

「流石は我が主! まさか基地を陥落させるとは!!」

「もうルータ1人でどうにかなりそうだわ‥‥‥」

「ですね」

「で、艦長。彼らをどうしましょうか?」

「南アフリ軍を呼んで彼らに引き渡せばいいだろ。食料はここのを持たせればちょっとは何とかなるだろ」

「俺達はどうするんだ? 一旦戻るか?」

「ここで一泊してから進軍しよーぜ。じゃがいも以外の食材が枯渇しそうだしな」

「何で無いわけ?」

「文句はレオポルグに言え! いや、文句だけじゃ生温い‥‥‥」

 後半からは、トーンがとても低く、ついこの間まで人間を恨んでいた頃と同等の復讐心を露わにした。

「あの豚野郎! 爵位が何だが知らねえけどなぁ、自分が偉い御身分だからって身分が下の俺らを平気でゴミ扱いしやがって‥‥‥! ああ、挽肉にして死食鬼グールの餌にすればどんな顔で泣くのかなぁ‥‥‥!!」

『ルル、すぐに軍を呼んで!』

『了解です!』

 ゼスルータの気をそらすよう、急ぐよう求めて打った打電により、数時間後には残党軍は捕虜収容所へと運ばれて行った。それまでの間、ゼスルータは捕虜の監視を任せて資料を片っ端からあさった。

「ここが格納庫か、飛行場は無かったからあの偵察機は別の所からだな。だがその分陸上兵器の整備力は高そうだ」

「ルータ、ちょっといいか?」

 開いている重厚な鉄の扉をノックし、基地の糧食庫にあったココアを淹れ始めた。

「あの外道に対する恨み節の事?」

「初めて会った時以上に怖かったぞ」

「あー、確かにもしかしたらあの頃でも「人間以上に憎い奴」って言ってるかもな」

「何か対立でもしてるのか?」

「‥‥‥“ホーロカウスト”の話はしたくない」

 その単語を聞いてゾッとした。ホーロカウストとは、〈クライスト教〉の旧教徒側が行っている、魔族や黒人などの有色人種の人々を異端として奴隷化したり、大量虐殺した事件の事である。

 現代でも終結しておらず、1920年時点で犠牲者は1000万人以上に上るといわれている。これに対し、新教徒側は「神の教えに反している!」として反発しており、教皇をはじめ、ロズワント帝国やローズウェル王国などでは多くの人や魔族が新教を信仰している。

「レオポルグ家がホーロカウストにでも関わっていたってのか!?」

「結果的には。つか話したくないと言っただろ」

「‥‥‥すまん」

「じゃあ詫びにノイ・マウスⅡの砲手をやってくれ」

 彼の地雷を踏んだ時点で、ヴィルドはゼスルータの罠にはめられている。

「何で? ジルは?」

「ジルは艦の指揮を執ってもらうからな」

(んん‥‥‥?)

 疑問に思った彼は、ココアを一口飲んでからひとつ質問した。

「ちょっと待て、明日からの役割分担はどうなってるんだ?」

「ノイ・マウスⅡ組はヴィルドが砲手、ルルが通信士、ニコラスが操縦士で、ラゼルが戦車長。俺が着弾観測班兼対地攻撃担当、んで残りはハイゼルク」

「何でラゼルが戦車長?」

「ネイは陸軍大学を卒業してるけどさ、万が一捕虜にされたら俺に責任押し付けられるだろ。だから念の為ハイゼルクに居てもらう事にした」

 そんな事態になったらフリードリヒ殿下がキレまくって手に負えなくなると、半笑いする。

「ラゼルに戦車に関する知識はあるの?」

「無いに決まってんだろ」

「じゃあ何で戦車長にしたんだよ!?」

「おたくらのシャーマン戦車には馬鹿でも扱えるマニュアルがあるくらいだ。マニュアル読ませたらどうにかなるだろ」

(不安要素しかねえ‥‥‥!)

