遅れたくない、だから
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「……………………欲しかったの」
黒瀬に構っていたら、黙秘を続けていたはずの石越が口を開いてくれた。
「お金が欲しくて……。だから〝ああいうこと〟したの……」
何とも一律な動機……。
ま、快楽を求めて辿り着いたと発言されるよりかはマシか。
「小遣いとか貰ってないのか? いくら海外に転勤してるからって、仕送りぐらいはあるだろ?」
「貰ってるけど、全部お姉ちゃんが管理してるの……。そこから毎月五千円渡されてる」
「充分だと思うが……」
「でもそれじゃあ可愛い服もコスメも満足に買えないから、流行に遅れちゃうの……」
「なるほどな……」
《流行に遅れるってそんなに悪いことか?》
ゲームで例えるなら、周囲は続編ソフトで遊んでいるのに、金が無い俺たちはいつまでも前作で遊んでいるってことだ。
《それは嫌だ……!》
納得してもらえて何よりだ。
「それで、女友達に相談したら……援交を勧められて」
あ~、よくあるパターンだ……。
「最初は抵抗あったよ……。でも、周りが可愛くなる一方で取り残されたくなかったから、挑戦してみたの……」
「え、じゃあお前……今日が〝初〟だったの?」
「なッ!? と、当然でしょ! うちのこと何だと思ってるのさ!」
本人は心外な言葉と受け取ったようで、語気を強くして反論してきた。
いつもの調子に戻ってきたか。
「ったく……シロっちにそう見られてたなんてガッカリ!」
「そりゃあお前、見た目とさっきの状況見たら、一目で上級者って思っちまうよ」
「上級者って……」
呆れた視線がこちらを睨む。
「ま、でも良かったよ。事後になる前に発見できてさ」
「……そんなに、うちのこと心配してくれてたの……?」
「ああ。クラスメイトだし、何より気が合う友達だからな」
「…………」
「今日だって必死に探したよ。漫画やネットニュースの知識しかないけど、援助交際って快楽だけで済まなかったりするからさ。さっき見掛けたオッサンが、優しい笑顔しておきながら本当は危ない奴だったと思うと、今になって怖くなってきちまった……!」
「…………」
石越が黙ってしまった。
もしかして、変なこと言っちまったか……?
《いや、気持ち悪いこと言っただけ》
マジか!?
もしかして船岡に毒されたか……?
《可能性は高い》
よし潰すか。
《理不尽って言葉がこれほど似合うのも珍しいな》
さぁて船岡、明日覚悟しとけよ。
拷問内容はひとまず放棄し、疑問を述べる。
「金が欲しいなら、毎月の小遣いをアップしてもらえるように掛け合ってみたらどうだ?」
「無~理~! あんなキッチリ姉を説得するなんて時間の無駄! 目的だの何だの聞かれて、断られるのがオチ~!」
「じゃあバイトしてみたらどうだ? 先生に頼めば許可が下りるんだし……」
「はぁ? 人にペコペコして金稼ぎとか超ダルイ! つうか、ダサ過ぎ!」
全国の労働者にペコペコして謝ってこい……!
「だとしても売春はやめるんだ。いつか痛い目に遭うぞ?」
「はいは~い、今後は気を付けま~す!」
反省しているようで反省していない言い方だ。
教師や風紀委員から注意を多く受け、これ言っときゃ何とかなんだろ―というレベルまで下がっているのだろう。
「はぁ……まさかシロっちからお説教喰らうとは思わなかったよ……!」
「心配してるだけだ」
「うっわ、お姉ちゃんと同じ言い方……」
心の底から嫌悪を抱く表情をされた。
ということは、姉妹仲は良好とは言えない様子だ。
「とにかく、今後はそういうものに手を出さないように」
「はいは~い―」
人の気も知らず軽返事される。
そのあと、石越がふと腰を上げた。
「おい、どこ行くんだ?」
「せっかく〝ココ〟来たんだし、ちょっと服でも見て回ろうかなって」
「真っ直ぐ家帰れよ……」
「イ・ヤ・だッ!」
子供か……。
「あ、そだ。せっかくだし、シロっちも一緒に行かない? うちと並んでも大丈夫なコーデしてあげるよん?」
「ははは、帰る」
「あっそ、じゃあね~!」
丁重良く買い物の誘いを断ると、石越は夜の街に消えていった。
無理矢理にでも連れて帰ったほうが良かったか……だがそれで騒がれたらこちらが不利になる。
やっぱこっそり委員長たちを呼ぶべきだったか……?
…………考えてても現状は変わらない。
とにかく今は、二人をここに呼び出すか。




