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ゼペリオ〇光線

 はぁ……委員長との帰りを逃した……。


《良いじゃねぇか。その分面白いもん貰ったんだからさ》


「そうだけどさぁ……」


 思わず声に出して返事してしまった。

 それほど残念で、周囲に注意がいかないということだ。

 あのとき黒瀬を制して無理矢理にでも逃げていれば、今頃は委員長と……はぁ……。

 どうにもならない後悔だけをズルズルと引き摺りながら重い溜め息を吐き出し、帰路に就く。


 夕日により橙色に染まった住宅路が、虚しさを引き立たせている。

 失恋BGMでも流してカラスが鳴けば完璧だ。したくないけど。

 頼むから、明日は邪魔するなよ?


《そのときの状況によって》


 ゲームデータ消すぞ?


《全力で阻止する》


 ぜってぇ負けねぇ。


《つうかそれいつ使うんだ? 早く撃たねぇとコレ着けたまま寝ることになるぞ》


 確かに。

 この装置着けたままご飯は食べたくない。というか帰宅したくない。


《適当に都市部辺りぶらついて、見境なしにぶっ放すか?》


 これ着けたまま人通りの多いところは歩きたくない。いい恥晒しだ。

 公園ならカップル居そうだし、茂みからこっそり男だけ撃って帰るか。


《いなかったらどうする?》


 夜まで待つ。夜の公園にはカップルが集まりやすいってお爺ちゃんが言っていた。


《虫か何かかな?》


 そうと決まれば張り込み開始だ。


《来るまで暇になりそう》


 じゃあカップルの気配があったら教えてくれ。それまでブランコ漕いどくから。


《他人の振りして良いか?》


 出来るのでしたらご自由に──。



「んだとテメェごらッ!!」



 公園に向けて駆け出そうとしたそのとき、男声の怒号が聞こえた。

 発声源から推測すると、次の右角辺りからだ。

 恐る恐る覗くと──。


「もう一度言ってみろ!」


「えぇ、何度だって言わせていただきます。足元に捨てた煙草をキチンとゴミ箱に捨ててきてください」


 国見が男性に向かって注意をしていた。

 相手は肌や背格好から見て中年、しかも怒りまでの導火線が如何にも短めなタイプだ。

 まぁもう点火されちゃってるけども。


「んだテメェその態度、ガキが大人に説教してんじゃねぇぞゴラ!」


「説教ではありません。人として誤った部分を指摘しているだけです」


「バカにしてんのか!?」


「あなたが自らバカにされに来てるようにしか見えませんが?」


 スゲェ……国見よくあんな冷静に対応できるな。

 俺だったら怒鳴られた段階で委縮して、黒瀬に入れ替わってボコボコにしてもらうだけだ。


《そっちの方が多分スゲーと思うぞ?》


「このガキャアっ!! 侮辱されたって学校に言いつけっぞ!?」


「えぇ、どうぞ。わたしは当然のことをしているまでですから。あなたが恥をかいて終わりだと思いますよ?」


「クソが! 一遍痛い目みないと分からねぇらしいな!」


 中年男性が国見の胸倉を掴んだ。

 あ、あれはヤバイ!!

 よし、カップルの男たちより先に実験体になってもらおう!

 黒瀬!


《あいよ》


 物陰からこっそり見ているだけの行為をやめ、堂々と姿を現す。

 瞬間入れ替わると、黒瀬が熱線を放つためのポーズを取り始めた。


 拳を握り、両腕を腰の位置まで引き、前方に交差させるように突き出す。

 そのあと左右に大きく広げ、咄嗟にL字型に腕を組む。


 なるほど……ゼペリオ○か……。


《タァッ!》



 右腕のガラスが光った数秒後、白色の光線が発射され、直進した。

 中年男性がこちらに気付き、顔を向けたときには遅かった。




「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」




 雄叫びを上げ、それが徐々に聞こえてこなくなった。

 光が晴れると、国見の前にいた中年男性だけが姿を消していた。


「…………へ?」


 目を開けた国見は呆気に取られたような反応を取る。

 一方こちらは、一発放ったことで紅葉特性の接着剤が溶けてくれた。

 両腕の装置がズルっと取れ、熱さの感覚からかヒリヒリと痛さだけが残った。



【データを送信しました】



 右手の甲に埋め込まれていた青い球体が点滅をし始めたと思うと、音声が鳴った。

 ピっと鳴り終わると、球体は光を失って静かになった。

 これどうしよ……。


《もう一回嵌めて、ぶっ放そ?》


 もうヤダ!