 現実逃避の為に1杯のココアをグイッ、と飲み干した。

「西の航空基地ひとつ潰してからそのまま北へ向かってただ突っ走るだけ」

「他に軍事施設は無いのか?」

「これ見てみろ」

「ん?」

 ゼスルータは司令官室にあった周辺地図を広げて見せた。

「俺も驚いたが、南アフリにはあまり戦力を割いていないらしい。ほとんどは中央東に投入されている。対南アフリはこことさっき言った航空基地しかない」

「じゃあ何で奴らは侵攻作戦を?」

「横槍を入られたくなかったから一応潰しておくつもりだったそうだ。これがそう書かれた作戦書」

「ハイゼルクがいたのは彼らにとって不運だった訳か」

「我が主よ、フェルリア様が夕食の時間だとお呼びです」

 ヒルデガルドが魔法陣から2人の前に参上し、伝言を伝える。

「今日はもう飯食って明日に備えるか。ノイ・マウスⅡの砲手頼んだぞ」

「結局やらさせるのか‥‥‥」

 翌日、まだ日の上がっていない早朝に、荒野を重戦車が重戦車と思えない速度で駆けていた。

「ヒャッホーイ! 荒野爆走最高だぜ!!」

 最高時速70キロとかいう普段の自動車運転では出さない速度で爆走する重戦車。ちなみにこれは戦艦ハイゼルク(30ノット=時速55.56キロ)よりもちょっとだけ速い。

「高速戦艦よりも速いって‥‥‥あれの方が小さいとはいえどういうわけ?」

『小型エーヴィヒ・リアクターを搭載してるからな。主砲も機銃も魔弾を撃てるくらいだし、装甲も大口径自走砲の砲弾喰直撃してもも計算上は無傷で済む』

 ノイ・マウスⅡの真上を飛行しているゼスルータが自慢げに答える。

 テレパシー越しでもドヤァ、としているのが伝わる程に。

「相手にとってはもはや“鬼畜”戦車ですね‥‥‥」

「これ知ったらヴァミラルどころか世界各国の戦車開発者らも全員発狂しそうだな‥‥‥」

『止まれ。20キロ先、敵航空基地、ここから撃つぞ』

「ここから当たるんっすか?」

 この世界の戦車の射程は平均で5キロ前後。ロズワント帝国軍のティーガー系でもせいぜい8キロが限度。ただしこれはある程度命中精度を犠牲にした場合で、それも考えると6キロが最大射程だ。

「そいつは重巡洋艦並みの砲だ。十分射程圏内に入っているよ」

 重巡洋艦の主砲は20.3センチ。今から撃つのは重巡洋艦とは違って実弾ではあるが、それでも最大射程は24キロもある。口径も射程もティーガーシリーズの倍近い。

『主砲、右旋回24度。41度』

高空へ上がり、観測術式と情報共有術式を使って指示を出した。

「ええっと、これでいいか? 〈試作焔撃弾〉とやらの装填完了したぞ」

『完璧だ。ならば撃て』

「ファイア!」

 発砲、そして着弾まではその時間以上に妙に長く感じだ。そして、招来してしまったのは獄炎地獄だった。

「はあぁ‥‥‥!?」

 直径5キロにも及ぶ灼熱の、真っ赤に燃え盛る大規模な炎の竜巻。当然基地内にいた要員は全員焼死。  

 施設も航空機も燃料も焼失するか爆発するかで消え去り、彼らは悪夢の竜巻が収まるまでただ呆然と眺めるしかなかった。その後ノイ・マウスⅡは一旦回収され、それから彼らはすぐ艦橋へ向かった。

「いやぁ~、凄かったな」

「「凄かったな」じゃねーよ! さっきの一体何なんだ!?」

姐貴あねきの〈ヘル・プロミネンス〉を再現してみたんだけどさぁ、やり過ぎたかな。ああ、姐貴はシャルカ・レッドテイルのことだから。言っとくけどこれでも姐貴が本気出した時の4分の1くらいだから」

「ホント何でウルバルトの馬鹿阿保変態野郎は彼女に喧嘩売ったんですかねぇ‥‥‥。お陰で死にかけたし」

「ジルさんっていつも苦労してるんですね」

「喧嘩とは何の事です?」

 話を全く知らないヒルデガルドがジルに尋ねる。

「喧嘩というか戦争ですよ。あの馬鹿が彼女の夫であるシャルカ・フランクの死を「あの野郎やっとくたばったか」とか言って逆鱗に触れて宇宙で大戦争。陸軍は出る幕が無いとかほざいて一度も戦わなかったのですよ。ホントこっちが陸軍を殺してやりたいくらいですよ」

「まあけどフランクのおっさんも死んでおかしくなかったというか何というか‥‥‥」

「確かにそうよね‥‥‥」

 過去に何度か会った事のある2人は彼の死の理由に納得している様だ。

「何で死んでおかしくなかったとか言うんだ?」

「「いつも煙草吸ってたから」」

「あー、ね‥‥‥」

 それから姉弟は幼少期の頃の記憶を掘り返しながら聞かれてもないのに話し始めた。

「確か4、5歳くらいか。姐貴はロウェル姉と母さんの友人だったからよく会いに行ってたけど、本当にいっつも煙草を吸いながら出てきたな」

「もうすぐローゼンちゃんが産まれるっていう頃でも止める気配は全くなし。後から聞いた話だと、1日に何箱も使い切ってたらしいわ」

「葬式の時は泣いていいのか怒っていいのか複雑な気持ちだったって言ってたな。で、そんな時にウルバルトの大失言だ。彼らは仲が悪かったらしいが、そりゃブチ切れるよな」

 その話を聞いて、ジルは怒りが込み上げない訳がなかった。

「そんな理由で!? それで戦争勃発!!? ふざけやがって!!!」

 それから長い間、彼女の愚痴を聞く羽目になる。

「こっちはどんだけ苦労したと思ってるんだ!? たかが50隻の艦隊相手に90隻の戦艦は沈められるわ、240隻の巡洋艦は沈められるわ、300隻の駆逐艦は沈められるわで面目丸つぶれだったんだぞ!! 私が乗艦していたポンメルンも優秀な機関士がいなかったらとっくに死んでたっつの!!! それになぁ‥‥‥!!!!」

 九九艦隊を中心とする大艦隊が潰され、

「酒飲んでないのにすげえなおい」

 酔っていないのに、酔い潰れた者の様に次から次へと愚痴を言い続けた。

「全部併せて630隻の大艦隊ってどのぐらいの戦力なのですか?」

「帝国宇宙艦隊のほぼ全部。だから宇宙軍はその海戦で壊滅状態に陥ったってよ」

「つくづく思うけれど、よく再建出来たわね‥‥‥」

「言っておきますけど、メディアは再建出来た出来たと誇張してますけどねぇ、まだ全盛期の3、4割程度しか出来てねえっつの!」

「はあ!?」

 じゃあ何でまだ戦い続けられてんの? とヴィルドが驚愕の目をゼスルータに向ける。

「戦艦の話だろ。巡洋艦や駆逐艦に、工作艦や補給艦とかの補助艦は充分過ぎるくらい揃っただろ。しかしまあハイゼルクをあんな短期間で完成させるあたり、軍令部や彼女らの“復讐心”は冗談抜きでヤバいな」

