持ち物検査時もギャルは手強い
薬師堂兄妹が珍しく間に合ったことで、本日の遅刻者はゼロ。
次は持ち物検査だ。
国見からはまだ一人での行動は危険だと判断され、二人で行う。
そりゃ以前脅しちゃいましたからね。
まずはA組に入り、担当教師の松島先生に呼び掛けをしてもらう。
教卓下のボックスを俺が持ち、違反者の記入を国見に担当してもらう。
以前、回収を拒否する多数の生徒を黙らせる為、ボウリングの玉を目の前でクシャクシャにしてから、抵抗せず素直に机の上に出してくれるようになった。
というか、学校に不要な娯楽品を持ってくる生徒自体が少なくなってきたようだ。
ボックスの中は精々三、四品ほど、前回と比べて十個近く減っている。
後方から聞こえてくるペンの進みも、最初の時よりもゆっくりな音に変わっていた。
A組がスムーズに終わり、ボックスを担当教諭に預けて廊下に出る。
「案外少なかったな?」
「そうですね。けど、これが当たり前のことなんです」
「そ、そうだな……」
先ほどのこともあって明るい会話に繋げようかとしたが、上手く事は進まなかった。
「B組もあれぐらい少なければ良いな?」
「えぇ。ですが、あの〝社会不適合者さん〟は、きっと持ってきているでしょうね」
敵視満々の言葉遣いで、対象が石越だと直ぐに理解できた。
教室に入ると、急激に胃が重たくなってきた……。
「お、来たか。じゃあ今から持ち物検査だ。みんな、鞄の中身を出すように!」
入室すると、矢本七海先生がクラスメイトに呼び掛けてくれた。
説明する前に気付いたということは、高い声で有名な松島先生の声がこちらにも聞こえていたのだろうか。どちらにしてもこれは効率が良くて有り難い。
B組も以前目の前でバットをプレスしてから、素直に出す人数が増えた。
しかも先ほど同様、前より回収品が少ない。
これが定着すれば、いずれ不要物の所持数もゼロとなって持ち物検査も楽になるだろう。
本日のウチのクラスの回収品は五つ、だいぶ減ったな。
……と、おや?
「石越さん。鞄の中身を出してください」
「…………」
「石越さん……!」
「うるさい」
「…………ッ!」
クラスメイト全員が素直に中身を出していたが、石越のみは何も出していなかった。
国見の注意にも応じず、窓際の一番後ろの席に座って外を眺めていた。
「これは校則です。早く鞄の中身を―」
「うっせぇんだよボッチ女。いちいち指図すんなって……」
石越の語気が強くなり、眉間にシワが寄っているのも理解できた。
《出動!》
了解。
「はいはい、そこまでそこまで」
黒瀬の有り難い合図で二人の間に割って入る。
隣の自分の机上にボックスを一旦乗せる。
「シロっち~。この女どうにかしてくれな~い?」
態度が急変し、猫撫で声を出してきた。
「わりぃな、こうしなきゃならないルールだからさ」
「え~、メンドイな~……」
「文句言わずにちゃっちゃと鞄の中身を出す。それか見せなさい」
「女の子に平然と〝出す〟だの〝見せろ〟だなんて。きゃ~、シロっちのエッチぃ~!」
『…………』
現状盛り上がっているのは俺たち二人だけ、クラスメイトは奇妙な光景を目の当たりにでもしているかのように沈黙していた。
「お~い、夫婦漫才やってないで、早く事を済ませてくれないか?」
「え~、ヤモっちゃ~ん。うち達~そんなに仲良しに見えますか~?」
自然と手を組まれ、立っている俺はバランスを崩しそうになったが持ち堪えた。
「はいはい仲良しに見えるって。朝からアツアツなの見せ付けんな」
「つう訳だ。早く鞄の中身を出すか出さないか。出さない場合は減点対象にするぞ?」
「はいは~い、分かりました~」
ヤル気無しの返事だが、『ほい』と素直に鞄を渡してくれた。
遠慮なく中を覗くと、ノートが数冊と、財布に小物入れ……至って普通の学生鞄の中身だった。
奇妙な点は二つ、教科書が入ってないことと、小物入れが二つあることだ。
「お前、教科書は?」
「あ? 全部机の中に入ってるよ~」
机の中から新品同様の全教科書が出てきた。
なるほど、置き勉か。
あれ一回か二回しか開いてないな。
「じゃあこれは?」
二つの小物入れを取り出して見せる。
「筆箱で~す」
「二つも?」
「うん。うち勉強大好きだから~」
「今世紀最大の嘘をありがとう。中身確認するぞ」
「きゃ~、エッチぃ~!」
今度のは無視する。
一つ目を確認すると、確かに筆記用具等が入っていた。
だが二つ目を開けると、中には──。
「これはなんだ?」
母親の化粧台で見掛けたことのある道具が出てきた。
「あ~それ? 最新の消しゴム!」
「口紅だな。こっちは?」
「最新の綿棒!」
「マスカラ……だよな?」
「よく知ってるね?」
「当てずっぽうだ。で、これは?」
「最新のボールペン!」
「どう見ても違うな。え……っと……」
「アイブロウです」
道具の名称で困っているところを、国見に助けてもらった。
「これは筆箱じゃなく化粧ポーチですね。不要品として回収させていただきます」
「は? ふざけんなよ! それ無かったら化粧直しとかできねぇだろうが!」
石越が立ち上がり、国見と対面する。
「する必要がありません。そもそも学校に化粧をしてくること自体が違反です」
「違反とかそんなの知らねぇし! うちが何しようと勝手だろうが!」
「学校にいる以上はルールに従うのが義務です」
「あーもう、うっせぇな! おめぇみてぇな真面目なヤツこそこの学校にいらねぇんだよ! 早く消えちま──」
《止めろ》
分かってる。さすがに言い過ぎだ。
「はいストップだ」
国見からファイルを取り上げ、二人の間に壁として横から入れる。
一方的な罵声が止まり、クラス内は静けさを取り戻す。
はぁ、なんだこのドキドキする感じ……。




