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7話 聖女



それからしばらくして。


「…………いたい。」


わたしは、牢屋の石の床に寝そべっていた。


いやね、体中が痛いのよ。

手の指の骨は半分以上折れてるし、片方の腕は火で炙られて黒焦げになってるし。

吸血鬼だからある程度は緩和されるんだけど、まさかこんな本格的に拷問を受けるなんて思わなかった。

わたしそんな悪いことしたのかなぁ。そりゃ馬番の仕事を途中で放棄したのは悪かったと思ってるけどさ、それにしても、ここまでしなくても良いと思うんだよ。


わたしを拷問した第一部隊の副隊長さんは、一切悲鳴を上げないわたしに(だって殆ど痛みを感じないからね)、何故かすごく楽しそうにしていた。

いつまで悲鳴を我慢できるか楽しみだな、と楽しそうに歪んだ笑顔を浮かべながら、わたしの腕を燃やしたり、骨を折ったりすること一時間。

結局色々と面倒になって気絶したふりをしたわたしに、副隊長さんは、つまらんやつ、と舌打ちしてた。

人の趣味をどうこう言うつもりはないけど、かなり悪趣味だよねぇ。


「これからどうしようかなぁ。」


はぁ、と小さくため息をつく。

流石にここまでされると、ちょっと困る。

いくら痛みに鈍いとは言え、痛いものは痛いし、回復するのにも体力がいるし。


「……逃げようかなぁ。」


わたしが今いるのは、拷問された部屋から地下の廊下を進んだ先、いくつか並んでいた牢屋のひとつ。

牢屋の扉には鍵がかけられているけど、非力なわたしに逃げる術はないと判断したのか手枷や足枷はないし、牢屋には見張りもいない。

まあ、鍵はもちろん、手枷や足枷があっても、簡単に壊せるけど。

見張りも、もしかしたらわたしから見えないだけでどこかにいるのかもしれないけど、それも気絶させればいい。

つまり、いくらでも逃げ道は考えられる。


「……。」


けれど、そしたら、あの二人は悲しむかもしれない。

だってここにいてほしいってあんなに必死に頼んでたんだもの。わたしが突然いなくなったらきっと傷つく、気がする。


別にこのままここにいても死ぬことはない。

もしかしたら化け物であることがバレてしまうかもしれないけど、元々二人には化け物だと伝えるつもりだったし、化け物だからと城から追い出されるかもしれないけど、元々城を出ることも考えていたから何も問題はない。

