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その14 相見える化物

 蒸し暑く、小雨が降っているかのような湿度の高いところを、蔦で縛った光る石を首からかけ、足元を照らしながら走っていた。石が放つ弱々しい光の範囲に、草や木が現れては、すぐにまた闇の中へと消えてゆく。ギュっと絞った上着からは、勢いよく水が流れ出て、肌に張り付くズボンは、不快で鬱陶しく、膝を曲げることさえ躊躇わせた。


 ――虫の鳴き声一つしない樹海の中に飽き飽きしながら走り続けていると、突然視界の右横から大きな口が出現する。


 振り向く間もなく「ガキンッ!」と歯と歯がぶつかり合う大きな音が響き、右腕から顔の半分を喰いちぎらたことに驚き、悲鳴を上げて尻もちをつく。


 突然出現した謎の生物に驚くが、すぐに冷静さを取り戻し立ち上がり、復元されていく顔で闇に潜む何者かを確認する。光る石を突き出し、薄暗い闇の中を凝視すると、ティラノサウルスのような恐竜に近い化物の顔が見えた。その顔の大きさから後ろに続く体は、相当な大きさだと予想できる。


 化物を前にしても恐怖心は湧かず、溢れ出てくるのは好奇心だった。体の大きさ、キラキラ光る鱗の質感、頭から何本も突き出している鋭利なトゲ。あの素材があれば何かが作れそうだと妄想を働かせていると、石の光が眩しいのか、喰ったはずの肉がないことに腹を立てたのか、化物は地響きのような声を上げ、ふたたび噛みつこうとする。


 何度でも復元される不死身の体が喰われることには何の抵抗もない、しかし服はそう言ってられなかった。すでに最初の一撃で右腕の袖がなくなっていた。上着を全て喰われるのは良いとしても、ズボンとパンツを喰われては、誰も見ていない樹海の中と言えど、何だか恥ずかしい気がしたので全速力で逃げる。


 化物は樹海のどこにいても響いてきそうな足音と雄たけびを上げ追ってくる。一歩踏み出すたびに振動で体が少し宙に浮き、雄たけびの衝撃波により鼓膜は何度も破れた。そして予想していたよりも化物の足は速く、闇の中から聞こえる足音は一向に小さくならず、どこまでも食らいついてくる。


 足元は照らされていたが、一メートルも先は暗闇で何も見えず。突然現れる木の枝に目玉をえぐられ、絡み合う蔦につまずき足首を折り、並の人間なら百回は死んでいるのではないかと、己の体の便利さに関心しながらも走り続けていると、足元の地面が消え落下してしまう。


 底が見えない闇の中で落下しながら腕を組み頭を少し傾かせ、このまま底がなく、永遠に落ち続けるのだろうかと考えていると「バンッ」と、地面に叩きつけられ、体が飛散したことで安堵する。


 化物も一緒に落ちてくるのかと期待していたが、どうやら夜目がきくようで、死体から角や鱗を頂戴する目論見は外れてしまう。


 ――以前光る石の前で化物に食い殺されたのは、自分の妄想だったのではないかと考え直そうとしていたこともあったが、さっきの化物を見て、これは現実だと確信し、狂っていたのは自分ではなくこの樹海だったと思うと何だか嬉しい気持ちになった。


 気を取り直し暗闇の中を進んでいると、既視感のある風景に出くわす。大きな木々の隙間から微かに青白い光が漏れていた。


 まさか同じ場所に戻って来たのかと焦り、走る速度を速める。辿り着き見上げる先には、やはり大きな光る石が存在していた。しかし形が違うことから、戻ったわけではないと分かり、胸をなでおろす。

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