TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cup
車両保管が解除され、松田彩香のGR86の最後の調整をした後、予選が始まった。
「まずは予選。1周辺りのタイムを計測し、そのタイムによってスターティンググリッドが決まる。」
霧降要がレースの流れを説明する。
三条神流はそれに相槌を打つ。
予選に出て行く松田彩香を見送った。
赤に黒のラインを入れた松田彩香のGR86。このレースに向けてドレスアップをしたらしい。黒いラインの上にはエロゲのキャラがシルエットで描かれ、その横にカーナンバーを表示するようになっていた。
松田彩香のカーナンバーは81。
「白帯でローズピンクなら、お召列車牽引機のEF81‐81号機だな。」
と、三条神流は言いながら、ピットでメインストレートを駆け抜ける松田彩香のGR86を見る。
松田彩香は1、2コーナーを一気に駆け抜けて行く。
モビリティリゾートもてぎの国際ロードコースは、ストップ&ゴーのレイアウト。ブレーキとタイヤに厳しいコースだ。
三条神流は松田彩香のGR86には注目しているが、むしろその後の予選に出て来るBRZに注目していた。
TOYOTA GAZOO Racing GR86/BRZ Cupは2クラスのレースがある。
松田彩香のようなアマチュアが出るクラブマンシリーズ。そして、三条神流が注目するのはその上、スーパーGTでも活躍するプロのレーシングドライバーが出場するプロフェッショナルシリーズ。それに出場するSUBARU所属のレーシングドライバーに注目する。彼等の走り方を見て、自分も学ぼうと言うのだ。
(しっかし、なんか実況のおばちゃんうっせぇな。)
と、三条神流は思った。
クラブマンシリーズの予選が終わる。松田彩香は16番手スタート。かなり後方だ。これまでも、何度かモビリティリゾートもてぎを遊びで走っていて、それで培ったテクニックを総動員したが、やはり後方に沈んでしまう。
「カンナ。注目する場所が違う。プロフェッショナルクラスは、私のような奴がテクニックを盗むのに注目するけど、カンナはまだ駆け出し。アマチュアがどんな走りをしているかを見てから、プロの走りを見ろ。」
と、松田彩香。
プロフェッショナルシリーズの走りは、クラブマンシリーズのそれとはまるで違った。ブレーキングも、一瞬でガツンと決めて行くし、加速も僅かに違う。コーナーもクラブマンシリーズと違い、直線的にスムーズに抜けていく。
「巷で、私の変な噂が流れた。」
と、松田彩香。
「私が、男媚びらせて、援交して金吸い上げて、レースに出ているって。」
「-。」
「カンナと私を知らない奴が、私とカンナが釣るんでいるのを見て、面白半分に流したデマ。でも、車界隈って、いや、車に限らずこの手の話って直ぐに広まって、流された本人の耳に入った時には収拾がつかなくなっている。」
「-。」
「学生時代、「私が甘やかすからカンナが暴れる」って言われたのをカンナが聞いて、カンナは余計に心閉ざした。カンナは何故か、何をやっても第三者の横槍で全部台無しにされ、普通に生きていても、近くにアホがいたらそいつと同列にされて嫌な思いをしてきただけにね。」
「今話す事かそれ。」
目の前を、千葉SUBARUのBRZが駆け抜ける。
目を凝らして、1コーナーへの飛び込みを見る三条神流。
「だから私は、カンナに対してレイプみたいなことをするようになった。逃がしたくないから。」
「-。」
チェッカーフラッグが振られた。
予選を終えたプロフェッショナルクラスの車両が戻って来ると、ピットロードにライトウェイト耐久レースに出場する車両が出て来る。その中に、坂口拓洋のS660を見つけた。
「朝と矛盾しているなアヤ。朝は、過去を振り返らない。前に進むって言っていたよな。」
「-。」
「なんで今、過去を振り返る。噂流す奴は流させておけ。」
目の前を、坂口拓洋のS660がコースに向かって通過して行った。