「復讐心?」

「あっ‥‥‥!」

 つい言ってしまったという感じで、サッと口に手を当てた。

「今のなし。ノーカン、ノーカン」

「我が主よ、冷汗が出ていますよ」

 ヒルデガルドは主の頬の汗をハンカチで拭きとる。

「‥‥‥後で分かるかも知れんが、ヴィルド。軍令部長と周りの奴らには自分から会いに行くなよ。本気で“怖い”から」

「ゼスルータ様ですら怖いと言わしめるとは、余程の実力者ってとこですか?」

「「知らぬが仏」という言葉がある。これ以上首を突っ込むな」

 ヒルデガルドが興味を持ったが、それに対しゼスルータは絶対に関わろうとするなと全員に対して釘を刺す。

「‥‥‥分かった。ところで、このまま北上しても大丈夫か?」

「なに、しばらくはのんびりとと進めるさ。仮に敵機が来ても問答無用で叩き落とせるさ」

 翌日、短期間で基地を2つも潰された彼らは黙っているはずもなく、近辺の基地や空母の持てる航空戦力のほとんどをつぎ込んで反撃に出た。

「0時及ビ9時ノ方向ヨリ敵航空機多数襲来。敵機総数オヨソ200」

「空母も2隻確認。艦長、ご命令を」

「対空戦闘用意、及びF型電波探信儀起動。誘導術式と連動させろ、それで撃墜が可能なはずだ」

 疾風の矢の如く、巨艦へ突撃し、雷撃や爆撃を浴びせようとした。

「フォイア」

 その前に、哀れな末路を辿る羽目になった。

「―うわあぁぁぁ!?」

「先鋒がやられた!」

 その速さは音速とかそういうものとは比べるまでもない。光に匹敵する速さで喰らい付き、旋回しても追って来る。すれ違いざまでも直角に曲がって横から殴り付ける様に直撃し爆散。

 搭乗員を狩るこの“死神”相手に逃れる術など無きに等しい。

「被害甚大! 繰り返す、被害甚大!」

「アアアァァァーーー!!」

「クソが‥‥‥」

 空母の艦橋では、航空部隊が一方的に叩かれているのを見て、驚きで時間が一瞬止まる。

「航空隊損耗率30パーセント突破。我が軍の航空機に対し、魔弾の誘導機能が通用するようです」

「話が違うじゃないか!?」

 副長が怒鳴った。だからといって情勢が逆転出来る訳ではないが。

「攻撃中止! 航空隊は直ちに帰投せよ」

 司令官の判断は素早く、かつ正しかった。このまま無理に突っ込ませせても被撃墜機を量産するだけなのは目に見えていた。

「―艦長、敵は逃げて行きますが、追撃しますか?」

 ジルは砲撃で空母を沈められると進言する。

「いや、もうしばらく待つ。後で空母をたっぷりと料理して差し上げろ。その時にはネイにも手伝ってもらう」

「了解、敵艦隊は捕捉しておきます」

 ジルは瞬時に意図を理解した。国の人口の内、最も多くの割合を吸血鬼が占めているからこそ十八番おはこである夜戦。それで決着をつけようとしているのだと。

「―司令、一旦基地へ帰投しましょう」

「ああ、そうする他無さそうだ。だが念の為大きく迂回する。真っ直ぐ帰って場所を知られたくない。振り切れるよう電探は切っておけ」

 ヴァミラル艦の持つ設備などでは電磁波を察知出来ず、つけられている事に全く気付かずに隙を見せていたとは露程にも思っていなかった。

「―艦長、敵に側面を晒して問題ないのですか?」

 こっそりと追跡していたハイゼルクは、ヴァミラル空母艦隊を射程圏内に収めている。

「護衛に戦艦の姿は無いわ。最も大きいクラスで重巡程度よ」

「なら大丈夫だ。一斉射撃で敵に衝撃を与える」

「了解。主砲旋回‥‥‥フォイア」

 全弾命中とはいかなかったが、それでも敵空母の艦尾を大破させた。

「―二番艦主機損傷! 高度が、下がっていきます!」

(嫌な予感が的中したか)

