その13 迷宮への旅立ち
――そして一年が経過し、体を使った実験にも飽き、孤独で寂しかったこともあり、旅に出る決意を固める。
樹海の外に出れば人がいて、文明があるかもしれない。そうすれば、体の異変やこの世界が何なのかが分かるヒントも得られるだろうと常々考えていた。
死ぬことのない体なら、一年も歩き続ければアマゾンのジャングルだって抜け出せるはずだと意気込み、旅支度を始める。
ねぐらである木の根の洞窟内をぐるりと見渡しながら、何を持っていこうかと考える。大した物はなかったが、一年の間に色々な物を拾ったり、作ったりしていたためガラクタは多い。隅の方に置かれてた机代わりの石を見る。上にはノート代わりにしていた葉と、枝の先端を削っただけのペンが置がおいてある。
樹海で過ごした月日を記録しておくため、何か文字を書けるものがないかと探し回っていた時に、薄くて丈夫な葉を見つけていた。表面は薄緑色をしていたが、裏面は白っぽい色をしており、先の尖った物で文字を書くと、なぞった部分が黒く変色する。それをメモ帳代わりとして重宝していた。
その葉のメモ帳とペンを袋に入れ、腰に縛り付ける。袋は白い果実の弾力のある皮で作られており、二重に重ねた皮に、細い蔦を通して開閉できるようにしてあった。あとは闇夜を照らすため、光る石を砕き、蔦で縛りペンダントにしたものを首から下げる。
洞窟から出て空を見上げる。天気も良く、朝霧も晴れて視界も良好なことを確認すると、一年間過ごした木の根の洞窟に別れを告げ、樹海と言う大海原へ飛び出した。
樹海の環境は相変わらず過酷で、気候が目まぐるしく変化する。暴風が吹き荒れ行く手を阻み、大粒の雹が降り体を削ってゆく。吹雪に視界を奪われ立ち往生していると、突然の洪水に押し流される。夜が明けたと思うと、またすぐに夜がやってくる時もあれば、体感だったが、数日間夜や朝が続く場合もあった。
そのため、日が昇っている明るい間は、一秒も止まることなく常に全力疾走で走り続け、少しでも移動距離を稼いだ。
日が昇ると、葉で作ったメモ帳に正の字の棒を一本ずつ書き足してゆく。二枚ある葉の一枚には、樹海で過ごした年と月を、もう一枚には日を記録する。日の葉が埋まれば、月の葉に棒を一本追加し、また新しい日の葉に夜が明けるたびに棒を追加していった。
――旅に出てから十日程経った夜。この樹海の異常性と脅威を再確認させられる出来事が起きる。




