車屋・S660
タクシー会社を出て、松田彩香は次に前橋市亀里町に向かうのだが、その途中の下佐鳥付近で「あっち向け!」と言う。しかし、そこに何もない。なので、「何?」と聞いて「ああ」と三条神流は納得。
そこには、日本中央バスの本社があって、明和県央高校のスクールバスで使用している日野セレガHDが止まっていたのだ。
松田彩香は一瞬驚いたが、バイト中にバスを見て発作が起こる事は無くなったようだ。
「ああ、ごめん。なんでもない。それより、霧降と昨日話したんだけど、昨日、カンナ「車欲しい」って言ってたじゃん?霧降がキャンピングカーを下取って代わりにちょうどいい車を用意しているって。」
松田彩香は言いながら、亀里町のカーショップに入る。
ここは、霧降要の働くカーショップ「マルシェ」。「両毛連合」の内、松田彩香率いる旧連合艦隊のメンバーの車のほとんどはここでチューニングやメンテナンスをしている。
霧降要は、松田彩香の赤いGR86の姿に気付いた。
「来たな。」
と、霧降要。
「一応、候補は数台用意してある。」
言いながら、霧降要はそれを案内する。
「俺は、アヤへの憧れから、スポーツカーが欲しい。アヤの隣に居るに相応しいような。」
三条神流は言うのだが、霧降要の用意していたのはどれも軽自動車。
「あのさ、何これ?N-ONEって、加賀美と被る。つか、代車をそのままボッタクリ売りするの?」
と、松田彩香。
「なら、こっちはどうだ?」
霧降要はその隣のCR‐Zを見せる。
「ふーん。まぁ良いかな。でも走行距離は―。って20万キロ越え!?」
松田彩香、納得しない。
その隣、蒼いHONDAのS660に目が留まる三条神流。
三条神流は「ふーん」と、S660を眺める。
後ろから、松田彩香に肩を叩かれる。
「ごめん。カンナの車を決めるのなら、カンナが決めること。私があまりギャンギャン口出ししちゃね。でも、変な車買って後悔して欲しくないの。」
と、松田彩香は言う。
「いや、気になってさ。」
三条神流が答える。
「一応、これでもお前のキャンピングカー下取ってお釣り来る。HONDA S660モデューロX。掘り出し物だぜ。」
霧降要がニヤリと笑って言う。
「こいつは、走りを良くするパーツがデフォルトで付いているハイグレード車だ。かなりお買い得だ。」
「待って。なんでその値段なの?」
松田彩香が口を挟む。
「いやぁそれが、少々訳ありなんだよ。前のオーナー達さ。最初のオーナーは酒の飲みすぎで死んで、次のオーナーは女遊びが過ぎて、借金抱えてトンズラし、競売にかけられここに格安で来たってわけ。おかげでこの車は、オーナーを破滅させるって曰く付きになっちまったのさ。」
苦虫を嚙み潰したような顔をして、霧降要が答える。
「要するに、ハイグレード車ながら、前のオーナーの戯言で、その真価を発揮できないでいるから、格安ってわけね。」
「買う。」
三条神流は言う。
「よし分かった。なら、キャンピングカー持ってこい。そいつと交換だ。まぁ試に1週間試乗して、それから本決めと行こう。」
霧降要に言われ、三条神流は一旦実家に戻ると、ここからは一人で、キャンピングカーをマルシェに持って行き、そして、S660を引き取ると、そのまま試運転に向かった。