 ヴァミラル艦隊の司令官は、どうも振り切れていないのでは? という考えが頭の中を覆っていたが、その直感を被弾するまで無視していたのは判断ミスとなってしまう。

「逆探知不能。敵の索敵方法は不明」

「電探再起動、敵の位置を特定しろ!」

「これは‥‥‥我が艦隊後方です!」

「何だと!?」

「―フォイア」

 そうこうしている内に、ハイゼルクからの第二射が襲った。だが目標はもう1隻の空母ではなく、護衛の重巡などだ。

「―艦隊損耗率80パーセント!」

「全滅だと!?」

「緊急ワープだ! すぐに離脱し‥‥‥」

「敵弾来ます!」

 獲物を逃すはずもなく、主機関を狙い撃ちした。もはや航行は絶望的だろう。

「―敵艦隊全滅を確認。生存者はどうしますか?」

「捨ておけ。俺達に構ってる暇など無い」

「では、せめてミイラにならない事だけを祈っておきますか」

 それからハイゼルクは増援を警戒して交代で見張りと睡眠を取った。結局何もなかったが、過酷な日々は翌日から訪れて来た。

「敵艦隊捕捉! モガドール級14、シュフラン級5。航空戦力は今のところ確認出来ません」

「奴ら、雷撃戦でけりをつけに来たな」

 航空機は通用しなくなったと悟ったヴァミラル軍は、ハイゼルクの砲火力を恐れた事もあり、空間魚雷による一撃離脱を試みた。

「魔導防壁展開、対空戦闘用意!」

「空間魚雷多数接近!」

 主に右舷に攻撃を集中させてきた。3方向から合わせて90本もの空間魚雷を浴びせてきた。

「撃ち落とせ!」

 すかさず機銃や高角砲から撃つ蒼炎誘導弾で迎撃を開始。それは成功し、主砲で艦隊への攻撃をしようとしたが、2隻撃沈させただけでほとんどはその前に短距離ワープで逃げられた。

「戦果はこれだけか‥‥‥」

「無傷で済むのなら幸運だろ」

 ゼスルータの言った通り、しばらくするとまるで返り討ちにされた子分が今度は虎の威を借る狐の様に、親分を連れてリベンジを仕掛ける様に先程の艦隊にブルターニュ級戦艦10隻が加わって交戦に突入した。

「いくら何でも物量チート過ぎん?」

 たかが戦艦一隻だけを相手に、これ程の戦力をつぎ込むのかとヴィルドの顔は引きつっている。

「指揮はジルに任せる。俺は空から敵艦隊の攪乱させてみる」

「単機でですか? あまりにも無茶過ぎます」

「これが無茶だと? こんなの可愛いものだよ」

 メルギアを装備し即座に出撃した彼は手始めに旗艦だと思われる艦隊の先頭を進むブルターニュ級へと爆撃を始めた。

「―敵機来襲!」

 猛烈な弾幕の中を突っ切り、手前で一気に急上昇。からの急降下で、レシプロ機が爆弾投下誘導アームから爆弾を切り離す様に、右腕を動かし冥焔弾を喰らわす。

 冥焔弾は主砲近くの装甲を貫き内部で爆発。2基の主砲が誘爆によって飛び上がった。

「ーフォイア!」

 続けて、後続艦へと砲撃を開始。反撃も受けたが魔導防壁により全て無力化。それからというもの、一方的な艦隊戦だった。

「シュバルツ・ゲネリエン!」

 計17発のVキラーロケットを生成し、それぞれ1発ずつ叩き込んだ。内5発は迎撃されたが、残りは全て命中し、一瞬にして大破あるいは轟沈にまで追い込んだ。

「敵艦隊全滅!」

『思ったより強くなかったな‥‥‥。これより帰艦する』

 だが面倒くさいのは翌日からだった。

「艦長、星間ミサイルが本艦に向かっています!」

「主砲の一斉射で迎撃しろ」

 ジルからの報告に、即座に命令を下す。

 が、ワープアウトしてくる星間ミサイルの数が尋常じゃない。

「いや、1、2発なら別に対処出来そうなのですが‥‥‥」

「ルル、歯切れが悪いぞ。はっきり言え」

「全部で13発です」

「はあ!?」

 誘爆に巻き込まれないように間隔を開け、バラバラに降り注ぐ弾頭の姿がはっきりと見えた。

「最大火力でしか通用しなさそうなので流石に何発かは撃ち漏らすかと。現に今やってますが主砲への魔力注入が間に合いません」

「魔導防壁は?」

「防げるかどうか分からないわ‥‥‥」

「総員、衝撃に備え!」

 直径4キロ程のドーム状に広がる大爆発エクスプロージョンに呑まれ、消失したかに見えたハイゼるく。だが“不沈戦艦”の名は伊達ではなかった。

「しっ、死んだかと思った‥‥‥!」

「あいつら、本気で殺しにかかってんな」

「どうします? あんなの連続で喰らったら本艦とて無事では済みませんよ」

 ブルターニュ級戦艦とほぼ同じサイズのワープ可能なミサイル。本来なら対要塞用に使用される代物の直撃を受けても無傷なハイゼルクの防御力は異常の一言に尽きる。

「月面守備艦隊は何してるんだ?」

「昨日の定時連絡の時に聞いた話ですけど、ヴァミラルの大艦隊がまた攻撃を仕掛けたらしいですよ。もちろん返り討ちにしたそうですけど」

「マジか‥‥‥。そりゃ迂闊に留守にできないだろうな」

 月面守備艦隊は月を守るので精一杯。頼れるのは自分達だけのよう。

「近くに海とかないか?」

「東に行けばガンダーラ洋ならありますが」

「ならそれで」

「「「?」」」

 更に翌日、ハイゼルクは発見されないよう海中を潜航していた。航宙艦は気密性は完璧といえる程優れている点を生かした彼のアイデアだ。

 グラビティル・カノーネの発射口や主砲口は潜航において障害となったりするのでシュバルツ・ゲネリエンで円錐形の蓋をした。

「これで星間ミサイルどころか艦隊すら来ないだろう」

「このままアフリ大陸と中東半島を隔てる真紅海を渡れば、無事に北部の友軍と合流出来ますね」

「流石は我が主! まさしく聡明な御判断ですね」

 イエスマンの様に褒め称えるヒルデガルドだったが、ゼスルータは何言ってんだ? と真顔でそういう作戦ではないと否定する。

「は? このまま黙って行く訳ねぇだろ」

「言うと思ったわ」

「「「えっ‥‥‥」」」

 彼の考えがフェルリア以外全くのみ込めず、しばしの間艦橋に沈黙がのしかかる。

「えっと‥‥‥つまり?」

「戦利品の地図によれば、沿岸部にも幾つか基地があるからな。“嫌がらせ”とかやっていく」

「ルータってホント嫌がらせが好きだな」

「まあね。ついでに“新兵器”の実験とか、それで奴らの補給線もぶった切ってやりたいし」

(何をするんですかね‥‥‥)

