妹の危機、心配する姉
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〝あの〟石越凛の…………姉?
あ~言われてみれば、金髪の色艶や顔付きがそっくりだ。
ただひとつ言えることは―。
「い、妹さんとだいぶ……逆転してますね……?」
姉はいると本人から聞いていたが、雰囲気が違い過ぎる。
向こうは生粋のギャルなのに対し、こちらはギャルという概念すら感じさせない大人しさと真面目さを醸し出している。
その中で髪の色が金髪なのだから、姉含め妹も本当に地毛なのだと改めて認識する。
「よく言われます。妹があんな状態なので、ワタシはもっと凄いんじゃないのかって……」
笑みを零すも、困惑の表情を浮かべる。
先ほど俺も思った、想像したのとはまったく別なのが来たという妙な期待外れ感を今まで受けてきたのだろう。
それにしてもお姉さん……スッピンなのに物凄くキレイだ。
これだけキレイなら妹のほうも同様のはずなのに、化粧で素晴らしい素体を隠しているようで勿体ない。
委員長も引けを取らないレベルだし、国見だって可愛いから今俺の視界は眼福している。
横切る男子生徒たちの羨ましい視線が心地良い。
「それで、お話とはなんでしょうか?」
「はい。まずは改めて、妹の凜が大変ご迷惑をおかけしました……」
また深々と頭を下げられた。
頭頂部もキレイ……。
「その件については構いません。しかし、クラス内で起こった事を、何故お姉さんが知っているのでしょうか?」
「はい……四限目を受ける前に、妹から『帰る』とメールが来まして、そのあと昼食を取っていたら、一年の女子が怒って帰ったと小耳に挟んだんです……。それで詳しく聞いてみたら、風紀委員に注意を受けたから怒って帰ったと言われました……」
「それで、どうしても会わせてほしいと、私に頼んできたって訳さ」
妹の不祥事を謝罪するために、わざわざ会いに来たなんて……親に近い行動だ。
「そういうことでしたか。ですが、お姉さんが来るほどのことではないと思うのですが」
「いいえ。話の内容だと、妹がアナタに酷い罵声を浴びせたと聞いて、居ても立っても居られなかったんです……」
人間として出来てるな……このお姉さん……。
《この年代だと、普通なら兄弟姉妹のことに関与しないと思ったんだが》
ああ。実際いるんだな……こういう人。
「まぁ、そのことについては先ほども申しましたように、もう気にしていませんから大丈夫です。要件は以上でしょうか?」
(ココココココココ……)
妙な音に、ふとファイルを持っている側の手を見ると、人差し指で小刻みに静かにファイルを突いていた。
苛立って催促しているんだな。
「大丈夫だ麗奈。外のほうは楓に今頼んでおいたから、焦る必要は無い」
「そうですか。ありがとうございます」
察したであろう委員長がフォローを入れる。
石越先輩が話している最中にこっそりスマホを操作してたのは、そういう理由だったのか。
「ということだ。鈴、遠慮なく話してみろ?」
「はい……。実は、他にもありまして──」
視線を合わせないところを見ると、言い難い内容なのか?
家庭内暴力とかそんな感じかな?
「最近、凜ちゃんが……え、援助交際をするみたいな話を聞いて……」
予想よりハードな内容だった。
「それは誰かから聞いたのでしょうか?」
「いいえ。でも家にいるとき、部屋から『パパ』と呼ぶ声が聞こえて、気になって父に聞いてみたところ『会話はしてない』と答えられました……」
そりゃ〝黒〟確定だな。
《え、俺?》
お前じゃない。
「こっそり着信履歴を見たとき、知らない男性の名前が表示されていて、怖くなって……」
「わたしたちに相談をしに来たという訳ですか」
「はい……」
「警察には相談しなかったんですか?」
以降は俺が率先して尋ねた。
「行きましたが、どこで起こっているかハッキリしないと捜査はできない、と言われました」
「両親には……?」
「どちらも海外に転勤しているので、姉であるワタシに全部任せてきました……」
「友人たちには相談しなかったんですか?」
「妹が援助交際しているかもしれないなんて、言えません……!」
「それで、自分たちに?」
「えぇ、風紀委員の人たちなら口外しないでもらえると思いまして。それに、白石くんだったら凛ちゃんとも仲良いし、強いから何があっても解決してくれるかなと……」
なるほど、最終手段か。
「という訳だ。白瀬、麗奈。二人とも、今日の放課後は時間を空けててもらえないか?」
「何故でしょうか?」
「鈴の妹を捜索するためだ」
「放課後の巡回はどうするのでしょうか?」
「楓に任せる」
「待機組はどうするのですか?」
「職員室に促す」
国見の質問に委員長は躊躇わず返答していく。
判断が早い……さすがです。
「二人なら、顔を覚えているから探しやすい。それに人数は多いほうが何かと便利だ」
「因みにどこ探しに行くんですか?」
今度は俺が抱いた疑問を口にする。
そこが最大の難点だからだ。
探すと一言口にしても、場所が明確でなく闇雲に走っていたのではただ時間と体力を浪費するだけだからだ。
さて、委員長はどうお答えするのだろうか……。
「城茂駅方面だ」
都心部か……。
「どうしてそこなんですか?」
「ネット上で確認したら、あの場所では援助交際の様子が度々確認されている。確定ではないにしろ、探すには充分な範囲だ」
「なるほど……了解しました」
《おい部活は!?》
断る。
《ふざけんなよ! 俺の幸せ奪うつもりか!?》
お前へ与えようとした〝幸せ〟は三丁目の佐藤さんにあげてきた。
《チクショウ返せ!》
バカで助かった。
「助かるよ。麗奈も、それで良いか?」
「わたしは遠慮しておきます」
俺含め、先輩二名も意外な答えに一瞬目を見開く。
「どうしてだ? 何かはずせない用事でもあるのか?」
「いえ。ただ、風紀委員の活動のほうが心配になっただけです」
「それならさっき楓に任せると──」
「南先輩がすべて遣り切れるとは思えません。それに、わたしが行ったところで見付けても却って激怒させるだけです。ここは、仲の良い白石くん、話し方が的確な委員長、身内であるお姉さんが行ったほうが宜しいと思われます」
国見が捲し立てると、委員長と石越先輩は黙ってしまった。
「まぁ、本人もこう言ってますし、自分たち三人で探しに行きますか」
「そ、そうだな。二人よりかはマシだ」
「宜しくお願いします……!」
三度目のお辞儀は、心の底からこちらに期待している……家族の気持ちが伝わってきた感じがした。




