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新しい一日

 幸福を味わった翌日は不幸が襲ってくるとどっかの誰かが言っていた気がしたけど、そんなことは紙で包んでポイするレベルで無かった。


 気持ち良く起床できたし、珍しくお弁当の中身をキレイに詰めれたし、登校中道端に落ちていた記憶喪失の中年男性を踏まずに済んだ。

 今のところ、幸せ気分は続行されている。


 でもあのオッサン、どこかで見掛けたような……気のせいか。

 あまり過去ばかり思い出していると先に進めないと聞くから、適当な記憶は時折消去するようにしている。


 幸せは留まるところを知らず、いつもよりも早く家を出たことで再び訪れた。


「おはよう、白瀬」


「おはようございます、委員長!」


 愛しの新田麻美委員長と正門前で出会えた。

 相も変わらず顔は美しく、腰まで届く黒髪は、光を織り込んで艶めいている。


 俺は昨日この人に、ケーキを『あ~ん』してもらえたのか……。


 ボランティア活動のあとで行われた、委員長と二人っきりの慰労会。重い話も聞かされたけど、楽しさのほうが何倍も上回っていた。


 後半は突然の来客、岩沼小春ことコハ姉の登場で一気に逆転。

 俺を無理矢理連れ去ろうとし、それを委員長が制し、ラブコメでよく見掛ける女の子二人から引っ張ってもらえる状況となった。


 嬉しさもあったが、痛みが半端ではなかった。


《ああああああああああああああああああああああああああああああああ》


 恐怖を思い出し、もうひとつの人格〝黒瀬〟が叫ぶ。


 コハ姉が掴む左腕が取れそうになる瞬間、気絶していた黒瀬を無理矢理起こして入れ替わってもらい、その強靭な肉体で四肢一部の分離を逃れた。


 決着は三人での打ち上げを提案。あからさまに不機嫌な態度の委員長と、ニコニコ笑顔を振りまくも背中から殺気を漂わせているコハ姉に挟まれ、俺はもそもそスナック菓子を食べることしか出来なかった。


 まぁ、結果発育の良いお二人の体操着姿・半袖ver.を見れたから眼福には変わりない。


《思い出さないでくれ……。気持ち悪くなってきた……》


 悪かったって。ホント下品な話嫌いなんだな?


《なんかな……。生理的に受け付けない……》


 じゃあお前、俺が保健体育の実技するときどうなるんだ?


《使うときあるの?》



 あるさ!



《なにも涙ぐんで叫ばなくても……》


 つい取り乱してしまったことに反省しつつ、委員長と二人で昨日の話をしながら風紀委員室に向かう。


「おはよう!」


「おはよーございまぁす!」


 委員長が豪快に扉を開けると、既に二人来ていた。


「おはようございます委員長、と……白石くん」


「お、おはようございます……!」


 朝から生真面目な国見麗奈と、おどおど状態の南楓先輩、対照的な態度の挨拶が俺たちに送られる。


「昨日はお疲れ様! 用事ごとには間に合ったか?」


「はい、大丈夫でした」


「あ、あたしのほうも……だ、大丈夫でした!」


「そっかそっか。それなら良かった」


「委員長たちも、あのあと帰ったのでしょうか?」


「いや、白瀬とここで打ち上げした」


「え……」


 国見が少し驚いた声を発する。


「そう……だったんですか……」


 そして残念そうな表情をしだす。

 活動が終了してから、国見は親戚の集まり、南先輩は家の用事で早々帰ってしまった。


 もしかして、参加したかったのかな?


「まあまあ、来月もあるんだし、その時またやろうじゃないか!」


「…………はい」


 委員長の励ましに、国見はボソッと返事をした。


「そ、それにしては……昨日見たときと変わらず、き、キレイですよね? 大騒ぎしたあとって……ち、散らかっているイメージがありますから……!」


「ああ、それに関しては、白瀬が科学部から借りてきたロボたちが掃除してくれたのさ」


「単三電池合計百本も取られましたけどね……」


 おかげで残金は隠し持っているこの五千円札だけ……。

 これだけは何としてでも死守しないと!


「それじゃあ、全員集まった訳だし、正門前に行くか」


 そして聞き慣れた呼び掛けを合図に、俺は机の中に仕舞ってある【風紀委員】と白字で刻まれた緑色の腕章を左二の腕に巻き、表が挟まったファイルを持つ。


 三人が教室を出てから一番下っ端の俺が教室の鍵を閉め、委員長に渡す。

 さぁて、今日の服装検査も頑張るか。

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