天地鳴
「よしよし。つらいこと、聞かせてくれてありがとうね。」
話しているうちに俺は涙が止まらなくなってしまっていた。
鳴さんの手が俺の背中を優しくさする。
久しぶりの人からの優しさに、俺の涙は余計とまることなく溢れ出てしまう。
「そうだねぇ、それじゃ泣き止むまで、今度はわたしの話をしようかな。」
俺の背中をさすりながら、鳴さんは淡々と話をはじめる。
自分にも願いがあって、ディザイアの地にきたこと。
この世界での冒険のこと。モンスターと戦い、数少ない友人と共に生き残ったこと。
カタルギ国について、数日経過した、とある夜の日。
暗闇の空に大きな光が瞬き、7つの小さな星が各地に散らばっていったこと。
そして、そのうちの1つがカタルギ国に落ち、そこに俺が倒れていたこと。
説明をしてくれる鳴さんの話を聞いていたが、続く言葉に声を失うことになる。
「まぁ、カタルギに来る前の数か月の記憶も、何を願ったのかもわたし覚えてないんだけどね。」
「えっ…」
俯いていた俺は、ふと鳴さんのほうへ顔を向ける。
「へっへー。泣き止んだみたいだね。わたしの話はこれでおしまい。」
「いや…肝心なところをはぐらかされたような気がするんですが…。他にも聞きたいことがありすぎて…。」
「また機会があったらね!今日は休みましょう。もう遅いよ!」
俺が話し始めた時点で、すでに夜になっていた状況だ。
俺の話に、鳴さんの話も合わせると相当時間が経っていたことは想像に容易い。
「休むと言っても、なんにもないんだけどね…。明日は一緒に探索しましょうか。」
「了解しました。お言葉に甘えさせていただきます。」
明日の約束も行い、今日1日は俺の疲れも考慮してくれて、鳴さんが先に休ませてくれた。
人生初の野宿に気持ちは昂るが、予想以上に疲れていたのだろう。
俺の意識は割とすぐに途切れてしまった…。
◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆ ◇◆◇◆
どれくらいの時間がたっただろう。
予期せぬ来訪者の静かな寝息が聞こえる。よほど疲れていたのだろう。
身体を伸ばし、一息つく。
「彼女を探して…か。純粋だねぇ…。見つかっても戻れるのかな…。」
蒼くんの話を思い出しつつ、1人でツッコミをいれる。
探索者が新しく来た。これはこの世界では1つの終わりと始まりを意味する。
「誰かが夢を叶えた。だから新しい探索者が追加された…どんどん倍率があがっていくなぁ。」
天を仰ぎ、ため息をつく。今この世界に何人いるかわからないが、1人願いが叶うたびに7人追加される現状だ。
ため息の1つや2つ、つきたくもなる。
「っ……」
誰かが森から近づいてくる。人か、モンスターか。
どちらにしろ、この時間帯にここに新しく来るなんてロクなものではない。
腰にぶら下げた、その辺に売っている少し頼りない剣を手に、音のするほうへ意識を集中させる。
「この音…1人や2人じゃないな…。もっと大勢…蒼くんがいると少し厳しいかな。」
ポケットを漁り、銀色に輝く指輪を手に取り右手中指へとはめる。
「スペースプレイア!シルバーウォール!!」
鳴が言葉を発すると同時に指輪が光り、蒼の周りを銀色の壁が包み込む。
まるで卵のように蒼をくるむと指輪の光も止まった。
銀色の防御壁がしっかり貼られているのを確認すると音がした方向へダッシュする。
モンスターの種類にもよるが、10匹を超えてくるとまずい場合がある。こればかりは祈るしかない。
森に入り、木々の隙間から隙間へ少しずつ近づいていく。
何メートル森に入り込んだだろう。木の陰に隠れながらも、音の正体を特定する。
「ゴブリンか…。10体はいるな。指揮官クラスも近くにいる…か。」
ゴブリンは徒党を組むモンスターで、10体以上いる場合はただのゴブリンではなく進化系がいる可能性が高い。
進化系を倒さない限り、戦闘が終わらないのがゴブリン族の面倒くさいところだ。
「ロールリング…一応はめておくかな。」
ロールリング。この世界で技を強化するのに必須と言ってもいいアイテムだ。
なくても身体が覚えていれば技を放つことはできるが、威力・精度と大幅に変わる。
ポケットから取り出した黒い指輪を右手人差し指にはめ、戦闘準備を整える。
「ソードプレイア!風断!!」
木々の隙間を縫い、風の如く速さによる死角からのゴブリンへの背後から薙ぎの一閃。
一振りで7匹のゴブリンが倒された。
その一瞬の間のあと、残ったゴブリンは逃走をはじめる。
「この武器じゃあれが限界か…。指揮官には不安だなぁ」
そんなことをつぶやくと同時に、背後から攻撃を受ける。
前転で転がり回避はしたが、当たればかなりのダメージを受ける一撃だろう。
「ゴブリンジェネラル…。そこそこ大物がこんなところに。タイミングの悪い…。」
手元には刃こぼれが激しい安物の剣が1本。体術用ロールリングの所持もなし。
本来であれば、恥をしのんで撤退する場面であろう。
「ジェネラル、相手が悪かったね。本気で行かせてもらうよ!」
安物の服からチラっと見える太ももを惜しげもなく披露する。
そこには犬のアクセサリーがついた黒いレッグリングが光り輝いている。
「出ておいで、シュヴァ!カタルギの国が代表、天地 鳴のお出ましだよっ!」