エスケープ
「……どこだ?ここ。」
洋平は、気がつくと真っ暗の部屋にいた。
「誰か、いないか?いたら返事をしてくれ。」
返事はない。
その時、いきなり電気がついた。
洋平の目に飛び込んだのは、ボロボロのベッドにたんす、扉が開いている押し入れの中に、寝かされている死体。
その死体の上には一通の手紙。
洋平は、震える足を死体の方向へ向け、歩き出した。
もの凄い異臭が鼻を突く。
震える手で死体の上の手紙を手にとった。
『やあ。洋平君。やっと起きたね。ここは廃墟のアパートだ。ここのトイレに君の親友の隆宏がいる。その隣には時限爆弾が仕掛けられている。隆宏のいるトイレには、赤外線センサーを張らしてある。つまりドアを開けると、爆弾が起動するということだ。それを止めるには隆宏の腹の中に入っている鍵が必要だ。爆弾が解除されると、出口の扉が開く。つまり、生きてここを出るには親友を殺さなければいけないという事だ。親友を殺さなければ、お前も死ぬことになる。生きるも死ぬも、おまえ次第だ。――友人を殺せ。殺せなければお前も死ぬ。』
「……何だ。これ。どういう事だ。」
その時、頭の中にある言葉が残った。
“友人を殺せ。殺せなければお前も死ぬ。”
「……隆宏は助からないのか……」
洋平は、隆宏を絶対助け出すと心に誓い、扉を開け、部屋の外に出た。
外の部屋は真っ暗だったが、隆宏の事を思うと勝手に足が動き出し、外の廊下を走っていた。窓は板で塞がれ、時間も、今立っているこの場所が地上何階なのかも分からなかった。
だが、木造なのでそんなに階数はないと思った。
隆宏とは幼稚園からの友達だった。
辛いときは一緒に泣き、嬉しいときは一緒に喜び、悪いことをしたら一緒に謝ってくれた。
その友人が今、死の恐怖に怯えながら俺の助けを待っているなんて……
昨日まで笑っていた隆宏が……
そう思うと、涙が溢れ出してきた。
その時、階段が目に入った。
階段を下りる足音だけが響く。
階段を下りると、『WC』と書いた扉が目に入った。
「ここか。」
洋平は扉の前へ駆け寄り、そこで少し考えた。
センサーを感知させないで、中に入れないか。
爆弾を起動させなければ、隆宏を助け出せるのではないか。
そう思い、考えたが無理だった。
赤外線センサーをよけて通れるわけがない。
仕方なくドアを開けた。
中はカビ臭く、左に和式トイレが3つ並んでいる。
仕切りは全部木でできていて、腐敗してしまっている。
洋平は辺りを見回した。
が、隆宏らしき姿は見当たらなかった。
洋平は仕切りの板を蹴り飛ばした。
木の破片が飛び散り、ホコリが舞う。
洋平は部屋の外に出て、辺りを見回した。
階段と無数のドアしか見当たらない。
とりあえず階段を降りることにした。
また足音が響く。
階段を降りるとまた目の前に『WC』と書いたドアが目に入った。
もう降りる階段はない。
目の前のドアを思いきり開けると、2階のトイレと同じ光景が目に飛び込んだ。
が、今度は呻き声がする。
奥の区域から。
“うっ……うぅっ……”
洋平は、その声がする方へ向かっていった。
「隆宏……!」
そこには手足を縛られ、布で口を塞がれ、椅子に南京錠と鎖で縛り付けられた隆宏がいた。
洋平は、隆宏を締めていた縄と布を外した。
「隆宏!どうしたんだ!」
「洋平……何でここに……?」
「お前こそ、何故ここにいる!」
「気がついたらここにいたんだ……」
「……俺もだ。」
その時、ふと隣に目をやった。
手紙の通り、爆弾があった。
「どうするんだよ!」
「どうしようもない。」
デジタル表示板には『9,57』と表示されていた。
「9分……」
「お前は逃げろ。俺の胃袋から鍵を取り出し、外へ出るんだ。」
隣にはメスが置いてあった。
「無理だよ……!」
「できる。」
「無理……!」
「やるんだ。」
「無理だ!」
「死ぬのは1人で充分だ。」
「充分って……お前が何かしたのかよ……!死ぬような事したのかよ!」
「……」
「俺もここで死ぬ。」
「ふざけんな!」
「お前を自分の手で殺すくらいなら死んだ方がましだ。」
「ふざけんな!」
「お前こそふざけんなよ!簡単に諦めてんじゃねぇよ!」
「……」
この瞬間にも刻々とカウントダウンされていく。
「お前がやらないなら俺がやる」
「お前、何言って――」
“オォォォォォォ”
隆宏が自分の腹にメスを入れ、腹を切り裂いた。
もの凄い呻き声が響く。
「やめろ!」
洋平が隆宏の手を押さえた。
隆宏が抵抗する。
その時、隆宏が持っていたメスが洋平の胸に刺さった。
洋平は後ろに倒れ込んだ。
痙攣している。
「わ……わざとじゃないんだ……」
洋平の痙攣が治まってきて、最期にこう言った。
「……ありが…とう……」
そこで、洋平の意識が途絶えた。
隆宏は涙を出しながら、メスを自分の腹に当て、思い切り掻き切った。
もの凄い呻き声が辺りに響く。
それでも手を止めることはなかった。
そして、ついに動きが止まり、隆宏が虫の鳴くような声で言った。
「……すまな…か…った……」
そして、隆宏の意識もプツリと途絶えた。
その数十分後、消防車が消火活動にあたり、死体が2体、バラバラになって発見された。
身元が分からないくらいひどく肉、皮が崩れていた。
その後、この事件をメディアが大きく取り上げ、国民に恐怖を与えた。
犯人は未だに不明。
だが、やがてこの騒ぎも収まり、忘れ去られるだろう。
家族や友人、恋人や親戚、そして犯人以外の記憶からは……
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