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怪談

違和感

この作品はフィクションです。実在する個人、団体、Vtuber、未来人、幽霊、その他とは一切関係は御座いませんのであらかじめご了承ください

 私の通う高校には臨海学校という行事があったんです。

 日程は二泊三日。遠泳や地引き網の体験、シュノーケリングを行ったりするんですよね。


 泳ぐのがそこまで得意ではない私としては、正直面倒なだけでした。


 そんなわけで、目的地に着いてはしゃぐ同級生達を後目に、出発日数日前から抱えたままの憂鬱な思いに浸ってた私を現実に戻したのは友人のくみんさんでした。


「…ちゃん?おーい、聞こえてるー?」


 素直に聞いていなかったと答えるべきか悩んでいる私に、察したのか笑いながらくみんさんが続ける。


「30分後に水着でここに集合だってさ。早く部屋に荷物置きにいこ?」


 促しながら先に向かい始めた彼女に付いていく。


 泳げる度合いごとにグループに別れて2時間ほどの課外授業。

 到着したのが午後だったため、結局その日は海で遊ぶ時間もなく部屋に戻り就寝。


 翌日は朝一で地引き網。その後は遠泳で、終わった人から自由時間となっていました。

 もっとも、泳ぐのがそこまで得意ではない私がなんとか終えることが出来たのは昼も近くなろうという時。


 お昼を食べ念願の自由時間。ふと周りを見回すとどこにも同級生が居なかった。


 あれ?と思い再度辺りを見回す。一人近付いてくる。くみんさんだった。


「どうしたの?着替えてこないの?」


 そんなことを言うくみんさんに話を聞く。どうやら半日以上自由時間となる今日は、遠泳が終わったら水着は私物に着替えて良かったらしい。

 そんな話、聞いてなかった。


 周囲が普通の水着を着ている中、一人スクール水着なのが恥ずかしかった私は少し浜から離れた場所まで泳いでいったんですよ。

 足がつかないのは相変わらず慣れなくて少し怖いけれど、周囲にも人は居るし、それが少し心強かったです。


 少しぼーっとしているとくみんさんが向かってくる。


 彼女があと10メートル位のところまで来たときに、私の脚に何か触れたんです。びっくりして脚をばたつかせる。何かは離れていったみたいだったけど、気になって水中を見ようとする。

 次の瞬間、いきなり脚を強く掴まれ水の中に引き摺り込まれたんですよね。


 顔まで水中に沈んでしまい、慌てて藻掻きました。

 顔が水面に出たので、呼吸をしようとしたら再度引き摺り込まれてしまいました。

 息を吸おうと思った瞬間だったので水を飲んでしまい、むせてしまって。


 そのまま私の意識は遠くなっていった。

 遠くなる意識の中、最後に見たのは私の全身を掴み、押さえつける無数の手と、薄っすらと笑みを浮かべる少女。


 その時は既に思考が停止していたのか、少女の顔は私によく似ていたように思えた。



 意識が戻ったのは病院のベッドの上だった。

 たまたまお見舞いに来ていたくみんさんが泣きながら抱きついてきたのにはびっくりしたけれど。

 だって考えてもみてほしい。私としては目が覚めた途端にいきなり抱きつかれて、しかも大泣きをしているわけで。

 記憶も曖昧なうえにそんな状況になったら誰だってびっくりするし、わけわからないと思うはず。


 その泣き声で看護師さんが様子を見に来た。

 目が覚めた私を見てナースコールを押し、誰かと話していた。


 看護師さんを伴って先生が来て色々と聞いてくる。

 しばらくして、スーツの人が二人来た。どうやら警察の人らしい。

 溺れたにしては大事になっていると思っていたら、どうやら私が溺れてから八日経っているそうだ。


 厳密には私が『行方不明』になって八日目。

 話を聞いて見ると、溺れた私を周囲の数人が見ていたらしい。

 水の中に沈んだのを見て、何人かは助けようとしたんだけれど、私の姿は消えていたんだそうな。


 足がつかないと言っても水深3メートル程度で波も穏やか。それなのに水中に沈んだ私を見つけられなかったということらしい。

 ほんの数秒。それだけの時間で私は消えてしまったらしい。


 私が見つかったのは行方不明になってから七日目となる昨日。

 浜辺に佇んでいたのを宿泊施設の従業員が見つけたらしい。



 記憶がないので結局有耶無耶なままに終わってしまったけれど。

 外傷は無いので一日検査入院して、自宅に帰る事となった。


 自宅に帰ると何か違和感。よく知っているのだけれど何か違う気がする。家の造りも、自分の部屋も、家族ですら違和感を覚える。

 長年愛用していた製品を、新品に取替えたような。何となく馴染まないような違和感。


 寝て起きれば違和感は無くなるかと思いベッドに潜り込む。やっぱり違和感がある。

 それでも疲れていたのか暫くしたら眠りにつくことができた。


 翌朝も無くならない違和感。朝食の味付けにも違和感を覚える事に悩みながら部屋に戻ると、スマホがメッセージを受信していることを通知している。


 メッセージはくみんさんから。

 誰だっけ?と思い、次の瞬間愕然とした。


 なんで!?なんでくみんさんを忘れてたの!?いつも姉みたいに思っていたのに!?


