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040 野球

 その日の作業が終わる直前のこと。

 俺はあることに気づいた。


 お金の増える速度が上がらなくなったのだ。

 全ての労働者に〈すごいシャベル〉が渡ったことを意味する。

 これ以上のペースアップは望めないけれど、全くもって問題ない。

 1日で7,000万pt以上も稼げているからだ。


 チンパンジーの数は1,000頭を優に超える。

 だが、その全てが作業をするわけではない。

 人間の労働者と同じで休暇を取るのだ。

 アルバイトと同じでシフトを組んでいる。


 1日に稼働するチンパンジー労働者の数は約700頭。

 稼働時間はそれほど長くない。

 作業時間と同程度の休憩時間を挟むからだ。

 そんなこんなで作業をするのは日に3時間程度。

 余力がある状態でサクッと切り上げるのが特徴的だ。


 約700頭のチンパンジーがもたらす稼ぎは1時間につき約2,500万pt。

 これは休憩せずに働き続けた場合の額を指す。

 なので、実際は2時間かそこらでこの額が貯まる感じだ。


 かくして日が暮れた頃には大金持ちになっていた。


「すっげぇ額じゃん! すっげぇ額!」


 リビングのソファで、朱里が俺のスマホを眺めながら喚いている。

 俺はダイニングのバーカウンターから朱里に言う。


「まさかこれほどとはな」


 現時点での所持金は約3,300万pt。

 明日以降は安定して7,000万以上の金が入ってくる。

 億万長者になるまで秒読みだ。


「私達に分けてよー!」


「もちろん。朱里、全員に500万ずつ渡しておいてくれ」


「ほいさ!」


 朱里がスマホを操作する。

 しかし、待てども待てどもお金が行き渡らない。


「おーい、私の500万はまだかー?」


 俺の隣に座っている香奈が言った。


「なんかダメなんだって!」


「ダメ? どういうこと?」


 今度は志穂だ。

 彼女は朱里の隣でテレビを観ていた。


「最後の最後で弾かれるの!」


「貸してみて」


 志穂が代わりに操作する。


「あー、本当だ。〈譲渡〉だけじゃなくて〈購入〉も無理だね。慧のスマホだから慧にしかお金を動かすことができないのかも――って、〈チャット〉や〈通話〉も開けるだけで使えないや」