《え、カップルの男たちに撃つ予定は?》


 中止!

 こんなヒリヒリ痛いの何回も受けてられっか!


《ちぇ~……》


 仕方ない。

 部屋の隅にでも置いといて明日返却するか。

 仕舞い切れないと分かっていながらも装置を鞄に入れる。

 視線を前に戻すと、国見と目が合った。


「やぁ……お疲れ様……」


 取り敢えず挨拶は済ませる。


「えぇ……お疲れ様です……。どうしてここに?」


「え……っと、帰宅途中に声が聞こえたから、何かと思って来たんだ」


「そうでしたか……。あの……さっきの光は……」


 やっぱ疑問に思うよね。

 ここで俺が撃ったなんて言ったらまた力で解決したって事で回数がカウントされる。

 今日はもう終わりだから別に構わないが、一日目で早速三回もカウントされるのはどうなのかと、国見の目が厳しくなる。


 よし、誤魔化そう。


「あ~……俺も眩しくてよく見てなくてさ。何だったんだろうねあの光?」


「わたしには、アナタが放っているように見えました……」


「そんな訳ないっt──」


「じゃあ……その鞄から出てる機械はなんですか?」


「最新の手袋!」


「それでさっきの光を撃ったんですよね……?」


 バレました★


「…………はい」


 ここまで来たら誤魔化しきれない。素直に認めよう。


「…………酷いです」


「え……?」


「人を消すなんて酷いですッ!」


 顔を上げた国見の目に涙が浮かんでいた。


「確かにあのままだったら、わたしは殴られていました。けどそれは警察に届け出れば解決した事です! なのに簡単に人を消して解決するだなんて……」


「落ち着けって!」


「落ち着けられません! アナタは最低です! 人間としてのクズです! このことは委員長だけじゃなく、教員にも報告して厳しい処分を与えてもらうよう抗議します!」


 もう一回さっきの罵倒良いかな?


《お前変態か》


 冗談だ。



「待ってくれ国見! 確かに俺は機械を使ってあのオッサンに光線を浴びせた。だけど消した訳じゃない!」


「じゃあ……どうしたと言うのですか……?」


 ええい、ままよ!


「こ、更正施設にワープさせたんだよ!」


《お前アレ信じるのか?》


 信じるしかないでしょ……。


「更正……施設……?」


「そうそう。道徳のなってない人を更正させるために科学部で作った施設さ!」


《多分なんだろ?》


 多分であったとしてもここは賭ける!


「そ、そんな……考えられません……」


「考えられないのも分かるが……科学部連中の凄さは、国見も理解してるだろ?」


「…………」


 今彼女は〝有り得ない〟と〝有り得る〟が脳内で葛藤している難しい表情をしていた。


「…………」


 頑張ってくれ〝有り得る〟!

 ほら、エナジードリンク飲んでファイト一発決めろ!


「わ、分かりました……。そういうことでしたら、信じます」


 〝有り得る〟が勝ってくれた。よくやった!

 薬師堂先輩、これで嘘だったら俺が天国に送ってあげます。


《そんなことはさせない!》


 くッ……いつから手先になったんだ……!!



「…………ご」


「ん?」


「ごめんなさい! アナタの意向を先に聞かず、勝手な発言をしてしまって……」


 意外なことに、国見が頭を下げてきた。


「き、気にするなって。分かってもらえたならそれで良いからさ」


 こんな畏まった彼女を見るのは初めてだ。

 そして顔が上げられると、いつもキリっとした表情が若干柔らかくなっていた。


「それと、遅くなりましたが……助けていただき……ありがとう……ございます」


 目線を合わせたり逸らしたりと、豪く気持ちの整理が出来ていない様子だ。


「い、いやぁ、お礼なんて別に……。とにかく、ケガとかなくて安心したよ……!」


 普段とは違う態度の国見を前に、照れ臭くなる。


《惚れた?》


 ただドキッとしただけだ。

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