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もし暴れてなかったら……




【シンジくん十三号】は、下部のブラシで廊下を磨いていく。

【カズマくん二号】は、【タクミくん五号】を使って各教室内を清掃してもらう。

【ソウジくん一号】は、十本の手に雑巾を持ってもらって窓拭き。

【ヒトシくん三十号】は、【タクミくん五号】が吸い込んだ埃たちの一瞬償却。



 一通り役割は分担させることができた。

 やる箇所が取られた分、会長と船岡は、生徒会室を隅から隅まで綺麗にしていくという。


 一方、町内清掃組も、活動箇所を決めて作業を開始する。

 と言っても、精々落ちているゴミの回収と、少し生えている雑草の除去程度だ。


 だが適当にはできない。


 最後は全員でのチェックをすることになっているし、なにより二人一組グループに振り分けられたからサボれば告げ口が入る。

 更に俺のパートナーが……。


「では白石くん。初めて行きましょう」


「はぁい……」


 よりによって国見かよ……。


 元から適当にするつもりも、サボるつもりも無かったが、なんで委員長と組ませてもらえないのか……。

 振り分けは──俺&国見・委員長&南先輩・コハ姉&琴葉となった。


 当然コハ姉は俺とのタッグを希望したが、コハ姉の恋事情は以前の件で委員長に認知されてしまったから、活動中イチャイチャするのではないのかと警戒され、拒否されていた。


 俺も委員長とのタッグを望もうとしたが、思いとどまる。

 南先輩と国見がタッグになれば、国見が南先輩を叱咤することは目に見えている。


 ボランティア活動は、満足感の他にも人間関係が関わってくる。

 下手に不快な思いをさせて、そこから参加しなくなってしまえばギスギスしてしまう。


 冷静に思考を巡らせた結果、俺は国見とのタッグを了承するしかなかった。

 コハ姉と組めば黒瀬が死ぬし、琴葉と組めば、コハ姉と国見が喧嘩することも何となく予想できる。

 委員長&俺・国見&琴葉・コハ姉&南先輩とも考えたが、最後の組み合わせが怖そうだからこれも提案しなかった。


 それに南先輩は委員長にしか慣れてないし、下手な組み合わせをすれば気分を害するだろうな。

 ま、コハ姉とのタッグじゃなかっただけ良しとするか。


「白石くん」


「あ、はいッ!」


「ど、どうしましたか? 急にビックリして……」


「あ~ごめん。考え事してて……」


「そうでしたか。では、わたしは右を担当するので、反対をお願いします」


「了~解」


 住宅街の左サイドを任され、各清掃活動を始める。

 真っ直ぐ先に伸びる排水溝のフタの上にゴミが落ちていないか、目を凝らす。

 黒瀬、見落としてたら教えてくれよな。


《おっけー。あ、十キロ先に煙草の吸殻あるぞ》


 誰がそこまで教えろと言った。


 それに十キロ先に行くまで他のゴミ見当たらなかったのか?


《冗談だ。ほら、その先》


 ん? あ、早速発見。

 ペットボトルの容器、ゴミ箱が周辺に無いからってその場に捨てなくても良いだろ。


《色んなところにゴミ箱配置すれば解決するんじゃね?》


 ゴミ収集する人が大変だろ。少しは労働ってものを考えろ。


《へーい》


 空のボトルをビニール袋に入れ、再開させる。

 それから空き缶に煙草の吸殻、ハンバーグの包み紙に紙コップ……普段は気にしていなかった塀の隅や道端にはゴミがポイ捨てされていた。


 これは確かに掃除のし甲斐があるな……。

 途中、電柱の下に生えていた雑草もむしり取り、どんどん袋の中が増えていく。


 自分サイドが精一杯で気が付かなかったが、国見の袋も底が溜まっていた。

 当初はこれっぽっちな量と思っていたが、予想と全然違った。


 綺麗にする分、袋の中身は増え、当然徐々に重くなっていく。

 引き摺って運べば底が破けるから、少し持ち上げなければならない。

 これを委員長たちは去年からやっていたのか……。


 本来ならやらなくて良い事なのに、去年の上級生たちが近所周辺にゴミをばら撒き、学校の印象が悪くなるってことで自主的に始めたことなんだもんな。


 もしあのとき黒瀬が暴れていなければ、今よりもっと酷い有様だったのかもしれない……。


《どうした? 俺に感謝の気持ちか?》


 調子に乗るな。


《はいすみません》

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