「じゃあ、勝手に俺のスマホで誰かにチャットを飛ばすことはできないわけか」


「そういうことだね。ログを覗くこともできないよ」


 志穂はこちらに来て、スマホを俺に渡す。


「そんなセキュリティ機能があったんだなー」


 俺は自分で操作して、全員に500万ptを送金した。


「お金の問題は解決して、北の森にはワイヤーも張った! 周辺もざっくりと探索して、例のアレも完成した! さて北条君、この後はどうしますかな!?」


 珠子が尋ねてくる。

 彼女はカウンターの向こう側に立っていた。

 バーテンダー気取りでグラスを拭き拭きしている。


「既に考えていますよ」


「「おおー!」」


 香奈と珠子が揃って感心する。

 珠子の隣で調理中の安岐も「流石」とニッコリ。


「とりあえず明日は……」


 俺はニヤリと笑った。


「野球でもしようか」


「「「「「野球!?」」」」」


 ◇


 翌日。

 皆で海にやってきた。

 野球道具を持った数十頭のチンパンジーも一緒だ。


「厳密には野球じゃなくて野球の練習なんだけどな」


 と言いつつ、俺は砂浜にL字型のネットを立てた。

 野球選手がバッティング練習で打撃投手の前に置く物だ。


 さらに、ネットから約19メートル前方にホームベースを設置する。

 その両隣に長方形の線を描いて、即席のバッターボックスが完成した。


「お前達が欲しがったその道具――バットとボールってのは、野球というスポーツで使う物なんだ」


 ネットの裏に200万ptで買ったピッチングマシンを設置する。


「こんな機械がアサルトライフルと同額とはな……」


 たしかにコストはこのマシンのほうが上だろう。

 しかし実用性のある銃火器と同額なのは首を傾げるところだ。


「誰かピッチングマシンを操作してもらえるかな?」


「私がやるよ。たぶんボタンを押すだけだよね?」


 手を挙げたのは志穂だ。

 彼女は早足で俺の横に来た。


「俺もよく分からないけど、おそらくそうだろう。試しに投げてみるか」


 バッターのいないバッターボックスにマシンで投球する。

 球種をストレートに設定した後、コースを大雑把に選択。

 ボタンを押すとマシンが動き出してボールを投げた。


「「「ウキィ!?」」」


 マシンから繰り出されるボールにビビるチンパンジー。

 球速は110キロ程度だが、チンパンジーからすると剛速球だ。


「コースは問題ないな。よし、試し打ちだ」


 今度は俺がバッターボックスに立った。

 チンパンジーから拝借した金属バットを構える。


「おー、なんか様になってる! 慧って野球やってたの!?」


 朱里が「かっけぇ」を連呼しながら尋ねてくる。


「やってるわけないだろ。見ての通り軟弱な色白モヤシだ」


「いくよー」


 志穂が合図してからマシンに球を投げさせる。


(もらった!)


 俺はここぞというタイミングでバットを振る。

 金属バットから快音を響いてホームラン――とはならなかった。


 スカッ。


 盛大に空振ったのだ。

 キャッチャー不在の為、ボールは後方へ飛んでいく。


「見た目だけかよー!」


 朱里は「ぎゃはは」と腹を抱えて笑う。

 チンパンジーも手を叩いて馬鹿にするかの如く笑っている。


「もういっちょ! 今度は打つ!」


「頼むよー」


 志穂がボタンを押す。

 マシンが先ほどと全く同じ球を投げ込んでくる。

 そして俺はバットを振り――またしても空振りだ。


「やっぱ陰キャに野球はつれぇわ」


 俺は打つのを諦めた。


「珠子に任せるのです!」


 代打に名乗りを上げる珠子。

 彼女はバッターボックスに入り、「いつでも!」と目を輝かせた。


 志穂は合図してからボタンを押す。

 次の瞬間、カッキィンと気持ちのいい音が響いた。


 珠子が豪快なスイングでホームランを打ったのだ。

 一目でホームランと分かる飛び方だった。

 ボールはぐんぐん伸び、遥か遠くに消えていく。


「タマちゃん先生すっげー!」


「タマタマぁ!」


 朱里と香奈が叫ぶ。


「これが珠子のバッティングなのです!」


 珠子はドヤ顔で眼鏡をクイッとする。

 太陽の光がキラリーンと反射した。


「ちょっと狂ったが、まぁこんな感じだ!」


 強引に話をまとめる。


「さぁ思う存分に楽しんでくれ!」


「「「ウキキィ!」」」


 その後はチンパンジーが代わりばんこでバッティングを楽しんだ。

 慣れてくるとストレート以外の球種でもガンガン打っていた。


「うおっしゃー! ホームラーン!」


「朱里ちゃんやるぅ!」


「姐さんも次の打席はホームランを狙おうよ!」


「もち!」


 志穂以外の女性陣もチンパンジーと共に楽しんでいた。

 俺と志穂はビーチチェアでくつろいで過ごす。


「どうして野球をしようと思ったの?」


 志穂が尋ねてきた。


「チンパンジーたちが遊び方を知らなかったからさ」


 チンパンジーが要求した報酬はバナナと野球道具と角笛だ。

 角笛は普通に吹いて楽しんでいたが、野球道具の使い方はおかしかった。

 野球ごっこをすると思いきや違っていたのだ。


「あいつらさ、バットでチャンバラをしたり、ボールでジャグリングをしたりしていただろ?」


「うん」


「それはそれで構わないのだけど、せっかくなら正しい使い方を知ってもらおうと思ってね。遊び方の幅が広がって楽しめるかなって」


「なるほどねー」


「ただ、野球はオマケみたいなものさ」


「オマケ? じゃあメインは何?」


「コイツさ」


 俺はスマホの購入画面を志穂に見せる。

 そこには200万ptの兵器ことアサルトライフルが表示されていた。


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