 正午になり、早めに昼食を済ませた彼は、上部だけ海面から浮上させたハイゼルクの主砲の砲身に何やら射出機カタパルトの様なものを取り付けていた。

「何をしてるのかしら‥‥‥」

 ネイラータは艦橋窓から眺めながら呟いた。「軍事機密」と言い、作業は彼だけで行っている。

「射出機の様ですね。何を発射するんでしょう?」

 射出機は上部の4基の主砲の砲身に設置、全部で12基。三連装の砲身に、中央のはそのまま真上に設置し、外側の砲身には真横に取り付けた。

『姉さん、側面の格納庫扉が開けられるようにもっと浮上してくれ』

「了解。下部スラスター点火」

 そして格納庫扉を開き、その中から取り出したのは、全部で12本の“破壊の権化”だった。

「何だあれ!?」

「‥‥‥あんなミサイルあったかしら?」

「無かったはずですよ」

 全てを発射装置に設置し終えた彼は、艦橋に戻って魔導電探受像機とそれに連動した装置を操作する為のキーボードで何やら作業を始めた。

「まずは敵基地の座標を入力してと‥‥‥」

「ねえルータ、あれは一体何なのかしら?」

「〈Vキラーロケット改〉。Vキラーロケットよりも長身かつ長射程の慣性誘導弾道ミサイル。この前撃ったノイ・マウスⅡの試作焔撃弾の強化版を弾頭に積んである」

「‥‥‥焼夷弾の方がマシじゃね?」

 ヴィルドがアレの威力を思い出し、恐ろしさのあまり顔から血の気が引く。

「だって対カムロス用に作ったからな。まっ、無駄話はおいといて早速やりますか。ポチッとな」

 艦前部の方から順に飛び立つVキラーロケット改の群れ。瞬く間に噴射光しか見えないようになり、そして目視出来なくなった。それを確認してから、ハイゼルクは再び潜航した。

「―ん? 何だあ‥‥‥」

 音速の10倍の速さで着弾し、彼らは何が起きたのか知る間も無く塵ひとつ残さず基地ごと焼失。

 12発とも全てそれぞれの目標に命中。しかも全てが前線へ物資を送る各デポへ更に物資を送る物流センターとも言うべき補給基地だった為、アフリ大陸の全前線が崩壊の危機に直面する事となった。

「―おのれハイゼルク!」

 これがヴァミラル軍の怒りを買ってしまったようで、夜には航宙・洋上艦を問わず、かき集めた大量の爆雷をたった1隻の戦艦を沈める為だけに投下しまくってきた。

「―艦長、ソナーは無いのですか!?」

 ジルがこれではいくらフェルリアの操艦技術が卓越しているとしても、厳しいものがあると叫ぶ。

「これ宇宙戦艦だよ。ある方がおかしい」

「どーするんですかこれ!?」

「取舵ー!」

 船体構造故にあまり深くには潜れず、ただ之字運動(ジグザク航行)するしか他に打つ手がなかった。

 フェルリアは会話に入る余裕もなく、必死に舵取りに集中している。

「電探も使えないしな~。これどうしよ?」

「それを決めるのが艦長の役割だろーが!」

「あっ、ヤバ‥‥‥!」

 航海長がミスを悟った直後に、船体が衝撃によって大きく揺れた。その割には大した被害は出さなかったが、ヴァミラル軍は爆雷を使い切るまでただひたすら逃げ回った。

「あ~あ、はよ大陸派遣団と合流してぇー」

「1週間経ってないとはいえ、じゃがいも生活には飽きてきたしな」

 実際、何百年ぶりに復活を果たしたヒルデガルドを除き、ゼスルータの元に、特にローゼンから大量のクレームが入っている。

「そういえば、シチリア共和国と一緒らしいわね」

「パスタ~‥‥‥ピッツァ~‥‥‥」

 その国名を聞いただけで、また文句を言いに来たローゼンがよだれを垂らして腹を鳴らす。

「大陸派遣団は何を食べているんですかね~?」


―ロズワント=シチリア連合軍 ハルツーム即席野戦司令部―

 トール戦闘団を率いる、ヴィルヘルム家長男にして威厳に満ちた顔立ちのフリードリヒ・ヴィルヘルム。彼もまたゼスルータと同じ事を考えており、主に沿岸部を沿うようにして進撃。あと僅かでアフリと中東の分断が成されようとしていた。

「やあ、兄さん。オドアから手紙だよ~。先に読んどいたから」

 兄とは真反対に、おっとりしているのは次男のラインハルト・ヴィルヘルム。

 一度全メルギア航空隊が解体された後、志願者を募り第一○○及び一○一メルギア大隊を編成。前者は空から、後者は陸からの電撃戦によって幾度も戦線を突破し、連合軍に多大な貢献を果たした。

