サーキット走行
今日、松田彩香がやるのは明日のレースに向けた練習走行と、セッティングの確認だ。
「公式フリー走行よ。」
と、松田彩香。
三条神流は見たことのないツナギを着た松田彩香の姿に驚く。
見ると、松田彩香の他の参加者らしき人も、同じようなツナギを着ている。
「ああこれ?レーシングスーツ。レースに出る人は必ず着用する。万が一、火が出ても生きられるようにね。それから、ヘルメットも。頭を守るためにね。」
と、松田彩香は微笑む。
「そういえば、頭のサイズとレーシングスーツのサイズ、松田と同じかな。」
霧降要が三条神流に聞く。
「ええ。服のサイズから、身体のあらゆるところまで、私が女で、カンナが男である以外、全部同じ。」
松田彩香が言う。
「なら、採寸も何もせず、直ぐに注文できる。最も、お前に走る気があるかによるがな。」
霧降が言うと同時に、松田彩香はピットロードからコースに入って行く。それを、三条神流は見送った。
「金はかかるぞ。」
「幾らかかるか知らねえが、アヤの隣に立つには、俺もアヤと同じポジションに立たなければならんからな。そう、あいつに言われた。」
「お前、これは言っとく。お前が強制される事を嫌う事は知っているからこそだ。松田に強制されているなら、やめておけ。レースの世界。モータースポーツの世界は、甘いものではない。時に、人が死ぬ事もある。生半可な事で走ると、お前が死ぬだけではない。」
松田彩香のGR86がメインストレートを弾丸のように突き進と、1コーナーのアウト側から、前に居るBRZを抜きにかかるのが見えた。
「車は楽しいだけではない。ましてや、ただのアシでもない。その辺の爺さん婆さんが転がすボンクラみてぇなポンコツ軽自動車だって、800馬力の怪力モンスターだって、扱いを誤れば凶器になりうる。どういう意味か分かるだろう?」
「-。他人をも殺す。」
「ああ。お前が人殺しになるのは、見ていられない。」
「人殺し」と言う単語に、三条神流は嫌な気分になった。




