006 ふつうの斧
動ける生徒たちが森に向かう。
その中には俺や朱里、志穂も含まれている。
「1万ptか……。かなり大きな買い物になるが本当にいいか?」
朱里と志穂に確認する。
俺は〈ふつうの斧〉を買おうとしていた。
木を叩くことでお金――おそらくpt――を獲得できるツールだ。
価格が1万ptと高額なので、購入費用は3人で出し合う。
「買っちゃって買っちゃってー!」
「私もかまわないわ」
「では買わせてもらおう」
3人を代表して俺が〈ふつうの斧〉を購入した。
足下に召喚してみる。
「思ったよりも小さいな。どこにでもある手斧だ」
「商品画像だとサイズ感が分からなかったのよね」
斧は片手で持てる大きさだった。
重さも見た目通りで、ずっしりしているが問題ない。
高校生なら片手で振り回すことができるだろう。
「慧、さっそく木を叩いてみて」
志穂がすぐ傍の木を指す。
俺は「そうだな」と頷き、斧を叩きつけた。
力加減が分からなかったので、まずは全力の一撃を放つ。
ドガッ!
斧の刃が木の表面をえぐる。
同じ場所を同じ要領であと500回ほど叩いたら折れそうな傷だ。
つまり俺の力では大した傷を与えられなかった。
「さて、どのくらい増えたかな」
スマホを確認する。
所持金は6,330ptだった。
その数値を見た瞬間に思ったことを呟く。
「やべっ」
「どした!? めちゃ稼いだ!?」
朱里が食いつく。
無言の志穂も目がぎらついている。
「それが……」
俺は可能な限り申し訳なさそうな顔を作った。
「元の所持金がいくらか見るのを忘れていた……!」
「ズコォー!」
朱里がその場で転げる。
それから「しっかりしろよ!」と笑いながら叩いてきた。
「面目ない。気を取り直してもう1回叩くとしよう」
「その必要はないよ」
志穂が右の人差し指をピンと立てる。
「慧が使ったptは〈購入〉による500ミリの飲料水を2回買ったことだけだよね。自分で飲む用と皆に説明する時の実演で。その両方を空にしてから換金している。つまり300ptを使って10ptを得たから、この時点で所持金は9,710ptってこと。そこへ斧の購入費として、私と朱里がそれぞれ3,300ptを譲渡した」
まるで算数の問題を読んでいるかのような志穂。
それでも説明は分かりやすくて、俺はその続きが分かった。
「すると斧を買う前の所持金は16,310ptで、そこから斧の購入費である1万を引いた分――6,310ptが木を叩く前の所持金ということか」
「その通り。あとは今の所持金から6,310ptを差し引けば、さっきの一撃でいくら稼いだのかが分かるよ」
「今の所持金は6,330ptだから……」
「さっきの一撃で稼いだお金は20ptってことになるね」
朱里が「ショボッ!」と叫んだ。
「たしかに微妙な数字に感じるよね。でも……」
志穂が言おうとしていることが分かる。
俺も同感だった。
「塵も積もれば山となる。木を叩くなんてその気になれば2秒もかからない。それで20ptを稼げるなら、1時間ほど叩き続けるだけで2万ptは稼げるぞ」
「すごっ! 全然ショボくない!」
朱里が高速で掌を返した。
「もっとも、毎回20ptを得られればの話だがな」
「どゆこと?」
「力加減で得られるお金の量が変わる可能性もある。もしかしたらさっきと同じ威力で叩かないとお金が発生しないという可能性も。そうだとしたら、1時間も叩き続けるのは不可能だ。全力で叩ける回数なんて10回やそこらが関の山だし」
「やっぱり駄目じゃん!」
再びクルッと返る朱里の掌。
「そこのところは何度か叩けば分かりそうね」
「だな」
俺は再び斧で木を叩いた。
先ほどとは違い、力を抑えての弱い一撃。
無理なく叩き続けられることが可能な力加減だ。
「今度の獲得は10ptだな」
「木を叩く強さで得られるお金が変わるってことだね」
「私にもやらせてー!」
朱里が右手を俺に向ける。
俺が斧を渡すと、彼女は所持金を確認してから斧を振るう。
「ダーン!」
朱里は謎の声を発しながら木を強打。
遠慮の欠片もない全力の一撃だった。
「20pt!」
「他人が買った斧でもお金を稼げるわけか」
志穂が「たしかに」と呟く。
「この情報、富岡に報告しておくか」
「そうだね。でも、戻る必要はないんじゃない?」
俺は「なるほど」とニヤリ。
志穂の言わんとしていることが分かった。
「〈チャット〉を使うわけか」
「そういうこと。それなら声を聞かなくて済む」
「他の人にも情報を共有できるし一石二鳥だ。いや、富岡にネタをパクられることもなくなるから一石三鳥か?」
志穂は「そうだね」と小さく笑った。
「生存者が全員参加するグループチャットを作ってそこで報告するよ」
「了解。私は近くの葉っぱとかを〈換金〉できないか試しておくね」
俺と志穂は手分けして作業を始めた。
その間、朱里と言えば――。
「ダーン!」「ダーン!」「ダーン!」
謎の言葉を発しながら斧で木を叩いている。
どうやら「ダーン!」は攻撃する際に必須の呪文らしい。
プロのテニス選手がサーブの時に声を発するのと似ている。
「ねぇ朱里、それやめてもらえる?」
何度目かの「ダーン!」で志穂が眉をひそめた。
「それって?」
首を傾げる朱里。
「叩く度に『ダーン!』っていちいち言うの」
「あーね、ごめんごめん!」
朱里は軽い調子で謝り、斧を振り上げる。
俺と志穂が見守る中、彼女はそれを木に打ち付けた。
「ズドーン!」
「「そういうことじゃないから!」」
俺と志穂がハモった。
お読みくださりありがとうございます。
評価・ブックマーク等で応援していただけると励みになります。
楽しんで頂けた方は是非……!