 彼らの共通点は、妹のネイラータや母のネレスと同じ紫を基調としながらも、先は柔らかく金色に染まっている髪だ。

「ほう、珍しいな」

 早速手に取り、読み上げた彼は顔を真っ赤にさせ激怒した。シスコンの彼にとって無理もない話が書かれていたからだ。

「―拝啓、皇太子両殿下へ

 此度は重大な御報告を手短に申し上げます。ローズウェル王国にて一介の中将風情がネイラータ様をたぶらかし、あろうことか公衆の面前で“あんな事”をいたしました。つきましては、中将オルハ・ルナ・ゼスルータに対し、厳重な処罰を下すのが適切かと存じます。 オドア・グラントより」

「“あんな事”や“こんな事”だとお!?」

「こんな事はやってないって!」

(そもそもな話“逆”なんだろうなあ~‥‥‥)

 ネイラータ・ヴィルヘルムは、他者からの信頼だとか、曲げられない正義感だとか、絶対に譲れないことに関してはたとえどんな手段を使ってでも譲らない。

 そのことを家族故によく理解している彼は冷静に事情を察した。

「おのれゼスルータとやら、必ずやその首を切り落としやる‥‥‥!!」

 ‥‥‥兄の方は鵜呑みにして怒り狂っているが。

「たまにはネイの気持ちを理解してあげようよ」

「何がネイの気持ちだ!? たぶらかされているのに気持ちもクソもあるか!!」

(こりゃ駄目だ‥‥‥)

 何も理解しようとしないフリードリヒは耳を貸さず、弟はすぐに説得を諦める。

 そうしている間にも兄は廊下に出て、1人の将兵を呼び止める。

「おい、戦艦ハイゼルクは今どこだ?」

「はっ、ハイゼルクでありますか?」

「そうだ」

「月面司令部に問い合わせてきます」

「え待って。何をする気なの?」

「決まってるだろ。俺自らあの外道を成敗する!」

(‥‥‥これ宇宙軍が反乱してもおかしくないんじゃないかな?)

 勘違いで自軍の優秀な中将が討たれたとなれば、宙軍の面子が立たない。

 だからこっそりと転移魔法で月面司令部へ足を運び、定時連絡の際に顔を出した。

『やあ! こんにちは』

「えっ!?」

 皇族が定時連絡に現れるという突然の出来事を前に、ジルはただただ驚き固まった。

「あっ、えっと、ネイラータ様と艦長をお呼びします! 艦長、ネイラータ様、至急艦橋へ来てください!!」

「あの、この方はどなたでございますかね?」

「ラインハルト殿下だ! ヴィルヘルム家次男の!!」

 だから失礼な態度は取るなと、目線で訴えるジル。

「初めまして、ヴォーロルルと申します。いつもネイさんにお世話になっております」

「ちょっとーーーーー!!!」

 そんな訴えにわざと気付かなかったのか、皇族相手にも臆さず挨拶をするヴォーロルルにジルは冷汗をかいた。

『礼儀正しいお嬢さんだねぇ。で、何で艦橋に艦長が居ないの?』

「普段は定時連絡の際には居るのですが、今は報告した赤いメモリアの難解なRSA暗号の解読に取り組んでおりまして‥‥‥」

『赤いメモリア?』

『殿下、こちらです』

 隣にいたエヴァンがすかさず資料を渡す。

『うっわ超むずそう! でもオーパーツか。ルータが好きそうなやつじゃん』

(ん?)

 ジルはラインハルト殿下がゼスルータを愛称で呼んだのに気付き、脳内に疑問符が浮かぶ。

「ジル、何があった? ってラインハルトじゃねーか! いや久しぶりだな」

「『何軽々しくしてんだーーーーー!?!?!?』」

 出て来るや否や気軽に挨拶を交わすのゼスルータに、ジルとエヴァンはガクガクと震え出す。

「ねえルータ、何でお兄様に軽々しい態度がとれるわけ?」

『ちょっとちょっと、親友同士の会話に水を差さないでよ~』

「「『親友?』」」

 ネイラータにジル、そしてエヴァンはどういう縁があるのかと彼らを見る。

『そうそう。昔こっそり街中を歩いてたんだけどさ~、そこでルータとばったり会って。しばらく会話してたらだよ。僕か彼を付け狙って襲って来た刺客を拳銃で仕留めてさ、俺思ったんだよね~。「この子強えーわ」って』

『殿下、「この子」とは?』

 まるで小さい子供を相手にしている様だと、エヴァンは違和感を感じる。

「ああ、その時はまだ5、6歳位だったからな。一応言っておくが、仕留めたっといっても右足を撃っただけだ。ホント昔は親戚とかから「拳銃でも何でもいいから武器は持っとけ」って口を酸っぱくして言われたからな。3歳の頃なんか嫌がっても無理矢理射撃訓練もやらさせたしな。でもまさか役に立つとはな。だがここぞという時にしくじってしまったがな」

