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母性ある姉




「白瀬ー!」


「白石くん!」


 電話で場所を伝えてから約十五分後に、委員長と石越先輩が来てくれた。




 どちらもクレープを持って──。




「何ですか……それ?」


「あ、これは……」


 不満な表情で〝ぶつ〟を指差すと、二人が困惑しだした。


「あの……白石くんが、凜ちゃんを発見したと連絡をもらってから麻美と合流して、そのあと二人を探していたら……美味しそうな香りに釣られまして―」


「すまん。誘惑に勝てなかった……」


 あんたらなぁ……。

 まぁ、二人とも申し訳なさそうと思いながらもクレープを咥えている姿が可愛いから許す。


《許しちゃうんかい》


 ああ、許す。

 可愛いは正義だ……。


《俺はあのギャルよりもお前のことが心配になってきた……》


 ご心配ありがと。


「では、これから説明しますので、二人とも食べながらで良いので聞いててください」


「「(コク)」」


 それからクレープをもぐもぐ食べる可愛い先輩たちを前に、これまでの経緯を伝えた。




 …………。

 ………。

 ……。

 …。




「という訳で、今回は未然に防ぐことができました。ターゲットは去ってしまいましたけど」


「いや、お手柄だ。よくやってくれた」


「白石くん……本当に、ありがとうございます……!」


 静かな公園の中央で、深々と頭を下げられる。

 傍から見られたら変な誤解をされそうだ。


「いえいえ、お礼なんて良いですから。それより、自分のお願い事聞いてもらって良いですか?」


「何でしょうか……?」


「まさか……変なこと要求するつもりじゃないだろうな……?」


 怪訝な表情を委員長から向けられる。


「んなこと考えてませんよ……」


 俺は委員長にしかそういう要求はしない!


(ピー)着せたり~。(ピー)着せたり~。


《女、逃げろ。コイツの性癖は頭おかしい》


 それは認める。


「妹さんの月のお小遣いを、少しアップさせてはもらえませんか?」


「ど、どうしてでしょうか……?」


「それが今回のきっかけだからです。毎月五千円だと、満足に欲求を満たすことが難しいようなので少しでも金額が上がれば、彼女の考えも変わるのではないのでしょうか?」


「それは……できません」


 ありゃ。八割方『了承』を期待してたのに。


「どうしてだ鈴、なにか理由があるのか?」


「はい。上げれば上げた分だけ、向こうの欲求も上がっていきます。お小遣いも、五千円で充分だと思いますし、少ないと思うのであれば、少ないながらに遣り繰りしてもらう癖を今の内に身に付けてもらわないと困るんです……」


 本当に母親みたいだ。


「凜ちゃんは特に消費が激しいんです。以前は銀行からの引き落としを二人で共有してましたが、着もしないお洋服を大量買いしたりして、気付いたら預金が底を突いてました。そのおかげで、次の仕送りまで一日の食事を食パン一枚で過ごしたこともありました……」


《俺らなら余裕だな》


 黙ってろ。


《下手したら水だけでもイケるかな》


 コハ姉呼ぶぞ?


《すみませんごめんなさい》


「それからは、ワタシが管理をするようにしたんです……」


「だがその結果がこれだ。消費が激しいのは仕方ないが、一度だけ上げてみたらどうだ?」


「…………説得してみます。一度許してしまえば、向こうはどんどん付け上がってきます。それを断れば今日のような出来事が繰り返されます。まずは、ここで断ち切れるよう説得してみます!」


「申し訳ないが、それは恐らく無駄な行動だ」


「どうしてでしょうか……?」


「考えてもみるんだ。仲の良い白瀬の説得すら、妹さんは聞き入れなかったんだ。それに、プライベートな部分を聞くようで悪いが、姉妹仲は良好とは言えないのだろ?」


「はい……。最近は、朝の挨拶すら返してもらえなくなりました」


「だったらその説得は無意味だ。相手が例え返事をしてきたところで、同じ過ちを繰り返すことは目に見えている。そうなる前に、一度だけ増やしてみてはどうだ? 生活に支障は出ないのだろ?」


「そ、そうですけど……」


「でしたら、一気にとは言いませんので、千円か二千円でもアップさせて上げたほうが妹さんも考えを改めてくれるんじゃないのでしょうか?」


「…………分かりました。検討してみます」


 中々折れないなこの人……。さすが母親の代理だ。しっかりしてる。


「それじゃあ、あとは鈴に任せるとしようか」


「はい。お二人とも、ここまでのご協力ありがとうございましたッ!」


「ああ、また何かあったら相談しに来い」


《コイツ等ただクレープ食ってただけだよな?》


 言うな。それまで探し回ってくれてたのは本当なんだから。


「それじゃあ、長居は無用ということで、今日はこれで解散するか」


「はい、お疲れ様でした。では、ワタシはバイトがあるので、先に失礼します」


「おう。気を付けて帰るんだぞ」


 石越先輩が小走りで去る。仕送り貰ってるのに、姉のほうは健気にアルバイトしてるのか。

 公園内は、委員長と俺の二人っきりになった。


「そう言えば白瀬」


「はい?」


「聞き忘れてたんだが、鈴の妹と麗奈の間で何が起こったんだ?」


「あ~……実は──」


 俺は委員長に、持ち物検査時とHR後に起きた出来事を話した。


「なるほどな、そんな酷いことを……」


「自分がもう少し早く止めていれば、国見が傷付くことはありませんでした……」


「いや、白瀬は悪くない。偶然にも二人の反りが合わなかっただけだ」


「そう言ってもらえると有難いです」


「それで、そのあと麗奈の様子はどうだったんだ?」


「いつも通りでした。ただ、あんなことを言われた後だったので慰めに行ったら、逆に怒らせてしまいました……」


「それは白瀬のタイミングが悪いな」


「だって可哀想じゃないですか……」


「可哀想だと思っても、それは自己満足に過ぎない。相手が傷付いてると分かったら、まず助けが必要かどうかを見極める。助けが必要なときは、相手は分かりやすくアピールしてくれるから先を急ぐな」


「はい……」


 反論が思い浮かばず、委員長の言葉に納得せざるを得ない。

 アピールか……国見が助けを求めるときって来るのだろうか……?


「さ、暗い話もここまでにして、私たちも帰るか」


「ですね……。もう少しゆっくりしていきたかったんですけど」


「ああ。中々これない場所だから私もゆっくり見て回りたいんだが、風紀委員長が遊びでうろつくのはどうかと思ってな……」


「でしたら、活動の一環ってことで見て回りますか?」


「え?」


「ヅラ先輩たちから以前聞いたんですが、委員長たちって時折ゲーセンとかに出向いて見回ったりするんですよね?」


「ああ、本当に偶にだが巡回はしている」


「では、今から開始しませんか? この時間帯『服屋』や『ゲーセン』とかは〝特に〟人が多いと思いますので……」


「あはは、なるほどな。じゃあ今から、紅高の生徒がいないかの〝巡回〟を始めるとするか」


「了解しました委員長」


「白瀬、お前って意外とずる賢いんだな?」


「それほどでも」


「褒めてはない」


「ははは!」


「あはは!」




 あーーーーーーーーーッ!! 楽しッ!!!




《うるさい》


 ごめん。

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