005 パクりの富岡
長らく待たせた末に富岡の出した結論、それは――。
「この中に電話の掛け方を知っている者はいるか?」
というふざけたものだった。
それは俺が約30分前に言ったセリフだ。
「「「…………」」」
当然ながら誰も答えない。
「誰も分からないのか、情けないな」
このセリフにカチンときたのだろう。
座っていた目つきの悪い男子が立ち上がる。
富岡に劣らぬ体格をした金髪の男だ。
おそらく3年生だろう。
同学年ではないし、1年にも見えない。
「自分が分からねぇから他人に訊いたんだろ」
「きょ、教師に向かってその口の利き方はなんだ、阿南」
俺の時に比べて、富岡の語気が弱い。
コイツは相手によって態度を変えるタイプなのだ。
(阿南、阿南っと)
俺は電話帳で阿南の名前を探す。
ア行で始まるのですぐに見つかった。
下の名前は竜一というらしい。
「で、どうすんだよ。スマホは変な画面になってつかえねぇ、電話の掛け方もわからねぇ。此処で待ってろって言うのかよ」
阿南は言い返すとその場に腰を下ろした。
右足の脛から大量に血が流れている。
――いや、流れていた。今は固まっている。
立っているのが辛いのだろう。
「それは……」
富岡が怯む。
他の教師は「やっぱりそうなるよな」と言いたげな顔。
おそらく長い議論でも同じ結論に至ったのだろう。
つまりここからどうすればいいか分かっていないのだ。
「提案……ではないんですけど」
俺は右手を挙げて発言する。
「スマホのことについて話してもいいですか?」
皆の視線が俺に集まった。
「実はこのスマホ、物を買うことができるんですよ」
そう言って、先ほど志穂から教わったことを皆に説明した。
◇
しばらくの間はちょっとしたお祭り騒ぎになった。
各自で食糧や傷薬などがポンポンと召喚されていく。
若い保健の女教諭は、怪我人の応急処置に必死だ。
「代わりに説明してくれてありがとうね」
志穂が話しかけてきた。
「感謝するのは俺のほうだよ。志穂が色々と仕様を調べてくれたおかげで、少なくとも数日は餓死せずに済みそうだ」
言った後に、志穂のことを名前で呼んだと気づく。
遅れて恥ずかしさがこみ上げてきた。
「北条、こっち来い!」
富岡が呼んでくる。
彼は皆から少し離れた場所で座っていた。
手にはビールの缶を持っている。
こんな時に酒を飲むのか、と心の中で呆れた。
「なんですか」
仕方ないので富岡の傍に行く。
「お前、この後はどうするつもりだ」
「どうするって?」
「どういうわけかこのスマホで物を買えることは分かった。その為に必要なptとかいうお金を貯める方法もな。だがこれでは救助を呼べないだろ」
(そういうことか)
富岡の言いたいことが分かった。
コイツは俺に次の案を出すよう求めているのだ。
ここで俺が案を教えると、我が物顔でそれを盗むのだろう。
(ま、2年の俺が仕切るよりはマシか。こんな奴でも教師だしな)
俺は富岡の質問に答えた。
「とりあえずテントでも買ってここで野宿しようと思います。救助を呼べない以上、できることと言えば待つだけです。周囲は森に覆われていますし、怪我人を連れて移動するのは難しいかと」
そこで区切ると、「ただし」と話を続けた。
「テントを買うとお金が厳しくなります。なので効率的なお金の稼ぎ方がないかを調べます。今は〈換金〉しか方法を知りませんが、他に方法があるかもしれませんので」
本当は既に別の稼ぎ方を知っている。
ツールを使って特定の活動をすることだ。
これは〈購入〉で商品を見ている時に気づいた。
商品のカテゴリに『ツール』というものがある。
ツールには斧や釣り竿などの商品が並んでいた。
それらの商品説明にそれらしい記載があったのだ。
例えば「ふつうの斧」という商品。
======================
【名前】ふつうの斧
【価格】10,000pt
【説明】木を叩くことでお金をすこし獲得できるよ!
======================
妙にフレンドリーな説明が特徴的だ。
説明に誤りがなければ、この斧で木を叩けばptが増えるはず。
まだ確証がないので富岡には言わないでおいた。
「なるほど、それがお前の考えか」
「はい、これが俺の考えです」
「分かった、もういいぞ」
富岡が空いている手で払うジェスチャーをする。
用済みだから失せろ、と言いたいようだ。
俺は今日一の元気よさで「はい!」と答えた。
酒臭い息が顔にかかって嫌だったのだ。
「お疲れ様、慧」
志穂が優しく迎えてくれる。
「富岡ってまじウザイよなー!」
朱里も富岡には嫌悪感を示していた。
そんな富岡が立ち上がる。
足下にビールの空き缶を転がしながら。
「おーい、聞いてくれ!」
皆の視線が富岡に向かう。
「電話ができない以上、救援を呼ぶことは不可能だ! それに重傷者を連れて移動するのも難しい! だから今日は野宿を前提に行動しようと思う! 各自で手分けしてptを稼ぐとしよう! 森にあるものを手当たり次第に〈換金〉しまくってこい! それと、もしかしたら〈換金〉以外の稼ぎ方があるかもしれん! その点も意識するように!」
案の定、俺の言ったことを自分の案として皆に言うのだった。
「俺はここにいるから、何かあったらすぐに報告するように!」
要約すると「生徒共は教師の為に働け」ということ。
生徒たちの顔が不快感に染まる。
もちろん俺の顔も歪んでいた。
(保健の先生や化学の先生、それに客室乗務員みたいに怪我人の応急処置をするならまだしも、座ってビールを飲んでいるだけのカスが働かないのはどういうことなんだ)
そう思いつつも黙って従うことにした。
1秒でも早くツールを試したいからだ。
今は富岡に絡まれて時間を浪費したくない。
「では作業開始!」
富岡の号令と共に約40人の生徒が動き出す。
彼に対する不満を愚痴るグループチャットが作られたのは言うまでもない。
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