 そう言う彼は、どこか哀愁をおびていた。

「ルータ‥‥‥」

「でもそれがきっかけとなったのか、ローズウェルで彼らに会えたのは良かったな。妹は、最後は“自分”として接してもらったり、死ねた事を知れてな」

『へえ、じゃあ人間嫌いは無くなったの?』

「それはたぶん無くなったかな」

 画面越しだが、以前の雰囲気とは異なるとラインハルトも納得する。

『あの、かなり重そうな話をしている途中で悪いのですが‥‥‥君達今めっちゃ危機的状況に陥っているぞ』

「「「はい?」」」

 ハイゼルクの面々は、ヴァミラル軍がまた来るのかと思ったが、どうやら違うらしい。

『そうだった! 説明の為に聞くけどさ、どっちが相手の唇を奪ったの?』

「へっ!?」

「何て事聞いてくるのよ!? ラインハルトお兄様のバカ!」

『やっぱりネイの方だったか~』

 ネイラータ、ジル、ヴォーロルル、ヒルデガルドの女性陣は全員赤面し、彼は呆然と突っ立っていた。

「それが何なのよ!?」

『いや~、それがね。オドア君がルータの方からしたっていう風にみっじか~い手紙を送って来てさ。今そっちに向かってんのよ』

「‥‥‥別にそれは大丈夫なのでは?」

 言い争いにはなるだろうが、戦う訳ではないとヒルデガルドは至って普通にそう考える。

『分かってないねえ。ええっと、君ルータの使い魔?』

「ルーゼン・フォン・ヒルデガルドと申します」

 ヒルデガルドは直接会っていないにも関わらず、一目見てその事を見破った彼の慧眼に恐れ入った。

『あのねヒルデちゃん、今の兄さんは激おこぷんぷん丸状態。ぶっちゃけハイゼルクを見つけたら即沈めにかかるぐらいにね』

 何で味方を潰しにかかるのかと、艦橋にいる全員が絶句する。

「それでどうしろと? 話し合いなんて通じなさそうだが‥‥‥」

『じゃあ“本気”出していいよ。兄さんには今回ばかりはちょ~っと反省してもらいたいからね』

「仕方ないか‥‥‥」

 彼は右腕に着けている、中心に複雑な魔法陣が彫られた金の鉄十字が目立つブレスレットを外す。

 普段は認識阻害の術式をかけていた為、半袖の軍服を着ていても誰も気が付かなかった。

「何だ、この魔力は!?」

 部屋で報告書を書いているヴィルドは、艦内に突然現れた、後世語り継がれる程の大賢者クラスの魔導士の存在に恐れおののいた。

「艦長、これは一体‥‥‥!?」

『そうだね~、ハイゼルクからみてちょうど左に48度、下に10から20度くらいの方向に吹っ飛ばしてくれるかな』

「よく分からない注文だな‥‥‥まあやればいいんだろ」

 転移でフリードリヒの進行空路上に浮遊し、術式をを構築し始めた。

『見つけたぞ、ゼスルータ!』

 まさしく鬼の形相とも言うべき怒りを露わにした顔で、吸血鬼の翼で飛翔、突撃してくる。

「まず話を聞いてくれませんか?」

『断る!』

「そういうの‥‥‥」

 聞く耳持たず。それに呆れながら、彼がご自慢の鉄槌を振りかざす前に、言われた通りに殴って吹き飛ばした。

「クソうぜぇんだよ!!!」

 常人なら、身体が引きちぎられる速度で遥か彼方までロケットの様に飛ばされ、何キロも地面を大きく抉りながら引きずられた。

「やるな‥‥‥だが!」

 後を追って追撃してきた彼に対し、鉄槌を横に振った。ゴルゴンソードでそれを防いだが、脚が踏ん張れなかったので3キロ先まで飛ばされた。

「―ラインハルト殿下。これはどういう事ですか? 艦長のあの魔力量は何なのですか?」

「あの大賢者や魔王じみた魔力の持ち主がルータってか。どういう事だ?」

 何事かと艦橋に駆け付けたヴィルドは、ジルの質問からまず敵ではないと胸をなでおろす。

『ルータはねぇ、〈準五帝将〉なんだよ』

「「準五帝将!?」」

「何それ?」

 ロズワント軍人で古参のジルやネイラータは瞬時に理解したが、他の者は首を傾げた。

『準五帝将ってのは、ロズワント帝国軍において「指揮・戦闘能力共に五帝将に比肩する者」の事で、普段は五帝将と同じく〈封力のブレスレット〉の装着が命じられてるんだ。これ着けてるとステータスが物凄~く抑えつけられるんだよね。ロズワント城で君達が襲撃された時のゼハルドとウルバルトが超弱かった理由はそれのせい。でも同じ条件でウルバルトをボコったあたり、ルータって相当な実力者だよね~』

