やはりギャルは怖い……
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三限目の数学が終わり、十分間の休息がやってきた。
あ~もう!
なんで『数学Ⅰ』と『数学A』って分けてあるんだよ!
ひとつにまとめろ!
《そしたら余計点数取れねぇだろうな》
お前は勉強しなくて良いからそんな他人事言えるんだろうな。
《なにを失敬な! 俺だって学んでるんだぞ!》
へぇ、なにを?
《あの数学教師の残った髪の本数が0本だってことを!》
スキンヘッドだからな。
《俺たちも将来……ああなるのかな?》
やめて想像しないで!
黒瀬を一度黙らせ、次の地理の教科書を用意しておく。
「ねぇ、シロっち~」
左からダルそうに呼ばれた。
「どうした?」
「ポーチ返して~? メイク落ちて来ちゃった」
「ダメだ。放課後まで待て」
「ケチ~……。せっかくシロっちに、うちが可愛くなるところ見せたかったのに~」
「なんだ、自分のスッピンに自信無いのか?」
「ちげぇ~し~! 自信あるし~!」
「だったらそれで良いじゃんか」
「うちは化粧しないと落ち着かないの~!」
「じゃあほら、蛍光ペンと修正テープ」
「それでどうしろっつうの……?」
「奇跡的にイケるかもしれないぞ?」
「ならねぇし。マジウケ~!」
テンションが高まったのか、後頭部で手を組み、椅子に背を預けだした。
ただでさえデカい胸部が無防備状態になり、目のやり場に困る。
「ところでさ~、シロっちって何で風紀委員に入ったの?」
「スカウトされたから」
「エイプリルフールならもう終わったよ?」
「これマジ」
「え~、マジヤバッ!? きっかけ何なの?」
「あんまり言いたくないんだけど……」
「じゃイイや」
「あっそ……」
「ごめんごめん、冗談冗談! 話して話して」
「ああ……。あんまり大きい声では言えないんだが……」
耳元まで近寄ると、石越も感付いて寄ってきてくれた。
(……三年の不良たち全滅させた)
「…………?」
黙って指を差され、静かに一回頷く。
「…………。えぇーーーーーーーーーッ!?」
大音量の驚きは、当然クラス中の注目を集めた。
咄嗟に手で口を封じる。
それから〝小声で話すようにする〟ジェスチャーを見せられ、手を退ける。
(え、三年の不良って……西先輩でしょ?)
(そうだ。その人たちに校舎裏呼び出されて…………倒した)
(へぇ……シロっちって、意外と強かったんだ~。格闘技とか習ってたの?)
(まぁ……そんなところ……)
《感謝してね?♪》
ああ、ありがとよチクショー!
「ふぇ~、うちが学校サボってたときにそんなことがね~」
「寧ろお前は何で学校休んでたんだ?」
「ちょっと友達と遊びたくて……!」
「放課後じゃダメなのか?」
「ん~、放課後だとみんなデートに行っちゃうからね~。遊べるの午前中だけなんだ」
「そっか。じゃあ今日来たのは、その友達と遊べなかったからか?」
「ううん、シロっち誘おうと思って」
「は?」
「シロっち誘って~、放課後デートしようかな~って思ったんだ~」
「わりぃな。放課後は風紀委員で大忙しなんだ」
《今日は科学部だろうが!!》
なにもそんな怒んなくても……。
「ちぇ~、なんで風紀委員なんかに入ったの? 行ってもどうせあの眼鏡女しかいないんでしょ?」
「他にもメンバーはいるぞ。朝一緒にいるの見えてなかったか?」
「うん、シロっちしか見てなかった♪」
「そりゃどうも」
嘘なのか本当なのか、返事の真偽が掴めない。
「石越さん」
「あ? なんだよ」
反射的なのか、国見が話し掛けてきたと同時に眉間にシワが寄った。
室内の空気がピリ付くのを感じ取る。
「足を下ろしてください」
「は?」
注意の内容は理解できた。
会話に夢中で気付かなかったが、石越は机の上に足を乗っけていた。
「だから何だよ、悪いのかよ?」
「はい。まず、机の上に足を乗せること自体が常識的に間違っています」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。気付かなかった俺が悪いし、意図的にやった訳でもないんだからさ―」
「白石くんは黙っててください。例え癖だったとしても、それを仕方ないで済ませる訳にはいきません。今の行動は減点対象にさせていただきま―」
ダンッ
その音は決してウルトラセ○ンの主人公の名前を表現した訳ではない。
石越が素直に足を下ろしたあと、机を強く叩いた音だった。
立ち上がり、また両者対面する。
「何なんだよオメェは! うちのやること全部気に入らねぇのか!?」
「そう思っていただいても構いません。ですが、節度ある行動を取っていただければ、わたしが声を掛けないことをそろそろ理解してください」
「チッ! だったら帰れば良いんだろ帰れば!」
机の横に掛けていた鞄を取り、廊下に向かっていく。
進行方向にいたクラスメイトたちが、次々とキレイに避けていく。
「やっぱ来るんじゃなかった……!」
その一言を残し、石越は扉を強く閉めて教室を出て行った。
「…………」
俺はというと、突然と一瞬のコンボをただ黙って観覧していた。
「はぁ……」
呆れた国見が、尚も自席に戻ってファイルを取り出し、記入しだした。
重い空気の中でも仕事をするその姿勢が素晴らしかった。
「白石くん」
「はいッ!」
「ああいう方と仲良くするのは別に構いませんが、あまり甘やかさないよう風紀委員としての自覚を持って、今後は対応をするようお願いします……」
見下ろしているその目に、光は灯されていなかった。
「はい……。以後、気を付けます……ッ!」
姿勢を正しくして俯くことが、精一杯の服従表現だった……。
脂汗ですか? 出まくってます。




