つくば道
北面道路で五輪峠を越え、赤城山山頂カルデラの中に降り、大桐赤城神社を横目に走って、覚満川を渡って、赤城山の山頂カルデラ壁をまた登った鳥居峠のバーベキューホールで一休みする。
ここからは、秋口から冬場に天気が良いと南の遠方に東京スカイツリーも見ることが出来る。そして、東の方には筑波山も見る事が出来る。
筑波山の麓、と言っても、筑波山からは20キロは離れている場所に、三条神流が次に走るサーキットがある。筑波サーキットだ。
三条神流はスカッシュフロートを飲みながら、その東の方を見る。
「見える?」
と、松田彩香。
眼鏡を掛けてようやく、二種免許に必要な視力を得られている彼女の視力では、筑波山を見る事は難しい。だが、今日の気象状況では、裸眼で1.0の視力である三条神流でも見ることは出来なかった。
三条神流は首を横に振る。
(隣にアヤは居る。でも、その背中は遠い。)
と、三条神流は先ほどの北面道路を思い出す。
東郷三姉妹の放つ、「オーバーステア」や「アンダーステア」等の用語すら分からず、高速走行しながらそうした事を教えられ、頭の中に詰め込んで、パニックになった。
(こんなことで、アヤに追いつこうなんて―。甘いのか。)
と、三条神流は横目で松田彩香を見る。
自分と同じ背丈。性格も殆ど同じ。学力も同じ。ただ一つ、性別だけが男か女かと言うくらいしか違いが無いのに、三条神流には松田彩香が圧倒的に上に見えてしまっていた。最も、モータースポーツの世界に松田彩香が入ったのは、自分のせいでもあるのだが。
「あんたらって、いつまで一緒に風呂入っていたんだっけ?」
と、日菜子が言うので、三条神流動揺する。だが、松田彩香は涼しい顔で「中学卒業、いや、高校1年か2年そこらまでかな?」と答える。
「どちらから、離れて行ったんだっけ?って、それは言うまでもないか。」
日菜子は三条神流を見て言う。三条神流、舌打ち。
「両親共働きで、お母さんが出張、親父さんが県庁の仕事で遅くなる時、アヤが家に呼んでは世話をしていて、それが当たり前だった。でも、ある時を境に、カンナの方からアヤを避け始めた。この辺りから、カンナとアヤの差が少しずつ開いていったね。」
「関係ないだろ。」
「もし、カンナがアヤから離れなければ、アヤは私や日菜子で寂しさを紛らわすことはしなかった。」
と、恵令奈。これには言い返せないと思った恵令奈だが、三条神流は、
「だが、そのおかげでアヤはモータースポーツの世界に飛び込み、俺もその世界へ行く事が出来た。アヤに追いつく云々は、今は良いとして、今はモータースポーツの世界って物を見る事に専念するよ。」
と言う。
苦し紛れだった。だが、恵令奈と日菜子。そして、松田彩香はそれに「それでいい」と頷いた。
1週間後、三条神流は勤務が明けると、そのままBRZで筑波サーキットを目指して出発する。
深夜の国道50号を東へ。
所要時間2時間半。走行距離は約100キロのロングランだ。
前橋市の市街地を出て少しの間は片側2車線の国道50号だが、上武道路の交差点から片側1車線の田舎道になる。
大型の貨物トラックが行き交う深夜の国道50号を走る様は夜行列車のようだ。
再び2車線になった国道50号を駆け抜け、左の方に桐生や足利の町灯りが寂し気に見え、ワム地下のある商業施設を通過。佐野の辺りで国道50号から県道に入る。ここまで来れば、三条神流は後を付けて来る隊列に気付かない事は無い。
GR86を先頭に、ロータス・エキシージの2台。
「おい!」
と、三条神流、無線を飛ばす。
「あっバレたか。」
松田彩香が苦笑いする。
「ゴメンゴメン。ストーカーみたいでアレだけど、離れた場所から見守ろうと思って。迷惑なら、どっか失せるけど。」
「いや、むしろ安心した。単独で、筑波サーキットなんて行ったことも無い場所で、未知なる世界に挑むとなると、不安でね。」
本心から言った。