「何でそんな物を?」

『だって五帝将も準五帝将も手加減ってのを知らないからね。どっかの国を勝手に潰されたりすると国際問題どころじゃないから』

 マジモンの実力者が枷無しでほっつき歩くなど許せる訳がないと、ラインハルトはやれやれと首を振る。

「道理で私めと使い魔契約が成立する訳ですか‥‥‥」

「ひとつ質問をよろしいでしょうか?」

右手を上げ、疑問に思っていた事を聞いた。

『何かな?』

「何故艦長に対してフリードリヒ様を「左に48度、下に10から20度くらいの方向に吹き飛ばして」などと注文したのですか?」

『そっちにヴァミラル軍が居るからに決まってるじゃない~』

「「『えっ‥‥‥?』」」

 一方その頃、ラインハルトの思惑通りにヴァミラル軍の兵や基地、更には軍艦までもが巻き添えを喰らっていた。

「―敵襲ーーー!」

「戦艦沈没ー!」

「何が起きたんだ!? 誰か説明しろ!」

「―天狼漸!」

「剛撃の鉄槌!」

 ゼスルータが振りかざしてきた剣筋をフリードリヒが薙ぎ払いで横にそらす。

 斬る相手を逃した斬撃はそのまま砂や岩の渓谷をも切り裂き、30キロ先にあった航空基地を両断し粉砕した。

「―誰、か‥‥‥、助けて、くれ‥‥‥」

 運が良くても瓦礫に埋もれて足を押し潰され、不運だとしか言いようがない士官に至っては胴体を縦に真っ二つにされた。

「―フレア・ボム」

「リフレクター」

 器用な事にフリードリヒは爆裂魔弾を反射される前に全て起爆させた。だがそれはゼスルータの狙い通りだった。

「冥焔纏い」

 パンツァーメタルⅠから放たれた瞬間の弾頭に紫焔を付与し、頭部を狙ったものの、身長程の大きさのある鉄槌で弾いた。

「へえ、力持ちだね」

「フンッ、エルフにはそう見えるか?」

 自分にとってこれは軽いものだ。それだけのつもりで言ったはずが、挑発と受け止められたのか、気が付くと顔面にストレートを喰らってまたもや飛ばされていた。

 そして、運悪く警戒に当たっていたブルターニュ級戦艦を貫き、というか2つに折って轟沈させる。

「負けるものか! ヘル・バースト!」

 そのおかげで空中で止まることができ、お返しとばかりに獄炎の大砲を放つ。

「イージスの盾」

 ヒルデガルドから教わった防御魔法でそれを防ぐ。

 それを見計らったタイミングでフリードリヒが舞い戻り、鉄槌を振りかざした。

(まあそうくるだろうな‥‥‥)

 サッと防御姿勢をとったが、受け止める前に彼らは咄嗟に距離を取った。思わぬ横やりが入ったからだ。

「―ええい! まだだ、奴らを殺せ!」

 各地から謎の被害が出たという報告を受けた司令部は直ちに航行中の全艦艇に対し、迎撃命令を下していた。そして先程のブルターニュ級が轟沈させられたのを近くで見た第十四警備艦隊が仇討ちだとばかり攻撃を開始する。

「―神聖な一騎討ちに水を差すとは、痴れ者め!」

撃鋼重槍砲げきこうじゅうそうほう

 シュバルツ・ゲネリエンで生成した長さ20mにも及ぶただの杭。それを何本も創造し、全てを4隻の艦艇へと打ち込んだ。

「―今のは、杭?」

「全艦被弾、今のところ航行に支障は無いようですが」

 あるヴァミラル艦長は、何が狙いなのかと警戒心を抱く。

「―ディメンション・ボム」

 シュバルツ・ゲネリエンで生成したものは実体を持った闇属性魔力そのもの。回収する事も可能だが、そのまま攻撃魔法へ利用する事もまた可能だ。

 ブラックホールにも似たその膨大する漆黒の魔弾は、艦内部を喰らった。結局艦隊は高度を維持できずそのまま砂の海に沈む。

(本当はあいつに叩き込むつもりだったが‥‥‥)

 フリードリヒを迎え討つ為に構築し続けていた切り札だが、仕方ないと割り切る。

「復讐心は憎悪を呼び給え、憎悪は死を呼び給え、死は死を呼び給え。‥‥‥ラッヘ・スピア」

 頭に叩き込んだ地図を基に、座標を術式に入力した。大気圏ギリギリの空間で編み出させる魔法陣。

 そこから吐き出された巨大な槍の形をした8つの“破滅”はそれぞれ命令された場所へ隕石の様に落ちていった。

「―え?」

 ヴァミラル軍が気付いた時にはもう手遅れ。大地へと突き刺さった瞬間、敵を逃がさない為に重力場を発生させ行動の自由を奪い、少し遅れて黒炎がそこにあるもの生命、無機物を問わず焼き払う。

 そして炎は都市をものみ込む勢いで広がっていく。

「―おい貴様! 何でこんな事をした!?」

「市民は都市から逃げてる上、大方ラインハルトの狙いがそれだからな。ってか今更過ぎるだろ」

「あっ‥‥‥」

 急に冷静さを取り戻し、今までの勢いを失う。

「言っておくが、手を出したのはネイの方からだ!」

「えっ? お前じゃないの?」

 手紙と内容が違うと、フリードリヒは困惑する。

「嘘だと思うならネイに聞け。シバかれるのがオチだろうがな」

「あー‥‥‥言われてみればネイらしいか」

 そう言われれば、妹らしい手段だと、フリードリヒはようやく納得する素振りを見せる。

「じゃあ何で問答無用で襲って来たんだ?」

「‥‥‥すまん」

 こうして、アフリ大陸そのものに大きな爪痕を残したが、〈アフリ戦役〉はまだ続くのであった。


―第四章・終―

 超お久しぶりです。ルティカ改めリキュ・プラムです。

 卒業論文を頑張って書き終え、無事に卒業が確定! そして卒業式を待っている今日この頃に第九話を書き終えました。

 もう卒業か~、と四年間は長い様であっという間ですね。

 さて、また新しい登場人物が‥‥‥何人出たっけ? 自分でも分からん。

 ただラテノ・ベラトは名前だけで済ませようとしたキャラで、今後どう活躍させようか悩んでるけどな~、機関長不在っつうのもアレだし‥‥‥。

 つか機関長っていう役職名でいいのか? 太陽系各国の艦艇って、軍民問わず動力源(つまり魔力源)がエーヴィヒ・リアクターで、推進部(ロズワント帝国の場合はグラヴィタ・ストーン)と分けられているし。波動エンジンみたいに一体化してる訳ではないのですよ。

 でも適切な名前も無いし、このままでいいか。

 さて、次は砂漠での大会戦! 主人公一行はどうやって切り抜いて行くのか? お楽しみに!!

 

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