表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エスケープ

作者: たっき

「……どこだ?ここ。」

 洋平は、気がつくと真っ暗の部屋にいた。

「誰か、いないか?いたら返事をしてくれ。」

 返事はない。

 その時、いきなり電気がついた。

 洋平の目に飛び込んだのは、ボロボロのベッドにたんす、扉が開いている押し入れの中に、寝かされている死体。

 その死体の上には一通の手紙。

 洋平は、震える足を死体の方向へ向け、歩き出した。

 もの凄い異臭が鼻を突く。

 震える手で死体の上の手紙を手にとった。

『やあ。洋平君。やっと起きたね。ここは廃墟のアパートだ。ここのトイレに君の親友の隆宏がいる。その隣には時限爆弾が仕掛けられている。隆宏のいるトイレには、赤外線センサーを張らしてある。つまりドアを開けると、爆弾が起動するということだ。それを止めるには隆宏の腹の中に入っている鍵が必要だ。爆弾が解除されると、出口の扉が開く。つまり、生きてここを出るには親友を殺さなければいけないという事だ。親友を殺さなければ、お前も死ぬことになる。生きるも死ぬも、おまえ次第だ。――友人を殺せ。殺せなければお前も死ぬ。』

「……何だ。これ。どういう事だ。」

 その時、頭の中にある言葉が残った。

“友人を殺せ。殺せなければお前も死ぬ。”

「……隆宏は助からないのか……」


 洋平は、隆宏を絶対助け出すと心に誓い、扉を開け、部屋の外に出た。

 外の部屋は真っ暗だったが、隆宏の事を思うと勝手に足が動き出し、外の廊下を走っていた。窓は板で塞がれ、時間も、今立っているこの場所が地上何階なのかも分からなかった。

 だが、木造なのでそんなに階数はないと思った。


 隆宏とは幼稚園からの友達だった。

 辛いときは一緒に泣き、嬉しいときは一緒に喜び、悪いことをしたら一緒に謝ってくれた。

 その友人が今、死の恐怖に怯えながら俺の助けを待っているなんて……

 昨日まで笑っていた隆宏が……

 そう思うと、涙が溢れ出してきた。

 その時、階段が目に入った。

 階段を下りる足音だけが響く。

 階段を下りると、『WC』と書いた扉が目に入った。

「ここか。」

 洋平は扉の前へ駆け寄り、そこで少し考えた。

 センサーを感知させないで、中に入れないか。

 爆弾を起動させなければ、隆宏を助け出せるのではないか。

 そう思い、考えたが無理だった。

 赤外線センサーをよけて通れるわけがない。

 仕方なくドアを開けた。

 中はカビ臭く、左に和式トイレが3つ並んでいる。

 仕切りは全部木でできていて、腐敗してしまっている。

 洋平は辺りを見回した。

 が、隆宏らしき姿は見当たらなかった。

 洋平は仕切りの板を蹴り飛ばした。

 木の破片が飛び散り、ホコリが舞う。

 洋平は部屋の外に出て、辺りを見回した。

 階段と無数のドアしか見当たらない。

 とりあえず階段を降りることにした。

 また足音が響く。

 階段を降りるとまた目の前に『WC』と書いたドアが目に入った。

 もう降りる階段はない。

 目の前のドアを思いきり開けると、2階のトイレと同じ光景が目に飛び込んだ。

が、今度は呻き声がする。

 奥の区域から。

“うっ……うぅっ……”

 洋平は、その声がする方へ向かっていった。

「隆宏……!」

 そこには手足を縛られ、布で口を塞がれ、椅子に南京錠と鎖で縛り付けられた隆宏がいた。

 洋平は、隆宏を締めていた縄と布を外した。

「隆宏!どうしたんだ!」

「洋平……何でここに……?」

「お前こそ、何故ここにいる!」

「気がついたらここにいたんだ……」

「……俺もだ。」

 その時、ふと隣に目をやった。

 手紙の通り、爆弾があった。

「どうするんだよ!」

「どうしようもない。」

 デジタル表示板には『9,57』と表示されていた。

「9分……」

「お前は逃げろ。俺の胃袋から鍵を取り出し、外へ出るんだ。」

 隣にはメスが置いてあった。

「無理だよ……!」

「できる。」

「無理……!」

「やるんだ。」

「無理だ!」

「死ぬのは1人で充分だ。」

「充分って……お前が何かしたのかよ……!死ぬような事したのかよ!」

「……」

「俺もここで死ぬ。」

「ふざけんな!」

「お前を自分の手で殺すくらいなら死んだ方がましだ。」

「ふざけんな!」

「お前こそふざけんなよ!簡単に諦めてんじゃねぇよ!」

「……」

 この瞬間にも刻々とカウントダウンされていく。

「お前がやらないなら俺がやる」

「お前、何言って――」

“オォォォォォォ”

 隆宏が自分の腹にメスを入れ、腹を切り裂いた。

 もの凄い呻き声が響く。

「やめろ!」

 洋平が隆宏の手を押さえた。

 隆宏が抵抗する。

 その時、隆宏が持っていたメスが洋平の胸に刺さった。

 洋平は後ろに倒れ込んだ。

 痙攣している。

「わ……わざとじゃないんだ……」

 洋平の痙攣が治まってきて、最期にこう言った。

「……ありが…とう……」

 そこで、洋平の意識が途絶えた。

 隆宏は涙を出しながら、メスを自分の腹に当て、思い切り掻き切った。

 もの凄い呻き声が辺りに響く。

 それでも手を止めることはなかった。

 そして、ついに動きが止まり、隆宏が虫の鳴くような声で言った。

「……すまな…か…った……」

 そして、隆宏の意識もプツリと途絶えた。



 その数十分後、消防車が消火活動にあたり、死体が2体、バラバラになって発見された。

 身元が分からないくらいひどく肉、皮が崩れていた。


 その後、この事件をメディアが大きく取り上げ、国民に恐怖を与えた。

 犯人は未だに不明。

 だが、やがてこの騒ぎも収まり、忘れ去られるだろう。

 家族や友人、恋人や親戚、そして犯人以外の記憶からは……


最後までお読みいただきありがとうございます。

是非感想、アドバイス、アイディア等をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 物語の展開・結末は素晴らしいと思いますが、主人公の「親友を殺したくないが、死にたくもない」心情をもっとじっくり書いた方が恐怖感がぐっと増すと思います。 文章面では、「お前は逃げろ。俺の胃袋…
[一言] 短い説明と台詞の連続で、改行も多かったので、とても読みやすかったです。ただ、主人公と友人の口調がほとんど同じだったので、どちらが話しているのか戸惑う場面もありました。 ストーリーは、日本版『…
2009/08/07 19:40 退会済み
管理
[一言] ある映画を思い出しました。もう一捻りあれば「オマージュ」になったと思います。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