買うか買わぬか
三夜沢赤城神社に参拝した後、鳥居の前にBRZとGR86を並べる。
「買う気にはなったが、幾らになる?」
と、三条神流は聞く。
「お前は知り合いだ。新古車で知り合い割引使っても、正直に言おう。」
霧降要は値段を提示する。
気に入った。だが、キャンピングカーを下取った価格を上回る。
やはり、軽との差であろう。
「そうか。」
と、三条神流は肩を落とした。
差額はローン等で何とかするにも、今の状態でローンの審査は通りにくい。
一瞬、三条神流はBRZの方を見て溜め息を吐く。
「やはり、諦めて俺はその辺の軽でも転がせってことか。」
「条件がある。」
横から松田彩香が言う。
「なんだ?」
霧降要は言う。
「私が足りない分を払う。その代わり、カンナには永遠に私に就くし、私と一緒に生きて貰う。」
松田彩香は三条神流の腕を掴んだ。
「つまりアヤは、三条を自分の物に―。」
「ええ。車と引き換えに、カンナは私の物になって貰う。」
「おい三条。いいのか?」
霧降要は不安になって聞く。車の支払い云々ではなく、三条神流の身を案じてだ。
三条神流は少し震えていた。
BRZと引き換えに、自分自身を幼馴染で腐れ縁の松田彩香に捧げろというのだから。
鳥居の前。
BRZと目が合い、その隣のGR86と目が合う。
ふと、夜空を見上げると、半月が見えた。
(赤城の月。闇を照らせ。迷える人に道を示せ。)
と、三条神流は念じた。そして、
「アヤに全て捧げるとしよう。」
と言った。
「私は逃がさない。何処へ逃げても、私はカンナを捕まえる。いいね。」
松田彩香はニヤリと笑った。
「ラブホ特急め。」
と、霧降要は言った。