それならせめて、もう少し様子を見てからでも良いかな。

あんなに優しくしてもらったのに、このまま何も言わずにさよならするのは良くないもんね。


「何なのよ、これ!」


その時、聞き覚えのある声が耳に届いた。

あれ、と思う間もなく、その声と足音はどんどん近づいてくる。


「くそ、暴れるな!」

「離しなさいよ!!私は聖女よ?!」


わたしが体を起こすと同時に、彼女は現れた。

騎士に拘束されて連れてこられた彼女は、恩人であり、半年前に一緒に召喚された(むしろ彼女が本命だったみたいだけれど)ハナコちゃんだった。


「……なんで、」

「あ、あんたは……。」


さすがに驚いて彼女を見れば、彼女の方もわたしに気が付いたようで、驚いた表情になる。

その間にも彼女を拘束していた騎士は、牢屋の扉を開けると、彼女の背中をどん、と押し、彼女を牢屋へと入れた。


「いった……?!ちょっと!!何すんのよ!」


背中を押された衝撃で床に倒れた彼女は怒って叫んだけれど、騎士はそれを無視して牢屋から離れていく。

状況が呑み込めなくて、どういうこと?、と内心首を傾げていると、ハナコちゃんにぎろりと睨まれた。


「何であんたみたいなのと一緒にこんなところにいなきゃいけないのよ?!」

「……いや、それはわたしが聞きたいのだけれど……。」

「馬番のくせに、馴れ馴れしく話しかけないでくれる?!」

「……申し訳ありません。」


ぎっ、と睨まれて思わず謝罪する。

そっかハナコちゃんは今聖女だもんね、わたしみたいな(元)馬番が気軽に話しかけちゃいけないね。

素直に頭を下げると、彼女はふん、とそっぽを向いた。綺麗に切り揃えられた黒髪がふわりと揺れる。


そういえば、半年前はふわふわした茶髪だったけれど、今は真っ直ぐな黒髪になっている。

元々可愛らしい子だなって思ってたけど、黒髪も似合うな、とのんびり思う。

確か今年で十八歳だっけ。


「なんなのよ……、私が何したって言うのよ……っ。」


ぶつぶつと呟きながら、牢屋の中をうろうろと歩きまわるハナコちゃん。

恩人、なんて言ったけれど、多分、彼女はわたしのことを覚えてない。まぁ、十年以上前のことだから仕方ない。

それにしても、聖女様と呼ばれて楽しい暮らしをしていたはずの彼女がどうしてこの牢屋にいるんだろう。


「ちょっと!誰かいないの?!さっさとここから出してよ!」


牢屋から大声を上げ始めたハナコちゃんの邪魔にならないように牢屋の隅っこに座る。

見たところハナコちゃんの体にはわたしみたいな拷問の痕はない。

怪我はないみたいでよかった。

ただ、騎士によって拘束されたときについたのか、手首についた手の跡が生々しく見える。痛くないのかな。

でも、ちょっと!さっさと出しなさいよ!、と大きな声を出し続けているところをみる限りではとりあえず元気そう。


「うるさいぞ。」


とか思っていたら、こつこつという足音と共に人が現れた。騎士服を着た赤髪の、ロディ様やイヴ様よりはひとまわりぐらい年上に見える、男の人。

いや、この人、確か会ったことがある気がする。


えっと………………。

あ、そうだ、半年前に召喚された時にいて、わたしを馬小屋まで連れてった人だ。

えーっと……えーっと、たしか、まわりの人が隊長って呼んでいた気がする……。

ここにいるってことは第一部隊の隊長さんなのかな。


「アルデルト隊長……!あんた、どういうつもり?!」

「……相変わらず、女とは思えない口調だな。」


あ、やっぱり隊長さんだったみたい。

ハナコちゃんとは面識があるみたいで、彼女は隊長さんの顔を見るなり、怒鳴り始めた。


「聖女にこんなことして許されると思ってんの?!王様が黙ってないわよ?!」

「残念ながら、その陛下の命令だ。あきらめろ。」

「はあ?!」

「……。」


二人が言い合う様子をぼんやりと眺める。つまり、王様がハナコちゃんを裏切ったってことなのかな。

正直、王様の顔は、召喚された時に一度見ただけで、しかも隊長さんと違ってすぐに退席しちゃったから全然覚えてないんだよね。第一部隊の隊長さんよりはもう少し年上だったような気がするけど。

それより隊長さんは何で来たんだろう、とじっと隊長さんを見ていると、ふと目が合う。

ん?わたし?


「こちらの部下が色々と迷惑かけたな。」

「……え。」


どういうこと?

言葉の意味が分からなくて隊長さんを見たけれど、隊長さんはすでに歩き出していて、牢屋の先にある階段の方へ向かっていた。

え、何だったの。


「副隊長、あとは任せる。」

「了解。」


かと思えば、隊長さんとすれ違うように、副隊長さんが現れる。

ついさっきまでわたしを楽しそうに拷問していた副隊長さんは、にやにやと笑いながらこちらの牢屋へと近づいてきた。

その目はわたしではなく、じっと、ハナコちゃんに注がれている。

……まさか。


「な、なによ、あんた……!」

「陛下はな、あんたがいつまでも召喚を成功させないから、甘やかすのをやめたんだよ。」

「う、嘘よ!!あの人がそんなことするわけない!!」

「でも半年以上経ちながら、召喚できていないのは事実だろ。」

「し、仕方ないじゃない!いくらよんでも来ないんだから!!」


召喚?何のことだろう?


「安心しろよ、成功するまでは殺さねぇから。」

「う、嘘よ!あ、あの人がそんなこと言うわけないわ!!」


二人の会話の意味が分からなくて、内心首を傾げながら、二人をぼんやりと見ていると、副隊長さんがこちらを見てきて、にやりと笑われた。


「ああ、お前は別の意味ですぐには殺さねぇよ。」

「……。」

「あの化け物の集まり、第三部隊に気に入られたらしいな?」

「……。」

「今の陛下はな、第三部隊が嫌いなんだよ。でも、第三部隊の連中、特にトップの二人は先々代の時からいる化け物だ。面と向かっては対抗できない。だからこそ、絶え間なく任務を命令してる。」


すごい、いっぱい喋ってるなぁ。

あの二人が化け物とは思えないし、それを言ったら多分、わたしが一番化け物なんだけど。


「そんな二人が囲おうとしている女が拷問されて精神がイカれたら、二人はどう思うだろうな?」

「……。」


つまり、わたしがこうして牢屋に入れられて拷問をされたのは、ロディ様とイヴ様に嫌がらせをするためってことらしい。

うーん、わたし、不死の存在だし、痛みもほとんど感じないから、精神がイカれるってこともないんだけどな。

なんて言えるわけもないから、とりあえず黙っていると、怖がっていると勘違いしたのか、副隊長さんはますます楽しそうに笑った。


「まあ、お前のことはあとだ。まずはお前からだよ、聖女様。」

「こ、来ないで!!!」


きぃ、と音を立てて牢屋の扉が開かれる。

そして、にやにやと笑みを浮かべながら、副隊長さんは、ハナコちゃんにゆっくりと手を伸ばした。

ハナコちゃんは怯えた表情でじりじりと壁際に後退っていく。


「安心しろよ。拷問は得意なんだ。」

「い、いや……!!」


副隊長さんがハナコちゃんを壁まで追い詰めていく。

本当に悪趣味だなぁ。

そんなことを思いながら、こっそり足に力を入れる。


「こんな狭い牢屋で逃げられるわけがないだろ?」


副隊長さんが彼女の手首に触れようとする。


「こ、こないで……!」


その瞬間、わたしは足の裏で床を蹴り、副隊長さんの傍まで一気に移動すると、その腹に拳を叩き込んだ。







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