 スマホを手に待ったまま固まってしまう。

 どのくらいそうしていたのかわからないけれど、着信音に気がついて無意識に通話を始める。


「もしもし?大丈夫?」


 耳に当てたスマホから聞こえてくるのは、慌てた様子のくみんさんの声だった。


 やはりその声に違和感を覚えるけれども、それが表に出ないように平然とした対応をする。


「あ、はい。大丈夫です」


 スマホの向こうから息を吐く音が聞こえ、安堵したかのようにくみんさんが喋りだす。


「メッセージ送ると既読になるのに反応ないからなんかあったのかと思ったよ」


 そんなやり取りすら違和感を覚える。



 物事全てに違和感を覚えながら数日後。

 その日は登校日のために待ち合わせをして二人で高校に向かう。


 やはり違和感が強い。相談してみようかと口を開くけれど、

「やっぱ夏休みに登校ってなんか変な感じするよね~」

 という言葉に遮られる。


 機先を制されてしまい「あ、そうですね」と返すに留まってしまう。


 校内も教室も、纏う空気に違和感を覚えるけれど『登校日』という非日常に掻き消されてしまう。


 けれど確実に今迄とは違う、慣れ親しんだ学校とは異なった空気だった。

 そして何より、友人が友人とは思えない違和感に愕然とした。


 必死に違和感を隠しつつ会話に混ざる。別に忘れている訳では無いから混ざれるけれど、どうしても自分の記憶が自分のものとは思えない。


 ホームルームを終え、友人達はどこかに寄ってこうと話をしている。どうしても違和感が拭えない私は帰ることにした。


 違和感が強い。気分が悪い。


 登校日から夏休みを終えるまで私は部屋に引きこもり気味だった。


 その頃には自分の身体にすら違和感を覚える程になっていた。なのでできるだけ動かず、息を潜めるかのように。


 夏休みが明ける。

 自分が自分でないような現実感の無さと、収まらない違和感に苛まれながらも学校へと向かう。


 全てが嫌になりそうなほど気分が悪い。

 ふとその原因に気が付く。誰も私ではない私を見ているように感じるのだ。

「私を見ろ」強くそう思っている私。


 気分が悪い。


 教室でクラスメイトに話しかけられる。気分が悪い。

 廊下で教師に話しかけられる。気分が悪い。

 帰り道で同級生に話しかけられる。気分が悪い。

 家に入ると親に話しかけられる。どうしようもなく気分が悪い。


 誰か私を見ろ。私を。他の誰でもなく。私を見ろ。


 どうしようもない程の違和感と現実感の無さにどうにかなってしまいそうだった。


 そんな中、何とか数日を乗りきり迎えることのできた休日。起きたのは丁度正午を回ったところだった。

 雨が降っている。シトシトと降る雨に気が滅入りそうだ。

 違和感と現実感の無さが酷い中、ふとカレンダーに目を遣る。


 今日の日付に◯がついている。


 なんだろう?思い出せない。


 日付の下に小さく文字が書いてあった。文字を見ると同時に、私は出掛ける準備をし始めていた。


 家を出て数分ぐらい歩いてふと気がつく。違和感が少し薄れたような気がする。


 駅まで歩く途中で女性に話しかけられる。傘で顔が見えなかったが、よく見るとくみんさんだった。


 雨が強くなってきた。傘を叩く雨音が少し耳障りだった。


 雑談しながら駅まで歩く。


 雑談なんかより私は海が見たい。今は海に行きたい。


 会話が途切れて沈黙していた私達の間に変な空気が流れる。

 雨がますます強くなってきた。傘を叩く音がうるさい。


 時計を見る。そろそろ時間が…



 何かを言い淀んだ後、意を決したかのようにくみんさんが話し掛けてくる。


「あなた…ちゃんじゃ無いよね。いったい誰なの?」


 そんなことを言われると同時に時間になったようだ。


 違和感と現実感の無さが一気に無くなる。と同時に、身体の中で何かが喪失していく感覚。


 少しだけ寂しさはあるが、それよりもはるかに大きい多幸感に思わず笑みを浮かべてしまう。


 いけない、質問に答えなきゃ。


「私はかすみみたまだよ」


 笑いながら答える。


「今日で四十九日。もうこの身体は私のもの。ねぇ。あなたもこれから海に行かない?」


 笑いながらくみんさんを誘う。


 逃げようとするくみんさん。


 友達から逃げようとするなんて、と思いながら腕を掴む。


 必死に逃げようとするくみんさん。



 強い雨の中、くみんさんの腕を掴み私は海へ向かう。


本作を書き上げるに当たってお名前を貸していただいた、かすみみたま様、北爪くみん様には改めて感謝致します。


本当にありがとうございました。

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