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風紀委員と生徒会でボランティア活動




 痛みを堪えながら歩くのが予想以上に辛かった。


 途中ガニ股になったり、数秒間停止して太腿を回復させていた結果、予定より数分弱遅れて学校前に到着した。

 途中で『風紀委員室に集合』とのチャットをもらい、日曜だと言うのに開放されている正門を潜る。


 出来れば筋肉痛を刺激するような真似はしたくないが、このままのんびり状態が続いてしまうと到着時間だけじゃなく集合時間にも遅刻し兼ねない。

 痛みを必死に我慢し、誰も見ていないことを良い事に早足で目的地に向かう。

 床を踏むたびに、太腿は当然悲鳴を上げた。


 くぅ~……イテェ……。


 俺も悲鳴を上げそうになったが、情けない声を発する訳にはいかず、口内を噛み締めて痛みを誤魔化す。

 これが今出来る精一杯だった。

 そんな困難を乗り越え、風紀委員室前に到着した。

 室内からは話し声が聞こえ、二人以上は集合していることが窺える。


「おはようございまぁす!」


 ガラッと扉を横に開き、活気良く挨拶する。

 痛みを言い訳に低いテンションで入れば、その瞬間に雰囲気が悪くなると予想しての俺なりの配慮だ。


「おはようございます」


「お、おはようございます……」


「おはよう。集合時間まで残り三分……まぁ遅刻よりはマシか」


 ジャージ姿の風紀委員女子メンバー三人が既に揃っていた。

 委員長だけ上着を脱いでおり、他二人はキチンと着用している。

 半袖姿の委員長にも注目したいが、いつも十分前集合を心掛けていたのに、三分も遅くなってしまったことをまず悔いる。


 筋肉痛になっていなければもっと早めに登校できていたが、考えても過去は変わらないから遅刻しなかったことに安堵だけしておこう。


「大体十分前には来るアナタがギリギリに来るなんて珍しいですね。なにかあったんですか?」


「ああ、ちょっと筋肉痛で……」


「だ、大丈夫ですか……?」


「まぁ、多少は……」


「なんだ、昨日はトレーニングでもしてたのか?」


「いえいえ…………。科学部に拉致られたあと、長距離を歩かされただけです……」



「「「………………」」」



 三人一斉に黙っちゃった。


「アレに誘拐されて、よく生きて帰って来れましたね……」


 国見の人外を見る目がいたたまれない。


「まぁ、白瀬なら大丈夫だろ」


 委員長、それは俺を化け物扱いしていると解釈して宜しいのでしょうか?


 真実を聞くのは怖いからこのまま黙っておく。


「さて、雑談はこの辺にして、全員揃った訳だし行くか」


「そうですね。早めに始めてしまいましょう」


「こ、今回は……あまりゴミ落ちてないと、い、良いですねぇ……なんて……!」


「…………」


「……ごめんなさい」


 南先輩の発言による国見の睨みを、休日も拝見できるとは思わなかった。


「ほらほら、始める前から気分を落とさないように。それじゃあ各自、軍手とビニール袋、それとトングを持って正門前に向かうように」


 委員長の呼び掛けで国見と南先輩が、机上に置かれた道具を一セットずつ取っていく。

 三人が取り終わってから、残った掃除セットを取り、軍手を嵌めながら教室を出る。

 軍手を嵌めたのなんていつ以来だ?


 思い出せる範囲だと中学二年のときに、町内会の清掃で雑草むしりしたときか?


 久し振りの感触を肌に感じつつ、昇降口で外履きに取り換え、正門に向かう。


「げ……ッ!?」


 先陣を切っていた委員長が、後方の俺たちにも聞こえる苦い声を出した。

 理由は明確、正門前に黒いリムジンが停車しているからだ。


 黒服が運転席から降車し、ドアを開ける。

 出てきたのは勿論、会長だ。

 しかもジャージ姿。


「おはようございます。風紀委員のみなさん」


《…………ッ!》


 そのあと黒瀬が脅えだす。


 ……ということは?


「シーくぅん!」


 会長のあとに降車してきたコハ姉が、ピョンピョン跳ねながら手を振ってきた。

 しかも向こうもジャージ姿だと!?


 〝またあとで〟ってこういう事だったのかぁ……!


「シーくぅん、おはよう~!」


《ぐらっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!》


 コハ姉が駆け寄ってきたことで、黒瀬が騒ぎ出す。


「おはよう……って、電話でも言ったじゃんか……」


「あれはぁ、顔を見ないでの挨拶~。今はぁ、顔を見ての挨拶~♪」


 めんどくせぇ……。


「ところで、どうしてコハ姉たちがここに……?」


「ん~、それはねぇ―」


「どうして貴様がここにいる……?」


 コハ姉が答えるより先に、その疑問をメンチ切って委員長が会長に聞き出しに行ってくれた。怖いです。


「まぁ、朝からなんて恐ろしい顔ですこと……。遊園地のお化け屋敷なら採用間違いなしですわね」


 もしそうなったら俺そこ通い続けます。


「私の顔の様子などどうでも良い。何故貴様がここにいると聞いているんだ?」


「在籍者ですから、いるのは当然です」


「…………」


 あ、拳をわなわなさせてる。

 あれ以上、会長が委員長を刺激したらリアルファイト待った無しだ。


「会長、おはようございます!」


 透かさず間に割って入る。


「あら、白石くん。おはようございます」


「いやぁ、会長が日曜にジャージ姿で登校するなんて、生徒会も清掃ボランティアをするんですか?」


「まぁ、そんなところです」


 だとしたらちょっと寂しい。だって俺聞いてないもん。


「あれ? でも、他の二名は?」


 さっきから琴葉と船岡の姿が見えない。


「きっと、眠っているのでしょうね」


 そう言うと、会長が車に向かう。


「船岡くん、泉さん。着きましたよ。起きてください!」


 声掛けから数秒後、両ドアからそれぞれ琴葉と船岡が降車してきた。

 両名も勿論、ジャージを着込んでいる。


「会長、勘弁してくださいよ……」


 珍しく船岡は、髪がぼさぼさの状態で普段の爽やかなイメージにヒビが入るほど、だらけ切った表情をしていた。


「そうですよ~。こっちは無理矢理朝起こされてるんですから~」


 そして琴葉も目がほぼ閉じた状態だ。


「それに関しましては申し訳ありません。ですが、風紀委員のみなさんの前ですので、生徒会という自覚を持っていただけませんか?」


「えッ!?」


「はいッ!?」


 同じタイミングで目を見開かせた。


「え、あ、麗奈さん!?」


「ウソウソ、え、いるの!?」


 両者、車に反射する己自身の姿を見ながら髪を整え始め、次にこちらを向いたときには通常どおりの姿に仕上がっていた。

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